死亡エンドの弱小生徒たちを救うため、闇落ちさせて最強に育てたら教え子たちの愛が重すぎる 作:綿紙チル
「し、シンシアが闇魔術の暴走で死んじゃったって……し、シンシア、シンシアぁ……!」
シャーロットはどこかから事件の顛末を聞いたのだろう。
だから、一人で蹲って泣いていた。
「シャーロットさん、顔を上げてください……シンシアの死は、偽の情報です」
彼女はアレンからもたらされた希望に顔を上げた。
言っていることが呑み込めていないのか、表情が固まっている。
「ど、どういうことなんですか? 他の先生に聞いたら、シンシアは闇魔術で召喚した魔獣に自分を食わせて死んだって……」
シャーロットはアレンに近寄って来た。
その瞳には困惑の色を浮かべている。
「シンシアは生きています。俺が助けて保護しています。ただ……闇魔術の暴走は事実で、街に多大な被害をもたらしたのも本当のことです。なので、匿っています」
「か、匿ってるって……この惨状をシンシアが?」
シャーロットには理解が追いつかなかった。
学校側がシンシアを何らかの形で追い込んで、闇魔術を発現させた。その結果、暴走してしまい、街に多大な被害が出た……?
先生が言っていることは分かるが、頭が理解を拒んでいる。
「し、シンシアに会わせてくれませんか?」
「ダメです。あなたに危険が及びます」
「で、でもっ!」
シャーロットができることは頼みこむだけ。
今、何が起きていて、誰を信じていいのか何も分からない。
「大丈夫です。いずれ会えます」
「……どういう意味ですか? だって、こんな大事件を起こしたシンシアと普通に再会なんてできるわけないじゃないですか!」
アレン先生がいくら隠し通そうとも憲兵や軍が黙っているはずもない。
学校側だってそうだ。
今会わせてくれないのなら、どこで会う機会があるのか。
「
アレン先生から黒い魔力が溢れ出る。
何か体の芯にある大切なものを弄られたような。
「い、今何を?」
「闇魔術です。シャーロットさんの魂に細工をして今日の会話を他言できないように脳にストッパーをかけました」
シャーロットには言われていることが何となく分かった。
魂でそう感じ取ったような。
アレン先生が闇魔術を使えるのは驚きだったが、今はそのことに反応していられない。とにかく口封じまでしてきて――そこまでするなら、自分だってもっと強く出ても良いと思った。
「先生、シンシアのことを詳しく教えてくれませんか。今後、何が起きたらあの子と再会できるようになるのか。事細かに」
アレンはシンシアの変化を感じ取っていた。
先ほどまでの状況を飲み込めなくて、踊っているだけの少女の表情ではない。
そう確かに感じた。
もうそれに口封じはしてある。
ならば――。
「いいでしょう。シンシアの事実、これからの計画をお教えします」
シャーロットは息を呑んだ。
おそらく、この世界と学院の闇に触れるのではないかと。
アレンは素直にシンシアが闇魔術の発現に至るまでのことを話した。
学院と軍が生徒たちを爆弾として消費していること。
自分は生徒たちを死なせないために、エラやクレアに闇魔術を目覚めさせたこと。
二人が軍事的な成果を上げたため、本校が闇魔術の研究を進めようとしたこと。
そのターゲットがシンシアで、とてつもない拷問を受けて暴走した。
そこから助け出したのがアレンたちなこと。
「そ、そんなことって……」
あまりの闇の深さに声が出なかった。
それと同時に自分がしようとしたこと――外部に告発することが間違いでないことも分かった。
だが、そんなことよりも。
アレン先生に申し訳が立たなかった。
彼は私たちを死なせないために奔走していたのに、勘違いして糾弾した。
彼自身の出世の為に生徒に闇魔術を発現させたと思い込んでしまった。
私はなんてことをしてしまったのだろう……。
「続けて大丈夫ですか?」
シャーロットの中には色々な感情が渦巻いていた。
いっぱいいっぱいで吐いてしまいそうだったが、聞きたいと言ったのは自分だ。
逃げるわけにはいかない。
「そして今後の計画ですが――まずは学院を乗っ取ります」
「の、乗っ取る?」
「乗っ取ってしまえば、シンシアさんの存在の隠ぺいは簡単になるでしょう。そこで、あなたと再会ができるようにします」
話についていけないが、アレン先生の言っていることは正しい。
学院は軍とも密接なかかわりがあるとはいえ、王立の組織。
簡単に憲兵たちが捜査には立ち入れない。
「でも、そんなことをしてもいずれ……」
「いずれ、軍に気づかれて鎮圧されてしまうでしょう。ですから、その前に計画を第二段階に移します」
「第二段階……?」
シャーロットは聞き返す。
だが、先生は口を閉ざした。
「部外者であるシャーロットさんにはこれ以上はお話しません。伝えた方が良いと思ったことは伝えたつもりです。では、これからは自分の命を大事に動いてください」
先生はそれだけ言って去ろうとした。
後ろを向いて、シャーロットをその場に置いて。
シャーロットはどうしたらいいのか分からなかった。
ここ最近はずっとそうだ。
先生の様子がおかしい。エラもクレアの様子も。
学校もおかしい。
それに加えて先生が与えてくれた情報。
この世界の闇。
シンシアの真実。
どうにかしたい。
こんな世界は狂っている――それは痛いほどわかった。
だから、シャーロットは走り出してアレンの袖を掴んでいた。
「先生、私も学院を乗っ取る計画に協力させてくれませんか?」
「ダメです。あなたでは力不足だ」
そう言われるのは分かっていた。
だったらシャーロットに、言えることは一つしかなかった。
「アレン先生、私に闇魔術を教えてください……!」
覚悟を決めることにした。
生き残るため、この世を正すために……私は闇に落ちる。
一方のアレンは困っていた。
目の前の少女、シャーロット・ポールが覚悟の決まった顔つきで闇落ちを請うてきたからだ。
「……嫌だと言ったらどうします?」
今のアレンは誰かを闇落ちさせるべきだはと思っていない。
そもそも現在の学院は、生徒を爆弾として出兵させていない。
闇魔術を推進する方向性も、乗っ取ってしまった後に撤回させればいい。
恐らく政府や軍から詰められることになるだろうが、そもそも学院の乗っ取りは第一段階にしか過ぎないのだ。時間を稼げれば、それでいい。
「どうもしません。ただ、別の人に頼みます」
シャーロットの覚悟は本気のように見えた。
闇落ちなんて決して望んでするものじゃないのに……それをこの少女は分かっているのだろうか。
でも、別の人にも頼まれるのも言語道断だ。
校長を筆頭として闇魔術を推進したい教師たちは何人かいるはずだ。
彼らと接触してシンシアのように拷問されて、暴走してしまったら――考えたくもない未来だった。
「……闇に落ちるということがどういうことなのか、知っているのか?」
「精神的に強いショックを受けることですよね。その程度……乗り越えてみせます」
シャーロットは試練か何かだと思っていそうだった。
このままでは諦めてくれそうにない……それにシャーロットの行動力には目を見張るものがあるとは思っていた。
あまり聞かせたくない話をすることになるが……。
「シャーロットさんには聞かせたくない話ですが、クレアを闇落ちさせた時の話をしましょうか。聞けばあんな恐ろしいこと、したくなくなるはずです」
「クレアを闇落ちさせたときのこと……聞きます」
シャーロットは目を逸らそうとしなかった。
いくら覚悟があっても、本当にショックな話には耐えられないはず。
「クレアを軽く調査したところ、あの子は異様に精神が丈夫なことに気づきました。特に自分の命を何ら重く思っていない。だから……俺の魂に干渉する能力で、死なないようにして何度か殺してみました。首を落として、心臓を貫いて……あまり苦しまないようにはしましたが」
その先の家族同然と思っているメイドを殺してみせたことは言わなかった。
流石に語れないと思ってしまった。
「……拷問なら大丈夫です。シンシアも受けたなら、その親友の私だって!」
真っすぐが過ぎる。
今の闇に落ちてしまったアレンでは、この子に太刀打ちできる言葉を持たない。
「……分かりました。後悔しても遅いですよ」
「後悔なんてしません。このおかしな世界を正すためなら、やってみせます」
シャーロットは握りこぶしを作っていた。
闇落ちは修行や訓練とは違うのに。
でも、アレンには彼女を闇落ちさせる気は無かった。
これ以上誰かを傷つける必要が無いし、生徒であるなら尚更。
だからシャーロットの闇落ちしたいなんて言う、心を折る。
彼女のことを守るためにも。
◆ ◆ ◆
『せんせ、これからどうするの?』
一人で家に帰ろうとしているときに、モルガナが話しかけてきた。
今日はシンシアの暴走事件を解決するために動いていたから、邪魔をしないでいてくれたのだろう。
「これから……どっちのことだ?」
『そりゃ勿論、学院乗っ取り計画……じゃなくて、シャーロットのこと』
モルガナは腰に手を当てていた。
でも、アレンにはモルガナの気持ちが良く分からなくなっていた。
「モルガナ……お前には何が見えてるんだ? どうせこの後のことも分かってるんじゃないのか?」
『ん? どういう意味かな? せんせ』
アレンはモルガナに対して疑心を抱いていた。
彼女は自分に対して『ピースが揃い切っていないから世界は壊せない』と言っていた。だが、シンシアに世界を壊すと宣言したとき、文句は言ってこなかった。そのことにアレンはある仮説を立てていた。
「モルガナの言う『ピースが揃う』って、戦力とか時間経過とか気運とかいうわけじゃなくて……俺の気持ちのことだったんじゃないのか?」
この魂だけの少女は未来を知っている。
自分、エラ、クレアの力があれば、どんな組織も乗っ取れると言っていた。
その言葉が真実だとするなら、足りないのは――俺の覚悟だけ。
「モルガナは、俺に世界を壊す決断をして欲しかった。だから、俺を奮起させてシンシアを助けさせた……違うか?」
そう言われた本人は本当に嬉しそうな笑みを浮かべた。
でも、手で三角を表していた。
『正解っ! と言いたいところだけど半分くらいかな』
「どういう意味だ……?」
『そう、私――モルガナ・ホープの目的は先生に世界を壊してもらうこと。私を死へと追いやった世界をぶっ壊して、楽園を作って欲しい。でも、別に私の意見があろうがなかろうか、先生はそこを目指す。もしかして……もっと早く背中を押して欲しかったとか思ってない?』
モルガナの指摘は図星だった。
もっと早く動くようにモルガナが言ってくれていれば、シンシアはあんな辛い思いをしなくて済んだのかもしれない。
だから、その人生視で見たものを正直に教えて欲しいのだ。
「……否定はしない」
『でしょ? でもね、先生、そんなにうまくはいかないよ? 仮に私がアドバイスしたとして、先生がくよくよ悩む時間は減ったかな……わからないよね。それに、シンシアを助けられたとして、学院側が止まるかは未知数。大きな犠牲を減らすためには、早く先生に覚悟を持って欲しかったってわけ』
「だからって……!」
モルガナは合理的が過ぎる。
そのためにシンシアを犠牲にするなんて、許されない。
『でも、先生には私を否定できないよ。誰かを助けるために、誰かを傷つける。私と同じ穴の貉……でしょ? せんせ?』
アレンは唇を噛んだ。
エラとクレアを、シンシアを傷つけた。
それは紛れもない事実だけど――これからは。
「それでも俺は夢を見たいよ……!」
『――ッ! それでこそ私の愛する先生だよ! じゃあもっと頑張らないとね?』
モルガナは満足そうに微笑んでいた。
結局全部彼女の言う通り。
汚い自分……でも綺麗ごとを言うためにはやるしかない。
学園を掌握するのはその一歩なのだから。