彼女が好きなのは翼では無く司(じゃないかも)   作:初見さん

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翼、ストリートでフルートを吹く

「——♪♪ ——♪♪」

 

 人通りが多いストリートで星乃一歌は歌を歌う。日課として歌の練習は欠かせない一歌はLeo/need結成してからこうしてストリートで声を出す練習をしているのだ。

 

「ありがとうございました!!」

 

 数曲歌い、ある程度自分の実力を知ることが出来たので、そのままギターを片付けて場所を後にする一歌。その時見慣れた人間を1人見かけた。

 

「あれ……翼??」

 

 こんな所に1人で来るとは珍しい。翼は基本家にいることが多い。別に日陰者というわけではないし引きこもりでもないのだが。

 基本翼は咲希や司がバイトやらショーやらで家を空けることが多いため、両親や司からお金を貰って家事をするという一種の家計管理をしており、その余したお金の一部を許可を得てお小遣いとしている。つまり家がアルバイト先みたいなものなのだ。

 家がアルバイト先であり、家が翼の本拠地というか……なんだか言葉は難しいが、翼が家に出ないのはそういう事である。

 

「とりあえずストーカーしないと」

 

 翼ある所に一歌あり。一歌は大好きな人間の後をストーキングして彼の向かう場所についていく。そこには何人か大人や子供が集まった少しばかり座るところもある、小規模な場所に翼はいた。

 彼は黒いケースを床に置いたと思えば、そこからフルートを取り出して組み立て、楽譜を立てずに何か看板の様なものを立てて、そのまま構えた。

 

 ——♪♪ 

 

 そして聞こえたのは、某子供向けアニメの主題歌。とても……綺麗な音色だった。イントロからAメロもBメロも、何もかもフルート一本でそれを奏でる翼。楽器は違えど、一歌が凄いと思ったのは確かである。

 

「やばい……また翼に惚れそう。これで14回目……」

「良いぞ兄ちゃん!! もっと吹いてくれー!!」

「あぁ……心が浄化される……」

「懐かしい! 俺の昔の姿がここでまた現れる!!」

「ご清聴ありがとうございます。でも、あんまり騒がないで下さい、フルートはあんまり爆音出ないので」

 

 翼の言葉に客席から笑いが起こる。ふと、惚れ直した一歌に翼の視線がそそぐ。少し笑って翼はフルートをまた構えて合計3曲、一歌も聴きなれた曲を演奏した。

 

「今翼が私にファンサしてくれた」

 

 おもしれぇ女一歌である。

 

 ☆

 

「フルートは人に聴かせるものじゃ無かったんじゃないの?」

「背に腹はかえられぬ事情があった」

「どういう事?」

 

 演奏が終わりたまたま会ったという体で、2人で帰ることになった翼と一歌。彼に事情を聞くと、彼は妹の咲希に欲しいメイク品を買ってあげたらしく、今あるお小遣いに一抹の不安があったそうだ。

 

「流石にバイトもしてない俺がお小遣いとして司兄さんや両親から貰ってる額を増やせなどと愚かな提案も出来ないからな」

「咲希を甘やかさなければ良いんじゃないの?」

「可愛い妹の為なら戦車の一つや二つ買ってやるのが俺だ」

「今度咲希には私からお説教しておくね」

 

 将来のお姉ちゃんとして。そう心に思った一歌である。だが、だからといって何故ストリートで演奏をしているのかと聞くと……

 

「ストリートは演奏を聞いてもらう場所であってお金を貯める場所ではないのだが……今回は事情によって何日か流しをやったんだ」

 

 三曲50円。そう看板に書いて、翼は少しばかりお金を頂こうと思ったと供述しているが……

 

「役所の申請も簡単だったからな……って一歌どうした?」

「三曲50円って安すぎない??」

 

 一歌が気になったのは金額だった。別にぼったくれとは言わないが、翼の実力ならもう少し望んでも良いはずではないか……

 

「いやお前考えても見ろ。知らない奴が知らない実力でフルート引っ張って演奏するんだから50円で充分だろ」

「それは……まぁ……分かるけど……」

「それにだ……ほら」

 

 翼はポケットから一枚の1000円札を出した。

 

「別に稼ごうまではあんまり考えてなかったんだが、たまに俺の実力を認めてくれてお札一枚くれる人もいるなら三曲50円も悪くねぇだろ……というか数枚くれたわ……申し訳ねぇな」

「良いんじゃないの、それだけ翼の実力が認められたって事でしょ」

「俺が認めて欲しいのは家庭用フライパンの実力だけなんだが」

「翼将来何目指してるの?」

「天馬家のコック」

「じゃあ私が翼を養うね」

「貴様に養われるほど俺は死んでねぇ」

「大丈夫、貴方はこの部屋にずっといれば良いんだよ」

「きっとその部屋の中に誰もいない」

「中に誰も……いませんよ……?」

「プロセカデイズ」

「何それ? カゲロウなら知ってるけどミク可愛いけどミク好きだけど」

「うるせぇよミク狂信者」

 

 そういえば、お金は何に使うのか。そう一歌は聞いたが……

 

「咲希のおねだり用です」

「咲希、お説教……後、翼はもっと自分のためにお金使いなさい」

「バイトしてないで兄さん達からお小遣い貰う男が以下略」

「別に翼は無駄遣いしてないでしょ」

「たまに抹茶のお菓子買ってる」

「痩せてるなら良いよ」

「この前咲希が読みたがってた漫画買った」

「このシスコン!!」

 

 ☆

 

「というわけで咲希は翼におねだり禁止」

「うぅ……まさかお兄ちゃんがそこまでアタシにお金使ってるなんて……」

「大体何で咲希は自分で買わないの? バイト代あるでしょ?」

「ある……でも、たまにね……『わぁ、これ可愛い!』ってお兄ちゃんの前で言ったらその翌日すぐにその品物がリビングのテーブルに……」

「「やっぱりシスコンだ」」

「それは翼君が悪いね……」

 

 後日レオニメンバーは一歌を通して咲希にお説教の場面があったのだが、翼がシスコン過ぎるからダメだという事で翼と咲希両者が一歌と志歩、穂波から説教を受けたのだった。

 

「なぁ、咲希……何か欲しいもの……」

「お兄ちゃんそろそろいっちゃんに殴られるよ」

「なんでさ?」

「アタシよりいっちゃんにあげなよ」

「一歌には別のサボテンとかミクの人形とかあげてるけど?」

「よし、いっちゃんにもお説教しておかないと」

 

 後日一歌も怒られた。それ以降翼がストリートする機会は減ったが、たまに楽しみにしてくれる子供や大人がいるのもあり不定期で流しをしているらしい。

 

『皆さんが知ってそうな曲、フルートで地獄へ流します。三曲100円』

 

 金額が安すぎて観客席が心配になったのもあり、後日三曲100円になったのはリピーターのおかげである。

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