「カードゲームなんて興味なかったのに、いつの間にか夜の女王なんて呼ばれてるんだけど!?」   作:四大神が見てる

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第一話 夜の誘惑者(その3)

 

 

 

 

 

 

 

●ターン4巡目

 

プレイヤーA:ホスト

 

手札:2枚

 

ジェム:4

 

プレイヤーB:瑠璃

 

手札:3枚

 

ジェム:1

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい、これはこのターンで決まっちまうかもな。俺のターンドロー! 配給されるジェムは三つ、これで俺のジェムは合計7つ! 次のターンまで凌げば勝利条件は満たせるが……」

 

 そこでにたり、と男は好戦的な笑みを浮かべる。

 

「どうせなら、自分の手で勝利を掴むべきだよなあ……俺はコスト2を払って、“ローラー・ピエロ”をプレイする!」

 

 男の場に現れるのは、横倒しになった巨大な円柱の上にのったピエロのようなモンスター。玉のりの要領でローラーを転がすピエロが、不気味に笑いながら戦場に進み出る。

 

「バトル、ローラー・ピエロでマーシュを攻撃!」

 

 ゴロゴロゴロ、と転がるローラーが、小さな鼠の縫い包みを踏みつぶす。ブチュ、と鳴いて潰れる毛玉の塊……ローラーが通り過ぎた後には、破けた布の中から内臓のように真っ赤な綿が飛び出していた。

 

「マーシュを撃破した事で、ジェムを一つゲット!」

 

「あらあら。でもここで、マーシュの効果が発動しますわ。このモンスターが戦闘で倒された時、相手は手札を一枚選んで捨てなければなりません。どうぞ」

 

「ちっ、また手札除去タイプのモンスターか。まあ、この状況で手札を失ってもおしくはないな、捨てるのはこれだ」

 

 ぴっ、と再び手札がトラッシュに捨てられる。捨てられたカードは、コスト3のモンスターカード。この状況はオーバーキルにしかならない死に札、最後の無駄な足掻きだなと男は笑う。

 

「続けて、ジャグラー・ザ・フレイムヘッドでお嬢ちゃんにダイレクトアタック! こいつの攻撃ランクは4、これで終わりだ!」

 

「……ここで私の保険カードが発動します。“より破滅的な末路を”。コスト3以上のモンスターによるダイレクトアタックを受けた時に、その攻撃を無効化します」

 

 瑠璃の場の保険カードが発動し、ダイレクトアタックを無効化する。ちっ、と男は舌打ちをするが、すぐに冷静になって薄く笑った。

 

 今の男の所有ジェムは6。そして次のターン、配給されるジェムは4。そして場にはコスト3と1のモンスター。圧倒的に有利なのは男の方だ。

 

「まあいい、これで俺のターンは終了……」

 

「いえ、まだ終わっていませんよ。“より破滅的な末路を”の効果はまだあります。さらに攻撃を無効化されたプレイヤーは手札のカード一枚をトラッシュに送る事で、デッキのコスト5以上のモンスターを選択し、手札に加える事ができます。どうなさいますか?」

 

「どうするって……」

 

 男はしばし考える。

 

 妙な申し出だが、そう悪い取引ではない。瑠璃が動かなければこのまま黙っていても勝利できるし、もし次のターンで瑠璃が強力なモンスターを展開してきてダイレクトアタックを受け勝利が遠のいても、高ランクのモンスターが手元にあれば仕切り直しが出来る。

 

 次のターン、瑠璃が受ける配給は4、さらにコスト増加のイベントカードの効果も消える。エース級モンスターでひっくり返される事は十分にあり得る。

 

「いいぜ。俺はデッキからコスト6の“ジェノサイド・サーカス”を手札に加える。これで今度こそターン終了だ」

 

「ふふ。では、私のターン……ドロー。これでジェムを4つ配給され、私の手持ちジェムは5。私はコストを5払い、“パペットマスター・アムブエル”をプレイします」

 

「ここでコスト5のモンスターだと!?」

 

 驚愕しながらも内心やはりな、と納得するホスト風の男。初心者を装っていたが、やはり経験者だったかと納得する。であればこれまでの流れに納得がいく。

 

「毒婦め」

 

「うふふふ。誉め言葉ですわ」

 

 袖で口元を隠し、目を細めて笑う瑠璃。彼女の前に、黒い煙が渦巻き、その中から一体のモンスターが姿を現す。

 

 それは無数の少女型マネキンを繋ぎ合わせたような、醜悪な見た目のモンスターだった。関節の数や長さも不揃いな無数の腕に、つぎはぎだらけの胴体や顔。頭に被せたウィッグは半ばずり落ちていて、露になったスキンヘッドは罅割れ、中から腐った臓物のようなものが覗いている。

 

 カタカタ関節を慣らしながら動き出す、パペットマスター・アムブエル。『人形の支配者』と銘打ちながらも、このモンスターもまた何かに操られている存在に過ぎない。そしてそれが誰であるかなど、言うまでもない。

 

 怪物の落とす影の下で目を怪しく輝かせる瑠璃に、男は舌打ちを零した。

 

「……ちっ、だがここで俺の保険カードが発動するぜ! “巨獣の軋み”! 召喚されたコスト3以上のモンスターはこのターン攻撃できなくなる!」

 

「ふふふふ。残念。保険を発動するのは結構ですが……残念ながら、アムブエル自身は攻撃できないモンスターですの。その保険カードは無意味ですわ」

 

「なんだと!?」

 

 驚愕する男だが、もはや後の祭り。そもそも保険カードは発動条件を満たせば自動発動である、男の意思では止められない。

 

「では、アムブエルの効果処理に入りましょう。このカードが手札からプレイされた時、トラッシュからパペットドールと名のつくモンスターを二体、特殊召喚できます。私はトラッシュの“パペットドール ワルグチのプーゴ”、“ウソツキのマーシュ”を特殊召喚。そして、プーゴの効果は……」

 

「トラッシュからのリアニメイト効果……!」

 

「そういう事ですね。私はプーゴの効果で、“ビビリのラ・クーン”を特殊召喚します」

 

 場に再び現れた豚の縫い包みが腹を割くと、その中から出てくるのは頭に葉っぱを乗せた狸のパペット。色濃い隈の浮かんだような顔で周囲を見渡すと、ラ・クーンは怯えるように頭を抱えて縮こまった。

 

 一瞬にして、瑠璃の場に四体のモンスターが並ぶ。想定外の展開に驚きつつも、男は内心安堵していた。

 

 確かに数は圧倒的にあちらが優勢だが、ステータスはどれも大したことはない。この1ターンで逆転する事は不可能……そう彼は考えた。

 

「ラクーンの効果発動。このカードがプレイされた時、相手の場のモンスターと手札を一枚ずつ選択。選択された手札がモンスターカードであった場合、手札と場のモンスターを入れ替える事が出来ます。私はローラー・ピエロと貴方の残り一枚の手札……そう、“ジェノサイド・サーカス”を選択します」

 

「な????」

 

 ただでさえ不利な状況を、自分からさらに不利にしていくようにしか見えない行動に目を見開く男。混乱している間にモンスターの入れ替えが行われ、男の場に彼の切り札モンスターが召喚される。

 

 ラ・クーンが頭に乗った葉っぱを投げつけると、ひらひらと宙を舞ったそれがローラー・ピエロの頭に張り付き、ぼふんと煙でその姿を包み込む。その煙の中から、一際巨大なシルエットがのっそりと戦場に姿を現す。

 

 巨大なピエロの仮面から、無数の手足が突き出した不気味なモンスター。それぞれの手には、血にまみれた殺人遊具が振り回されている。

 

 高いステータスに加え、自分の場のピエロモンスターの数だけ攻撃できる男のデッキの最強モンスター“ジェノサイド・サーカス”。しかしモンスター自身も思わぬ流れで呼び出され、困惑しているように身をよじらせた。

 

「何のつもりだ……?!」

 

「ふふふ、すぐにわかりますわ。……バトル! アムブエルの効果により、私の場のパペットドールは、全てステータスが上昇しています」

 

「だとしても俺のジェノサイド・サーカスには勝てないぞ!?」

 

 ステータス強化といっても、基本的にパペットドールはステータスが低い。せいぜい、同コストの相手と相打ちになれるぐらいだ。それではいくらなんでも、コスト6のジェノサイド・サーカスは突破できない。

 

 困惑する男に追い打ちをかけるように、瑠璃は信じられない行動に出た。

 

「それでは、マーシュで“ジェノサイド・サーカス”に攻撃しますわ」

 

「?!」

 

 どう考えても単なる自爆。その真意は……。

 

「教えてあげましょう。マーシュはトラッシュから場に召喚された時、どんな相手でも倒す“バニッシュメント”を得ますわ。言ったでしょう? 窮鼠猫を噛む、と」

 

「な……しまった!?」

 

 巨大な殺人機構の体を駆け上った鼠のパペットが、その鋭い牙を突き立てる。

 

 ビルの谷間に落雷が轟き、鼠とピエロに降り注ぐ。炎上する巨体が、力無くぐしゃりと崩れ落ちた。

 

 バニッシュメント効果を持つモンスターは、戦闘した相手との戦闘に必ず勝利する。代わりに、戦闘後自分はトラッシュに送られる。戦闘に負けた訳ではないので、相手にジェムは渡らない。

 

 最弱の駒が、最強の駒を打ち倒す。窮鼠猫を噛む、まさにその言葉通りの展開であった。

 

「ふふ……これで、私は6ジェムゲット、ですね」

 

「て、てめえ……最初から、これを狙って……!?」

 

「ええ、ええ。だって言ったでしょう、“より破滅的な末路を”って」

 

 くすくすと笑う瑠璃。

 

 その笑みは明らかに年不相応な、それこそ何人もの男を弄び破滅に陥れてきた遊女が、無謀で愚鈍な犠牲者を哀れむような、蠱惑的な嘲笑であった。

 

「そしてさらに、プーゴでジャグラー・ザ・フレイムヘッドに攻撃。ふふ、さっきは一方的にやられてしまいましたけど、今度はどうかしら?」

 

「う……!」

 

 手足に人形遣いの糸を繋がれたプーゴが、どたばたと鋏を手に突撃する。再びぶつかり合う二体のモンスター。だが先ほどは一方的に終わった戦いは、今度は拮抗している。そしてプーゴの鋏がジャグラーの胴体を断ち切ると同時に、髑髏爆弾がプーゴの裂けた腹の中に叩き込まれた。

 

 相打ち。

 

 血を吹き出し、爆発して消え去る二体のモンスター。それぞれのジェムが、対戦相手の元へ送られる。

 

「うふふ。これで、お互いに所有ジェムは9つ。リーチ、という訳ですね。でも……」

 

『ケケケケ……』

 

 のそり、と痩せぎすの狐が動き出す。カタカタと不気味に揺れるその視線が、男を捕らえた。

 

「最後の一つ、頂きますわ。フォッコで、貴方にダイレクトトレジャー」

 

『ケケケー!』

 

「う、うわああ!?」

 

 思わず悲鳴を上げて腕で顔を庇う男に、ビョヨヨン、とバネで体から飛び出した狐の顔が襲い掛かる。ペチン、と軽く音を立てて打たれた男の体から、カラン、とジェムが一つ転がり落ちた。

 

 それが瑠璃の場へと吸い込まれていく。

 

「はい。これでジェム10個、私の勝ちでしたね。お疲れ様でした」

 

 

 

 

 

●GAME SET

 

 

 

●WIINER:RURI AOSAKA!!

 

 

 

 

 

「ああ、くそ、負けたー……」

 

 路地裏に座り込んで、男は空を仰いで一しきり愚痴った。その視線の先、試合が終わってドローンがふよふよ飛び去ってゆき、街の夜空に消えていく。

 

「なーにが手取り足取りだよ、どう見ても初心者じゃねーじゃん。騙しやがったな」

 

「ふふふ。それはそう。この時間に、こんな場所を歩いて、さらにトレーダーを持ちかけてくる女が、本当にズブの素人である方がむしろおかしくはなくって?」

 

「そりゃー、そうだけどさー……くっそぅ。これでしばらく笑い物だぜ……」

 

 不貞腐れたようにあぐらをかいたまま頬杖を突く男の横に、瑠璃が静かに歩み寄る。

 

「それでは。私が勝ちましたので、ご褒美を頂きますね」

 

「え……お?」

 

 そして。

 

 屈みこむようにして、男の頬に口づけを落とした。

 

「……へへ、なんだよ、お嬢ちゃんも物好き、だ、な……?」

 

 柔らかい接吻に、最初は照れ笑いを浮かべていたホスト風の男。

 

 だがすぐにその表情が困惑に、ついで憔悴したそれに代わる。

 

 化粧水や乳液で整えた男の肌。それが見る間に色あせ、パサついていき……健康的な黄色い肌が、まるで蝋燭のように白く青ざめていく。みるみる肉も落ち、またたくまに一週間近い絶食を早回しにしているように、男の体がやせ衰えていく。

 

「や……め……」

 

 すがるように少女の手に骨のような指を重ねて引きはがそうとするが、もはやその力もない。ついには黒い髪の毛も白く変色し、男はすっかり何十年も年を取った干乾びた老人のようになっていた。

 

 辛うじて息はあるようだが……。

 

「けっぷ」

 

 そこでようやく、少女が口づけをやめる。

 

 彼女は袖で口元を拭いながら、カピカピに干乾びた男を見下ろして、一言。

 

「ご馳走様でした」

 

 それだけを言い残し、巨大な縫い包みを片手に、路地の奥、街の闇の中へスキップするような足取りで消えていく少女。

 

 あとには、倒れ込む男だけが残される。

 

 遠くから、戻ってこない男を心配する仲間の声が聞こえてきていた。

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 

「……ふわあ」

 

 朝。

 

 私はいつになく快調な気分で目を覚ました。

 

 低血圧気味の彼女は毎朝目覚まし時計と格闘するのが常なのに、この日に限っては随分と好調な目覚め。

 

 枕元の、ボコボコに凹んだ目覚まし時計を見下ろすと、まだいつもの起床時間まで10分もある。

 

 私は首を傾げつつ、カーテンを開いて朝日を浴びた。

 

「きゃっ」

 

 いつになく眩く感じられる朝日に小さく声が出る。

 

 見れば、今日は朝から実に快晴、絶好のジョギング日和だ。

 

「……学校の前に、ひとっぱしりいってこよう」

 

 その陽気に連れられて、瑠璃は寝間着代わりのタンクトップを乱暴に脱ぎ捨てながらクローゼットに向かう。その途中、机の上で何かが朝日を受けてキラリと輝いて、思わず足を止める。

 

「あ……」

 

 手に取って、それを光にかざす。

 

 先日拾ったレアカード。結局持ち主が見つからず家に持って帰ったのだが、これを手にしてから随分と体の調子がいい日が続いている気がする。

 

「もしかしてお前、幸運のレアカードなのかもね」

 

 小さく笑って、私はカードを優しく小突くと机の上に戻した。

 

「さーて、軽く20分走ってきますかー」

 

 ランニングウェアに着替えて、ゴムバンドで髪を縛りつつ部屋を出ていく。

 

 扉に手をかけて、ふと振り返ると机の上に残されたカードは朝日を浴びながらキラキラ、闇のように煌めいていた。

 

 『魅惑の盟主 スーラシィヤ』。

 

 そう銘打たれたそのカードに描かれた少女は、見る者を誘うような笑みを浮かべている……。

 

「じゃ。行ってくるね」

 

 バタン。

 

 

 

 






《今回の最強カード》



●“ビビリのラ・クーン”



召喚コスト:2

攻撃ランク:1

ステータス:1

効果:このカードがプレイされた時、相手の場のモンスターと手札を一枚ずつ選択。選択された手札がモンスターカードであった場合、選択した手札と場のモンスターを入れ替える事が出来る。

所有カテゴリ:獣、パペットドール、モンスター



解説:パペットドールの内の一体。相手モンスターを手札と場で入れ替える効果を持っている。2コストでありながらランク、ステータスともに1とモンスター最弱を争うステータスに、不確定な上に成功しても多くの場合相手に利するだけの効果と、一見すると非常に使いづらい。しかし、他のカードとコンボする事で、大きく局面を動かす事が出来る。相手のエースモンスターを手札の弱小モンスターと入れ替えたり、逆に弱小モンスターを敢えて大型モンスターに入れ替えた上で撃破しジェムを稼ぐなど、その可能性は無限大。また失敗しても相手の手札の確認はできるので、実際の所完全に無駄打ちにはならない能力でもある。パペットドールには相手の手札を捨てさせる効果もあるので、上手く組み合わせて使っていこう。


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