好感度備忘録   作:シモケンサンバ

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【好感度: 0% 】

 

前任地からの引き継ぎ資料には、特型駆逐艦「暁」について「夜間戦闘における被弾率が突出して高く、部隊の戦線維持に支障をきたす」と記載されていた。

 

実際、当鎮守府での初期演習においても、彼女は夜戦フェーズに移行するや否や真っ先に探照灯を照射し、敵艦隊の仮想砲火を一身に浴びた。

 

演習後のデブリーフィングで、「暁は一人前のレディーだから、これくらい出来るわ。司令官、私をもっと前線に出して」と主張した。

 

私は手元の集計データを開き、淡々と事実を告げた。

 

「過去3回の夜間演習における、君の探照灯照射後の被弾確率は82%に達している。この損耗率は艦隊運用上、許容できない。君が出来ると主張しても、総合的に判断して君の夜戦参加は許可しない。次期作戦では前衛から外す」

 

私の通告に対し、暁は目を見開き、そして強く唇を噛んで執務室を飛び出していった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

まただ。

また、あの冷たい目で「お前は使えない」と切り捨てられた。

 

前の鎮守府でもそうだった。

 

私はただ、みんなを守りたくて、一人前のレディーとして艦隊の役に立ちたくて前に出たのに。

 

結果的に傷ついて、足を引っ張っていると判断されて、この鎮守府に飛ばされた。

だから、ここでは失敗できない。

 

同じように見捨てられないために「出来る」とアピールした。

それなのに、あの司令官は私を数字だけで評価して、作戦から外した。

 

あんな冷酷な人の下で、私はまた不要な存在として扱われるのだ。

 

執務室のドアを閉めた瞬間、レディーとして堪えていた涙が滲みそうになるのを、暁は必死に押し殺した。

 

 

【好感度: 25%】

 

暁の配置を、夜戦を伴う主力艦隊から昼間の対潜哨戒および船団護衛へ変更して1ヶ月が経過した。

 

彼女の索敵能力と機動力は、定型的な哨戒任務において極めて有効に機能している。

出撃編成から外されたことに暁は不満を隠さないが、私は方針を変更しない。

 

一方で、彼女の装備のメンテナンス基準は主力艦と同等に引き上げている。

特に水上電探の調整には工廠の優先枠を割り当て、精度向上にリソースを集中させた。

 

夜戦での損耗を避けるのは彼女を排除するためではなく、被害担当艦という不合理な役割から脱却させるための措置である。

 

補給物資も規定量の1.2倍を確保し、疲労度の蓄積を物理的に防止している。

私はただ、艦隊の生存率を高めるための最適解を実行しているに過ぎない。

 

 

◆ ◆ ◆

 

対潜哨戒ばかりの毎日。

 

主力部隊が華々しく出撃していくのを見送る度、私は自分が二軍落ちしたのだと思い知らされる。

 

けれど、一つだけ腑に落ちないことがある。

厄介払いをされたはずなのに、工廠での扱いは前よりもずっと手厚い。

 

整備の妖精さんたちは毎日のように私の電探を微調整し、機関のメンテナンスを徹底してくれる。

 

補給も常に最優先で行われ、少しでも疲労が見えれば強制的に入渠させられる。

本当に私を不要だと思っているなら、ここまで物資と時間を割くはずがない。

 

あの無表情で理屈っぽい司令官は、一体何を考えているのかしら。

単なる左遷ではないのかもしれないと、疑念が静かに揺らぎ始めていた。

 

 

【好感度: 50%】

 

定期面談の席で、暁はついに「なぜ私を夜戦に出してくれないの」と直接的な不満をぶつけてきた。

 

私は書類から目を上げ、彼女の目を真っ直ぐに見て答えた。

 

「君が自ら的になるのは、僚艦を守るためだ。しかし、結果として君が中破すれば、艦隊の継戦能力は著しく低下する。前任地からの記録を分析した結果、君の勇敢さが被弾率の高さに直結していることは明らかだ」

 

暁が息を呑むのがわかった。私は続ける。

 

「私は君を無能だから外したのではない。無駄な損耗を避けるためだ。

今後は探照灯ではなく、強化した電探のデータリンクを用いて僚艦を誘導しろ。

 

目立つのではなく、情報を制することで戦線を維持する。これが、私の戦術に組み込まれた君の役割だ」

 

 

◆ ◆ ◆

 

図星を突かれて、私は何も言い返せなかった。

前の鎮守府では「被弾が多い、足を引っ張るな」としか言われなかった。

 

誰も、私が僚艦を庇うために探照灯を点けていたことには気づいてくれなかった。

 

でも、司令官は全て見抜いていた。私の行動原理を理解した上で、その戦術的欠陥を論理的に指摘し、新しい役割を与えてくれたのだ。

 

「情報を制することで戦線を維持する」。

それは、無謀に盾になることよりも、ずっと高度で、本当に艦隊のためになる戦い方。

 

もう、見捨てられる恐怖に怯える必要はない。

 

司令官は、私を正しく評価し、導いてくれる。

胸の奥にこびりついていた不安の塊が、音を立てて崩れ去っていくのを感じた。

 

 

【好感度: 75%】

 

戦術方針の転換から数ヶ月。

暁の夜間戦闘における戦果は劇的に向上した。

 

彼女は無闇な探照灯照射を完全に止め、高精度の電探を活用して敵艦隊の位置を特定し、僚艦へ正確な座標を伝達するネットワークの中核として機能している。

 

被弾率は全体の平均値以下にまで下がり、同時に彼女の索敵報告は私の作戦立案において不可欠な要素となった。

 

執務室に報告に訪れる彼女の態度からも、以前のような「レディーだから」という過剰な自己顕示は消え去り、客観的かつ実務的な戦況報告を行うようになっている。

 

私はその事実を数値化して評価し、彼女を第一艦隊の主力駆逐艦として正式に再配備する決裁書にサインをした。

 

 

◆ ◆ ◆

 

第一艦隊への復帰。

その辞令を受け取った時、私は静かに敬礼を返した。

 

司令官の要求する基準を満たし、確実な戦果を上げる。

 

それが今の私にとって最大の誇りだ。「暁はレディーだから」と口先だけで背伸びする必要はもうない。

 

私の行動と結果が、それを証明しているから。

最近は、執務室での報告のあと、司令官の書類整理を手伝うのが日課になっている。

 

彼が淹れてくれるコーヒーは少し苦いけれど、その静かで無駄のない空間が、私は好きだ。

 

彼の手腕と正確な指揮。

 

そして何より、私という艦娘の性能を誰よりも引き出してくれた彼に対して、私は絶対の信頼以上の、手放したくないという独占欲を抱き始めている。

 

 

【好感度: 100%】

 

着任から1年が経過した。

 

暁の稼働実績、損耗回避率、および索敵貢献度は当鎮守府の駆逐艦の中でトップクラスの数値を記録している。

 

夜の執務室で、私は全ての実績データを添付した決裁書類と共に、小さな箱を机の上に置いた。

 

「君のこれまでの戦術的貢献と、艦隊運営における重要性を客観的に評価した。今後もこの鎮守府の基盤として戦線を支えてもらう。

 

これはそのための、最も確実な契約手続きだ」 私は箱を開け、ケッコンカッコカリの指輪を提示した。

 

感傷的な言葉は不要だ。彼女のこれまでの努力と、これからの運用方針に対する私なりの明確な回答である。

 

 

◆ ◆ ◆

 

机の上に置かれた、小さな箱と指輪。

司令官の言葉は相変わらず理屈っぽくて、まるで業務命令みたいだった。

 

けれど、その裏にある確かな評価と、私を絶対に手放さないという意思が、痛いほどに伝わってくる。

 

かつて見捨てられる恐怖に震え、虚勢を張っていた子供はもういない。

私は彼の指揮の下で、彼が求める以上の結果を出せる艦娘へと成長した。

 

「……司令官の要求、確かに受け取ったわ」 私は真っ直ぐに彼の目を見つめ返し、自分の意志でその指輪を手に取った。

 

「暁は……ううん、私は、これからもあなたの期待に完全に応えてみせるわ。あなたの隣に立つ、一人前のレディーとして」 静かな執務室の中で、私たちの新しい契約が交わされた。

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