超常跋扈鯨海 カー・オン 作:僕らは ねこです げんきです
「あの、いま良いですかマスター」
「おん?どったの」
山のように積み上がる書類、データで送られてくる研究報告書、高頻度で襲ってくるサーヴァントの対処に疲れが溜まる日々。霞む目に眉間を押さえていると楸君が声をかけてきた。
「今日送られてきたスケジュールの変更事項なんすけど、この午前の『実験研究』って記載ミスっすか?こういうのって研究員さん達がやるやつですし、アノマリーの知識がない駆け出しエージェントの俺は担当しないって聞いたんすけど……それに、詳細も書かれてないし」
「あー、それね。安心したまえよ、君のスケジュール表に記載ミスはない。今日は君に実験に参加してもらうからね」
「へ……あ、詳細が無いのってもしかして……記録に残したらマズイことになるオブジェクトですか?ミームなんたらっていう……」
「おっ、良い線行くねー。基礎講習も頑張ってる感じだな?」
「う、うっす……へへ……」
「まぁ違うんだけど」
「えっ」
ミーム汚染。認識をすり替えたり塗りつぶしたりと、文字を認識するだけで知覚能力等に影響を与える情報や物体のことを指す。例で挙げればち█ち█しか話せなくなったりねこですよろしくおねがいしますしたり。見てしまった『情報』の記憶を消す記憶処理でミーム汚染の影響を治療することも可能だが、アノマリーの強さによっては記憶を消しても些細なきっかけでミーム汚染が復活したり、そもそも治療が不可な物もある。財団が相手取る手強い異常現象郡の一つである。
そして今回の実験に関わるオブジェクトは記録に残したらマズイことになる、というのは正解だ。しかし残念ながらミーム汚染が関係している訳ではない。
「今回実験に使うのはミーム汚染の確認されていないオブジェクトだよ。確認されてないだけで潜在的に有している可能性もあるかもしれないけどね」
「そ、そんなのもあるんすか……いや、認識を書き換えるのがミーム汚染なんだからあって当然か……でも、それならなんで詳細が書かれてないんすか?」
「勿論、俺が理事会に隠し通すためだよ」
「……あぁ、なるほど……」
カルデア、異聞帯、空想樹。俺が理事会の方々に隠している物は多い。この実験も、その数ある秘め事の一つだ。
「さて、楸君。君は推理小説を読んだことはあるかね?」
「え、いや……基本家にいたので、機会はなかったっすね?えと、それが今回の実験と関係あるって事ですか……」
「いかにも。古来より真実を解き明かす者たちは、砂粒のように小さく、宝物のように埋められた些細な情報を拾い上げ、それらを繋わせることで推理を成してきた」
その情報は凶器や血痕であったり、ありふれた日常の断片や複雑に絡まりあった縁の糸であったり。
果てには、犯人が身に纏う服であったり。
「今回の実験は、カルデアの秘密に迫る物だ。君も横で見るといい。敵を知る、いい機会になる……おっと、もうこんな時間か。ちょうど来てくれたんだ、君も実験の準備を手伝ってくれ」
「は、はぁ。えっと、それで結局今日はなにを?」
「ふふ、そこまで聞かれたら答えてあげるが何とやら、か。なに、君は横で見るだけでいいさ。今日やるのは俺と
「脱衣チェスなんだから」
「なるほどこれがミーム汚染」
「違うよ。正気だよ」
「マスター、藤丸立香!ただいま帰還しました!」
「同じくマシュ・キリエライト、帰還です!」
ここはノウム・カルデアのストームボーダー。白紙化されて真っ白になってしまったこの星で、真っ白な地球を元の姿に戻すために戦うカルデアの前線拠点。
私、カルデアのマスター藤丸立香は白紙化地球に現れた7つの異聞帯の空想樹を伐採し、旧カルデア基地に向かっていた最中であった。
『オレのプランを否定するなら南極へ向かえ───』
第七異聞帯でクリプターであるデイビット・ゼム・ヴォイド、彼が私に残したその言葉に従って。
しかし南極に位置する旧カルデア基地───かつて私が可愛い後輩マシュ・キリエライトやカルデアの仲間たちと共に人理焼却を解決したあの地に足を踏み入れようとすると、「人理の壁」という壁に阻まれてしまった。
曰く、それは私たちカルデアが清算すべき罪。七つの基本クラス、セイバー・アーチャー・ランサー・ライダー・キャスター・アサシン・バーサーカーの7騎士ではない『エクストラクラス』のサーヴァントを召喚し、漫然と濫用し続けたことで、人理に拒絶されている、とのこと。
私たちはその人理の壁を乗り越え、旧カルデア基地に乗り込むため、白紙化地球の各地で各々のクラスの試練に挑んでいた。
「2人ともおかえり!通信が繋がらない中での特異点の修復作業だったけど、大変だった?大丈夫だった?」
「まぁ通信が繋がらない特異点は結構ありますけどね〜。おっと、技術顧問の前で口が滑ってしまいました」
「ちょっとそこ!うるさいよ!」
中央管制室に入るとカルデアの技術顧問であるサーヴァント、ダ・ヴィンチちゃんと、ノウム・カルデアやストームボーダー建築や演算などでカルデアに貢献してくれているシオンの2人が迎えてくれた。
「ただいま!2人とも!……あれ?新所長は?」
「あれ……確かに、ゴルドルフ新所長のお姿が見えません。いつもであれば特異点修復の締めの言葉と共に迎え入れてくださるのに。シオンさん、ダ・ヴィンチちゃん、ゴルドルフ新所長はどこに……?」
2人と言葉を交わしていると、いつも紅茶とパンの香りを漂わせて待ってくれているゴルドルフ新所長の姿が無いことに気がついた。
シオンとダ・ヴィンチちゃんにゴルドルフ新所長のことを聞くと、2人は「あー……」と揃って何処かに目を向けた。
その視線の先には────
「「…………」」
2人、西洋風の鎧*1を着た人物が椅子に座っていた。
「……誰!?」
「み、見たことの無い鎧を着た方がいらっしゃいます!サーヴァントではない様子ですが……まさか、あちらの方々のどちらかが……?」
「うん、そうなんだ……片方がゴルドルフくんで、もう片方がムニエルくん」
「なんで!?てかムニエルも!?」
ムニエルは時折羽目を外してハジけることがあるし、ゴルドルフ新所長は普段はふざけないけど押されたり流されたりで乗ってくれることもあるが……まさか2人揃ってアーマーを着込むことがあるなんて。
「えっと……ハロウィンはまだ遠いと思うんだけど?エリザ粒子にやられた?」
「───ハロウィンの仮装では無いわッ!遅いぞフジマル!」
「ふ、ふふ……完全に忘れられてたムニエルです……踏んだり蹴ったりで散々です……一体オレが何をしたって言うんだ……」
「えと……ごめんなさい?」
状況を飲み込めないが、鎧の中からゴルドルフ新所長とムニエルの確かな声が聞こえたのでとりあえず謝罪する。
いや本当に何があったらその格好になるの?
「───現在、我々カルデアは未確認の敵から、明確な悪意を含んだ攻撃を受けている」
「え……!?」
ゴルドルフ新所長が口を開き───口は見えないけど───告げた言葉に驚く。
特異点からカルデアに直接攻撃をしかけてきたサーヴァントは少ないが実例がある。ありえない事はないけれど、まさか私が特異点修復で不在のときに襲撃が起こるなんて……
「そ、それは……サーヴァントによる襲撃、ということでしょうか、新所長……そのアーマーは攻撃から身を守るためですか?ですが、それならどうして新所長とムニエルさんのおふたりだけ……?」
マシュの疑問に首肯する。身を守るために着込む、っていうのは理解出来なくはないけれど、カルデアには生身の人間は2人以外にもいるしサーヴァントの攻撃を鎧程度で防げるとは思えない。少し不自然な点が浮かび上がってくる。
「うーん、襲撃……と言っていいのか悩ましいけどね」
横で私たちとゴルドルフ新所長たちの会話を聞きながらダ・ヴィンチちゃんが困ったように眉を下げて笑う。
「2人を呼び戻そうとも考えたんだけどねー?特異点修復中だったし、通信は繋がらないしで保留してたんだ。2人の身体に明確な危険がある攻撃ってわけでもなかったから」
「命に関わるわけではないが我々の尊厳に関わっているだろう!?ええい、どうしてはやく帰還せんかった貴様ら!」
「そう言われましても……」
「新所長……結局なにがあったんです?」
「むぐ……まぁ貴様らを責めても何にもならんしな。責め立てるのはお門違いというやつか。技術顧問、説明してやってやれ……」
「はいはーい」
ダ・ヴィンチが何かの資料をモニターに映し出す。
「これは……」
「被害記録……?でもこれって……」
「そう、ムニエルくんとゴルドルフくん、それぞれの下着やカルデア制服」
「……服だけ?」
ムニエルがパンツ3枚、肌着3枚、制服3枚。ゴルドルフ新所長がパンツ3枚、肌着3枚、制服2枚、アロハシャツ1枚、アロハパンツ1枚。
「えっと、本当になにがあったんです?襲撃と言うには……なんというか、その……しょぼい」
「まーこれだけじゃ何がなんだかわかんないよねー」
「けど───」そうダ・ヴィンチちゃんが続けようとしたその時。
パァァンッ!!!
鎧が弾け飛び、中から全裸のムニエルが飛び出てきた。
……ん?
「今回は俺かよ……俺が……俺が何をしたっていうんだ……」
「む、ムニエルさん!?えっ、ど、どうして!?」
「なんで鎧が弾け飛んだの!?てかなんで中で全裸なの!?」
それはさながらAUOがキャストオフするが如く───多分ギルガメッシュ王も認めるくらい見事な脱衣だった……脱衣?衣じゃないから脱鎧?いや今はそんなことどうでもいいよ!
「ピカタ君……辛いだろう……はやく部屋で着替えよう。たとえまた弾け飛ぶことになろうとも、もはや尊厳は粉々に砕かれようとも……今は服の温もりに包まれながら、自室に篭ろう……」
「ムニエルです、新所長……」
「ジングル・アベル・ムニエル君……」
「ピカタです……違う、ムニエルです……」
鎧が弾けとばなかった方───ゴルドルフ新所長が、どこから取り出したかは分からないけど予備のパンツらしき布を全裸のムニエルに渡しながら廊下に続く扉へと姿を消す。
その背中には困惑や驚きも確かにあったが……草臥れたリーマンのような憂鬱さと、どこか『慣れ』のようなものを滲ませていた。
───まさか
「あれが……?」
「そう。ムニエルくんには申し訳ないけど、説明する手間が省けたね」
今、カルデアは───というより、ゴルドルフくんとムニエルくんが、謎の脱衣現象に襲われている。
そう、ダ・ヴィンチちゃんが告げた。
………………
「わからない……」
「ど、同感です……なぜお二人が?なぜ脱衣?」
「うーん、ほんと意味わかんないよねー」
これ、あれなの?チェイテピラミッド姫路城とかサーヴァント・ユニヴァースみたいなギャグの時期?でも強制追い剥ぎはライン越えでしょ……
「キャスターや呪いに詳しい道満たちに聞いてみたけど、どうも違うみたいでね。わかったのはゴルドルフくんとムニエルくん、どちらかの服がランダムで弾け飛ぶってことだけ。カルデアに敵意を抱いている何らかの人物が攻撃を仕掛けてるにしても、なぜ2人だけを襲うのかも分かってないしね」
「魔術の行使の痕跡は無かったの?いや魔術にしても意味不明だけど……」
「うん。メディアにモルガン、スカサハなんかにも聞いてみたんだけど空振りだったよ。それに、さっきの鎧は呪いや魔術に対して抵抗できる加護や魔術をサーヴァントの皆に付けてもらった物なんだけど、全く効いた様子が無かったしね。けど、最近になって漸く分かったことがある」
一つ、引きを吸って
「いま、現在。この時間軸の日本に、大規模特異点が出来てる。多分だけど、攻撃をしかけてきた元凶がいるのはそこだ」
「日本……その特異点はどれほどの規模なんでしょうか、ダ・ヴィンチちゃん」
「日本列島全域、だよ。さらに付け加えると───宇宙まで広がってる、類を見ない規模だ。君たちがさっき解決してきた特異点なんか屁でもないほどに」
宇宙。その言葉を聞いて思い浮かんだのは第三異聞帯。二千年と幾百年を生き、宇宙まで万里の長城を伸ばした異聞帯の王、始皇帝。
「……異聞帯?」
「……鋭いね、流石歴戦のマスターだ」
「!?どういう事ですか、ダ・ヴィンチちゃん!既に異聞帯は全部───」
「ま、そういう事ですね。現状かろうじて特異点の範疇に収まっていますが、時間の問題です。それも、私たちが全ての異聞帯を切除して人理が安定したから、人理側のサーヴァントが抑えてくれているだけでしょう。他の異聞帯があった時であれば、瞬く間に異聞帯へと成長してたでしょうね」
「……異聞帯は、空想樹がないと成立しないはずじゃ?」
「これはトリスメギストスにあの特異点のデータを読み込ませて漸く判明したことですが、ありますよ、空想樹。あの異聞帯のどこかに」
……ありえない、とは言いきれない。
少し前、修復に赴いた特異点で、丑御前というサーヴァントが特異点に空想樹を作り上げたことがある。
まさか、今回も誰かが人為的に?
「たった今帰還したお二人にこんなことを強いるのは大変心苦しいですが、あまり猶予はありません」
「敵の真意は不明、意図もさっぱり。カルデアへの軽い嫌がらせと言うには、あまりにも脅威だ。正直2人の脱衣現象が霞むほどにね」
「お二人には10時間の休憩を取ってもらった後、ストームボーダーと共に特異点へ突入していただきます」
日本列島全域という大きな特異点ならば、特異点修復にかかる労力は大きい。一刻でも休息の時間は重要だ。
隣のマシュの手を引き、マイルームへの道へと足を向ける。
「わかった。マイルームで休んでるね。マシュ、行こう」
「あっ、は、はい!」
…………今回はどんな特異点なのかな。
「なんですかこれ……あまりに惨い……」
「財団は時に冷酷でなければならない。今がその時なのさ。必要とあらば黒の女王だって丸裸にするし。それが財団だよ」
「酷さのベクトルが想像と違うっすよ!なんすか勝っても負けても引き分けでも時間切れでも不戦勝でも裸に剥かれるって!惨すぎる!」
「ちなみに財団は過去に各国の要人の97%をひん剥いたよ」
「バレたら財団終わりますよ!?で、でも3%は見逃してるってことは、ほんとに危ないお偉いさんには手出してないってことっすよね……」
「いや、残りの3%は存在しなかった」
「コワイ!」
SCP-1604-JP、メタタイトルは『戦ったところで運命は変えられぬ』。
SCP-1604-JPと、SCP-1604-JP-Fは、それぞれ製造元不明のチェス道具一式と、その周囲に現れる実在する人物の姿を模した人型実体だ。そしてこのオブジェクトの異常性は至ってシンプル、SCP-1604-JP-Fがチェス勝負を持ちかけ、試合が終了するとSCP-1604-JP-Fは対戦相手と衣服を交換した後姿を消し、模倣された実在の人物はSCP-1604-JP-F消失時に服を剥がれ全裸にされること。
そう、チェス勝負でどちらが勝っても負けても、服はひん剥かれる。チェスをしなくてもSCP-1604-JP-Fは時間経過で姿を消すので結果的に戦わなくても全裸になる。一度選ばれてしまったのなら運命からは逃れられないし、運命は変えられない。突然の脱衣に怯えながら運命を受け入れるしかない。なんて恐ろしいアノマリーなんだ……(棒)
しかしここは財団。有用とわかったのなら可能な限り使い潰すのが財団節。そしてこのアノマリーは悲しいことに優秀な部類で、無事使い潰されることとなった。
実在する人物の姿を模倣する人型実体SCP-1604-JP-F。実はこいつとのチェス勝負に勝利すると、翌日SCP-1604-JP-Fが模倣する人間をリクエストすることができるようになるのだ。
そして、SCP-1604-JP-Fはその人間の所持品も模倣することができる。あとは……わかるね?
所持品からの機密情報引き抜き祭りである。
「いやしかし、ゴルドルフ新所長とダークムニエル仮面の2人だけでこれだけ情報が集まるとはね」
「(ダークムニエル仮面?)そうですね、記録を見る限りここ7日間だけでかなり有用な情報を集めてると思います」
「どちらも後方組だからね、昼頃に勝負をしかければ書類も手に入るという算段が上手くいった」
ストームボーダーの地図、カルデア式言語翻訳魔術についての基礎(偉大なるアレクサンドリア恐るべきイヴァン可憐なる紫式部図書館)、ゴルドルフ・ムジークのアフタヌーンティー、カルデアの技術の結晶 防護魔術・加護山盛りのアーマー───
「───カルデアに召喚されたサーヴァントの一覧とそのマテリアル。これが一番のアタリだな」
「英霊は名前がバレると弱点まで知られるから、真名は秘匿するものである、っすよね」
「あぁ。そしてこれは敵方の弱点が山のように綴られ、積み上げられている、まさに宝物庫だ。矢張り───ゴホン、どうやらカルデアには君と同じ疑似サーヴァントや全く未知の英霊もいるようだから、必ずしもその通りとは言えないがね。しかしこれにはそういったサーヴァントの特徴や宝具、ステータスまで書かれているな?」
十数名ほど、知らないサーヴァントや水着サーヴァントがいるが。
ふむ……まぁFGOのアーケード版にはサンタ鈴鹿御前やらネブカドネザル2世やらだったり、アプリ版に実装されていないサーヴァントがいるから有り得ないこともないのか。
そして、想定通りにして、期待通りに召喚されているサーヴァントがいる。
「く、くくく……楸君。もしかすると、カルデアの皆々様はこの特異点に入ることすら出来ないかもしれないぞ?」
「え、どうしてっすか?」
「以前、あちらの世界では名前が重要と教えただろう?これを見てごらん」
「ん〜……?……ノーチラス?」
「そうだ、ハハハハ!」
「沈むぞ、ノーチラスはな?」
SCP-ち█ち█-JP-J『SCP-ち█ち█-JP-J』 執筆者:ukit
http://scp-jp.wikidot.com/scp-tintin-j
SCP-040-JP『ねこですよろしくおねがいします』 執筆者:Ikr_4185
http://scp-jp.wikidot.com/scp-040-jp
SCP-1604-JP『戦ったところで運命は変えられぬ』 執筆者:Zenigata
http://scp-jp.wikidot.com/scp-1604-jp
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