「カードゲームなんて興味なかったのに、いつの間にか夜の女王なんて呼ばれてるんだけど!?」   作:四大神が見てる

9 / 9
第三話 虎穴で待ち受けるは虎児の牙(その3)

 

 

 

 

●ターン4巡目

 

プレイヤーA:虎子

 

手札:1枚

 

ジェム:0

 

プレイヤーB:瑠璃

 

手札:4枚

 

ジェム:4

 

 

 

「オレのターン! オレはドローを放棄して、ジェムを一つ加速する! これで俺の獲得するジェムは4つ!」

 

「あら、良いのですか? アグロデッキに手札は一番大事でしょう?」

 

「いいのさ、もう必要なカードは引いたからな! オレはジェムを四つ払い、“虎被りのタイガージョー”をプレイ!」

 

 虎子の場に現れる新たなるモンスター。それは頭から虎の毛皮を羽織り、虎の顎骨で口元をいかめしく飾った屈強なゴブリンの親玉である。カチカチカチ、と自らの歯と虎の牙をかみ合わせ、胸を逸らして張り上げる大親分の雄叫びに、ビリビリと酒場の空気が衝撃に震えた。

 

「タイガージョーを召喚した時、オレはデッキからイベントカード“ブンドリタイムダ!!”を手札に加える事が出来る! そしてこのイベントカードは、場に3体以上のウォーゴブリンが居る時、コスト0で発動する事が出来る! さあ、野郎ども! イクサの時間だ!!」

 

 彼女の掛け声に、モンスター達が反応して騒ぎ出す。大声を張り上げ、その場で飛び跳ね、武器を振りかざして猛り狂う。その様はまさに、今から大戦に望む蛮族そのもの。

 

「“ブンドリタイムダ!!”の効果は、オレの場のウォーゴブリンどもを全員強化状態にする! さらに通常の強化上体と違い、場に居るモンスターの数だけその強化は追加されるんだ! ま、その代償として相手モンスターを破壊しても手に入るジェムは1に固定されちまうんだけどよ。さあいくぜ、バトルだ! ゴスロリ女の場を踏み荒らせ、野郎ども!!」

 

 轟きを上げて殺到するゴブリンの群れ。勢いにのったその突撃はすさまじく、小さなゴブリンの一撃が本来圧倒的に格上のフォッコを、プーゴを一撃で粉砕する。砕け散るモンスターの残骸を踏みしめて、瑠璃にタイガージョーとゴブリントークンが迫る。

 

「いくぜ、ダイレクトトレジャー! 強化状態のタイガージョーの攻撃ランクは5、トークンは1! 一気にジェムを4つ全部フッ飛ばして、さらにローンジェムも二つゲットだ!!」

 

「やったぜ虎ちゃん!」

 

「ほぼ勝利はこれで決まったな!!」

 

 タイガージョーの振りかざすマチェット、トークンの振りかざす棍棒が瑠璃の体をすり抜ける。それと同時に彼女から大量のジェムがジャラジャラと転がり落ち、虎子の場へと集まっていく。

 

 瑠璃の顔は、抱きかかえた縫い包みに隠れて見えない。彼女は感情の伺えない声で、淡々と処理を説明する。

 

「……フォッコの効果発動。このモンスターが破壊された時、私は手札を一枚、捨てなければならない。私は“ネタミのコルネ”をトラッシュに送る」

 

「はは、泣きっ面に蜂って奴だな。これでオレのターンは終了! サレンダーするなら今のうちだぜ?」

 

 上機嫌でターンを追える虎子。

 

 彼女は手札こそ0だが、所有ジェムは合計6つ。次のターン、配給されるジェムは4つであり、その瞬間に虎子の勝利が確定する。

 

 それを防ぐためにはダイレクトトレジャーを決めるしかない訳だが、虎子の場には実に四体のモンスターが存在する。その全てを全滅させなければダイレクトトレジャーはできず、普通に考えればほぼ不可能だ。それが出来たとしてもローンジェムが二つもある以上、二人の差は埋まらない。

 

 少なくともその次のターンで、どうあがいても虎子の勝利は揺るがない。

 

 ……普通であれば。

 

「私のターン、ドロースキップ。それによって五つのジェムを入手します」

 

「はっ、そっちもケツに火がついたか? だが忘れてないだろうな、お前自身のイベントカードでモンスターのコストは増えてるんだぜ? いくらジェムがあっても、この布陣を突破できるかな?」

 

「……ふふ。確かに、強固な陣営です。それに私とのジェム差も圧倒的……ですがこういう言葉もありますよ。過ぎたるは及ばざるが如し。そして、過剰さは身を亡ぼす、と。私はコストを5払い、手札から“パペットマスター・ムリエール”をプレイ!」

 

 瑠璃の足元に、不自然な暗闇が広がる。店内に広がるそれよりも濃いそれは、照明の灯を無視して黒々と沼のように広がり、彼女の場を覆い尽くす。

 

 その下から、ゆっくりと浮かび上がってくる機械仕掛けの人形遣い。上半身だけの銀色の骨のような体を、ボロボロのマントが辛うじて隠している。顔には銀色の、左右に棘のようなものが突き出した奇妙な仮面をつけた彼は、自らも瑠璃という主人に手繰られる哀れな傀儡。仮面に空いた覗き穴の向こうに、虚ろな闇が覗いている。

 

「?! なんでコスト増えてんのにコスト5のモンスターが……?!」

 

「パペットマスターは“絡みつく繰糸”の効果を受けませんよ。人形遣いが糸に絡む訳がないでしょう?」

 

「ちょ、自分だけズリーぞ!?」

 

 虎子の泣き言に、瑠璃はうっすらと笑みを浮かべながらゲームを進行する。

 

「ムリエールの効果発動。私のトラッシュからモンスターを一体選び、場に召喚する。そして、そのモンスターのステータスより低いステータスのモンスターを全て破壊し、そのコスト分のジェムを得る」

 

「なんだとぉ!?」

 

 ここに来ての全体除去。虎子の布陣は数こそ多いが全体的なステータスは高くない、致命傷だ。

 

「このゲームにおいて、迂闊な大量展開は背水の陣、教わりませんでしたか? さっきのターンで私を倒しきれなかったのが貴女の敗因です」

 

「ちっ、だがオレのタイガージョーのステータスはそんな低くないぜ! テメーのパペットドールとやらはどいつもコイツも貧弱なモヤシ、ステータス4より高いモンスターなんてトラッシュには一体も居ない!」

 

 虎子とて、公開情報であるトラッシュについては確認している。瑠璃のトラッシュで一番ステータスが高いのは、“レイケツのスーネ”のステータス4。以下ではなく未満である以上、タイガージョーは破壊されない。

 

 だが……。

 

「どうかしら? 私がトラッシュから召喚するのは、“ネタミのコルネ”」

 

「そいつは、さっき手札から捨てた……」

 

「そして“ネタミのコルネ”の効果!! 相手の持つローンジェムの数だけ、ステータスを強化する! これによって、コルネのステータスはタイガージョーを上回るわ」

 

 ムリエールの指先から、足元の闇へと糸が放たれる。闇の中から引っ張り上げられるのは、黒猫のパペットドール。その糸のような細い目が見開かれると、その向こうには底なしの闇が渦巻いていた。

 

「さあ、コルネ、貴女の妬みを、闇を、解き放ちなさい!」

 

『ニャァアオオオオオ……!!』

 

 響き渡る禍々しい猫の叫び。それを耳にしたゴブリン達が、頭をおさえてもんどりうって苦しみ始める。次々にその肌が黒く染まると、パシャリ、またパシャリとゴブリン達は弾けて黒い染みになっていく。ついには大親分までもがマチェットを取り落とし、床の黒い染みへと変じた。

 

「これで貴女のモンスターは全滅。そして私はジェムを六つゲットね。……バトル! コルネと、ムリエールで貴女にダイレクトトレジャー!」

 

「うわああ!?」

 

 猫の叫びが虎子を襲い、さらに人形遣いの操る糸が彼女を縛り付ける。その体からチャリンチャリンとジェムが転がり落ちて、瑠璃の場へと転がった。

 

 コルネの攻撃ランクは2、ムリエールの攻撃ランクは4。虎子の手持ちはローンジェムが二つ、ジェムが四つ。そして瑠璃の手元にあるジェムは6つ。

 

 すなわち……。

 

「これで私のジェムは合計10個。私の勝ち……ふふ、お疲れさまでした」

 

 

 

 

 

●GAME SET

 

 

 

●WIINER:RURI AOSAKA!!

 

 

 

 

 

 まさかの大逆転。

 

 虎子は脱力して、汚れた床へと座り込んだ。周りのギャラリーは鮮やかな逆転劇にざわざわと騒めいている。

 

「虎ちゃんが負けた……?」

 

「あのお嬢ちゃん、一体何者だ……?」

 

 当然、その注目は謎の対戦相手へと注がれる。だが瑠璃はそんな周囲の視線を一顧だにする事なく、つかつかと虎子の元へと歩み寄った。

 

 上から見下ろす瑠璃の視線を、しゃがみこんだまま睨み返す虎子。が、ややあって彼女はどことなくバツが悪そうに顔を逸らした。

 

「……ちっ。やるじゃねえかよ」

 

「ふふ、ありがとうございます」

 

「オレの負けだ。ちっ、わかったよ。明日からちゃんと部活に顔を出すようにする……」

 

 ふてくされたようにぼやく虎子。これで一件落着、と思われたが……。

 

「あら。私は別に、勝ったら部活に出ろ、なんて一言も申し上げてはいませんよ?」

 

「え?」

 

 その途端。

 

 店内の照明が、突如落ちた。

 

「あれ、なんだ、停電?」

 

「マスター、何も見えないぞー」

 

「少々お待ちを……」

 

 真っ暗闇に閉ざされる店内。とはいえ、もともと暗い事もあって客に動揺はない。ただ、薄暗い中照明やトレーダーの演出になれた目は真の暗闇に視界を完全に失っており、一歩先も見えない。

 

 それは虎子も同じ事。その中で彼女だけが、すぐ目の前に自分以外の誰かの存在を感じていた。

 

「では、いただきます」

 

「え……」

 

 頬に暖かく柔らかい感触。

 

 それが一体何なのか理解するよりも先に、想像を絶する脱力感と、意識に何者かが割り込んでくる違和感を彼女は感じ……そして……。

 

 ばつん、と唐突に正面が戻る。

 

 明滅する明かりの中で、客もマスターも一体何だったんだ、と首を傾げる。

 

「あれ、お嬢ちゃんは?」

 

 その中で誰かが気が付いた。さっきまで、虎子とゲームに興じていた奇妙な恰好の少女の姿がない。

 

「闇に紛れて帰っちゃったのかな……マイペースな子だ」

 

「虎子ちゃんのお友達かい? 友達は大事にしろよ」

 

 客が次々に呼びかけるが、虎子は床に座り込んだまま、周りの声が聞こえないかのように呆としていた。

 

 その虚ろな瞳に、ほのかにピンクの光が宿っている事には誰も気が付かない。

 

 

 

◆◆

 

 

 

「ふふふ……ごちそうさまでした」

 

 夜の繁華街。人の流れの中に紛れて歩く、場違いなゴスロリ姿の少女。

 

 道行く人々の誰もが彼女の姿を見えていないように無視するなか、流れにさからってすいすいと歩みを進める。

 

「本当に、ここはご馳走に困らない良い場所だこと」

 

 ぺろり、と唇を蠱惑的に嘗め、ぬいぐるみを抱えた少女の姿は夜の雑踏の中へと消えていく……。

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 






《今回の最強カード》



●“ネタミのコルネ”



召喚コスト:2

攻撃ランク:2

ステータス:1

効果:このカードのステータスは、相手の持つローンジェム一つにつき+2される。

所有カテゴリ:獣、パペットドール、モンスター



解説:パペットドールの一体。単純なステータスはかなり低いが、相手の持つローンジェムの数によって大幅にステータスを向上させる能力を持っている。ローンジェムは場のモンスターのやり取りでは増減しないというのがミソで、上手く立ち回れば劣勢をひっくり返すだけの活躍を見せてくれるだろう。特にプーゴとの相性がよく、低コストで強固な戦線を構築できる。全体的にステータスが低いパペットドールの中では数少ないアタッカー。





  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。