死亡エンドの弱小生徒たちを救うため、闇落ちさせて最強に育てたら教え子たちの愛が重すぎる 作:綿紙チル
アレンは秘密警察の建物前に姿を晒した。
「
魂から体を改造して、鋼鉄のような固さを持った強靭な肉体に変貌させる。
目のない化物たちが寄って噛みついてくる。
本来なら肉を噛みちぎるほどの咬合力があるが、アレンにはもう効かなかった。
押し寄せる敵を殴り、蹴り飛ばして道を切り開く。
秘密警察の建物内も魔獣もどきで一杯だったが、それも関係ない。
血痕とバラバラになった人間の死体が散らばっていたが気にしないようにした。
食いついてくる敵を振り払いながら地下牢の入り口に辿り着く。
攻撃が通じないのに、無限に攻撃してくる化物たちが哀れに思えてきた。
「あ、足音!? だ、だれ!? またわたしをいじめようと……助けてジョン!」
間違いなくシンシアの声だった。
振り絞っている声は、限界そのものに感じた。
「俺です。アレン・トンプソンです!」
聞こえるシンシアの声に対してアレンは名乗りを上げた。
だけど、彼女は。
「は、早く全員倒して! 倒してよ! ジョン」
大量の化物たちが血相を変えて襲ってくる。
必死にシンシアを守ろうとしているのか、何度倒されようとも向かってくる。
アレンは一刻も早く生徒の元に辿り着くために、魔獣もどきを強く殴る。
必死に敵も抵抗するが、そもそも数で押してくるタイプ。
せまい地下牢の廊下では力を発揮しきれない。
手早く倒して、シンシアの元に辿り着く。
椅子に拘束された彼女を見て、アレンは言葉を失っていた。
幼さのあった顔は火傷で原型をとどめていない。
特に目の周りは酷くて、皮膚が癒着してまぶたが動きそうにない。
耳からは乾いた血が固まっていて痛々しい。
視覚と聴覚を潰された……ように見えた。
アレンはシンシアの肩に触れた。
魂を弄る闇魔術で治療を試みる。
「や、止めて! ジョン! 助けてくれるんじゃなかったの? ね、ねえ助けてよ」
その言葉を皮切りに地下牢内に化物たちが召喚される。
アレンを引きはがそうとするが、鋼鉄の如き肉体はビクともしない。
「……耳が治った?」
なんとか魂から肉体を改造することで聴覚を取り戻させることに成功した。
視力と顔の火傷を同時に直すのは難しく、やれば肉体が崩壊する可能性があった。
魂を固定して、一度殺して復活させれば治癒が可能だったが……これ以上、シンシアには傷ついて欲しくない気持ちが出てしまった。
「シンシアさん、アレンです」
「せ、先生? ま、まさか、た、助けに来てくれたの? う、ううん。そんなことないよね……闇魔術を推進した本人が、ジョン、倒して!」
ジョンと呼ばれた化物が必死にアレンに噛みついてくる。
ダメージはない。だけどアレンの心には痛みが蓄積していく。
「ジョンが倒せない……そっか、次は聴覚がある状態で私を拷問する気なんですね?
そうやって私を苦しめる気なんですね? じゃあ良いですよ! 学校が、軍が、先生が、私を苦しめる気だって言うなら、私にも考えがあります!」
シンシアは明らかに錯乱している。
してもおかしくない状況だったのだろう。
そうならないと、狂ってしまうような拷問を受けたに違いない。
「シンシアさん。助けに来たんです。信じてください」
「う、嘘です! だって学校が闇魔術を推奨しているんですよね? しかも、アレン先生自身が! 猶更信じられるわけないじゃないですか!」
第十魔術学院で闇魔術を推進する教育を行わせてしまったのはアレンのせいなのは間違いない。その矛盾は乗り越えたつもりだった。
だけど、犠牲になった生徒本人から言われるのは、酷く心が痛む。
「……それでも、俺はシンシアさんを助けたくてここにいます」
「か、勝手です! 勝手が過ぎます! なんですか? 傷つくわたしを見て、見てられなくなったとでも言うんですか? わたしは、連れて行かれる前に先生に助けを求めました! あのとき助けてくれれば、わたしは……! わたしは!」
シンシアは泣き出していた。
癒着したまぶたから涙が流れだしている。
「全部シンシアの言うとおりだ。俺が悪い」
断罪してもらおうなんて気持ちもない。
闇落ちさせれば強くなって戦場で生徒が死ぬことがないと思った。
だけど逆にそれを軍と学校に利用された。
シンシアはその犠牲になっただけなのだ。
アレンの思惑なんて関係ない。
最初に闇落ちという手段を取ったのに、どの面して助けに行く? なんていうアレンの葛藤も、シンシアには関係ない。
言い訳はしない。
アレンはシンシアを拘束していた魔道具を解除した。
「ほ、ほんとに助けに……。じゃ、じゃあわたしはどうしたらいいんですか!? 誰を恨んで、誰を倒して、目も見えなくなって、顔も酷いままで……! ああああああああああ!」
シンシアは椅子から倒れ落ちて泣いた。
アレンはその手を取ることができなかった。
「……だったら、だったら、こんな世界、こんな世界、滅ぼしてやる!」
シンシアが顔を上げると同時に物凄い濃度の黒い魔力が漏れ出す。
その悲しい覚悟にアレンは……モルガナの言葉を思い出していた。
『先生が、この世界を壊しちゃえば良いんだよ。アレン先生がこの世界を作り変える新たな秩序になる。ねっ、簡単でしょ?』
アレンはシンシアを抱きかかえた。
「せんせい、離せ! 離してください!」
「シンシア。悪いのは全部、俺だ。俺なんだ……だから、少しだけ待ってくれないか?」
シンシアにはアレンの姿は見えない。
だけど、その声にあまりに強い決意が宿っているように感じてしまった。
その力強さに、体から一瞬力が抜けた。
「シンシアを、モルガナを……こんなふうにした世界を俺も許さない。だから、シンシア、俺がこの世界を壊すよ」
シンシアは自分の自暴自棄な覚悟とは違う先生の心を肌で感じていた。
私が暴れたところで、捕まって殺されるだけ。
だって怒りをぶつけるだけなのだから。
それで良いと思っていた。
だけど、先生は本気なのだ。
「シンシアには壊した世界を見て欲しい……だから、今は我慢してくれないか?」
「……も、もう嘘はつきませんか?」
「ああ。もう決めた」
「……なら、今暴れるのは止めておきます。その怒りだけは信じられます」
シンシアは体から力を抜いた。
誰かに体を預けられるのが、こんなに楽だと感じたのは初めてだった。