逆行したのにチートができない   作:タイムトリッパー

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生存戦略

「おばあちゃんって誰だ」

 

 泣きついた私を引き剥がしながら、甚爾さんが聞いてきた。

 説明しなくてはならない。

 このままでは私は将来、おばあちゃんに殺されるかもしれないのだ。

 

「禪院真希! 禪院家をぶっ潰した人で、フィジカルギフテッド! 私のおばあちゃん!」

「お前のおばあちゃんは違うぞ」

「今世じゃなくて!」

 

 違う違うと首を振る。

 

「私、未来から転生して来たの! 私は乙骨憂花。未来の十種影法術の使い手です!」

「ああ?」

 

 甚爾さんが露骨に胡散臭そうな顔をした。

 

 信じてない。

 

 そりゃそうだ。

 私だって、いきなり赤ちゃんに未来から来たと言われたら信じない。

 

「それなら、未来情報を言ってみろよ」

 

 甚爾さんが私の前にしゃがみ込み、目線を合わせた。

 

「私の誕生日は2070年の3月18日」

「相当未来だな。今は2005年だぞ」

「えっ、そんな昔!?」

 

 六十五年前!?

 思っていたより昔に来てしまった。

 

「禪院家は、その真希ってやつに潰されたのか」

「そう」

「いつだ」

「おばあちゃんの若い頃」

「いつだ」

「……わからない」

「何年だ」

「わからない……」

「何歳の時だ」

「わかんないよぉ……」

 

 そんな細かいこと、歴史の授業で習わない。

 

 禪院家は滅びました。

 おばあちゃんがやりました。

 

 それで十分だったのだ。

 

 甚爾さんの目がだんだん冷たくなってきた。

 

「お前の術式も十種なのか?」

「多分。まだ使えなくてわからないけど……伏黒恵って、私知ってる。私と同じ術式で、宿儺の器で、伝説の五条悟を殺した人」

 

 甚爾さんが、初めて興味深そうな顔をした。

 

「五条悟を?」

「うん」

「伏黒恵が?」

「うん」

 

 やっぱり有名人だから知っているらしい。

 甚爾さんは少し黙ってから、私の顔をじっと見た。

 

「お前が、その伏黒恵なんだよな」

「そうみたい」

「そんで、お前は未来で乙骨憂花だった」

「うん」

「で、伏黒恵になった」

「そう!」

 

 甚爾さんが眉間を揉んだ。

 何か難しいことを考えているらしい。

 私はそれどころではない。

 

「ねぇ、私、前世は病気で早死にしてるの」

 

 怖くなって、甚爾さんの服を掴んだ。

 

「今度は長生きしたい……。死にたくない……。おばあちゃんに殺されたくない!」

 

 せっかく生まれ変わったのだ。

 健康な身体かもしれない。

 今度こそ、大人になれるかもしれない。

 なのに一家皆殺しに巻き込まれて死ぬなんて嫌だ。

 甚爾さんは少しだけ黙った。

 

「禪院真希は、五条を殺したお前を殺したのか? フィジカルギフテッドが?」

「わかんない」

「なら、依頼するか?」

「依頼?」

「禪院真希を殺せって」

「おばあちゃんを殺しちゃダメェっ!!!」

「うるせ」

「説得してよぉぉぉ!」

「あー、わかったわかった」

 

 甚爾さんが耳を押さえた。

 

「お前は俺が守ってやる。だから泣くな」

「ほんと?」

「ああ。だから知ってる限りの未来を教えろ」

「わかった!」

 

 私は泣くのをやめた。

 こうして、未来を救うための重要な情報提供が始まった。

 ただし。

 

「五条悟は?」

「伝説の六眼!」

「何した」

「いっぱい!」

「具体的には」

「……すっごく強かった」

「宿儺は」

「すっごく強かった」

「禪院真希」

「すっごく強かった」

「お前、強かったしか知らねぇのか」

 

 失礼な。

 ちゃんと他にも知っている。

 私は一生懸命、覚えていることを話した。

 未来の呪術界のこと。

 五条家のこと。

 乙骨家のこと。

 禪院家がなくなっていること。

 知っている術師の名前も、覚えている限り教えた。

 私が何か言うたびに、甚爾さんは時々変な顔をした。

 特にマルのことを教えた時には、本当に変な顔をした。

 まあ、分かる。

 私だって初めて知った時は信じられなかった。

 だから甚爾さんが信じられなくても仕方ないと思う。

 

「で、お前らが逆行した原因は?」

「わからない」

「どうやって戻った」

「わからない……。死んだ後、何かを見ていて、手を引かれた……ような気がする」

「術式は?」

「わからない」

「誰が使った」

「わからない」

「何にもわからないんだな……」

「分かることもあるもん!」

 

 甚爾さんが深いため息をついた。

 

「あー……未来人なら、技術とかは?」

「技術?」

「六十五年先だろ。何か作れねぇのか」

「甚爾さんは携帯の仕組みとか知ってる?」

「……知らねぇな」

「私も知らない」

「それもそうだな」

 

 全く、無茶を言わないでほしい。

 未来人だからって、未来の機械を作れるわけではない。

 使い方なら分かる。

 作り方は知らない。

 

「でも流石に術式の使い方は分かるだろ。そこが救いだな」

「それが……五条家では禁術扱いされてて、ほとんど許可されてなかったから……」

「なんで五条家なんだよ」

 

 甚爾さんが眉を寄せたあと、すぐに何かに気づいた。

 

「ああ。禪院家が滅びたからか。乙骨って五条家の分家なのか?」

「違うよ。おじいちゃんの乙骨憂太が五条家の所縁の人だったんだって。五条家の当主代理なんだよ」

「ああ、あそこは六眼以外は当主代理だからな。今話を聞いてないって事は、横入りするほど有能なのが後から見つかったってことか」

「おじいちゃんはすっごく強いんだ! おじいちゃん大好き!」

「術式は」

「コピー!」

「そりゃ強いな」

 

 甚爾さんは考える。

 代価はいっぱい渡したはずだ。だからお願いを聞いてほしい。

 私は死にたくない。

 

「ま、禪院家にいると殺されるんなら、禪院家に売るのはやめてやるよ」

「ほんと!?」

 

 やった!

 これで一家皆殺しから逃げられる!

 ……ん?

 

「っていうか売るつもりだったんだ!?」

「十種が出たらな」

「ひどい!」

「高く売れるぞ」

「値段の問題じゃない!」

 

 なんて父親だ。失踪した父とどっちがマシか。

 おじいちゃんとは大違いだ。やはりおじいちゃんしか勝たん。

 しかし甚爾さんは私の抗議を無視して、何やら考え込んでいる。

 

「禪院家のフィジカルギフテッドが禪院家を潰した、か……」

 

 ぶつぶつと呟く。

 

「そんで、俺の娘が五条悟を殺した……」

「宿儺の器になってね」

「六眼持ちの無下限術師を十種持ちが殺す……」

 

 何だか楽しそうだ。

 私は怖い話をしているのに。

 

「甚爾さん?」

「まあ、面白い話を聞かせてもらったからな」

 

 甚爾さんは私の頭に手を置いた。

 

「任しとけ」

「おばあちゃん殺さない?」

「お前が嫌だっつうならな」

「説得してね?」

「会えたらな」

「絶対だよ!?」

 

 大丈夫かな。

 ちょっと不安だけど、甚爾さんはすごく強い。

 それは見ればわかるし、おばあちゃんと同じ術式だ、弱いわけがない。

 何より、守ってくれると言ってくれた。

 ならきっと大丈夫。

 今度こそ私は長生きするのだ。

 

 ◇

 

 その頃。

 

 別の場所でも、未来からやって来た人間が頭を抱えていた。

 

「悠仁! 悠仁は天才だな!」

「お爺さん、この子は天才です! 是非、東大を目指して――いや、この才能ならアメリカのギフテッド専門校も視野に入れるべきです!」

「お、俺は普通でいいかなぁ!?」

 

 虎杖悠仁。

 未来知識を隠し、呪術界にも怪しまれず、ごく普通の子供として成長する。

 その計画は、早くも危機に瀕していた。

 何しろ、中身はとんでもなく長生きした大人である。

 憂花と違って、長生きした分だけ知識も得ていた。

 受肉した相手に研究者がいたのもあり、子供とはかけ離れた知識があり、演技が苦手。

 本人は普通に振る舞っているつもりでも、周囲から見ればおかしい。

 

「アメリカか……」

「じいちゃん?」

「よし! 悠仁のためだ!」

「待って待って待って! 俺、日本が好きかなぁ!?」

 

 高校生になったら、みんなと合流する。

 その計画の大前提である「高校生になっても日本にいる」が危うくなっていた。

 

「じいちゃん、俺、地元の学校がいい!」

「遠慮するな、悠仁!」

「遠慮じゃないよ!?」

 

 高校生まで普通に生きる。

 それだけなのに、なぜこんなことになるのだろう。

 

 ◇

 

 そして、さらに別の場所では。

 

「この子は天才じゃあああああ!!」

 

 幼い少女が、大人達に囲まれていた。

 未来の知識を隠す。

 年齢相応に振る舞う。

 そんな発想は、彼女にはなかった。

 

「まぁね!」

 

 釘崎野薔薇は胸を張った。

 

「もっと褒めていいわよ! 野薔薇様を称えなさい!」

「おおおお!」

「野薔薇ちゃんはすごいねぇ!」

「当然よ!」

 

 三人は確かに、同じ時代へ戻ってきた。

 虎杖は、目立たないように筋トレを始め。

 憂花は、知っている未来を父親に洗いざらい喋り。

 野薔薇は、天才幼女として順調に周囲から持ち上げられていた。

 今度こそ、みんなで生き残る。

 三人とも目指すところは同じである。

 

 ただし。

 

 そのための第一歩が、三人ともまるで違う方向を向いていた。

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