死亡エンドの弱小生徒たちを救うため、闇落ちさせて最強に育てたら教え子たちの愛が重すぎる 作:綿紙チル
翌朝、アレンは教壇に立っていた。
「みなさん、おはようございます」
「「「おはようございます!」」」
アレンの挨拶にクラスの面々は元気よく返事を返した。
たが一つの空席に気がついた。
「エラさんは休みでしょうか? 何か連絡を受けている方はいませんか?」
「あ、エラなら体調悪いから休むって」
「……なるほど、本日の授業は自習にしたいと思います。では」
アレンは足早に教室を出た。
急がなくてはいけない理由があるからだ。
『ありゃ、優しくしすぎちゃったかな? 一日時間を与えたから、逃げるっていう選択肢があるように思えちゃったんだね』
「そうだろうね。だけどこの学院は……」
突き当りから他の先生が見えたので黙った。
『最後まで言わなくても知ってるよ~』
モルガナと二人で走った。
学校では多少、自分の不在が問題になるだろうがそれは仕方ない。
どうせ、これからやることで騒ぎは起きてしまうのだから。
◆ ◆ ◆
アレンが向かった先は駅。
この時間ならまだ、長距離列車の出発時間には間に合うはず。
『せんせ~、ほらあそこ!』
モルガナに指を指されて、列車を待っているエラを見つけた。
何とか間に合ったらしい。
「せ、先生!? どうしてここに」
エラは驚いた表情でアレンを見つめていた。
「……そういえば逃げるという選択肢を潰していなかったなと」
肩で息をしている先生を睨みつける。
自分が逃げようとしていることに気づかれてしまった。
「ち、近づかないでください! 私は死ぬのも、死ぬほど辛い思いをするのもどっちも嫌です。実家に帰ります」
エラは大きな声を出して牽制する。
だけど、アレンは全く引こうとしない。
それに周りの人も、興味が無いような……日常の一部くらいにしか思っていないような冷たい視線。
「エラは知らないんですか? まぁ、自分のクラスは基本的に良い子しかいないから知らないのも当然ですね」
「何も知らない! あの学院が生徒を――」
生徒を爆弾にして送り出していることを。と続けようとしたのに話せない。
そういえば先生に、昨日の会話を他言できないようにする闇魔術をかけられたことを思い出す。友達のいないエラは秘密を誰かに話す機会が無かったから、今になってようやく実感した。
「違います。そのことではないです」
「じゃ、じゃあどうして……!」
誰も助けてくれないのか。
こんなに子どもが取り乱しているのに、周りの人は見ているだけ。
「王立第十魔法学院は、古くから問題児を多く受け入れてきた過去があり今でも脱走者は現れます。学校側と親元、双方の同意が無い限り本校から帰ることはできません……なので実家に帰っても意味はないです」
「じゃ、じゃあ、私はどうしたらいいの!?」
エラは錯乱しているのか、逆にアレンに助けを求めてきた。
そういう気持ちになるのも分かってしまう。
「その答えは俺には出せません。俺を振り払って実家に帰るという手段もありますけど……親御さんに学校を辞めたいと説得するのは難しいのではないですか?」
「なっ、なんで、それを……」
「先生なので、それくらいは当然ですよ」
隣にいるモルガナがフッと笑った。
本当は、彼女の力を借りてエラの人生を覗き見ただけなんだが。
「とにかく戻りましょう。話はそれからです」
「い、いやあ……! 戻りたくない。戻ったらだって――」
その先は闇魔術のせいで言葉にできなかった。
でもエラは何とか口を動かす。
「だ、誰かあ……助けて、助けてよお!」
エラの虚しい叫び声が駅構内に鳴り響いた。
丁度やってきた電車は無残にも彼女を置いて発車していった。
◆ ◆ ◆
その日の放課後までは普通に過ごした。
最もアレンですら、心がざわついて昼食が喉を通らなかったのだが。
授業が終わり、エラとの約束の場所で待つ。
『先生、今度私が寮で作ってた料理教えてあげる』
「なんで?」
『うーん、これから先生は頑張らなくちゃいけないよね。生徒に嫌われるどころじゃないような非道をして、恨まれる覚悟で』
「……そうだけど」
ほんとうはやりたくない。
けどここで止まれば、モルガナのような犠牲者を増やしてしまう。
だから心を悪魔に捧げてもやる以外の選択肢はない。
『頑張ったご褒美かな……私にも多少は罪悪感はあるしね』
「罪悪感……? モルガナが」
どうして彼女がそんなことを口にするのか一切分からなかった。
傷つけて死なせてしまったのは自分なのに……。
そう考えているとエラが現れた。
「良く来ましたね。エラ」
「……逃げても無駄なんでしょ。だったら私に選択肢はない」
エラは覚悟を決めたというか……もう諦めているようだった。
その瞳にすでに生気はなくて、この世をどうでもいいと思っているような。
「嫌だったら俺を殺してもいいんですよ」
「……そんな勇気私にはありません」
正直アレンとしては殺されても本当に良かった。
これから彼女に課す試練の重さに比べれば、自分の命なんて軽いものだ。
「……闇魔術を発現させるための訓練を行う前に一つだけ言っておきます。これは先生の独り言で、ただの言い訳みたいなものですが」
「なんですか……?」
エラはアレンの言葉に興味なんてなかった。
これから心を壊すような酷いことをしてくる相手の言うことに価値なんてない。
「俺は、あなたたちに死んでほしくない。関りが薄くとも大事な生徒たちで、本来は大人たちに守られるはずの存在です。それを、俺の力が足りないせいで、酷い目に合わせてしまってごめんなさい。許さなくていい……でも、どうしてもエラには生き残って欲しい。最低な先生でごめん」
エラは聞く気がなかったけど、先生の真っすぐな瞳に心を奪われかけていた。
この先生はもしかして、本気で自分たちのことを考えているのではないかと思いたくなってしまう。ただ、そんな一瞬の暖かさは吹き飛ぶことになる。
「……さて、これから訓練の内容を説明します」
そう言って先生が指さしたのは棺だった。
「あなたの心が壊れるまでこの棺に入ってもらいます。ただの棺ではありません。外から施錠して自力では出られないうえ、中には徐々に水が溜まっていく仕組みです」
エラの呼吸が急に荒くなった。
それを見ていたアレンは思わず唇を噛んだ。