本映像はFSSが製作・管理する映像資料です。無断での複製、転載、配信等は固く禁止されています。個人視聴以外の利用はご遠慮ください。
「MSの水陸両用化というのはね、ジオンが当たり前のようにやったから皆勘違いしているけど、おかしいことなんですよ」
キャリフォルニアベース、4番ドック
資源採掘用作業ポッドを調整する一室の片隅で、男性がインタビューを受ける。
「MSは超精密機械です。それを水中に入れて、しかも海水ですよ!! 潜水艦は精密機械を完全密閉しているわけで、稼働部分なんてほとんどない。でも、MSは関節部分が動いている訳です。コンピューター制御で姿勢制御をして、細かく動いている。どうやって水を防ぐのか。私たちはそこの研究から始めたんです」
AE社 元第三MS開発局室長 現在は 海洋機器事業部・水中機器開発課 主任技師
ハロルド・ベネット はこう振り返る。
「やってることがまずおかしい。言い出す奴もおかしい。でもやってる奴がいるからできないとは言えないわけです」
今思い出しても呆れるといった態度は、ジオンの技術者というよりも、当時の連邦軍海軍のお偉方に向けられている。
「MSの基本構造をご存じですか? フレームと装甲――あの時代の話ですがね。ジムもガンダムも、そしてザクもそうです。基本フレームを構成するパーツと仕様が、機体の運動性能を決める。そのフレームが耐えられるエンジン出力に合わせて装甲が決まり、腕部や関節部の限界を見極めて武装が決まる。これがMS設計の基本です」
ベネット氏はコーヒーを一口含み、取材班へ問いかけるように視線を向けた。
「じゃあ、なぜザクにできて、ジムは水中対応が難しかったのか。……ノウハウの蓄積の差ですよ」
「ノウハウの差、ですか」
「ジオンのザクは最初から宇宙空間での運用が前提でしたから、設計段階である程度の気密性が保たれていた。だから地上で水中に潜らせる際も、関節部にシーリング(防水処理)を施すだけで、とりあえずは形になったんです。もちろんジムも宇宙用として開発され、コックピットやメインコンピューター周辺はある程度の気密性がありましたよ。だがね……」
ベネット氏はため息をつき、首を振った。
「センサー類、関節の可動部、駆動部……問題だらけでした。いくら防水加工をし、シーリングを重ねても、既存の陸戦用フレームを使う限り必ずどこかから浸水する。無理に防水しようとすれば、関節部ごとに外付けの防水装甲を被せることになり、機体が一回り巨大化してしまう。ルナツーの宇宙用フレームを使えれば多少はマシだったかもしれませんが、キャリフォルニアにある訳もない」
「そうなると、次は重量問題ですか」
「その通り。重量オーバーです。陸上に出れば重くなった関節パーツが悲鳴を上げ、水中に入れば巨大化した装甲が水の抵抗を受けてまともに動かない。個体差も酷く、ある機体は潜水できたが、別の機体は水深数十メートルで関節から浸水してショート……なんて有様だ。これはその時期の資料です」
ベネット氏が提示したのは、後に「ジム・スループ」へと繋がる初期水中改修ジムの痛々しい実験データだった。
「推進システムはどうだったのですか?」
「それも頭の痛い問題でした。宇宙用の熱核ロケットエンジンは、水の中では使い物にならないんです。冷却装置としては水は最高だが、推進剤の噴射方式が決定的に噛み合わない。そこで浮上したのが、吸い込んだ水を取り込み、熱核反応炉の膨大な熱量で一気に加熱・沸騰させて吹き出す所謂『水流噴射(アクアジェット)型』への改造案です」
ベネット氏は資料のページをめくり、エンジンの構造図を示した。
「理論はシンプル。だが、問題は山積みというやつでね。最初は『水をつかむ』ことすらできない。宇宙空間の真空や陸上の空気と違い、水は粘度も密度も圧倒的に高い。従来の吸気口をそのまま使えば、水圧で流路が潰れるか、あるいはキャビテーション(気泡発生)を起こして推進力を完全に失ってしまう。おまけに、急激な加熱によってエンジンブロック内部に猛烈な水垢(スケール)や塩分が固着し、数回のテストで熱交換器が焼き付いて全損なんて憂き目にあいました」
肩をすくめて戯けてはいるが、目は全く笑っていない。
「想像してください。わずか数回のテストで、エンジンを丸々一個要請するんですよ。報告書、レポート、最後は始末書もいりました」
「水中の熱核ハイドロジェットへの移行は、単なるノズルの付け替えでは済まなかったわけですね」
「はい。既存の胸部ダクトを廃止し、水を円滑に取り込むための大型水中インテークを新設する必要があった。さらに、熱核反応炉の冷却ラインと推進用加熱ラインを完全に分離し、海水による腐食に耐えうるチタン・セラミック複合合金の熱交換ユニットをゼロから設計し直しました。推進器に関しても、従来のロケットノズルを撤去し、流体制御用の可動ベーンを備えた専用のアクアジェット・スラスターへと換装された」
ベネット氏は画面上のCADデータを指で拡大した。そこに映し出されていたのは、無骨なジムの胴体に無理やり取り付けられた、巨大な水中推進ユニットの初期案だった。
「こうして誕生したのが、水流噴射システム……つまりハイドロジェット推力偏向デバイスです。ただ、これを取り付けたことで機体のバランスはさらに崩れました。エンジンを水中用に最適化すればするほど、排熱と吸水量に見合った巨大なバックパックが必要になり、ただでさえ重かった陸戦フレームにさらなる過重がのしかかるんですよ」
「浸水対策と、水中用エンジンの搭載。その二重の苦難が、あの歪な初期改修機を生み出したのですね」
「その通り。失敗だらけの試行錯誤でした」
「まあ、ジオン側も似たような問題には直面したはずですよ。その証拠に、ジオン地上軍の水中主力はザクの改修型ではなく、ゴッグやズゴックといった『専用機』中心でしょう? 我々連邦側は、途中で『そこまで予算をかけて水中専用機を作る必要はない』と舵を切った。予算は削られ、プロジェクトは凍結。人数が減り、設備も型落ちし、開発は一向に進まなくなってしまった」
ベネット氏は自嘲気味に微笑んだ。
「だがジオンは違った。彼らはそのタイミングで莫大な予算を投じ、『水陸両用』という新しいコンセプトの専用機を作り上げたんです」
【インタビュー映像】【FSS音響・映像アーカイブ:0085-NA16】取材対象:アルブレヒト・マイヤー(元MIP社技術主任 / 現・AE社 設計局所属)
かつてMIP社でMSM-07S「ズゴック」の開発に携わり、戦後はAE社に身を寄せた元技術者、アルブレヒト・マイヤー氏はこう語る。
「当時のMIP社ですか? 正直言って『ここ(水中機)しかない』という背水の陣でしたよ」
マイヤー氏は苦笑いを浮かべ、当時の社内の雰囲気を回想する。
「なにしろ、MSの正式採用コンペでジオニックのザクとツィマッドのヅダが争うのを、ただ指をくわえて見ていることしかできなかったんですからね。だから『地球の7割を占める海洋で使用可能な兵器』という話が持ち上がった時、これだ!と飛びついたんです。我々はMA開発で気密性に長けた密閉構造のノウハウがあった。会社も手つかずの収益が見込めると海洋プラントを抑えてくれていました」
「しかし、開発は難航を極めた」
「全然ダメでしたよ。水流ジェットエンジンとジェネレーターの冷却システムがまったく物にならず、静音化も完全に失敗していた。だが、技術的な問題以上に我々を慌てさせたのは……ツィマッド社が同じ
マイヤー氏は身乗り出し、当時の焦りを語る。
「
「ゴッグを初めてご覧になった時のご感想は?」
「……『やられた』と思いましたね。メガ粒子砲を無理なく収めるために腹部を丸ごとジェネレーターと冷却系に充てた点、魚雷の発射機構、そして何よりあの重装甲と独特な腕部構造です。あれを見た瞬間、うちのズゴック計画は大改修……大規模な見直しが行われました」
マイヤー氏は自信に満ちた笑みを浮かべて頷いた。
「しかし結果として、その見直しは大正解でした。ゴッグの構造を徹底的に分析し、腕部構造を改良したからこそ、爪の先(アイアン・ネイル)の中央にビーム兵器を内蔵できたし、魚雷やフリージヤードを頭部に仕込むスペースが生まれた。何より運動性能の飛躍的な向上を図り、水冷式と空冷式を巧みに組み合わせたハイブリッド冷却システムという、今の形に落ち着いたんです。……自画自賛ですがね、ズゴックは『水陸両用』という視点で見れば、本当に完成された傑作機ですよ」