「翼! いるか!!」
「兄さん?」
神山高校で変人が化け物に声をかけてきた。とはいってもただの兄弟なのだが。天馬司、翼の兄である彼は急ぎの用事くらいの勢いで翼に話しかけてきた。
「どうしたの?」
「翼、お前キッチンに興味は無いか?」
「誰が好き好んで台所だけで家決めるんだよ……親が家のリフォームでもする気か?」
「そういう話じゃ無い!」
「うるせぇし意味わからんし……ってなんだこれアルバイト?」
司が持ってきた紙はカフェのアルバイト募集チラシであった。そこには料理経験のあるキッチンスタッフ募集と書かれてある。
「最近咲希も元気になってるしオレも翼を手伝える機会が増えたからな。バイトの1つは出来るはずだがやってみないか?」
「お前達が早く家に帰ってこられるならやる」
「安心しろ、えむ御用達のカフェだから時間の融通は聞く」
「そんな事よりも大問題な発言が聞こえたんだが」
あの鳳家のご令嬢が御用達なら自分には無理だろと翼は訴えた。というかコネでは?
「安心しろ、やるのは簡単な調理だけだ。お試しも出来るから試用期間中にやめても構わん」
「なんで急に……」
「お前、昔から料理人になりたいんだろ」
「知ってたのか?」
「誰の弟だと思っている。オレの! あの天馬司の! スターの! 愛しの弟だぞ!」
「流石シスブラコン」
「お前には昔から苦労をかけている……たまにはこうした事もオレにやらせてくれ翼」
ここまで言われたらあまり否定も出来ない。修行がてらその案内を了承して、後日カフェに向かったのである。
☆
「貴方が新しい人?」
「はい。天馬翼と申します」
「そう……それじゃあ、まず試験するからそこの食材で何か作って」
カフェに入ると女の店長は採用試験をすると言って翼を案内した。翼も翼で簡単に入れるなんて思っていないので、出来る限りの事をやってみようと食材に手を出す。
「へぇ……」
「どうしたの?」
「こういうのってわざと意地悪で腐った食材使わせることが漫画とかで多いんで……でも、全部新鮮ですね」
「当たり前でしょ、このカフェは鳳家の御用達なのよ」
「お題とかあります?」
「自由がお題よ」
難しいなと、翼は笑うが迷いなく食材に包丁を入れたり叩き潰したりする。女の店長は少し驚きながら翼に質問を投げた。
「食材を丸ごと全部使うの?」
「芯とか茎でもミキサーかければドレッシングの一種になりますし、肉やら魚の骨や内臓は出汁に出来るので」
「意外と骨のある学生が入ってきたものね……」
「なんか味が重いな……軽めのサラダでも作るか」
天馬翼は家計の味方である。魚も肉も野菜も全て余す所なく使い、三人兄弟全員満足する料理を作るのもあり家計は火の車ではなく潤沢な水の車が言い得て妙かもしれない。つまりは食費に関しては家計が潤う程の倹約家である。それを可能にしているのは翼の料理力一本、それがものを申している。
「出来ました、洋風過ぎてあまりカフェには合わないかもしれませんが」
「自由と言ったのは私。気にしないで……それじゃあ、頂きます」
そうして彼女は翼の料理を口にする。魚の骨などのお世辞にも料理のメインには一切使えないものをお湯にぶち込んで作った出汁にさっぱりと塩胡椒で味をつけた塩スープ。魚をカルパッチョ風にしたものや肉を焼き、その上に野菜の芯をミキサーにかけてオリーブオイルなどで味付けたソースで……
「決めた、採用」
「速くないですか?」
「キッチンスタッフなんだからある程度敬語で話してくれれば礼儀は問題ない。それにフロアはともかく、どうせキッチンスタッフは私のワンオペだから良いのよ」
「キッチンワンオペ!?」
店長といえどもここのカフェは30席程あるはず……それをキッチンだけとはいえワンオペとはとんでもない人である。
「私、店長の
「それなら……はい」
「じゃあ、よろしくね。レシピここにあるから」
「教えてくれないんですか?」
「基礎的なことは出来るでしょう? 調味料の調合は私がやるから貴方は焼いて作って味付けて」
無茶苦茶だがなんだか理には適っていそうである。一応役割分担は出来ているから。こうして、翼はとある鳳家御用達のカフェで店長の水蓮寺とシェフをすることになった。
「後私店長だし、キッチン貴方しかいないから貴方が料理長ね」
「おふざけが過ぎません?」
☆
「ただいま」
「おかえりお兄ちゃん、つかさお兄ちゃんから聞いたよ! バイトの面接どうだった?」
「料理長にされた」
「はい??」
「おかえり我が愛しの弟よ!! 面接はどうだった!?」
「受かったよシフトも組んだけど家の事はやれるように調整した」
「それは良かった! お前なら受かると信じてたぞ!! 明日オレ達がえむに誘われてそのカフェに行くから宜しくな!!」
「店長聞いてねぇっす」
こうして翼は新しく人生初のバイトを始めることになったのである。
「コーヒーの淹れ方店長に教えてもらうか……」
「お兄ちゃん疲れたならアタシが肩揉んであげる」
「珍しいな、欲しいものでもあんのか?」
「むしろお兄ちゃんからもらい過ぎてるからやる」
「???」