「カードゲームなんて興味なかったのに、いつの間にか夜の女王なんて呼ばれてるんだけど!?」   作:四大神が見てる

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第三話 虎穴で待ち受けるは虎児の牙(その2)

 

 

●ターン1巡目

 

プレイヤーA:虎子

 

手札:5枚

 

ジェム:0

 

プレイヤーB:瑠璃

 

手札:5枚

 

ジェム:0

 

 

 

「先行はオレが頂くぜ! 手札を五枚ドローして、ジェム一つゲット!」

 

 言うが早いが、デッキからズババ、とカードを引く虎子。対して瑠璃は、静かにデッキから手札を引く。

 

 そこで状況を理解したバーの客が、二人の周りに集まってくる。

 

「なんだなんだ、虎ちゃんがゲームしてるのか?」

 

「相手は……なんだぁ? どっかのコスプレイヤーかあ?」

 

「かー、こんな場末に似合わねえ華やかなカップリングだこと」

 

 口々に適当に囃し立てるバーの客達。そんな彼らにガーッ、と虎子は吠えたてると、手札を一枚振りかざした。

 

「黙ってろロクデナシ共! オレはジェムを一つ使い、“大ナタのザッパ”をプレイ!」

 

 虎子の場に召喚されるのは、緑色の肌に肥満体の小背の亜人。所謂ゴブリンとかオークとか言われるモンスターだ。その手には、名前の由来になったのであろうボロボロの鉈が握られている。

 

「これでオレのターンは終了だ!」

 

「では私のターン。カードを一枚ドローして、ジェムをゲットしますわ。……あら」

 

 手札を確認した瑠璃が、続けて相手のモンスターに目を向けて小さく目を見開く。彼女の目には、召喚された時とは明らかに数字が上昇しているステータスが見えている。

 

「これは……」

 

「へえ、目ざといね、早速気が付いたか。オレの使う“ウォーゴブリン”どもは、攻撃しなかったターンの終了時にステータスが強化されるのさ。我慢して押さえた分、戦いの味は一入ってな。最も、攻撃宣言したターン終了時に元に戻るんだが」

 

「なるほど、そういう趣向のデッキですか」

 

 小さく頷き、瑠璃もまた、一枚のカードを照明の下に翳した。

 

「私はジェムを一つ使い、“ミエのフライラ”をプレイします」

 

 瑠璃の場に、天井からパラパラと光る粉が降り注ぐ。その粉の跡を追う様に舞い降りるのは、きらびやかな刺繍を翅に施された黒い蝶のようなパペット。音もなく降り立ったそれが、瑠璃の指先にのって翅を静かに開閉させる。

 

「さて。召喚したはいいものの、フライラのステータスではバトルするだけ無駄というものですね。私はこれにてターン終了です」

 

 

 

●ターン2巡目

 

プレイヤーA:虎子

 

手札:4枚

 

ジェム:0

 

プレイヤーB:瑠璃

 

手札:5枚

 

ジェム:0

 

 

 

「オレのターン、ドロー! そしてジェムを一個ゲット! へっ、そんな虫けら、速攻で踏みつぶしてぶっ潰す! オレはジェムを一つ使い、“長ナタのドット”をプレイ!」

 

 虎子の場に現れるのは、もう一体のゴブリンモンスター。名前の通り、普通よりも長い、やっぱり朽ちた刃物を手にした小鬼が、ゲヒヒヒ、と品の無い笑みを浮かべる。

 

「バトルだ! まずは大ナタのザッパでその蝶々野郎をぶった切って、ドットでダイレクトトレジャー!」

 

「あら」

 

 ドタタタ、と下手な走りで駆け寄ってきたザッパが大きく鉈を振り上げる。

 

 ステータスではザッパが大幅に上。このままでは、先手は虎子に取られる事確定だが……。

 

「……ミエのフライラの効果発動。相手ターンのバトル中、相手モンスターのステータスが変動しているならば、その差額分だけステータスを強化します」

 

「んだと!?」

 

 ドットが切りかかったフライラのステータスが、急激に上昇する。強化値は同じだが、元のステータスではフライラが上。

 

 思わず足を止めたドットの上に、フライラが翼を広げて覆いかぶさる。翼の下でジタバタと暴れるドットだが、すぐに動かなくなり……フライラが翼をどけた後にはその姿はなく、代わりにその黒い翼に小鬼のような模様が追加されていた。

 

「フライラは見栄っ張りでしてね。自分以外に輝く相手が居ると、嫉妬心を抑えきれなくなるみたい。これでジェムを一つ、ゲットですね」

 

「ち……っ! 強いって訳じゃないが面倒なモンスターを……! ドットの攻撃は取りやめだ」

 

 舌打ちし、追撃を中断する虎子。

 

 あくまで相手ターン中でしか発動しないし、元のステータスがコスト1相応なので素のステータスが高い相手には勝てない。相性が悪いだけで決して難敵ではないが、出端を挫かれた形になる。

 

「……まあいい、ゲームは始まったばかりだ、楽しもうぜ。オレはこれでターンエンド!」

 

「では私のターン、ドロー。ジェムを二つゲットしますわ。……それでは、ジェムを二つ使って私は“レイケツのスーネ”をプレイします」

 

 シュルシュル、と音を立てて瑠璃の足の間から這い出して来る何か。細長いそれは照明の下にうねりながら這い出すと、静かに鎌首をもたげた。ボタンの目に、刺繍の口。先端からチロチロと赤い糸を舌のように出し入れするそれは、蛇型の縫い包み。

 

 そのステータスを確認した虎子が眉をひそめる。

 

「ジェム二つでそのステータスだあ? ちっ、なるほど。デメリットアタッカーか」

 

「御察しの通り。スーネがアタックする場合、他のモンスターは攻撃出来ない、という制限があります。それでは、バトルと行きましょうか。スーネで、“長ナタのドット”に攻撃!」

 

 シュルシュルと床を這って急接近したスーネが、ばくりと大口を開いてドットに襲い掛かる。そのまま頭からガブリの丸呑み。一息でゴブリンを腹におさめたスーネの体はツチノコのように膨らんでいたが、すぐに細長いもとの体形に戻った。代わりと言わんばかりに、口からげっぷのように吐き出したジェムを瑠璃が受け取る。

 

「はい、これでジェム一つゲット。あとはフライラがいますが、スーネのデメリットで攻撃できません。これでターン終了ですわ」

 

 

 

●ターン3巡目

 

プレイヤーA:虎子

 

手札:4枚

 

ジェム:0

 

プレイヤーB:瑠璃

 

手札:5枚

 

ジェム:1

 

 

 

「オレのターン、ドロー! そしてジェムを二つゲット! ……よぅ、新入り。ハッキリ言うぜ、てめーなかなかやるよ。パイセンに勝った、っていうのも納得だわ」

 

「あら、ありがとうございます」

 

「だがオレの敵じゃねえな。それを今から教えてやるぜ! ジェムを一つ払い、オレは手札から“切り込み隊長ザック”をプレイ!」

 

 虎子の場に現れるのは、リュックサックを背負いナイフを武器にしたウォーゴブリン。これまでのゴブリンと比べ比較的装備が整っている見た目だ。ステータスそのものは大したことはないが……。

 

「さらにザックの効果発動! こいつをプレイしたターン、オレはもう一体、モンスターカードをプレイする事が出来る! ジェムをさらにもう一つ払い、“大声のナッパ”をプレイする! さらに、オレの場に2体以上のウォーゴブリンが存在する時、ジェムを払わずに“徒党を組むワッダ”をプレイ!」

 

 連続召喚。罅割れたドラを鳴らすゴブリンが新たに召喚されてザックの隣に並ぶと、その両者の肩を抱き込むようにして新たにゴブリンが現れる。

 

 一気に3体のモンスターを場に揃えてみせた虎子のプレイングに、わっと酒場のオーディエンスが騒ぎ立てる。

 

「出た、虎ちゃんの連続召喚コンボ!」

 

「ここからが虎ちゃんは強いぜー!」

 

「ええい、こっちの戦術をバラすんじゃねえよ酔っ払いども! 黙って見てろ! ……バトル! “切り込み隊長ザック”で“ミエのフライラ”に攻撃!」

 

 見た目によらず俊敏な動きでザックがフライラに襲い掛かる。

 

 強化状態をコピーしていなければ、フライラは普通のモンスターでしかない。ザックの刃がフライラを切り裂き、だが同時にフライラの翅から放たれた糸がザックの首に巻き付いた。

 

 蝶が地に落ち、ゴブリン隊長が首を押さえるようにしてひっくり返る。ダブルノックアウト。

 

 お互いにコスト1のモンスターを失い、ジェムを1つずつ手にするが……。

 

「ここで“徒党を組むワッダ”の効果発動! 自軍モンスターが相手モンスターを撃破した時、こちらの“ウォーゴブリン”の数だけステータスを強化する!」

 

「あら。スーネのステータスに並んできましたか」

 

 肩を回しながら前に出てきたワッダが、虎子の方にアピールしながらスーネに向かっていく。対するスーネは小さく舌をチロチロさせながら、素早い動きでワッダに巻き付くとギリギリと締め上げ、さらに肩へと噛みついた。

 

 ワッダは苦しそうな顔で締め付けられているがぐっと力を入れて、そのまま無理やりにスーネを振りほどき、尻尾を持って床へと叩きつける。打ちのめされたスーネが目を回して消滅し、勝ち誇るワッダは直後毒で顔を真っ青にしてひっくり返った。

 

 再びの両者ノックアウト。だが、スーネを倒した事で虎子が獲得したジェムは二つ。

 

 そして……。

 

「これでテメーの場はガラ空きだ! “大声のナッパ”でダイレクトトレジャー!」

 

 ゴブリンがどこからか取り出したメガホンを口にあてて、大声を発する。おもわず観客が耳を押さえるほどの怒声は衝撃波となり、瑠璃へと襲い掛かった。涼しい顔で受け流す彼女からジェムが一つ転がり落ちて、虎子の場へと移動する。

 

「よっし、これでバトル終了。そしてこの瞬間、大声のナッパの効果発動! バトルで破壊されたウォーゴブリンの数だけ、デッキからウォーゴブリンをサーチする! オレは“虎被りのタイガージョー”、“ゴブリンズウォーワゴン”を手札に加えるぜ! さらにオレはジェムを一つ支払い、保険をセット! これでターン終了だ!!」

 

「では、私のターン、ドロー。そしてジェムを三つゲットしますわ。これで私の所有ジェムは5つ。……さて、どうしましょうか」

 

 瑠璃は落ち着いた様子で、自分と相手の場を見比べる。

 

 状況は先ほどと一転している。虎子の場にはモンスターが一体と保険カード。そして手札にはサーチしてきた二体のモンスターに、ジェムは三つ。

 

 大して瑠璃は手札とジェムこそあるが、場のモンスターは全滅。あちらが切り札らしきカードを呼び込んだ事を考えるとあまりウカウカもしてられない。

 

「ふ。まあ、悩んだ所でしかたありませんわ。私はジェムを一つ払い、手札からイベントカード“絡みつく繰糸”をプレイ。これによって、お互いのプレイヤーがモンスターカードのプレイに支払うコストは3ターンの間、一つ多くなりますわ」

 

「ちっ。こっちの展開を抑えに来たつもりか?」

 

「さあ、どうでしょう? そしてさらに、私はデッキから“パペットドール”一体をトラッシュに送ります」

 

 デッキからピックアップされたカードをトラッシュに捨てる瑠璃。これでお膳立ては揃った。

 

「私はジェムを4つ払い、手札から“ワルグチのプーゴ”をプレイ! そしてプーゴの効果により、トラッシュから“ヒガミのフォッコ”を召喚します」

 

 パペットドールお得意の、リアニメイト&手札破壊。場に現れた豚のパペット、その腹を食い破って狐のパペットが姿を現す。その頭部がバネの玩具のようにぐーんと伸び、虎子の手にするカードに食らいついた。

 

「フォッコの召喚時、相手の手札をランダムに一枚捨てさせます」

 

「ちいっ、サーチカードが公開情報である裏をかかれたかっ」

 

 ひらり、と虎子の手札からトラッシュに送られるカード。

 

 送られたカードは“ゴブリンズウォーワゴン”。ウォーゴブリンデッキの切り札カードの一枚、それなりに痛いハンデスである。

 

「それではバトルと行きましょう。まずはフォッコで大声のナッパを攻撃、そしてプーゴでダイレクトトレジャー!」

 

『ケヒヒヒ!』

 

 やせっぽちのパペットがゴブリンに躍りかかると、鋭い爪でズタズタに切り裂く。赤い血を塗り広げるのにご執心な狐の横を踏み越えて、まるまる太った豚の縫い包みが両手で鋏を振りかざした。

 

 ゲ、と顔を青ざめさせる虎子に向けて、容赦なくチョッキン。

 

 立体映像でダメージはないが、鋏の刃が通り抜ける瞬間、虎子は確かにぞっとするような冷たさを感じて身震いした。

 

「くそ……」

 

「ふふ。プーゴの攻撃ランクは3ですので、これで貴女からジェムを3つ頂きましたわ。これで再び逆転ですわね……」

 

「……はっ、そいつはどうかな?」

 

 瑠璃の言葉に、にやりと虎子が口元に笑みを浮かべる。

 

「保険カード発動! このカードは、プレイヤーがダイレクトトレジャーを受け、3つ以上のジェムを失った時に発動できる! ジェムを失ったプレイヤーの場に、喪ったジェム一つにつき“ウォーゴブリントークン”を召喚する!」

 

 ダイレクトレジャーで虎子が失ったジェムは3つ。すなわち、3体のトークンモンスターが出現する。

 

 小さな子供のようなゴブリンが虎子の場に並ぶのを見て、瑠璃の目が小さく細められる。どうやら文字通りに虎の尾を踏んだようだと、彼女も理解したのだ。

 

「……なるほど。いいでしょう。貴女の力、見せてもらいます。これにて私のターンは終了です」

 

 

 

 

 

 

 

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