「カードゲームなんて興味なかったのに、いつの間にか夜の女王なんて呼ばれてるんだけど!?」 作:四大神が見てる
「おはよー」
「おっはよー、なんだか調子よさそうだね」
「えへへ、そう? 実はそうなんだ、今日はいい日になりそう!」
朝の校門前。制服に身を通した生徒たちが、互いに挨拶を交わしている。私も知った顔に軽く挨拶すると、真っすぐ玄関に向かう。
私の通う私立函庭学園。進学校ではあるけども気風の明るいこの学校では、“社会にとって有用な人材を送り出す”をモットーに勉強ばかりではなく社会勉強に力を入れている。普通の高校では禁止されているバイトも条件付きでむしろ推奨しており、勉学だけでなく社会勉強も重視しているのが特徴だ。
そのせいか、この学校の生徒はやたらと活動的で……はっきりいうと、変な人が多い。
凡人の中の凡人である私からすると、少しばかりやり辛い時もある。
「青坂瑠璃さん!」
「うげ」
そんな訳で、下駄箱を潜った所で見知った顔と声を目の当たりにした私は、相手にも伝わるように露骨に顔を顰めてうめき声を上げた。
空気読んで帰ってください。頼むから。
しかしそんな気持ちは微塵も通じず、私より頭一つ背の低い眼鏡の三つ編み女子生徒はギラン! と眼鏡を輝かせて私に歩み寄ってくる。
「おはようございます! 今日こそ貴女にカード部に入ってもらうわよ!」
「先輩、その話はずっとお断りしてるじゃないですかあー」
突然はじまったやりとりに、周囲からは奇異の視線が……注がれたのも一瞬の事、面子を確認した同級生達は「またか」「ほっとこほっとこ」と言わんばかりに興味を失って歩き去っていく。
そう、ここ最近の風物詩ではあるのだ。
この2年生のカード部部長、石垣梢先輩が、私をカード部に勧誘するのは。
カード部。
普通であれば、蝶よ花よと持て囃される花形部活である。当然のように全国大会は勿論、頻繁に市内、県内大会が行われており、そこで好成績を残せば将来の就職も安泰。他の高校であれば、常に部員は定員いっぱい、空き枠を待つほどの人気部活である。
しかし、ここ私立函庭学園ではちょっと事情が違う。
まあ具体的に言うと……やらかしたのである。前任のカード部部員がひそかにカードの転売に手を出していた事が発覚し、部そのものが御取壊しになったのが五年前。今のカード部は目の前の石垣先輩の請願によって復活したのだが、一度ついた悪名は消えず今も部員集めに苦労しているらしい。
そして何故か、彼女は私に目をつけてこうしてしつこく勧誘してくるのである。
一体何で。
言っておくが、私はカードは持っているけどさほど強くはないし、ましてやカード部なんてもっての他である。他にもっと適任者はいるはずだ。
「お言葉ですけど、先輩。私はただ体を動かすのが好きなだけの凡人で、先輩が期待しているようなスーパープレイヤーじゃないんですってば。他を当たってください」
「いいえ、貴女からは稀有な才能の臭いがするの! 間違いないわ、そこにあると分かっている埋蔵品を掘り出さずにいるなんて愚の骨頂! 私達と一緒に、眠れる才能を掘り起こしましょう!」
「だからそんなのありませんってばあー!」
聞く耳持たずとはこの事である。小さい体に謎の威圧感を漲らせてにじり寄ってくる先輩、有無を言わせぬ圧力に私はたじたじである。
だが、時間は私の味方である。
ちょうどそのタイミングで、始業前を告げるチャイムが学園に響き渡った。
「あ、チャイムだ。じゃあ、そういう事なので先輩、その話はまた今度で……」
「むう、仕方ありませんね。この話はまたお昼に!」
「頼むから来ないでください!」
潔いのか諦めが悪いのか、チャイムに即座に撤収しながらも再来を約束してくる先輩に私は思わず怒鳴り返した。
◆◆
「あーもう、本当しつこいんだから……」
「あははは……」
正午のランチタイム。
学友と共に私は食堂できつねうどんを啜っていた。クラスの女子の大半はサンドイッチとかお洒落なものを食べていたが、私はちょっと胃腸が弱いので冷たい物を飲むとお腹を壊すし、体を動かすのでそんなんじゃ足りないのだ。そういう意味では、暖かくて消化によくて腹もちがいいうどんはとても助かる。
まあそれは私の事情であって、目の前の学友は、持参したサンドイッチをはもはも小さく食べている。ずるずるうどんを啜りながらの私の愚痴が肴とあっては、ちょっとその味も半減かもしれないけど。ごめんね、でも誰かに聞いてほしかったの。
「でもそんなに熱心に勧誘してくるなら、ちょっとお話だけでも聞いてみてあげたら?」
「えー? 少しでも頷いたらそのまま名簿にサインされそうな勢いだよアレ」
「逆に私は瑠璃ちゃんがどうしてそんなに嫌なのかが不思議だなあ……。そりゃあ、ウチの学校のカード部は曰くありげだけど、石垣先輩は至ってまっとうな人じゃない?」
のほほん、とした顔で学友が可愛らしく小首をかしげる。
「カードに強くて悪い事はないと思うよ? 私なんかあんまりにも弱くて、昔近所の男の子たちにいっつも泣かされてねえ……」
「私だって強くはないし、そもそも興味があんまりないの。ガマグチデバイスだって、便利だから持ってるだけだし」
「瑠璃ちゃんって独自の空気で生きてるよねー……」
私に言わせれば何から何までカードで決めてる社会が何かおかしいの。まあ、おかげでもめ事がスムーズに解決できるけど、逆に言えばカードに強ければやりたい放題じゃない。
先日だって、スーパーの特売の最後の品をかけて主婦が勝負してたっけ。正直、私としてはげんなりする光景だったのだけれども。
「そうかなー。逆に言えばカードに強ければ得する訳でしょ? 先輩から才能がある、ってせっかく誘われてるんだし、それが本当か確かめてみるだけでもいいんじゃないかなあ……」
「いいのよ私は、別に。それじゃはい、ご馳走様。私はしばらく時間一杯まで姿を消すわ、襲撃予告されてるから」
「そっかー。お大事に~」
席を立ち、流し場にお皿をシュゥ!
さて、と。
階段の踊り場かどっかに潜んで、時間を潰そうかしら、ね。
「あ、先輩。瑠璃ちゃん、食堂を出ていきましたよ。どこにいったか? えーと、新校舎の階段の一番上の踊り場じゃないかなあ、屋上に繋がる扉のある。いつも瑠璃ちゃんあそこで暇をつぶしてるから……はい。いいえ、お安い御用です~」
「見つけたわよ青坂瑠璃さん!」
「うげ」
他に誰も居ない憩いの場で寛いでいた私。しかしその安息は長くは続かず、踏み込んできた先輩に私は扉の前に追いつめられていた。
「今日こそお話聴いてもらいます!」
「い、いやだから私はいいんですってば……」
扉は施錠していて開かない。目の前には鼻息荒く眼鏡を輝かせる先輩。まさに逃げ場無し。
「何度もいってますけど、私はカードに興味ないんですって……」
「いいえ! そんな事はないわ……私は知っていますよ! 最近、瑠璃さんがレアカードを手に入れたという事を!」
「ゲゲゲゲ」
何でそれを知っているのか。
レアカード、心当たりは勿論ありまくり。
『魅惑の盟主 スーラシィヤ』。
道端に落ちていたのを拾った、箔押しのカード。売ったら何万になるのか分からないほどのレアカード。それだけに、誰かに見せびらかしたりしてないし、お店に鑑定にいったりもしていない。
なのにどうして先輩が知っているの?!
「ど、どうしてそれを……」
「それは勿論、私がカード部部長だからです! この学校において、私の知らないカード事情なんて無いのです!」
「ゲゲェー」
あ、新手の妖怪か何かですかこの人!?
私が慄いていると、胸を張ってふんぞり返っていた部長が、ちょっと肩の力を抜いてはにかみ笑いをした。
「……なんて、そんな訳ないじゃないですか。青坂さん、迂闊ですよ。ガマグチデバイスの設定はちゃんとしないと」
「へ?」
「ガマグチデバイスには自動的にデッキの情報が共有されます。そんでもって、特に指定してない場合、その人の持つ最大のレアカード情報は公開情報として共有されているんです。ある種の盗難対策ですね、然るべき手続きを経ずにカード資産が移動していた場合、カードポリスが対応する事になっているので。本当に何も知らないんですねえ」
しみじみと部長に説明されて、私は顔を赤くしたり青くしたり。
「し、知らなかった……」
「と、いう訳ですので。トラブル回避の意味合いでも、カード部に入るのは悪い事じゃないと思いますわ! そのカードを今すぐ売り払うとしても、手続きは必要ですしね」
「う……」
私は先輩に指摘されて、ポケットからデッキケースと、問題のレアカードを取り出して小さくため息をついた。
幸運のお守りみたいに思っていたが、とんだ疫病神でもあったらしい。
まあ、幸と不幸を交互にもってくるというなら、らしいといえばらしいが。どう見てもこのイラスト、善玉には見えないもんね。
『あら、失礼しちゃうわ』
「うー……でもなあ。それなら教えてくれればそれで……」
「んもう、往生際が悪いのですから。それでは、こうしましょう。今から私とゲームをしましょう! それで貴女が勝てば入部、私が勝てば今回は諦めますわ! どうかしら?」
「それ普通ギャクじゃないです!?」
思わず反射的に突っ込みを入れながらも、私は部長の真意がなんとなくわかったつもりでいた。
つまりは、実際に勝負してみて、その気になったら入部してくれ、という事だろう。まあ確かに、結構長い事ゲームはやってなかったし……久しぶりにやったら、気も変わるかもしれない。実際、カードの知識が不足しているのは事実だし……。
それに最近は体の調子がいいしね。
「もう、わかった、わかりました。一試合だけなら、お相手しますよ。それで先輩の気が済むならね」
「やった、嬉しいわ、その気になってくれて!」
「まだ気が早いですよ」
苦笑しながら、私は取り出したガマグチデバイスを先輩のそれとあわせて、試合の申請を行った。
「「レッツ・トレーダー!」」