死亡エンドの弱小生徒たちを救うため、闇落ちさせて最強に育てたら教え子たちの愛が重すぎる 作:綿紙チル
エラからのお願い。
彼女を闇落とした者の責任として、付き合う必要がある。
「分かりました。でも、疲れていませんか? 少し休んだ方が……」
「移動時間中に休みを取るので大丈夫です。さあ、行きましょう」
エラがアレンの手を引っ張る。
それにアレンは逆らわなかった。
「みなさん、すいません。今日も自習ということでよろしくお願いします」
クラスメイト達は急な展開についていけなかった。
追いかけようとしたシャーロットだが、廊下に出たときには二人の姿はもうなかった。階段まで走ったが、歩く音すら聞こえない。
「……どこに行ったんだろう?」
◆ ◆ ◆
そんなアレンとエラはもう地上階まで到達していた。
「……これがエラさんの闇魔術」
「そうですよ。先生のお陰で得た力。あらゆるものをすり抜ける、どんな状況でも自分だけが生き残るための力です」
二人は床を貫通して、一番下の階までやってきたのだ。
誰も追いつけるはずがない。
「エラさん、手を放しましょう。変な勘違いされますよ」
「……? 別に私はされても困りまらないので」
恐らくエラがアレンの手を握ってきたのは闇魔術を共有するため。
触っているものにも、彼女のすり抜ける能力を分け与えることができるのだろう。
なので、すり抜けするものがない以上、手を繋ぐ理由はないのだが。
「……分かりました。このままで行きましょう」
アレンはエラが満足するまで手を握らせることにした。
『先生が私以外の女の子の手を握ってる……!』
モルガナがなんか言っているが無視だ。
そもそもエラの前で反応するわけにもいかないし。
学校から出て向かったのは駅。
昨日ぶりなので、当たり前だが景色は変わらない。
エラが二人分のチケットを買って渡してくれた。
行先はなるほど、と言った感じだ。
「俺がチケット代出しますよ」
「大丈夫です。私がケジメをつけに行くだけなので……先生には見守っていて欲しいんです」
自分でエラを苦しめたからこそ疑問があった。
どうして彼女はアレンを憎まないで、寧ろ好意のようなものを向けているのか。
聞いて良いのか分からず、列車が来るまで待つ。
互いに会話は無かった。
けど、エラにはずっと手を握られたままだ。
「あ、先生来ましたよ」
「そうですね」
列車に乗る扉は一人用なので、エラは手を離した。
車内を移動して向き合うように席に座る。
「……先生は私に聞きたいことがあるんじゃないですか?」
「……あります」
エラは感づいている。気づいているというよりも、ただ単に俺の立場になって考えてみただけだろうが。
「素直に聞いてくれませんか?」
「……どうして、俺のことを慕ってくれるようになったんだ。俺は君に最悪なことをして、心を壊したんだぞ。それなのに」
エラは目じりを上げて微笑んだ。
その瞳は、得物を狙う肉食獣のようにも見えた。
「先生は鈍感ですね。的確に私のトラウマを突いてきたのに」
「…………」
冗談なのか、本気なのか分からない。
エラの蠱惑的な微笑みもそう感じさせるのかもしれない。
「黙らないでください……ちゃんとお話ししますから」
「よろしくお願いします」
エラは車窓からの景色を眺めながら、落ち着いた表情で語りだす。
「私は親兄弟から疎まれて育ってきました。父親と、その不倫相手だった酒場の給仕の子どもで……本当の母親については顔すら知りません。秀でた才能も無くて、ごく潰しで、ましてや半分血が繋がっていない。そんな生まれです」
エラはなぜか微笑んでいた。
どう考えても楽しい思い出じゃないのに。
「でも、私はそれに気づかないようにして生きてきました。本当は分かっていたのに、見ないふりをして……。ましてや、殺そうとしてきた家族。私のことを考えてくれるような人は今までいなかったんです」
エラは、芝居がかかったかのようにうっとりとした表情を浮かべた。
そんな熱っぽい視線でアレンを捉えながら、大きな声を上げる。
「でも! 先生だけは違う。こんなにも本気で私のことを心配してくれる人は今までいなかった! 家族に疎まれて殺されかけて……誰も信頼できない私を助けようとしてくれた」
愛する人に歪んだ感情をぶつけるが如く、エラは吠える。
アレンはそれを真正面から受け止める。
「私は先生の行動に愛を感じてしまったんです。今まで得ようと思っても手に入れられなかったものを! だから……慕ってはいけませんか?」
アレンはすぐに頷くことはできなかった。
その感情は教師に抱くべきものではないからだ。
でも、闇に落として一度壊れてしまったエラの真っすぐな気持ちを否定するなんて、とてもできない。
「……常識の範疇でなら問題ないよ」
「常識の範疇……わかりました」
何か食い違っているような気がしなくもないが訂正はしなかった。
すると、対面に座っていたエラが隣にやってきた。そのままポテンと、膝に頭を乗せた。
「……常識の範疇かな?」
「このくらい親しければ誰でもしますよ。先生がやった酷いことに比べれば、ほとんどすべてのことが常識の範疇ですよね?」
そう言われると何も言い返せない。
「私は寝るので、頭を撫でてくださると嬉しいです」
言われた通りにエラの頭を撫でる。
水に漬かっていたせいかギシギシしている。
「ふふっ。ありがとうございます」
程なくしてエラは眠りについた。
彼女の可愛い寝顔を見て、アレンは苦しくなっていた。
(まだ子どもなのに……酷いことをしてほんとうにすまない)
せめて彼女の行く先に未来があるように祈った。
夕日だけは妙に美しいのが皮肉に感じた。
◆ ◆ ◆
列車が目的地についた。
エラが伸びをして、ホームに降り立つ。
「それでは、先生行きましょうか。私の実家に」
逆光で差し込む夕日が長い影を作っていた。