死亡エンドの弱小生徒たちを救うため、闇落ちさせて最強に育てたら教え子たちの愛が重すぎる   作:綿紙チル

22 / 23
第22話 先生の闇も晴らす

 シャーロットとシンシアの抱擁は短かった。

 これからいくらでも会うことなんてできるからだろうか。

 

「先生、私は闇魔術を習得した。これで仲間に入れてくれる?」

 

 シャーロットの言葉からは敬語が消えていた。

 ただこちらを敵視するような感じでもない。

 

「確かにあれは闇魔術だった……だが、どういう魔術なのか俺には分からない。もし良かったら少し教えてくれないか? それで判断する」

「わかった」

 

 シンシアは自分の頭に杖を当てた。

 そして「「水魔術銃《ウォーターショット》」と唱えて、自らの頭をぶっ飛ばした。

 

「しゃ、シャーロット!?」

 

 見ていたシンシアは慌てて駆け寄った。

 アレンですら止める間がない。自害することにあまりに躊躇が無さ過ぎた。

 

 だが次の瞬間には死体が消えていた。

 現れたのは見たことのない銀髪の少女……顔はシャーロットだが髪色が違う。

 

「な、なにが起きたの……?」

 

 シンシアが一瞬の出来事に首を傾げていた。

 頭を撃ち抜いて、死体は消えるし、姿が変わったシャーロットが現れるし。

 説明がないと分からないことではある。

 

「私は一度自分を殺すことで理想の自分に生まれ変わる。さっきはシンシアを治療するために、最強の治癒魔術を使える自分になった。この闇魔術で……どう?」

 

 シャーロットは落ち着いた様子で説明した。

 闇落ちしてから、より精神が強靭になったような。

 

「問題ない。シャーロットも学院の乗っ取りに協力してくれ」

「分かったわ」

 

 ぶっきらぼうにシャーロットは聞き捨てた。

 それから立ち上がって、アレンの家から出て行こうとしていた。

 

 だが、一瞬ふらついた。

 

「シャーロット、疲れているだろ……送っていく」

「……いい。大丈夫、私の闇魔術で肉体を再生成するから」

 

 再び、シャーロットは杖を頭に向けて自害しようとしたが。

 

「やめろ、シャーロット!」

 

 アレンは慌ててシャーロットに駆け寄って杖を離した。

 発動した魔術が壁をえぐる。

 

「なんで止めるの?」

 

 少女は本気で分かって無さそうに首を傾げていた。

 闇落ちしたせいで、精神に異常をきたしている。

 他の教え子たちも大なり小なりそういうところがあったが、今のシャーロットはとても危ういような気がしてならない。

 

「疲れているときは休めばいいんだ。だから――簡単に自殺するのは止めろ」

 

 シャーロットはアレンとシンシアの顔を見た。

 そこでようやく杖をしまってくれた。

 

「二人がそう言うなら、分かったよ。でも、シンシアに護衛はいるでしょ?」

 

 シンシアがベッドから降りてきた。

 そして見送るようにシャーロットの前に立つ。

 

「わ、私は自分の身なら自分で守れるから……だから、先生に送られて欲しい」

「シンシアがそういうなら、分かった。先生、よろしくお願いします」

 

 シャーロットは礼儀正しく頭を下げた。

 そこまで他人行儀を取られるのも、無理はない。

 二人は家を出るのだった。

 

◆ ◆ ◆

 

 会話は無かった。

 だが、意外にも最初に口を開いたのはシャーロットの方だった。

 

「先生……ありがとうございます」

「そんなに畏まらなくても……」

 

 アレンとしては罪悪感の方が大きいのだ。

 親友であるシンシアを殺させ、心を折る。

 だから責めてもらう方が楽まであったのに。なぜか感謝されている。

 

「ううん、私は嬉しいの。これで誰かを守る、後悔しないで不条理に立ち向かえる力を手に入れることができた。先生のお陰だよ」

 

 シャーロットは力強く拳を握っていた。

 闇落ちしても真っすぐなままのように見える。

 

「……俺は悪魔なんだ。だから、褒めるな」

 

 だがシャーロットは背伸びして、アレンの頭を撫でて来た。

 どういうつもりなのだろう。

 

「ごめんね、先生。辛い思いをさせちゃって」

「……な、なにを?」

 

 シャーロットは無理やりそのままアレンの頭を胸に引き寄せて来た。

 彼女自身の闇魔術で強化された力強さに抗うことができない。

 

「だって先生、相当無理してる」

 

 シャーロットは気づいている……?

 アレンが誰かを闇落ちさせるために、心に鉄仮面をかぶっていることを。

 

「そ、そんなことない……だから心配なんて」

「嘘。先生はずっと苦しんでる。私を闇落ちさせるのは心が痛かったはず。その証拠にだってほら……涙、出てるよ」

 

 気づけばアレンは涙を流していた。

 今まで我慢していたものが色々と決壊していくような。

 

「ち、違うんだ。これは……」

「違くないよ……アレン先生は苦しんでいる。もし良かったら、私に吐き出して」

「俺は……」

 

 アレンは辛かったことを口にしようとしてしまう。

 だが、何とか踏みとどまる。

 ここで弱さを見せたら、シャーロットに依存してしまう。そんな気がしたからだ。

 

「……言ってくれないんだ」

「ああ、先生にもプライドはあるからな」

 

 何がプライドなのかはもう分からない。

 教師としての倫理観は捨ててしまっているのに、矜持なんてものがあるのか。

 

「私はね、先生。救える人全てを救いたいの。だから、先生が苦しんでいるのなら、いずれ全部私が救ってあげたい。私は、そうやって生きたいの」

 

 シャーロットが夕日に照らされて輝いて見える。

 闇は光すら吸収する。

 だけど、彼女は闇をもコントロールする光。

 

 それがシャーロットの闇落ちなのだろう。

 

「……俺のことは放っておいてもいいけど、その夢は応援するよ」

「放っておかない。いずれ先生の闇も晴らす」

 

 シャーロットはそう言うと少しだけ微笑んだ。

 でもアレンの胸の痛みは止まらなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。