死亡エンドの弱小生徒たちを救うため、闇落ちさせて最強に育てたら教え子たちの愛が重すぎる   作:綿紙チル

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第7話 闇落ちしたエラの仕返し

 エラの実家がある街は列車の運行によって栄え出した農村。

 収穫したものを列車に乗せて、都市で売りさばくらしい。

 

「久しぶりの故郷はどうですか?」

「実家での暮らしは良いことなんて無かったけど、それでも景色だけは懐かしく感じます。不思議ですね……」

 

 風景に罪はないし、意外とそう思えるのかもしれない。

 ……いや、こればっかりは個人の素養な気もするが。

 

「先生、私の実家の家業って何だと思います?」

「ここら辺はワインの生産が盛んだから、ブドウ農家ですか?」

 

 当てずっぽうだった。

 有名だからといっても、他の仕事をしている人はたくさんいる。

 

「正解は――あ、見えました」

 

 エラが見つめている先には大きな一軒家。

 これと言った特徴はないが、馬を飼っている。そこそこ裕福なのだろう。

 

 エラが扉を三回ノックした。

 

「はーい……ってエラ!? なんでここに?」

「ちょっと家族みんなに聞きたいことがあって、全員いる?」

「なにその口調、生意気な――あ、お連れの方もいるんですね。少々お待ちください」

 

 出迎えたエラの母親と思しきと人物は、アレンを見るなり態度を変えた。

 エラ自身が歓迎されてないのは一目瞭然だが。

 

「ど、どうぞお入りください」

 

 エラの母親の許可を貰ったので家の中に入ることに。

 中は普通では無かった。

 獣だったり、魔物の頭が壁に立てかけられている。

 なんかの邪教なのかとも思ったけど、これは――。

 

「粗茶ですが」

「ありがとうございます」

 

 だけど、アレンは一口も飲まなかった。

 エラがこの場所に来たのは家族たちとのケジメをつけるためだろう。

 飲む方が礼儀ではあるだろうけど、気分悪くなりそうな展開が待っていそうなので止めた。

 

「それで何の御用でしょうか?」

「別に俺は用事はないですよ、ただエラさんの付き添いなので」

 

 エラの母親は嫌そうに視線を娘にむける。

 よく家族をそんな目で見れるものだと、逆に感心する。

 

「家族全員に聞きたいことがあるから、呼んできて」

「はぁ、分かったわ。もう少し待っていなさい」

 

 ほんとうにちょっとだけ待つことになった。

 その間に親子の会話はなかった。

 冷え切ったというか、これがいつも通りなのだろう。

 

「母さん帰ったぞ~」「ただいま!」「今日の夕飯は?」

 

 程なくして現れたのは三人の男たち。

 一人残らず、その腰には剣を携えていた。

 

(なるほど。この街を外敵から守って来た騎士とか、冒険者の類か)

 

 服は綺麗だったので、今日の出番は無かったのだろう。

 

「あれ、エラが帰ってきてるんだけど? なんでいんの?」

「うわ……どうりでこの部屋臭いと思った」

 

 いじめみたいな陰口を叩くのは二人の若い男。

 疎まれているというのは本当のことなのだろう。

 

「二人ともお客人がいるんだから辞めなさい」

「へーい」「はーい」

 

 今酷いことを言っていたのはエラの兄たちか。

 もう一人黙っている男は、おそらくエラの父。

 

「それでエラ? あんたが私たちに聞きたいことって?」

 

 全員そろったので面倒そうに母親が尋ねてくる。

 それを皮切りにエラは闇に染まった魔力を垂れ流した。

 

 男たちは剣の柄に手をかけた。

 異常な魔力を感じ取ったからだろう。

 

「昔、私のことを殺そうとしたことがあるって本当?」

 

 エラの凛とした声に家族たちが驚いている。

 そもそも、殺そうとしたというのは自分たちの考察でしかない。

 彼女はそれをはっきりさせたいのだろう。

 

「本当だ。お前を井戸に落として事故死を装って殺そうとした」

「ふーん、なんで?」

 

 父親から最低の告白があったのにエラは動じない。

 というか付き添いの自分がいるのに、よく素直に言える。

 

「母さんがお前を嫌っていた、俺もお前が邪魔だった。それだけだ」

「わかった」

 

 エラは冷静だ。

 逆に隣で聞いているアレンのほうが平静ではいられなくなりそうだった。

 

(どうしてこいつらは、それだけの理由を家族を殺そうとするんだ!?)

 

 金銭的事情とか、夫が不倫してできた子どもという外面の悪さとか色々あるのだろうとは思う。でも、それでもわざわざ殺す必要があるのか?

 

「じゃあ最後の質問、私に謝る気はある? 地に頭をつけたら許してあげようと思うんだけど、どう?」

 

 エラは挑発的に家族一人一人を見た。

 

「ない」「あるわけねーだろ」「ないない」「……」

 

 だが、誰もエラに謝ろうとはしなかった。

 この家族なら当然の反応か。

 救いようがないというか、クズ過ぎて何も言えない。

 

 父親だけが無言を貫いたのは、エラから溢れ出る黒い魔力への警戒からか。

 

「……私、実は昨日まで生きる意味なんてないと思ってたんだ。でも、ここにいる先生のお陰で生きたいと思えるようになったから。急に殺されかけたことに腹が立って。だってあの日で殺されてたら、先生から愛を貰えなかった! 誰から愛されることなく死んでた! だから、そんな素敵な未来を奪おうとした、みんなに仕返ししたいんだ」

 

 エラは本気で怒っているようだった。

 静かな怒りを言葉に乗せている。

 

「やってみろよ、できるもんなら」

 

 意気揚々と吠えたのはエラの兄のうちの一人。

 第十魔術学院などいう底辺の学校に通っている彼女に負けるはずないと思っているからのこその威嚇。

 

「でも、この家を血で汚したくないなら外に出ようよ」

「は? 何馬鹿なこと言ってんだよ? お前が俺に命令する権利なんてあると思うな!」

 

 エラに向けて放たれる拳。

 ただ彼女は。

 

私は何にも囚われない(ウォーク・スルー)

 

 何も無かったかのように兄の拳が通り過ぎていった。

 エラの家族たちは何が起きているのか分からないようだった。

 

「今殴ったのに、どうして……?」

「いいから、早くついてきてよ。みんなも家を汚したくはないでしょ?」

 

 エラは家族たちより先に立ち上がって、家の外に出た。

 これから何が起こるのか想像はできるが、しないようにした。

 アレンがエラを闇落ちさせてしまったことで、この人たちは――。

 

 エラに続いて彼女の家族たちも家から出ていく。

 その腰には剣をぶら下げたままだった。

 

「それでエラ? 外に出て喧嘩でもすんのか?」

「喧嘩はしないよ」

「じゃあいったい何しに出させたんだよ?」

 

 エラが愉しそうにニッコリと笑った。

 その歪んだ微笑みに、家族たちは後ずさりした。

 

「仕返しするって言ったよね? だから、私がやるのは一方的な殺しだよ」

 

 その言葉に反応したのか、父親が剣で斬りかかって来た。

 魔力で身体を強化しているのだろう、間合いが一瞬で詰められた。

 実践的な戦闘訓練を受けていないエラでは太刀打ちできない――なんてことない。

 

私は何にも囚われない(ウォーク・スルー)

 

 剣がエラを切り裂いている。 

 だが、まるで実体がないかのようにすり抜けてしまっている。

 

「この魔術は何だ!?」

 

 父親が声を荒げた。

 何度振ってもかすりもしない状況に、冷や汗を垂らしている。

 

「お父さんは後で相手してあげるから、ちょっと待ってて」

「ま、待てるか! お前は本当に俺たちを殺そうとして――!」

 

 エラがゆっくりと兄たちに近づいていく。

 

「うおおおおおおおお!」

 

 一人の兄は刀身に炎を纏って斬りかかってきたが、やはり通り抜ける。

 

「く、来るな! 来るな!」

「兄さん!」

 

 もう一人の兄が背後を取って斬りかかってきたが。

 

「バカ、止めろ!」

 

 父親が静止するが、もう遅い。

 兄弟同士で斬りつけ合ってしまった。

 

「うわあああああああああ!」

「い、痛い!」

 

 切っ先だけでできた浅い傷ではあるが確かに血を流している。

 あまり怪我に慣れていないのか、ぎゃあぎゃあとうるさい。

 

「ね、ねえ! お客人はエラの知り合いか学校の教師かなんかでしょ! な、なんで子どもの蛮行を止めようとしないのよ!」

 

 見守っていたエラの母親がアレンに縋りついてくる。

 そんなアレンは考える間もなく彼女を振り払っていた。

 

「バカなこと言わないでください。確かに俺はエラの先生ですけど、大切なのはあの子の気持ちです。どんなことが起きようとも隠ぺいします。それに――」

 

 尻もちをついた母親を見下ろしてアレンは言う。

 

「暗い井戸の底で声が枯れるまで叫んでた子どもを無視するような人たちを、俺が助けるわけないじゃないですか……だから、思う存分苦しんでくださいね」

 

 エラの母親はアレンの答えに怒りを露わにした。

 何とか立ち上がって殴りかかろうとしてくるが。

 

「いいんですか、お母さん? 息子さんたちが死にそうですけど?」

「え?」

 

 母親が振り返るとエラが兄たちの頭に手を突っ込んでいる。

 

「な、なにが起きてるのよ……?」

 

 別に自分たちから答える理由はないので、無視した。

 エラが愉快そうな顔で振り返って父と母を見ている。

 

「はい、ちゅうもーく! これから兄さんたちの頭の中身を、頭蓋骨を割らないでぐちゃぐちゃにしたいと思いまーす」

 

 兄たちは恐怖で声すら出ていない。

 いや、脳を触られて体の機能がおかしくなっているだけかもしれない。

 

「や、辞めて……、ご、ごめんなさい。わた、私が悪かったから! ね、エラの言うとおりに謝るから。ゆ、許して……、頭でもなんでも地面につけるから」

 

 母親が平伏した。

 そこには一切の躊躇は無かった。

 ただ単に息子を助けたいという思いが籠った。

 

「わかりました。じゃあ――おっと!」

 

 一瞬だけ母親のひれ伏す姿に気を逸らされたのか、エラは父親の攻撃への反応が遅れた。しかし、薄皮を一枚斬られただけでほぼダメージにはなっていない。

 

「あ~あ、お父さんのせいで気が変わちゃった。じゃあね、兄さんたち」

「や、やめ――」

 

 エラが兄たちの脳みそを手でつぶした。

 そのグロテスクな音は聞こえなかったが、白目をむいて口から泡をぶくぶくと吐いて死んでいく姿が鮮明だった。

 

「はい、兄さんたちへの仕返しは終了」

 

 エラからすれば、今までの鬱憤をその命で償ってもらったくらいのこと。

 

「ああああああああああああ!」

 

 母親は目の前で息子たちが、意味の分からない死に方をしたことに発狂していた。

 そのままの勢いでエラに飛びかかろうとしたが、父親がみねうちして意識を奪った。

 

「エラ。お前、面白い魔法を身に着けたな」

「思ったよりお父さんは冷静なんだね。兄さんたちが殺されたのに、怒ったりしないんだ?」

 

 エラは本気で疑問に思っていた。

 自分が先生を失うことがあれば怒りで我を忘れるだろうという確信めいたものがあったからだ。

 

「怒っている。ただ、今は死地だ。この場を切り抜けられなけば、俺に先はない」

「……腐っても戦士って感じだね」

 

 アレンから見れば生存本能が、元々の気質を呼び起こしたように見えた。

 自分の倍くらいも生きているような剣士が、戦いの喪失で我など忘れないだろう。

 

「じゃあ、お父さんへの仕返しもはじめます」

「……来い!」

 

 エラは先ほどまでと違って、真っすぐに走って突っ込む。

 最速で殺そうとしたのだろうか。

 

「エラ、お前の魔術の種は割れている。お前はさきほど、俺の剣戟をすり抜けずに躱した。つまり実体化しているときと、してないときが明確にある!」

「せいか~い!」

 

 目の前にやってきたエラにカウンターの一撃を放つ父親。

 だが、その剣はすり抜けてしまう。

 

「カウンターを予想してすり抜けたか! ただそれじゃあ俺は殺せな――!?」

 

 エラはそのまま父親の体内を通り抜けた。

 しかし、上に羽織っていた魔術学院のマントだけが父親に顔に引っかかる。

 

「目くらましだと!?」

 

 その一瞬の隙だけで十分。

 エラは父親の胸に手を突っ込んで、心臓を掴んだ。

 

「くそっ……」

「人生やり直せるなら、不倫しないで私を産ませないようにしようね♪」

 

 エラは父親の心臓を掴んで潰した。

 彼は口から血を吐いて倒れた。

 

「……あとはお母さんだけだけど、これは放置の方が愉しそうかな?」

「どういうところがだ……?」

 

 アレンは、エラの考えていることが分からなくて聞き返してしまった。

 そうするとエラが歪んだ笑みを浮かべた。

 

「先生さ、私の魂を変えて学校のことを他言できないようにしましたよね? それを母親にかけて欲しいんです。そうすれば、私たちのこともバレないし、お母さんは目の前で変死した息子たちの姿に苦しみ続けてくれる。最高じゃないですか?」

 

 エラの心の底からの笑顔がとてもきれいだった。

 言っていることは邪悪そのものだが、闇落ちさせた本人として梯子を外すわけにはいかない。

 

「エラがそう言うなら、やるよ」

「うん。よろしくお願いします」

 

 アレンは気絶しているエラの母親の魂をいじって、今日のことを他言できないように変化させた。

 

「さて、あとは後片付けと証拠隠滅ですね」

「ちょっと大変そうだね」

「大丈夫です。そこに丁度いい井戸があるので」

「なるほどね……」

 

 アレンはエラは魔術で死体を燃やして井戸に捨てた。

 家族を井戸で事故死させようとした奴らが、そこに遺棄される皮肉。

 

(……エラが満足そうなら、それでいい)

 

 アレンは自分の感性が壊れて行っているのを自覚しながら、頬を緩めた。

 

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