投稿遅れて大変すまないさん(初手謝罪に見せかけたジークフリート紹介)
活動報告にも載せてたんすけど5年近くやって来たゲームがサ終して心身共にバグってしまいこんな事態になってしまいました……
これからも投稿は続けていくつもりだけど不定期なので大目に見てクレメンス聖……
以下サ終発表前に書いた前書き
ダ・ヴィンチちゃんの藤丸の呼び方で永遠に悩む。
今作は女性の藤丸だけど作者は男性藤丸でプレイしてるから「〇〇君」に慣れすぎて「藤丸ちゃん」「立香ちゃん」に違和感湧きまくる。
あってんのかこれ。
あと一人称視点難しすぎるし話広げるのに困るから次からはちょっと変えます
特異点にストームボーダーの次元穿孔で侵入し、どこか暗い海の底のような場所に連れていかれたと思ったけどなんとか何とか戻ってこれた。
けれど、意識が戻った瞬間視界に入った光景は衝撃の物だった。
「し、シオンとキャプテン……?どうしたの?なんか様子がおかしい気がするんだけど……」
「はい。ストームボーダーがこの特異点に入ったからおふたりの意識が混濁し、声をおかけしても反応がない状態です。他のネモ・マリーンさんたちも似たような様子で、現在ストームボーダーはカルデアのみなさんとダ・ヴィンチちゃんでなんとか操縦している状況です」
シオンとキャプテンだけじゃなくてマリーンのみんなも?いや、キャプテンとネモ・シリーズは精神で繋がっている。キャプテンに何かあったならマリーンたちにも同じ影響があるのは不自然じゃないのか……
あれ、それなら……
「それならネモ・エンジンは大丈夫なの!?ネモ・エンジンも同じことになってるならストームボーダーのエンジンが止まっちゃうんじゃ!?」
「隣から失礼!エンジンの稼働はエンジンルームに一番近かったムニエル君が行ってくれてるよ!」
操作盤に真剣な表情で向き合いながら、こちらに一瞥も向けないほど切羽詰まった様子でダ・ヴィンチちゃんが言う。
確か、ゴルドルフ新所長とムニエルは謎の脱衣現象のせいで部屋に籠って通信での会議出席になってたよね。それじゃあ部屋にいたからエンジンルームに近かったムニエルがエンジンルームに向かった、ってことになるのかな。
外に出たくは無かっただろうけど、ストームボーダー墜落の危機に出てきてくれたんだ。
「ちょっと、これってどうすればいいの!?」
「まずいな……マリーンたちが居なくなっただけで俺らの仕事量が倍以上になったぞ、これじゃあ作業が間に合わん!」
「私手一杯だからこっちお願いできる!?」
「ムニエル聞こえてるか?今からそっちに指示を出すから、エンジンルームは頼んだぞ!」
カルデア職員の他のみんなも頑張ってくれてる。みんなの焦りっぷりから本当にヤバい状況が伝わってくる。
私も自分で出来ることをしないとな。
「メドゥーサとサンタ・リリィも怠そうだけど、大丈夫?キャプテンとシオンの異変と関係が?」
「こっちは、意識はハッキリしてるわ。そっちの海神との関係は知らない、けど……」
「うぅぅー……!凄くキツいですぅ……なんなんですかコレー!」
サーヴァントの皆に起こった異変。キャプテンは意識がハッキリしてなくて、二人は倦怠感。でもマシュとダ・ヴィンチちゃんは何ともないみたい……?
あれ、こんな状況って前にもあったような。
確か……そうだ、第六異聞帯に入った時も同じような状況が起こってた。
第六異聞帯は妖精の國だった。
人類が霊長の座に君臨していない、基本的に妖精たちだけの世界。
あの異聞帯にも人類はいるけれど人の英霊が生まれる下地は無くて、人類史そのものを拒絶する世界だったから汎人類史のサーヴァントは活動不能になるほどの不調に陥っていた。
あの時のネモは意識に問題はなかったけど……ネモとホームズはすごく怠そうにしていた。
ダ・ヴィンチちゃんはホムンクルスだから普通のサーヴァントとは違って大して影響は無くて、マシュも疑似サーヴァントだから大丈夫だった。うん、そう考えると今の状況とすごく似てる気がする。
「ダ・ヴィンチちゃん、ダ・ヴィンチちゃんは不調とかはないんだよね?」
「え?うん、ストームボーダーが墜落しそうでヒヤヒヤしてるけど倦怠感は無いかな」
「だったら、うん、やっぱり。特異点に入る前の会議で、今回の特異点は第六異聞帯と同じような外部からの侵入を拒む特性があるって言ってたよね?もしかしたらメドゥーサとサンタ・リリィの不調はそれかも」
「────妖精國と同じ特徴か!なるほど、一理あるね。もしかしたらそもそも、外部からの侵入を拒んでいるんじゃなくて人類史そのものを拒絶してるっていう可能性も出てきたよ」
「な、なるほど。お二方の不調は特異点の特性でしたか………ですが、ネモ船長は様子が違うようです」
確かに、キャプテン・ネモの様子はサンタ・リリィやメドゥーサとは違う。呼んでも反応しないらしいし、うわ言のように暗い言葉を呟いている。
けど、これも何となくわかる気がする。
「合ってないかもしれないけど、何となく原因がわかる気がする」
「何か気づいたんだね?それじゃあマシュと立香ちゃんはネモとシオンの対処をお願い!こっちは軌道修正とネモ・シリーズが抜けた穴を埋めるのに手一杯で頭がパンクしそうでね!できるだけ速めにお願い!」
「わかりました!お手伝いします、先輩!」
マシュと一緒にシオンとキャプテンがいる所に駆けつける。
二人とも目は開いてるけど、眺めている先は虚ろ。今もブツブツと何かを呟きながら虚空を見つめている。
二人の前で手を振ってみる。反応なし。
肩をゆすったり声をかけてみても返事もない。完全に二人に届いてないみたい。
「滅亡 カルデア 逃れられない 誰も救えない」
「逃亡 反乱 勝てはしない 見殺し」
「「手を伸ばしても 届かない」」
キャプテンとシオンの二人が呟く。口から漏れてる言葉はそれぞれ違うみたいだけど、暗い感情の発露のよう。
そして二人が同時に重ねた言葉。
「……やっぱりそうだ」
「えっと、先輩?シオンさんとキャプテンには一体何が起こっているんですか?」
「ちょっと説明が難しいんだけど、特異点に突入した後、変な声が聞こえたんだ」
「声、ですか?」
「うん。それで気がついたら海の底みたいな場所にいて…………マシュの声が薄らと聞こえたから現実じゃないって気づけたんだけど、二人も同じことが起こってるんだと思う」
あの時見た、肌にまとわりつく泥のように重たい海の底。そして聞こえてきた嘆きの声。
どうして私とキャプテンたちとシオンだけがそうなったのかは分からないけど、キャプテンたちに同じことが起こってるのは間違いないはず。
「海のような場所……精神世界や心象風景のような物でしょうか?ですが私たちには心や夢に干渉する
「だけど今から召喚できる状況じゃない、だよね。でも多分大丈夫だと思うから、安心して」
「何か方法があるんですか?」
「うん。少し待ってて、マシュ」
あの海の底のような場所から出る時、私は目を開けることを意識した。そしたら上、海面の方から光が差し込んできて、ストームボーダーの方に意識を戻すことが出来た。
それなら、目を閉じることを意識すればまたあの海の底に行けるんじゃないかな?
「キャプテン、シオン。手、借りるね」
何となく二人の手を握りしめ、ゆっくりと目を瞑る。
目を、ともすれば心を閉じることを意識する。明るい室内が見えなくなる。暗い、だけど二人の手の温もりが感じられる。
目を開いたなら、いつかは目を閉じるんだ。たまには
目を開ける。
そして、聞こえてくる声に耳を傾けて─────
「成功、かな」
気づけばまた海の底のような知らない場所に出ていた。
暗い。苦しい。息は出来るけど息苦しい。息を大きく吸おうとすると胸がツキっと痛む。
マシュはここを精神世界や心象風景のような物かと推理してたけど、もしそうならこの痛みは誰かの後悔の痛みなのかな。
「あっ、そうだシオンとキャプテン探さなきゃ!」
「いいえ、その必要はありません」
「うん。僕たちはここにいるからね」
「え?」
背後から聞こえてきた声に振り返る。
この場所はどこを見ても何も無いし、それに暗くてどう二人を探せばいいのか考えてたところに声をかけられてびっくりしちゃった。
背後から聞こえてきた声は、多分、シオンとキャプテンの声。
でも、なんと言うか…………
「…………シオン?」
「はい、お久しぶりです。もう会うことはないと思っていましたが、望外の再会でしたね」
「…………ネモ?」
「正確にはトリトン、かな。会えて嬉しいよ立香」
振り返った先にいた二人の姿は、いつもとかなり違っていた。
シオンはなんだか幼くて、十歳前後ぐらいに見える。見覚えなんて無いはずなんだけど、どこかで見たような気がする姿だ。
そしてネモ、というかトリトンを名乗ったネモに似た男の子は、人魚のように足が魚の尻尾になっていた。海の神様だから人魚の姿、なのかな?
「えと、トリトン……はネモと一緒にいる海の神様なんだよね、うん、わかる。けど、なんでシオンはそんな姿に?」
「彼女はシオン・エルトナム・ソカリスの一側面…………をアトラス院の分割思考で再現して残した、分割思考の一パターンだよ」
「トリトン、
そんなシオンの抗議にいつものキャプテンでは見られないような爽やかな笑顔でトリトンが笑う。
うん。なんだか
「へ、変な感じ…………」
キャプテンはこんな笑顔を見せてくれないし、何故か私はシオンの子供姿にすごく見覚えがあるし……ちょっと変な感じだ。
「それで、貴方はどうやってこの場所に?私とキャプテンは契約で繋がっているので固有結界のようなこの場所に二人引きずり込まれたのは理解できますが、貴方は別でしょう?」
どうやらシオンはこのまま話を進めるらしい。まだ私は二人の姿の変化に慣れてないというか、違和感を飲み込めてないんだけど今は緊急事態。急がないといけないからシオンに乗っかることにする。
「えっと、説明が難しいけど……なんとなく目を閉じたら、かな?一回私もこの場所に連れてこられて、なんとか出ることはできたんだけど。目が覚めたら二人とも様子がおかしかったから、私と同じような状況になってると思って…………二人を起こすために、二人の手を繋ぎながら目を閉じたら、またここに来れたの」
「なるほど、例のごとくレムレム体質でこちらに滑り込んだんですね」
「えっこれそうなの?言われてみればそんな気がしなくも……あれ、これレムレム睡眠かな?違う気が……」
「なんで貴方が把握してないんですか……」
私は何故かよく意識を失い、精神だけ別世界や特異点に飛ばされることがよくある。通称レムレム睡眠。
突然意識を失うとだけ切り取って聞くと重大な病気じゃないか不安になる体質だけど、今のところ私の体は健康そのもので、特に病気とかは見つかってないらしい。そしてシオンは今回私がこの場所に入ってこられたのはこのレムレム体質が理由だと推測しているようだ。
いやでも今回は眠ってる感じがまったく無くてェ……いつもも眠ってる自覚はないけれど、今回は特にそんな感じがしない。いつものレムレム睡眠とは少し違う感じがするのだ。
って、私のことは今はどうでもいいんだった。
すぐに二人に起きてもらわないと!
「えっと、二人とも、目覚めることってできる?コツは私が教えられると思うから、はやくストームボーダーに戻って欲しいの!」
「うーん、どうかな……」
だけど返ってきたのは曖昧な返事だった。
「立香。立香にはネモの姿は見える?」
「え?ネモ?トリトンの中に居るんじゃないの?」
「うん。ここではネモと僕は別人として完全に分かたれてるみたいなんだ。ネモはそっちにいるよ」
そう言ってトリトンが指さした先は……何も無い虚空だった。
「え……?誰もいないけど……」
「やはりか……まぁそんな気はしてたけどね」
「???」
「こちらから補足しましょうか」
トリトンの言っていることを理解できず頭にはてなマークを浮かべていると、隣からシオンが説明してくれるらしく何処か見覚えのある仕草……いつもの大人シオンが指を立てて説明するあの仕草をしながらそう言った。
「立香にはさっきの声が聞こえたかい?」
「え?あぁ、あの何処からか響いてくる声?」
「えぇ。どうやらこの空間では先程の声が3パターンの文を繰り返し唱えているようでして。今回のパターンは『沈む水底 伸ばすは腕 我が手届かず オウムガイ』という物でしたね」
「うん。そこからわかる通り、この空間には『手を伸ばしても届かない』という性質が付与されているんだ」
「手を伸ばしても届かない?」
そう言われてなんとなく二人に手を伸ばす───が、確かに二人に触れられない。
壁のような何かがあるわけでもなく、ただ何故か……『伸ばしてもどうせ届かない』と思ってしまい、途中で伸びる手を止めてしまうのだ。
「そして僕にはネモの姿が見えるが、手を伸ばして触れようとしても声をかけてもネモには届かないようで、ネモは俯いて海底に座り込んだままなんだ」
「えぇ。私にはキャプテンの姿は見えませんが、代わりに別の場所で私のメインの姿が見えます。ですがトリトン同様私にも同じことが起こっているようで、メインの私に干渉することができませんでした」
そう言って子供シオンが指を指すが、トリトンの時と同じで指の先には何も無い。
ただ広い暗闇が続いているだけだった。
「そして不運なことに私もトリトンも、お互いの体のメイン、つまり体の主導権を握っている側ではありません」
「僕は本来ならネモと混ざりあっているんだけれど、困ったことに分断されてしまったからね……」
「私たちだけで目覚めることも可能なのかもしれませんが、彼女たちをここに置いていくことには不安があります。ずっとメインの私が呟き続けている陰鬱な言葉もそろそろ聞き飽きて、はやくここから出たいのは山々なんですけどね」
そういえば、ここに来る前のシオンとキャプテンはずっと何かを呟き続けていた。子供シオンとトリトンはその声が聞こえているのかな。
でも、それだとどうしよう……触れようとしても声をかけようとしても届かないなら何もしようがない。
「手詰まりかも……」
せっかくここまで来れたけど、こんな所で行き詰まるなんて。ほんとにマーリンがいてくれたら良かったんだけど……
「いや、二つほど方法がないことも無いよ」
「え?」
トリトンの言葉にバッと俯きかけていた顔を上げる。まさか打開策があるとは思わなかった。
「さっきの声、聞いたよね。『我が手届かず オウムガイ』って」
「うん……。それと何か関係があるの?」
「多分、というか十中八九、僕とシオンがここに連れて来られたのはこの特異点の『ノーチラス』が関係してると思う」
ノーチラス。ネモの宝具である潜水艇の名前がノーチラス号だったけど、さっきの声とどこに関係性が……?
「ノーチラス。確かにラテン語でオウムガイは
「ああ。実際、僕の中にあるネモの残滓とノーチラスが反応し続けているんだ。この特異点のどこかにあるであろうノーチラスに共鳴するかのように、ね」
そして、トリトンは一息吸ったあとこう言った。
「だから、シオンがここに連れてこられたのは僕に理由がある。シオンだけなら、僕と契約を切ればここから出ることも可能だと思う」
契約を切る、それはつまりマスターとサーヴァントの関係を断ち切り魔力のパスを分かつということ。
サーヴァントはマスターから供給される魔力によって自身の体を構成する他に、現世に留まり続けるための楔としてマスターを利用する。サーヴァントがマスターと契約を切るのは自殺行為に等しい。
「トリトン、それは出来ないって分かって言ってますね?貴方が退去すれば、それこそストームボーダーの運航に影響が出ます。彼女がわざわざここまで起こしに来た意味がありません」
「うん、分かってる。だからこれは最後の手段。もう一つ考えてる方法が上手くいかなかった時のとっておきだ」
「とっておきなんかじゃありません。自身の身を削るその方法は奥の手でもなんでもない悪あがきに過ぎません」
うん。これには同意だ。
ネモ、そしてトリトンはカルデアにとって大事な仲間だ。こんな所で失いたくないし、失うわけにはいかない。
絶対にシオンとキャプテンの両方で起きてもらわないと困るし悲しい。
「それはナシってことで。それで、もう一つの方法は?」
「あはは、まぁ君たちは反対するって分かってたけど、圧が思ったよりも強いね……うん、まぁもう一つ方法がある。確実に成功するかは不明だけどね」
「勿体ぶらずにはやく話してください、トリトン。あまり時間はかけられません」
子供シオンが急かすようにトリトンの肩を叩───こうとしたけどやっぱり届かなくて、それに観念したようにトリトンが笑いながら口を開く。
「一人、管制室に来ていなかったサーヴァントがいるだろう?彼を探して欲しいんだ。彼はどうやら冠位として召喚されたみたいだからね、きっと無事だろう」
「か、冠位!?それってグランドグラフシステムでグランドサーヴァントに選出されたサーヴァント、ってわけじゃなくて!?私、召喚した覚えないんだけど!?」
「君たちが特異点攻略に向かっている最中にカルデアで勝手に召喚されたからね。全く、自力でこっちにやって来るなんて本当に冠位英霊は規格外だよね」
「ああなるほど、彼のことでしたか。安心してください、貴方も面識があるサーヴァントですよ」
「おっと、真名は会ってからのお楽しみにしようじゃないかシオン。せっかくの機会なんだから、ね?」
通常の霊基でも万夫不当の英傑であるサーヴァントたちの、更に上の強力な霊基で召喚された英霊。冠位英霊とも呼ばれる、英霊たちの頂点に立つ英霊たち。
グランドサーヴァントと召喚される英霊たちは能力も逸話も知名度も最高峰で、私たちカルデアは今までもビーストの討伐や困難な状況の打破に手を貸してもらってきた。
「本当に緊急事態の自覚あるんですかねこの海神は……ですが、これでやる事は決まりましたね」
「う、うん。もう一人のサーヴァントを探す、だね。でも探したあとはどうすれば良いの?」
「彼を見つけたら、ここに連れてきて欲しい。管制室じゃなくて、僕たちがいるこの場所に、だよ。あとは多分……なんとかなるんじゃないかな。勘だけどね」
勘って……でも、ネモはこういう時適当なことは言わない。多分ネモと近しい性質を持って召喚されたトリトンも、きっとそういう所は同じのはず。
だったら、うん。信じよう。トリトンのことを。
「わかった、すぐに見つけてくるね!」
そう言って、目を閉じる。瞼だけではなく、その奥の瞳も閉じることを意識する。二人の顔が見えなくなる。けれど、手に何かの温もりを感じる。多分現実の二人の手の温もりが戻ってきたんだ。
目を閉じたのなら、いつかは目を開けるんだ。私にも諦めたくなる時や殻に閉じこもりたくなる時はある。それでも手を伸ばし続ける限り、掴める誰かの手はあるはずだから。
目を開ける。視界が、二人の顔がぼやけてる。どうやら今回は上の方に登っていく必要はないみたい。
「少しの間だけ待っててね!」
二人が手を振った。顔は見えないけど、多分トリトンは爽やかな笑顔で、子供シオンは大人シオンが浮かべてるようなニヒルな笑みだ。
更に視界がぼやけて行く。どこからか溢れ出す光でついに何も見えなくなる。
目覚めの時だ。
「あっ、おはようございます先輩!お二人の様子は大丈夫でしょうか!」
「おはよう、マシュ。残念だけど、あっちの方じゃ私だけだと二人には干渉できないみたい」
目が覚める。見慣れた管制室に、見慣れた可愛い顔のマシュ。元の場所に戻ってこれたみたい。
結果の方を聞いてくるマシュにあちらの海底のような場所の性質について話す。
「そう、ですか……でしたら一体どうすれば……」
「安心して。キャプテン、というかあっちにいたトリトンが言ってたんだけど、メドゥーサとサンタ・リリィとは別のカルデアに召喚されたサーヴァントをこっちに連れてきたらいいみたい。それもトリトン曰く、カルデアに召喚された残りの一騎はグランドサーヴァントらしいよ!」
「本当ですか!それは特異点の早期攻略に期待が出来ますね、先輩!」
確かにそうだ。グランドサーヴァントは皆強力で、ともすれば早くに決着がつくかもしれない。
でも……今更だけど、グランドサーヴァントが召喚されるってことは、それだけ今回の特異点が厳しい可能性もあるってことだよね?なんだか今回の特異点は今までの物とは違った特異点みたいだし、ちょっと不安、かも。
それでも……いまの状況を打破する策は見つかった。とにかく今は召喚されたというグランドサーヴァントを探そう。
「グランドサーヴァントを探しに行こう!マシュ!」
「はい!先輩!そういえばさっきほどの会議で、食堂の方で酔っ払っているとシオンさんが話していましたし、とりあえず食堂に向かうことにしましょう!」
そうと決まれば善は急げ、善じゃなくても今は急げということで、
「いや、その必要はないよ」
食堂に向かおうとしたその瞬間。
管制室の扉が開き、外から一人の人影が入ってくる。
「途中からだけど、外から聞いていたとも」
「あ、あなたは!」
「ノア・ゾーハル。ライダーの冠位を持つサーヴァントとして此処に現界を果たした!」
「ノア!」
その影の正体はノアの方舟の逸話で知られたる英霊、ノアだった。
ノア。人類の祖とされているアダムから数えて10代目の子孫にあたる神の子。神の言葉を授かり、大洪水に備えて方舟を造った義人。紆余曲折の複雑な経緯を経てネモ・トリトンと合わさった霊基で召喚されたグランドサーヴァント。
お酒に弱い酒好きで、絡み酒するし酔うとすぐ脱ぐし、少しだらしないけれど。カルデアに呼ばれた聖人とされる聖者たちから尊敬の念を集める、かなりすごい人。
「ノアさん!これは心強い助っ人ですね、先輩!ですがノアさんはカルデアに召喚された記憶は無かったと思うのですが、いつからいらっしゃったのですか?」
「君たちが前の微小特異点攻略中にちょっと船にのってやって来たのさ。どうやら今回の特異点は僕と縁があるみたいでね、僕が選ばれたんだ」
そう言いながらノアはキャプテンの方に近づき、キャプテンの様子を見始める。
ノアはネモ・トリトンの体で顕現していて、キャプテンと似通った姿で寄り添うその姿は実の兄弟みたいで…………でもなんか酒臭い。食堂の方で酔っ払ってたってのは本当だったんだ。
「ん?そういえばこの特異点じゃサーヴァントは不調をきたすんじゃなかったっけ?ノアは大丈夫なの?」
「うん。僕は単独行動EXがあるからね。それに人理の後押しを受けた冠位の霊基で来てるから、少し違和感があるくらいで特に問題はないかな。ただ、僕の中のネモがこっちのネモと同様に影響を受けてね。何か異常が起きてるのは理解しているとも」
確かに、ネモの要素がある霊基なのはノアも同じだ。じゃあ、ノアはネモとシオンに起こった異変に気づいてこっちに来てくれたってことなのかな。食堂まで出向いて酔っ払ったノアを無理やり連れて来る必要が無くなったのは良かった…………
「ふむ、矢張りこっちのネモも呪いや魔術を受けているって線は無いか。てっきりこっちのネモが受けた呪いやらが霊基を共有している僕の方まで届いたのかと思ったけど、違ったみたいだ」
「うん。さっきトリトンと話したんだけど、ネモはこの特異点の『ノーチラス』に共鳴してるからこんな状態になってるんだって。呪いとかじゃないと思う」
「なるほど、外部じゃなくて内部に理由があったのか…………それで、この世界における人類最後のマスター。君は僕を探していたようだけれど、何か手立てがあるんだね?」
「うん」
ノアの問に頷く。
何か根拠があるわけでもない、ただの勘でしかない考えだけれど、あと一回までならあの海の底のような場所に行けると思う。
あ、でもどうやってノアを連れていこう……
私はレムレム体質で行けるけど、ノアは違う。どうやってノアをあっちに連れて行こうか……
「あっ、そうだノア!ちょっとキャプテンの手を握りながら私の手を繋いでくれる?」
「 ? 手?まぁ、いいとも」
「ありがとう!」
ノアがネモの手を繋ぎ、空いた方の手をこちらに差し出してくる。もちろん私もその手を取り、もう一方の手でシオンの手を繋ぐ。
私が最初にあの海の底のような場所に行った時はトリトンも子供シオンのことは知覚できなかった。けれど、二人の手を繋ぎながらあちら側に行ったさっきは二人のことを認識出来た。
だったら、私とノアでシオンとキャプテンの手を握りながらレムレム睡眠したら、あっち側にノアを連れて行けるんじゃない?
ちょっと無理矢理な推測な気もするけれど、うん。こういうのはノリと勢い!なんか、行ける気がする!
「ノア!今からシオンとキャプテンがいるところに連れていくからね!」
「何か考えがあるんだね?わかった、君を信じよう」
「ありがとう!じゃあ目を瞑って!行くよ!」
目を閉じることを意識する。まぶたの上から光が漏れて入ってくる。今までは完全に暗くなってたけど、何度も出入りしてるから変化が起こったのかも。やっぱりあっち側に行けるのはこれで最後かな。
だけど、掴んだチャンスは離さない。握った手は
──────目を開ける。
そして、誰かの悲痛な声を聞き漏らさないよう。その手からこぼれ落ちないよう。
確と耳を傾けて──────
「…………ここは」
「おかえり、立香。彼を連れて来れたみたいだね」
なんとかノアを連れだって来れた、あの暗く淀んだ海の底。今回はトリトンとシオンが最初から出迎えてくれた。
「トリトン……いつもは交代で体を使っているから、こうして対面で話せるのはなんだか新鮮だね」
「?僕は君と頻繁に会話を交わした記憶はないんだけど…………」
「あ、あぁ、すまない。平行世界の君たち………ネモとトリトンたちと会話した記憶が混ざっていてね」
トリトンとノアが向かい合ってる。ノアはここに来た時のキャプテンに似た姿のトリトンに困惑していた私みたいに、どこか慣れないような、知人の全く知らない新しい一面を見たような顔をしていた。
それに、ノアの視線がチラチラとトリトンの足元に向いている。やっぱり人魚の足が気になるらしい。まぁそうだよね、私も普通に気になってたし。
でも今はそれよりやらなきゃいけないことがあるから、こっちを優先させてもらう。
「それで、トリトン。ノアを連れてきたけど、何をすればいいの?私はてっきり、召喚されたグランドサーヴァントはマーリンのことだと思ってたんだけど。ノアに何をさせるの?」
「あぁ、そうだね。まずノアにはネモのことを見てもらおうかな」
「ネモ?むむ、確かにトリトン、君とネモは霊基が分断されてる状態みたいだね。ネモは一体どこに?」
「こっちだよ」
トリトンが私たちに手招きをして先導する。
私たちが数十本ほど歩いて──トリトンは人魚の足で泳いで──行くとトリトンは止まり、虚空を指さす。
「見えるかな、ノア。同じ体を共有している君になら見えると踏んで呼んでもらったんだけど」
「あぁ、見えるとも」
だけどノアにはネモの姿が見えているみたいで、何も無い空間に手を伸ばす……が、急に固まり、止まった自身の腕を興味深そうに眺め始めた。
「へぇ、これは……この空間に付与された世界のルール、みたいなものかな。どれだけ手を伸ばそうとしても途中で止まる。どうせ届かないと思わせて自ら手を止めるよう強いてくる。なかなか酷いルールだね」
「流石、義人ノアだ。理解が早い」
「体当たり!も、駄目か。体が勝手に制止する。勢いに任せてぶつかろうにも、そもそも海底だから勢いが出ない。というかここの水、全部水じゃないね?」
「そうだね、僕の海神の加護をフルで使っても操作できない。これは『水のような性質をした水ではないナニカ』で、ここ自体海の姿を形どった『どこでもないどこか』。僕の能力の全てが及ばない。海流でネモに無理やりぶつかろうとすることすらできない」
オリュンポス異聞帯で相対した機神にして海神ポセイドン。その血を引くポセイドンの息子の一人であるトリトンには海神の権能が色濃く引き継がれており、この海の底のような姿をした精神世界でも権能の力が及ぶと思っていた。
けれどトリトン曰く、ここは海の姿を取っていても海ではなく、海神の力が及ばないらしい。
トリトン、そしてネモは『虚数の海』と呼ばれる虚数空間でも海神の力、そしてネモの宝具である潜水艇の力を使うことが出来ていたけど…………なにか違いがあるんだろうか?
「……トリトン、ここは」
「…………あぁ。僕も君と同じ考えだよ」
「なにか分かりましたか?可能なら共有していただけるとありがたいのですが」
子供の姿になってから以前よりずけずけと物申すようになったように見えるシオンが言う。まぁいつもも物怖じしてる様子は見えないけど今は『いつもより多く回しております!』って感じ。あ、ほら「情報伝達が下手ですね。もしかしてそのコミュニケーションに難があるとことかキャプテンに引きずられてます?」って追撃した。これにはノアとトリトンも苦笑い。
「んー、僕が想定してたここの脱出方法なんだけど。当初はノアをここに連れてきて、僕とノアの二騎がかりでこの空間の主を倒そうって考えだったんだ」
「あーなるほど、ここって心象風景みたいなものって言ってたもんね。この空間の主……心の持ち主を倒そうってこと?」
「そう。世界にまで侵食する心象風景と言えど所詮は主を排除すれば瓦解する物。この空間が崩壊すればこの空間のルールみたいなものである『手を伸ばしても届かない』っていう性質も消えるし、さっさと二人を起こして脱出しようって寸法だったんだけど……」
「……この空間の主を攻撃できない何らかの理由ができたんですね?」
「……あぁ。僕と同じでネモ、そして『ノーチラス』の要素を持つノアが来てくれたおかげでようやくわかったんだけど……どうもここは既に主のいない精神世界らしい。この特異点にあるであろうノーチラスの反応が、こことは別の場所でする」
主のいない精神世界。
主のいない精神世界?
「それじゃあどうやって出るの?」
てかそもそも主なしで維持できる物なの心象風景って。
今までも固有結界を使うサーヴァントや魔術師を何人も見てきたけど、おおよそが術者の死亡や魔力切れで固有結界が解除されていた。
これじゃあ脱出できない。主がいないのに維持されてるなら時間経過での脱出も見込めるわけがない。
「いやぁー、あははは……困ったね」
「困ったねではありませんが。出れないじゃないですか」
「今回の特異点はその名に相応しい特異さみたいだね。さらに特異点のように独自のルールが定められていて、それでいて主なしに維持され続けている精神世界、か。多くの特異点も原因が排除されたら抑止力によって修正されていくっていうのに……」
ノアの言葉に頷いて同意する。変な特性があったりルールが定められていたりする特異点は多々あるけれど、今回の特異点は今まででも特に異質かもしれない。
今いるこの場所だって妙だし。
体中に押しかかってくる海の中にいるみたいな重圧はリアリティあるし、呼吸もキツくて息苦しい。だけど耳に水が入るような感覚も目に染みるような刺激もないし、息苦しいだけで窒息はしない。
そもそも、私はよく分かってないけど虚数の海とかいう海だけど海じゃないみたいな曖昧な場所でもキャプテンの海に関するスキルが反応するのに、この空間じゃあ使えないってのもおかしな話だよね。
「……兎角、この話は置いておくとして。ここを脱する方法がわからないのですし、何かほかの手がかりを探し出すとしましょう」
そうシオンが切り上げたところで
また、あの声が聞こえてきた。
どこかの誰か、多分この空間の主が漏らした後悔や悲嘆の感情の発露。
前触れもなく空間を震わせた暗い暗い声が、心を直接揺さぶる憂鬱な気持ちが、水を伝って全身に走る。
今回の声は最初に聞いたものと同じみたい。シオンたちは3パターンしかないって言ってたっけ。3パターン全部言い終えたからループ再生みたいに繰り返してるんだ。
「ん……?なんだい、今の声は」
ノアが怪訝な顔で辺りを見渡す。声の出処を探してるみたい。
「あぁ、そういえばノアには言ってなかったね」
「今のは不定期で発生する謎現象です。どこから発生しているのか、声の主は誰なのかすら不明。3パターンの文を繰り返し唱えているようです。しかもその内容はどれも聞いてるだけで気が重くなるようなものばかりで……ただでさえメインの私の独り言で気が滅入っているっていうのにたまったもんじゃありませんよ。ここは薄暗いですし息苦しいですし」
「待った、メインの君だって?」
そういえば説明してなかったなと、この空間に繰り返し鳴り響く謎の声と、シオンにしか見えないシオンのメインについてノアに話す。
「なるほど。てっきりノアの姿はシオンとリツカにも見えているものだと思っていたけれど、本当は二人には見えず。代わりにシオンには体の主導権を持つメインの思考が見えると。シオンのその姿はてっきりこの空間の何らかの性質かと思っていたが、元からその姿を持った分割思考の一パターンだったんだね。しかしそれなら……どうして君たち二人はネモやメインの思考パターンと分離させられたんだろうね?」
確かに。私にはもう一人の私の姿とかは見えないし、二人には何か共通点があったりするのだろうか?
共通点、共通点…………共通点と言えるのはネモ/トリトンとシオン、二人はアトラス院の技術である分割思考を使っている、ってことぐらいだろうか。
「二人にある共通点はアトラス院の分割思考を使ってるってことぐらいだよね」
もしかしたらネモに引きずられてマスターのシオンまで分離させられたのかもしれないけど……少なくとも分離させられてない私と違いがあって二人に共通するのは分離思考だと思う。
「一理ありますね。しかし、そうだとすると何故複数ある思考パターンの中で私だけが分離されたのでしょう」
「確かに。それにネモにもネモ・シリーズの皆がいるけど、分離されてるのはトリトンだけみたいだね」
なんとか一つ疑問を解消したかと思えば湧水のようにすぐ新しい疑問が湧いてくる。
なんで子供シオンとトリトンだけ分離されたのかな?ネモとトリトンはもとは別人(神)だからこの空間では各々別人として扱う、みたいな?でもそれだと
「トリトンと私の選出に何らかの意味があると仮定して推測するならメインの私とキャプテンをこの空間に閉じ込めるのに必要だったと考えられますが」
「僕とシオンの共通点だけで理由を割り出すのは無理があるかもしれないね」
「うーむむむむ…………」
頭を捻って苦しげな声が出てしまうくらいに考えてみたけど、思い浮かばない。
こういう時は大体シオンやダ・ヴィンチちゃんカルデア頭脳担当組、生粋のシャーロキアンのマシュが名案の提言やヒントの説明をしてくれるんだけど、今は期待できそうにない。
私もホームズみたいにカッコイイ推理が出来たら良いんだけど。いつも皆に頼りきりの弊害が出てきたかも…………
当然私も冴えてる時は名案出したりズバッと黒幕を言い当てたりしてるよ?してるんだけどね?本当だよ?でもちょーっと今は謎が多すぎるかなぁって思ったり思わなかったり?
ヒントが散りばめられてるとしても、そのヒントを理解する頭が無かったらヒントにも気づけない。もう少し理解が深まれば話は別だけど。
私、トリトン、子供シオン、ノア。私たち四人の間に沈黙が落ちる。
この空間みたいに重たくて息苦しくて、先の見えない暗闇のような、不安をかきたてる陰鬱さが染み込んだ沈黙が。
長くなりすぎたので分・割!文章も下手なら丁度いいところで切り上げるのも下手!続きは明日か明後日、もしかすると今日中に投稿するかも(自ら退路を絶っていくスタイル)
SCP知らん人用にSCPの説明盛り込むと説明口調が続いて陳腐になってしまうんじゃぁ……
次回からは三人称視点で頑張ってみるぞい
追記
SCP記事のリンクを貼り忘れるという痛恨のガバ
SCP-083-JP『ノーチラスと猫』 執筆者:kyougoku08
http://scp-jp.wikidot.com/scp-083-jp