「カードゲームなんて興味なかったのに、いつの間にか夜の女王なんて呼ばれてるんだけど!?」 作:四大神が見てる
●ターン4巡目
プレイヤーA:石垣
手札:2枚
ジェム:2
プレイヤーB:瑠璃
手札:2枚
ジェム:3
「くっ、私のターン……」
自分のターンが回ってきた先輩が、デッキに手を伸ばしたところで固まる。
額に汗なんて滲ませちゃって。ドローするか、ジェムを増やすか、そのどちらにするかで随分悩んでいるご様子。
うーん。本当なら考えがまとまるまで待ってあげたい所だけどー。
「先輩ー? 早く決めないと昼休憩終わっちゃいますよ」
「わ、わかってるわよ……」
そういう事。あと残り時間は移動を考えたら10分もない。悩むぐらいならさっさと決めて欲しいんだけどな。
しかし、ここでドローに悩むあたり、あの手札にあるカードは切り札か何かかな?
「……っ、私はドローを放棄し、ジェムを追加します。これで、私のジェムは合計6つ! このジェムを全て使い、“朽ち行くフォートレス・ゴーレム”をプレイします!」
先輩の場に光が渦巻き、その中から巨大なシルエットが実体化する。現れたのは、短い足に真ん丸な胴体、太くて長い腕とどことなくハニワを思わせる石造りの巨大ゴーレム。だけどその体表には苔が生い茂り、罅割れ、所々積み上げた石が抜けて空洞が覗いており、今にも崩れ落ちそうだった。
強そうだけど、脆そう。
「これが私のデッキの切り札よ! 朽ち行くフォートレス・ゴーレムはコントローラーの手札が1枚以下でなければ攻撃できない! また、コントローラーの手札が3枚以上ある場合、ターン終了時に、自分の場のモンスターを全て破壊するデメリットもあるわ。一見、ただのデメリットモンスターだけど……瑠璃さん、貴女にはこの意味が分かるわね?」
「なーるほど。トータスデッキビルドの切り札らしいカードですね」
場にモンスターを並べて守りを固めてもそれで勝てる訳ではない。相手を出し抜くには、支払ったジェムをどこかで回収する事が必要だ。
“朽ち行くフォートレス・ゴーレム”はその為の最後の起爆剤。フォートレス・ゴーレムの自爆は、破壊したモンスターのジェムを回収できないとは書かれていない。
すなわち、自身のコスト6に加え、場のモンスターの合計コストが4以上なら効果発動した瞬間に勝負が決まるのだ。
散々、守りにてこずらされた挙句に株売却で勝負を持っていかれるとなれば、対戦相手はたまったものではないだろう。だが……。
「なるほど。フォートレス・ゴーレムでこの場を凌ぎ、次のターン移行から増えるジェムと合わせて勝利を狙ったんですね。……でも、今の先輩の手札は何枚でしたっけ?」
「く……」
そう。私が散々手札破壊をしたせいで、今の先輩の手札は1。これでは自爆の条件を満たすまで、まるまる2ターンもかかる。その間、私にフォートレス・ゴーレムを破壊されないかどうか、先輩が悩んでいたのはそのあたりかな。
そして、最終的には勝負に出たという訳だ。思ったよりも博打好きだったか。
「……ふ、考えようによっては悪くないわ。守り切れないなら、殴り倒せばいいのよ! バトル、フォートレス・ゴーレムでプーゴに攻撃!!」
ビコーン、とゴーレムの目らしきくぼみが光り輝き、ずごごごご、と巨体が動き出す。天井に頭を打ちそうな巨体が、バトルフィールドに影を落とす。
その影が、豚の縫い包みをすっぽりと包み込んだ。
「ゴーレム・ブレイクダウン!」
先輩の掛け声とともに、フォートレス・ゴーレムの腕がバラバラと砕けた。降り注ぐ大量の瓦礫に、プーゴの姿が押しつぶされて消えていく。
「“ワルグチのプーゴ”撃破、これで3ジェムゲット。私のターンは終了よ!」
「では私のターンですね。カードをドロー、そしてジェムを三つ頂きます。これで、私も手持ちのジェムは六つですね」
「ふふん、貴女も大型モンスターをプレイできるだけのジェムが揃ったわね。だけど、そう易々とフォートレス・ゴーレムを倒せると思わないことね!」
あらあら先輩、強がっちゃって。内心、プーゴのようなリアニメイトモンスターでマーシュを再び呼び出されたら、と思ってガクブルしているくせに。
まあでも実際、実質デメリットアタッカーだけあってフォートレス・ゴーレムのステータスはかなりのものだ。並大抵の大型モンスター程度では殴り倒す事はできそうにない。
まあでも。
このゲームの勝利条件はジェムを得る事。相手モンスターを倒す事じゃないし、ね。
「では私はコスト6を支払い……“パペットマスター・バービエル”をプレイします!」
『ウフフフフ……』
私の場に黒い霧が立ち込め、怪しげな笑い声と共にその中から黒いマントを羽織った何かが現れる。それがばさり、とマントを翻すと、そこから姿を現すのは逆さに吊られた仮面の人形遣い。
響き渡る哄笑に、目に見えて先輩が顔を青ざめさせる。もう、この子のチャーミングポイントなのに。
「な……何……そのモンスター……」
「パペットマスター・バービエルはコスト1ですけど、私のトラッシュにあるパペットドールの数だけ、追加コストを支払う事が出来ます。私のトラッシュで眠っているパペットドールは全部で5体。つまり最大で6コスト払えるという訳です」
「まさか……途中で手札を何枚も捨てていたのはこのための布石……?! でも、コストを増やして、一体何の意味が……」
そりゃあ勿論、大事な意味がありますよ。
「バービエルの効果。召喚時に支払ったジェムの数以下のコストを持つ相手モンスター一体のコントロールを奪う!」
「えっ」
キヒヒヒ、と笑いながらバービエルの手から伸びた糸が、フォートレス・ゴーレムに絡みつく。手足を繰られたゴーレムは、ぎこちない動きで私の場に移動した。その目は、不気味に赤く明滅している。
「そ、そんな、私のフォートレス・ゴーレムが!!」
「安心してください。バービエルの効果でコントロールを奪ったモンスターは、バトルに参加できず、効果を無効化され、イベントの対象にも出来ず、何らかのコストとして場を離れる事もできない。ですが……」
にたり。
「デメリットは、別です。デメリットは無効化できませんからね」
「……っ!」
『キィヒヒヒヒッ!』
私の場で、ゴーレムを操るバービエルが仮面の下から引き攣った笑いを浮かべる。
そう、このパペットマスターの能力はコントロール奪取。
相手のモンスターを奪い、無力な傀儡として晒し者にし、嘲弄する傀儡師。それが、パペットマスター・バービエルなのである。
「それでは、私のターンは終了です。ふふ」
●ターン5巡目
プレイヤーA:石垣
手札:1枚
ジェム:3
プレイヤーB:瑠璃
手札:2枚
ジェム:0
「わ、私の、ターン……ドロー……」
「このターン、先輩の場に配給されるジェムは4つですね。合計7、それだけあれば、何とかできるんじゃないですか? その、デッキトップのカード次第では」
震える手でデッキに手を伸ばす先輩に、私はにこにこしながら語り掛ける。
もちろん、そんなはずがないのは分かっている。先輩のデッキはトータスビルド、守りを固め、自らの資産を高める事で勝利を目指すデッキだ。この流れを一変、大逆転、なんてカードが入っているタイプではない。
それでも一抹の可能性はある。デッキの可能性は無限大、私は先輩の奇跡を願って、心からの声援を惜しまないのである。
震える手で、先輩が手にしたカードを確認する。
「どうですか? どうですか? この状況を一変させるカード、引けましたか? この状況だって盤石じゃないです、除去系のイベントがあったらゴーレムを排除して延命できるかもしれませんね。その手のカードは相手モンスターを破壊してもジェムが得られませんが、背に腹は変えられませんからね」
「…………」
「あれえ、どうしました、先輩? 除去カードは引けなかったのかな? それとも、もしかしてアタッカーを引いたのかな? 先輩のデッキ、トータスビルドだけど攻め手もちょっと入ってますよね、中途半端に! あははは」
先輩は眼鏡の下から私を見て、そして手元のカードに再び視線を戻し、そして最後に小さく俯いた。
「……ターン、終了、です……」
「それでは私のターン、ドロー! ジェムも四つゲットですね!」
シャキーン、とデッキからカードを引くが、まあぶっちゃけこれが何でも関係ないし見る必要はない。それよりも、このカードで私の手札が三枚になったという事の方が大切だ。
「それでは、はい。私は何もせずにターン終了。……ではでは、皆さま、ごきげんよう」
三枚の手札を抱えたまま、大仰に頭を下げる。お辞儀する私の前で、ガタガタとフォートレス・ゴーレムが震えだし……内部から、ボン、ボボン、と爆発し始めた。崩れ行く要塞の崩壊に巻き込まれて、パペットマスターも押しつぶされて炎に消える。私の場が爆発と炎に彩られる中、要塞に隠されていた財宝がジャラジャラと転がり出た。
私の手持ちのジェムは四つ、破壊されたパペットマスター・バービエルは本来のコスト1、そしてフォートレス・ゴーレムの今のコントローラーは私なので6つのジェムも私のもの。
すなわち……。
「ジェムを10個ゲットしました。これにてゲーム終了です」
●GAME SET
●WIINER:RURI AOSAKA!!
勝敗を告げるブザーが鳴り響き、先輩がガクン、と膝をつく。
私は消えていくモンスター達の姿を見送って、ふぅ、と息を吐いた。
「あれ……」
そしてはたと我に返る。
なんか……勝っちゃった? それもカード部の部長に?
いや、それよりも……わ、わた、私……なんかこう、すごく失礼な態度、取ってなかった?!
「は、はわ、はわわわ……」
先輩に目を向けると、彼女は廊下に手をついて這いつくばり、ぷるぷると肩を震わせている。それだけじゃなく、何やら燃えるようなオーラが……。
な……なんかものすごくお怒りになっておられるぅー!!
「せ、先輩、その、えーと、ですね。ゲーム中の発言はその……調子に乗っちゃったというか……」
「…………」
「ひ、ひぃん……こ、この通り土下座でもなんでもするから許してください~」
半泣きで先輩に近づき、言葉どおりに土下座しようと膝をついて顔の高さを合わせた、その時だ。
雷鳴のように伸びてきた先輩の指が、はっしと私の腕を絡めとった。
「素晴らしいわ青坂さん!」
「ひっ……え?」
「出来るとは思っていたけど……これは完全に想像以上だわ! 貴女のような人材を、うちは欲していたのよ!!」
何やら目をキラキラさせている先輩。メガネ越しでもわかる有頂天オーラに、私は思わずちょっと仰け反った。圧が強い。
「え、えーと、その……失礼な言動の数々にお怒りだったのでは……?」
「え? そんな訳ないじゃない、プレイヤー同士での悪口なんてじゃれ合いみたいなものよ、あの程度で機嫌損ねたりしないわ。むしろあれだけ口が回るのは長所よ、長所! 優れたプレイヤーは口撃で相手の心を折るのよ! 素晴らしい才能だわ!」
どうやら私のゲーム中における調子乗りまくった言動さえも追加点らしい。
いや、まあ、先輩が怒ってないならいいんだけど……。
「それより……ああまでして私に勝った、という事はやはり、カード部に入る意思がありという事よね! 出なければ手をつくしてまで勝とうとするはずもないもの! そういう事よね!」
「あっえっあっうっ」
そ、そういえばそういう条件だった……。そして先輩の言うとおりである。ど、どうしてムキになって勝とうとしちゃったの私ー!? 先輩強いんだから、流れで普通に負けておくべきだったのにー。
ど、どうしてこうなっちゃったのー!? なんでー!?
途方に暮れていると、キンコンカンコーン、と午後の授業開始前を告げる予鈴が鳴り響いた。
先輩もはっとして立ち上がり、埃で汚れたスカートを払った。
「いけないいけない、ここにこれ以上いちゃ駄目ね。詳しい話はまた後で、放課後、カード部の部室でまってるから! 必ず来てね! じゃっ!」
「えっあっうっえっ」
そしてあれよあれよと私が口を挟む間もなく、放課後の予定を決めて先輩は走り去っていってしまった。
後には手を伸ばしたまま硬直する、おまぬけな私が残されるのみ……るるる……。
「う、うぅ……どうしてこうなっちゃったの……」
とにかく今は、私も遅刻しないように教室に急ぐしかない。そして、先輩にああいわれちゃった以上、すっぽかすという選択肢は勿論ない。高校における上下関係は、親子のそれに匹敵するほど絶対なのだ……多分……。
「う、うぇーん、踏んだり蹴ったりだよぉー」
今日がいい日になるかも、なんて言ったの、誰よ!
……私だよ、うわーん!
《今回の最強カード》
●“ヤキモチのリザド”
召喚コスト:1
攻撃ランク:1
ステータス:1
効果:このカードがプレイされた時、自分の手札を好きなだけ捨てる事が出来る。捨てた手札二枚につき一枚、相手の手札をランダムにトラッシュする。
所有カテゴリ:悪魔、パペットドール、モンスター
解説:パペットドールの一体。全パペットドールでも1、2位を争う貧弱なモンスターであり、効果は条件付きのハンデスで、むしろ手札を捨てる為の効果と見た方がいい。他のパペットドール関連カードの効果発動を助けはするが、あまりにも手札消費が激しいため考えなしに使うのは危険。ステータスも低く、戦闘には期待できないだろう。しかしこのカードには隠された力が……。えっ、ハンドレスコンボ? 何それ?