とある悪女の未元物質   作:凪子22

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3話

良く晴れた日ゴルフバッグを背負った大人達が学園都市を闊歩する、そのうちの一人がトランレシーバーにささやき始める。

『目標に動きあり、繰り返す目標に動きあり』

『各部隊状況を開始予定エリアへ迅速に展開しろ』

迷彩カバーを被り双眼鏡を眺めながらレシーバーに話しかける男、ビルの屋上へ陣を取る男達。

まるで軍隊の様に動く彼らは迅速にゴルフバッグからアサルトライフルの部品を取り出し組み立てていく。

狩人は動き出す、獲物を確実に捕えるために。

やがて、学園都市の喧騒が遠のく、通学路を歩く生徒たちは、自分たちの頭上で静かに進行する作戦に気づく由もない。ゴルフバッグを背負った男たちは笑いながら学園都市(まち)に溶け込んでいく。

狩人たちの目は暗い底へ沈んでいくのだった。

____

 

その日垣根と智沙音(ちさね)はショッピングモールにてデート中(仮)であった。

「るんるんるーん」

ご機嫌な様子でウィンドウショッピングをする智沙音を見守る超能力者(レベル5)第二位こと垣根帝督。

「せんぱい!せんぱい!これどっちが似合いますか?」

智沙音が両手に掲げたのはデザインがウサギと月のモチーフになったティントリップ、垣根は一目見て当たり前のように二本同時に手に取り会計を済ませた。

「へっ?あ、なんで!なんでそうなるんですかぁ!?」

「プレゼント用にお包みになりますか?」

「はい、お願いします」

柔和は笑みで答える垣根の背中をポカポカと叩く智沙音を無視して商品を受け取りそそくさと店内を出る。

ちなみにこれが2回目である。

「もー、先輩はなーんで乙女心とかが分かんないですか?」

「どっちも似合ってんだから構わねえだろ、おい行くぞ」

「ぷしゅー・・・」

片手をひらひらと振って垣根は歩き出す。智沙音は顔を赤くして頬を膨らませながら、結局はその背中を追いかけた。

ショッピングモールの中央吹き抜けには色とりどりの風船が吊るされていて、陽射しがガラス天井を透過して落ちてくる、休日ということもあり子供連れが多いのかショッピングモールはそこそこに混み合っていた。ヒールの音が軽く跳ねる。垣根は振り返らない、けれど人混みの波が彼女を飲み込みかけると歩調をほんの少しだけ緩める、智沙音はそれに気づかないふりをして心の中で小さく笑った。

「先輩」

と智沙音が呼びかけると垣根の足がぴたりと止まった。垣根は振り返らないけれど聞く姿勢になっていると智沙音は思った。

「その・・・えっと・・・私達って、付き合ってるんですよね・・・?」

智沙音は少しだけ声を小さくして言った、けれども吹き抜けのざわめきに紛れてしまいそうなその声は垣根には確かに届いていた。

「……言わねぇと分かんねえのか?それとも言ってほしいのか、どっちだ」

「………言って、ほしい…です」

 

本当はこんなことを聞くつもりではなかった。ただ、隣を歩く彼の歩幅が自分に合わせられていることに気づいた時にどうしようもなく確かめたくなったのだ、はたして自分たちは付き合っているのかどうか。顔を赤くしながら答えを待つ。

垣根は振り向いて真剣な顔で智沙音に答える。

「…俺はお前が思っているより善人なんかじゃねえ、俺の周りにはクソみてえな奴がうんざりするほどまとわりついてきやがる」

「巻き込むつもりがなくてもあいつらはお前をぜってえ無視しねえ、だから俺は…お前を守る。だがな俺は正義のヒーローなんかじゃねえクソ野郎だ、それでもいいのか」

今は違えど一度は暗部に堕ちた身、抜け出そうにも暗部の暗闇はへばりついて離れてくれない、もしかしたら智沙音を巻き込んでまともな世界から引きずり落されてもおかしくない。本来なら暗部の闇に触れることなく表の世界で生きて自分よりまともな人間と付き合うのが一番のはずなのだ。だけどそうはならなかった、智沙音は垣根を選んだ、垣根ももうこの手を離すつもりはなかった。

「はい、先輩がいいです」

「クソみてえな目に遭うぞ」

「先輩が守ってくれるんでしょう?」

その言葉に垣根はしばらく黙り込んだ、吹き抜けから差し込む午後の光が彼の表情に薄い影を落としている、智沙音はそんな彼の顔をじっと見上げていた。逃げもせず、目を逸らしもせずただまっすぐに。やがて垣根は大きく息を吐くと乱暴に智沙音の頭に手を置いた。

「後悔しても遅いぞ」

「えへへ、せんぱいと一緒ならへーきです」

と言って笑う智沙音に垣根はまた顔を背ける。

「行くぞ、いつまでも突っ立ってると目立つからな」

「はーい!」

笑顔で返事をしてから智沙音はふと気づく、今日まだ一度も垣根は自分から手を繋いでくれていない。いつもは人混みに入る前にさりげなく手を取ってくれるのに今日はずっと数歩先を歩いている。

「先輩?」

「あ?」

「手、繋いでくれないんですか?」

「……ほら」

「えへへ」

「映画の時間そろそろだろ行くぞ」

腕時計を見ながらショッピングモールの外にある映画館へ向かう、映画館に着くまで終始無言だったがそれも二人には心地よかった。

 

「目標確認射撃許可を」

『やれ』

垣根と智沙音が外に出た瞬間智沙音の視界は白く染められていた。正確には未元物質(ダークマター)の羽に包まれていた。

(この威力ただのライフルじゃねえな)

「せんぱい…」

「俺から離れるなよ」

「はいっ」

智沙音を抱き寄せ臨戦態勢に入る。物陰に隠れ様子をうかがう、だが相手には見えているのか射撃の勢いが止まらない、壁のえぐれ具合から見て垣根の脳裏にとある武器が連想させた。

(アンチマテリアルライフルによるアウトレンジ射撃!)

(距離はおよそ400mか500ってところか)

(おそらく他にもいるはずだ場所を変えて敵を誘い込む)

敵がリロードしている間に未元物質(ダークマター)を使ってカブトムシ達を増産していく。

「智沙音口閉じてろよ」

「へ、ひゃい!」

智沙音を抱え込み空へと舞い上がる。だが敵はそれを許さないと言わんばかりにライフル弾を撃ち込んでくる。ドガンッバギンと未元物質(ダークマター)の六枚羽が少しずつ削られていく音がし始める。垣根も負けじと氷の壁や風を巻き起こすが防戦一方になっている状況が変わらず舌打ちをする。

「クソッたれっ」

垣根は宙で身体を捻った、攻撃を防いでいるとはいえ消耗は確実に蓄積していた。対物(アンチマテリアル)ライフルの一撃は、超能力者(レベル5)の彼といえど無視できるものではない。ましてや腕の中に守るべきものがいる。

コンテナ街に逃げ込むが敵の思惑通りに弄ばれている気がするが今は遮蔽物が多いので射撃は止まっている。

「智沙音?おいっ智沙音!」

(寝てる?こんな状況でか?いやまさか…っ)

嫌な予感が的中した。

カツンとコンテナ街に広がる足音、智沙音と瓜二つの悪魔が姿を現した。

「さて、反撃開始といきましょう」

 

 

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