「ここは……どこだ……?」
「待ってたぞ。天馬翼」
「えっ……なんで……KAITOがここに? てかお前本当にKAITOか??」
「僕は間違いなくKAITOだ。だけど僕は貴様自身だからな。貴様が来るのを待っていて何が悪い」
「はぁ?? KAITOの髪は青だし、俺はそんな白い髪をした記憶はねぇぞ?」
高校に入ったばかりの時、翼とKAITOは出会った。きっかけは高校で持たせてもらったスマホで初めて巡音ルカの曲を課金して聴きまくってた時に急に表示されたのが『untitled EX』
こんな曲を入れた覚えがないと思ったが、再生してみるとこの場所に飛んだ。そしてこの白髪のKAITOがいた。ただ、それだけのこと。
「ここは貴様のセカイ。貴様の想いがこのセカイを強引に作った」
「セカイ? 想い? なんの話だ?」
「簡単になるように教えてやる。だが、それをするにはお前自身認めないと行けない事がある」
「認めないと行けない事?」
——天馬翼が星乃一歌を愛しているという事だ。
「な……!? お前は……なんで……!?」
翼は驚いた。隠していたこの秘密を知っているのは後にも先にもほぼ自分だけ。いや、どこかでバレたとしたらそれは自分の演技不足を悔やむ。という杏が誰かに言ってないよなと考え、誤魔化しが足りなかったと思ったが……
「安心しろ。僕は貴様の想いから出来た存在だ。だからこそ、その事実がわかるだけ」
「なんとなく……予想だが。このセカイってやつは、俺が一歌の事が好きだから、その想いをひた隠しにしているから出来たのか?」
「そうだ。だが、元々この『隠されたセカイ』は作られる予定ではなかった。時に天馬翼。『
「余分とか過剰とか……?」
そこでふと翼はある程度の話を理解した。現実味は無いが、自分が星乃一歌を好きで愛しているが、自分の都合でひた隠しにしていた想いが耐えきれずこのセカイを作り上げた。だから、本来作られないセカイが新しく作られて……
「って事は、ここ以外にもセカイがあるのか?」
「僕は見てないから分からないがその可能性は高い。貴様のセカイはついでだ」
「じゃあ、このセカイを無くすには……そもそもここ出るにはどうしたら良い?」
「ここを出るならその機械の曲を止めれば良い。このセカイを無くすのは……お前が星乃一歌に想いを伝え結ばれる事だ」
「告白成功とか条件難しすぎないか?」
「笑わせるな。今までの星乃一歌は貴様に対してどんな対応をしてくれた? それに貴様は気づいているだろ。だってお前は……」
——星乃一歌が貴様が好きだからと貴様の兄に話をしていた会話を全て聞いているんだからな。
KAITOの言葉に驚きを隠せない。そして、一度のフラッシュバック……
——司さん。私、翼の事が好きなんです。きっかけは些細なことじゃないですけど……こういう事があって……
なんで知っていると思わず頭を抑える翼。そして、KAITOに対してお前は本当に誰なんだと聞く。
「言ったはずだ、僕は貴様。貴様は僕。貴様の想いから出来たセカイならその存在も貴様の想いから出来た存在」
「笑えねぇな……マジなもう1人の俺かよ」
「僕は貴様が星乃一歌をなぁなぁにするのは許さない。天馬翼。そろそろ現実を見ろ」
それが、KAITOと翼の出会い。そして、このセカイ『Traverso EX』が出来た理由……
☆
「粗茶ですが……」
「うん……結構なお手前だな」
おい待てお前ら何してんだ。
「「抹茶飲んでる」」
違う、そうじゃねぇ。さっきまでの話はなんだったんだ。
「なんか……いや……たまにセカイで一歌が好きだって大声で叫んだら楽になった」
「僕もだ。貴様が段々と星乃一歌に対して向き合い出しているのは心地がいい。まだ大嘘は止められないみたいだがな」
さいですか。そんな訳で今の翼はKAITOと2人でお茶を飲んでいた。酌み交わす盃は、そう、美しく。
「そういえば貴様、フルートが吹けるんだったな」
「ナイトオブナイツなら」
「充分だ。吹いてみろ」
「KAITOに向けてか?」
「僕も一応ボーカロイドだ。貴様の音に興味がある」
仕方ないと笑いながら翼はセカイでフルートを出した。ここは自分が強く望めば楽器などが出てくる不思議なセカイである。翼はフルートを組み立ててすぐに演奏を開始する。
「貴様……それが実力なのか?」
「ストリートでたまに吹くけど、聞かせるもんでもねぇだろ?」
「違う。何故そこまで出来るのに公で演奏しないんだ」
「一応してるって……俺は料理人目指してんだ。フルート奏者なんて興味は無い」
KAITOも予想が出来なかった。翼のフルートは一つもミスタッチがなく、音も綺麗で滑らかな音色。つまりだ、どこかで演奏会をしていても違和感の無いレベル。KAITOは寧ろもっと練習しろと言うより、コンクールに出ろとはっきり伝えた。
「俺は妹と兄さんが忙しいから家事しないといけないの。コンクールなんて参加したら時間が勿体無い。それに……」
「それに?」
「言ったろ、俺は料理人を目指している。フルートがうまく吹けても。俺は一歌みたいな偉大な人には音楽では並べないからな」
「それが……理由か? なるほど、貴様の根本は……星乃一歌に相応しい男じゃないからだと」
「笑えよ。俺は弱いんだ。一歌はプロになる女だ。生半可な職業やら夢やら持っててもアイツと付き合った時、2人で上手くいくかなんて分からないだろ」
「僕は認めないぞ、貴様がどうであれ星乃一歌の事は諦めない」
「お前は俺の分身みたいなものだろ? 別に諦めてない。でも、他の人の方が……って思ってしまう時がある」
「言っておくが僕は貴様の心だ。貴様が口で何を言っても根本の心までは変えられない」
「なら、結局はこれなんだよ……」
——星乃一歌はプロになる女だ。それを俺が大した覚悟もないのに、恋愛で壊すわけにはいかねぇんだ。
「一歌は良い子だ。俺が付き合うのはなんか正直勿体ねぇよ」
「面倒な人間だな」
「お前が俺ならお前も納得感は多少あるんだろ?」
そう言って、残った抹茶を啜りながら翼は落ち着いてKAITOに別れを告げた。
「僕は星乃一歌と付き合えないのは認めないぞ」
「分かってる。俺だって一歌と付き合いたい」
「なら、やれ。その料理人だのコックだのを本気で極めて、星乃一歌とは違うジャンルで並べば……」
「お前、薄々気づいてんだろ?」
——俺がここで終わったら……話が終わるぞ?
「なんやかんや言っておいて気合いは全開か」
「逆に考えろ、覚悟を決めれば一歌に愛してるって言えるんだ。ならば……天翔るペガサスと書き天馬、それを助長する翼はいつか風を鳴らすし一歌の心も鳴らせるのだ。今は弱気だが、翼は折れぬと心得ろ」
好きな人がいる。だが、自分では届かない。それでも、届くように、角度を変えて挑戦する。全ては、星乃一歌のために。
「俺は、一歌が、大好きだ!!」