死亡エンドの弱小生徒たちを救うため、闇落ちさせて最強に育てたら教え子たちの愛が重すぎる 作:綿紙チル
シャーロットとシンシアの抱擁は短かった。
これからいくらでも会うことなんてできるからだろうか。
「先生、私は闇魔術を習得した。これで仲間に入れてくれる?」
シャーロットの言葉からは敬語が消えていた。
ただこちらを敵視するような感じでもない。
「確かにあれは闇魔術だった……だが、どういう魔術なのか俺には分からない。もし良かったら少し教えてくれないか? それで判断する」
「わかった」
シンシアは自分の頭に杖を当てた。
そして「「水魔術銃《ウォーターショット》」と唱えて、自らの頭をぶっ飛ばした。
「しゃ、シャーロット!?」
見ていたシンシアは慌てて駆け寄った。
アレンですら止める間がない。自害することにあまりに躊躇が無さ過ぎた。
だが次の瞬間には死体が消えていた。
現れたのは見たことのない銀髪の少女……顔はシャーロットだが髪色が違う。
「な、なにが起きたの……?」
シンシアが一瞬の出来事に首を傾げていた。
頭を撃ち抜いて、死体は消えるし、姿が変わったシャーロットが現れるし。
説明がないと分からないことではある。
「私は一度自分を殺すことで理想の自分に生まれ変わる。さっきはシンシアを治療するために、最強の治癒魔術を使える自分になった。この闇魔術で……どう?」
シャーロットは落ち着いた様子で説明した。
闇落ちしてから、より精神が強靭になったような。
「問題ない。シャーロットも学院の乗っ取りに協力してくれ」
「分かったわ」
ぶっきらぼうにシャーロットは聞き捨てた。
それから立ち上がって、アレンの家から出て行こうとしていた。
だが、一瞬ふらついた。
「シャーロット、疲れているだろ……送っていく」
「……いい。大丈夫、私の闇魔術で肉体を再生成するから」
再び、シャーロットは杖を頭に向けて自害しようとしたが。
「やめろ、シャーロット!」
アレンは慌ててシャーロットに駆け寄って杖を離した。
発動した魔術が壁をえぐる。
「なんで止めるの?」
少女は本気で分かって無さそうに首を傾げていた。
闇落ちしたせいで、精神に異常をきたしている。
他の教え子たちも大なり小なりそういうところがあったが、今のシャーロットはとても危ういような気がしてならない。
「疲れているときは休めばいいんだ。だから――簡単に自殺するのは止めろ」
シャーロットはアレンとシンシアの顔を見た。
そこでようやく杖をしまってくれた。
「二人がそう言うなら、分かったよ。でも、シンシアに護衛はいるでしょ?」
シンシアがベッドから降りてきた。
そして見送るようにシャーロットの前に立つ。
「わ、私は自分の身なら自分で守れるから……だから、先生に送られて欲しい」
「シンシアがそういうなら、分かった。先生、よろしくお願いします」
シャーロットは礼儀正しく頭を下げた。
そこまで他人行儀を取られるのも、無理はない。
二人は家を出るのだった。
◆ ◆ ◆
会話は無かった。
だが、意外にも最初に口を開いたのはシャーロットの方だった。
「先生……ありがとうございます」
「そんなに畏まらなくても……」
アレンとしては罪悪感の方が大きいのだ。
親友であるシンシアを殺させ、心を折る。
だから責めてもらう方が楽まであったのに。なぜか感謝されている。
「ううん、私は嬉しいの。これで誰かを守る、後悔しないで不条理に立ち向かえる力を手に入れることができた。先生のお陰だよ」
シャーロットは力強く拳を握っていた。
闇落ちしても真っすぐなままのように見える。
「……俺は悪魔なんだ。だから、褒めるな」
だがシャーロットは背伸びして、アレンの頭を撫でて来た。
どういうつもりなのだろう。
「ごめんね、先生。辛い思いをさせちゃって」
「……な、なにを?」
シャーロットは無理やりそのままアレンの頭を胸に引き寄せて来た。
彼女自身の闇魔術で強化された力強さに抗うことができない。
「だって先生、相当無理してる」
シャーロットは気づいている……?
アレンが誰かを闇落ちさせるために、心に鉄仮面をかぶっていることを。
「そ、そんなことない……だから心配なんて」
「嘘。先生はずっと苦しんでる。私を闇落ちさせるのは心が痛かったはず。その証拠にだってほら……涙、出てるよ」
気づけばアレンは涙を流していた。
今まで我慢していたものが色々と決壊していくような。
「ち、違うんだ。これは……」
「違くないよ……アレン先生は苦しんでいる。もし良かったら、私に吐き出して」
「俺は……」
アレンは辛かったことを口にしようとしてしまう。
だが、何とか踏みとどまる。
ここで弱さを見せたら、シャーロットに依存してしまう。そんな気がしたからだ。
「……言ってくれないんだ」
「ああ、先生にもプライドはあるからな」
何がプライドなのかはもう分からない。
教師としての倫理観は捨ててしまっているのに、矜持なんてものがあるのか。
「私はね、先生。救える人全てを救いたいの。だから、先生が苦しんでいるのなら、いずれ全部私が救ってあげたい。私は、そうやって生きたいの」
シャーロットが夕日に照らされて輝いて見える。
闇は光すら吸収する。
だけど、彼女は闇をもコントロールする光。
それがシャーロットの闇落ちなのだろう。
「……俺のことは放っておいてもいいけど、その夢は応援するよ」
「放っておかない。いずれ先生の闇も晴らす」
シャーロットはそう言うと少しだけ微笑んだ。
でもアレンの胸の痛みは止まらなかった。