逆行したのにチートができない 作:タイムトリッパー
この話は私がプロットを書く→AI様に清書してもらう→私が修正するの繰り返しで投稿してます。
1000文字くらいの拙い話が3000字になって帰ってきたりするので、AI様は偉大です。
ありがとうAI。
二周目の五条が訓練場を覗きに行くと、乙骨と夏油が派手にやり合っていた。
訓練を始めた当初はど素人だった乙骨だが、スポンジが水を吸うように成長し、二ヶ月経っていないというのにすでに相当強い。夏油も手加減する気はないらしく、呪霊を次々と繰り出しながら乙骨を追い込んでいる。ゲロ雑巾の味で、どんなに簡略化しても最短10分掛けて登録する呪霊を、毎分30体ぐらい消費していく。後で泣きついて来るだろうから慰めてあげよう。自分を騙してもまずいものはまずい。里香はまだ完全顕現禁止。乙骨本人の力と、里香の力を込めた刀だけで夏油に食らいつくという訓練だった。並行世界では禪院家の協力の元、様々な術式を練習できたのだが、今は本当に乙骨と里香だけだ。
少し離れたところでは、二人の家入硝子が並んで戦いを眺めている。
応援ではない。怪我待ちである。
乙骨はまだ反転術式を習得していない。ならば怪我をしたところで、実際に自分の肉体を治しながら感覚を掴ませればいい。
ついでに一周目の硝子も、二周目の自分から反転術式を教わることになっていた。こちらの硝子も他人を治療する技術には長けているものの、欠損部位を再生させるほどの治療はできない。せっかく並行世界から自分自身という最高の教師がやってきたのだから、この機会を逃す理由はなかった。同い年の自分に習うのは屈辱だから、一発で習得してやると意気込んでいた。
したがって。
ーー争え……。
ーー争え……。
ーーどちらかが怪我をするまで戦うのだ……。
そんな不穏な期待を背負わされているとも知らず、乙骨と夏油は真面目に訓練していた。
「頑張ってるねー」
五条が眺めていると、後ろから同じ声が聞こえた。
「僕、会議で疲れたから、この後の任務交替してもらっていい? 授業で癒されたい」
「お疲れー。大変そうだね。意見まとまりそう?」
一周目の五条だった。二周目五条は労る。
その後ろから、七海が追ってきた。
「五条さん、あのままではよくないですよ。どうにかできないんですか」
「ダメっぽーい。保守派と革新派が真っ二つ」
一周目五条は、当たり前のように言った。
つい昨日まで、五条が総監部とばちばちにやり合っていたせいで、周囲の人間が五条を敬遠していた。
今では五条の方が会議を敬遠している。
そもそも未来の情報を一部の人間だけで抱え込むのはよくない、関係者に共有して皆で考えようと言い出したのは五条である。その結果、呪霊と術師の存在そのものを八十年後に残すべきか否かという、とんでもない議論に発展した。
お前が始めた物語だろう。
七海はギッと五条を睨んだ。
「五条さんも逃げずに意見表明すべきでは? なんですか、ここまで来て『若い者に任せてはどうか』などと悠長なことを」
「だって真希が老衰で死ぬような未来の話だよ? 確実に僕いないじゃん。いない人が決めちゃ駄目でしょ」
一周目五条は悪びれなかった。
「僕の役目は宿儺討伐まで! まずそこ何とかしないと、日本そのものが滅茶苦茶になるかもしれないんだからさ。その後の世界をどうするかは、その時代を生きる人達が決めた方がいいよ」
「それはそうかもしれませんが」
「双方言ってることは分かるし、どっちが正しい! って言える話でもないから余計にねー」
五条は訓練場へ目を向けた。
呪霊が消える。
人が呪いに殺されなくなる。術師も呪いを祓うために命を落とさなくなる。自分達のような人間が生まれなくなるとしても、それは決して悪い未来ではない。五条だって、呪霊により多くの親しい人を失ってきたのだ。その筆頭は傑だ。傑は死にはしなかったが、道を違えてしまった。呪霊がいなければ、出会えなかったかもしれない。けれど呪霊さえいなければ、2人、普通の学生として笑う未来があったかもしれない。
以前の自分なら、迷わなかっただろう。
呪霊なんていない方がいい。たとえ五条家が終わるとしても。
ある日突然無くなるわけではない。準備期間もあるとなれば、なおさら迷う理由はなかった。けれど。
「それでも前の僕なら、因縁を断ち切る方を選んだけど……君の傑が泣いちゃうからね。こっちの傑はなんて言うか分かんないけど」
自分のために、あれほど真正面から嫌だと叫ばれてしまった。
必死で自分を庇おうと半狂乱になる夏油に、感じるものがないはずがない。
だからといって、夏油のためだけに呪霊のいる世界を選ぶつもりもない。
そもそも八十年後には、自分も夏油もいない可能性が高いのだ。その時代を生きる者達が、自分達で選べばいい。
ついでに、もし傑と並行世界の傑による骨肉の争いが始まったら、どっちに味方すればいいのかわからない。
どちらも好きなので巻き込まれたくない。未来の事は若い者に任せるのが一番である。
よって今は宿儺だ。
「それにしても、なんであんなことになったの? 傑、なんかあったの? いや、あの場合僕になのかな。あからさまに僕を庇ってたよね」
一周目五条が聞いた。
「あー。多分、俺のせい」
「何やったの」
あの傑にどれだけ酷いことをしたら、呪霊が消える未来をあそこまで拒絶するようになるのだ。よっぽどのことがあったに違いない。僕がよっぽどヘマしたか、傑を傷つけたか……。
一周目五条はじとりともう一人の自分を見る。
「ロリババァ……野薔薇に全部聞いた後、傑に何も情報与えずに『呪霊ない方がいい?』って聞いたんだよ」
「うん」
「それで俺、傑に『いない方がいい』って言われて傷ついた顔したらしくてさ。すぐに問い詰められて吐かされて、傑、酷いことを俺に言わされたって、いまだに根に持ってんの」
「クズですね」
七海が即答した。
「何も情報なければ、そりゃ呪霊はない方がいいって答えるだろ……」
一周目五条まで引いた。それと同時に、自分の時は傑の様子がおかしいときちんと気づいてやれなかったのに、傑は僕の様子に秒で気づいて問い詰めてくるのか、と罪悪感と一欠片のぬくもりに困惑する。
「私も、あんなふうに夏油が告げ口してきたのは初めてだったな」
二周目の硝子が、戦っている二人から目を離さないまま言った。
「『悟が自分を悪者にしようとしてる』って。夏油に頼られたのも、あれが初めてだったかも。いつもみたいに突き放さなくて、本当に良かったなって思う」
一周目の硝子が顔を上げた。
いつもみたいに。
その言葉が、妙に引っかかった。
自分はいた。
五条が最強になってからも、夏油が離反するまでの間も、ずっと高専にいた。
五条が孤独を全身で表現するたびに、心の中で私がいるだろうと思っていた。
けれど、いるだけだったのではないか。
頼ればいいと言いながら、実際に何かを差し出されたときには、面倒そうに突き放してはいなかったか。ちゃんと私がいると言ったのか。
むしろ、距離を取って傍観してはいなかったか。
「なんてことないやり取りだったんだけど、夏油、あれ凄い傷ついたみたいでさ。今でもたまに魘されるらしいぞ」
二周目の硝子が続ける。
「呪霊大好き。呪霊玉は大好物ですって。ゲロ拭いた雑巾みたいな味するのにな」
「うわ」
「任務も絶対断らなくなった。どんなに怪我してても疲れてても。でも、灰原が呪霊に殺されたり、幼女の術師が非術師に虐待されてるのを保護したりした辺りで、矛盾する思いに耐えられなくなったんだと思う。動けなくなったり、泣いたりしてたのがちょっとおかしいなとは思ってたんだけど」
硝子は一度言葉を切った。
「夏油が思ってた以上に傷ついてるって気づいたときには、もう取り返しつかなくなってた。あっ だから七海も五条も夏油のこと気にしてやって。あいつ、自分で一度決めたルールにはどんなに嫌でも逆らえないとこあるから。必死に自分を騙してさ。呪霊玉を大好物とか無理あるっつーの」
一周目の硝子は、黙ってもう一人の自分を見た。
同じ顔をしている。同じ術式を持っている。同じ学校で、同じ二人と学生時代を過ごした。
なのに、違う。
二周目の自分は、欠損した手足すら治せる。五条が馬鹿をすれば止める。夏油が傷つけば話を聞く。二人が拗れれば間に入る。夏油はくだらないことまで「硝子ぉ」と泣きついて、五条も当然のように頼っている。
そして、十年前に離反してしまったこちらの夏油についてさえ、なんとかできないのかと言えた。
自分はどうだった。
自分は2人に何をしてやったのだろう。
羨ましいと思った。
羨む資格なんてないと思った。
ならここからだ。
十年は戻らない。全部が元通りになるとも思わない。
それでも、今から取り戻せるものがあるなら、取り戻したい。
だったら、死ぬ気でやるしかない。
「傑、ああ見えて繊細で不器用なんだよな」
一周目五条が呟いた。そうして夏油の傷となって夏油が芯に据えたのは、向こうでは五条で、こちらでは自分以外の誰かだったのだろう。
「つまり、五条さんのせいですか」
「そー。俺のせいなの」
七海の指摘に、二周目五条はあっさり認めた。
「そこまで傷つけといて、呪霊撲滅を密かに企むひでー男なの。これ傑には内緒な」
「クズじゃん」
「本当にクズですね」
一周目硝子と七海から同時に罵倒された。
「でも呪霊なくせるなら、なくしたいじゃん。傑を傷つけたくないのも本当だし、傑と意見違うからって傑を手放す気もないし、宿儺にも勝ちたいし、羂索も潰したい。全部取れる方法があるなら、全部取るよ」
「呪霊は消すけど、夏油を呪霊にする約束はきっちり履行する予定なんだろ」
二周目硝子が呆れて指摘する。
「は? なにそれ」
「傑が里香を呪霊にするのを見て、自分が死んだ時にそうしてくれって。後、死体の処分な。羂索に利用されるのは嫌だって」
自分とは真逆の結論だった。一周目五条は傑だけは絶対に呪わないと誓っていた。
一周目五条が衝撃に棒立ちになる横で、二周目五条と二周目家入はポンポンと言葉の応酬をする。
「ほんとクズ。そこまで約束するなら責任取ってやれよって言うんだけど」
「取る取る。だから呪霊にするんじゃん」
「野薔薇と婚約解消して夏油に指輪を持っていけ」
「そうなんだよなー。どうせ宿儺に独身で殺されるんだし、それでもよくねって俺も思う。でもあいつ、呪霊にしてって頼んでくるのに野薔薇と婚約破棄するって言ったら警戒して距離取ってくるんだよ……。まー野薔薇は結婚適齢期になる前に僕が死ぬからセーフでしょ」
二周目家入の軽口かと思われた言葉を、二周目五条は受け取ってまさかの返事である。確かにあれだけ仲が良ければそういう話にもなるような、でも自分達は親友で、そういうのじゃないから傑の気持ちもわかるし、え。逆に並行世界の僕はそういうことなの? 混乱する一周目五条。
「そうだな、夏油もクズだったわ。あいつも責任取るべき」
「そこは宿儺を倒して生き延びるとは言わないんですか」
両方クズだな、としみじみ結論を下す二周目家入に、七海は話題を変えるべく突っ込む。先輩方の恋愛事情に首なんて突っ込みたくない。
「宿儺倒した後地獄みてーに揉めるの確定してるから……」
二周目五条はそっと目を逸らした。七海はイラッとした。
「巻き込まれたくないんですね。最強が情けない」
「まあ、今のままじゃ取らぬ狸の皮算用だけどな。宿儺と羂索を倒さないと、そもそも日本が滅ぶかもだから。それを解決してからの話」
「それはそうですが」
七海と二周目五条は軽く言い合いを続ける。
一周目五条は、しばらくもう一人の自分を見た。
宿儺を倒す。羂索も倒す。
仲間も守る。傑も手放さない。
そのうえ呪霊までなくす道を捨てていない。
何一つ諦める気がないらしい。
「欲張り」
一周目五条は二周目五条の頬を引っ張った。無限は領域展延で突破した。
「いひゃい」
「ちょっとくらい寄越せ」
「何を」
「知らねー」
持てる者を羨む心を、今の一周目五条は理解していた。
そのときだった。
「里香ちゃん!」
乙骨の声が響く。
振り返れば、巨大な里香の腕が夏油へ振り抜かれるところだった。
「ちょ、憂太、それは――」
ドンッ!!!!
夏油が吹っ飛んだ。
「傑!?」
一周目五条が反射的に腰を浮かせる。
夏油は地面を何度も転がり、ようやく止まった。
静寂。
二人の硝子が、じっと夏油を見る。
「……怪我は?」
「してないな」
一周目硝子が冷静に判定した。
「乙骨」
「はい!? 大丈夫ですか、夏油さん!」
「油断するな。追撃だ」
「えっ」
乙骨が固まった。
「どっちかが怪我するまでやれ」
「家入さん!?」
七海がドン引きした。
「治療の練習にならないだろ」
「そうそう。憂太も反転術式覚えなきゃだし」
二人の家入硝子は真顔だった。
負けられない。負けたくない。
今から取り戻せるものがあるのなら、取り戻したい。
そのためなら、死ぬ気で努力する。
「乙骨、もっと本気でいけ。死ぬ気で努力しないと反転術式は習得できないぞ」
「努力する方向違くないですか!?」
乙骨の悲鳴が響く。
そして地面から起き上がった夏油。
「ぐっ 乙骨……完全顕現は禁止って言ったよね?」
「すみません!」
「次やったら寝とるから。私の術式は呪霊操術だし、呪霊のこと愛しちゃってるしね」
「は?」
乙骨が豹変した。
どうやら反転術式は存分に練習できそうである。