「お疲れ様でしたー!」
天馬咲希は少しウキウキしていた。バイト終わりなので夜も遅くこれから何かする訳では無いが、楽しみな事があるからだ。それは……
「お疲れ様。咲希」
「つばさお兄ちゃん! 迎えに来てくれてありがとう!」
兄である天馬翼が迎えに来る予定だったことである。兄の司から最近咲希がバイトで夜遅いと心配しており、それならばと担当したのが翼である。
咲希は1人でも平気だと伝えたが、実はめっちゃシスコン兄弟がそんな事を許すわけもなく。
「咲希に何かあれば俺たち天馬兄弟心中の覚悟だ」
「重すぎるよ!?」
「さぁ、斬られなさい。死を感ずる事もなく……」
「恐ろしいよ!?」
咲希を(兄妹として)愛し、咲希に(兄妹として)愛されたい男達は1人のお姫様を大切にする。その態度は咲希にも通じており……
「つばさお兄ちゃん。ごめんなさい」
「何が?」
「最初、アタシが入院した時、お兄ちゃん淡々と『じゃあ家事は俺がする』とか『兄さんが大変なら俺がお見舞いに行く』って言ってたから……お兄ちゃんはアタシの事どうでもいいんだって思ってた。泣きもしないし無表情でずっとアタシの顔見なかったから……」
そんな事を言った気がする。あの時は確かに気が動転していたが、一番酷いのは司だった。かなり追い詰められた表情をしていたのも懐かしい。だからこそ、自分だけは泣かずに、冷静にと、物事を決める事にしたのだ。
「咲希が嫌な気持ちになったのも無理もない。あの時は今まで平和だったが、急に入院の準備とか、学校の手続きとかあったからな。兎に角俺に出来る事を探していたら咲希に対する返事も蔑ろになっていた。それに……咲希を見たら泣いてしまうしな。一番泣きたい奴が俺のせいで泣けないとか笑えない。司兄さんに咲希自身が一番悲しい事だろ」
「うん。最初はアタシよりも家の事が大事なんだなって思ったけど……毎日お見舞いに来てくれて……実は気づいてたよ、アタシが目を覚まさなかった時、お兄ちゃんが静かに大泣きしてたの。いっちゃんがたまたま見たんだって」
何度も泣いたと翼は笑う。あの時は本当に自分含めてみんな情緒不安定だった。誰も……悪くはないのに……
「つばさお兄ちゃんがいっちゃんと喧嘩したのとか、実はお兄ちゃんが過労でアタシ並みに本気で死にかけてた事も……アタシのせいだよね」
「だが、みんな生きている。それで俺には充分な出来事だ。翼があればみんな飛べるように、命があればみんな笑える。それに……」
「それに?」
「咲希みたいな病気持ちのやつでも、どんなやつでも。腹が減ったと言うやつに飯を作ってあげたい欲が湧いた」
「それ……お兄ちゃんの夢?」
「フフッ、それは良いな」
そう言って翼は咲希の頭を撫でた。少し寂しそうにした咲希だが、翼の頭を撫でる勢いが強くなり……
「痛い痛い!? お兄ちゃん禿げる禿げるって!?」
「よーしよしよし、もげろもげろ」
「もげろって何!?」
(髪飾りを)もいだ。その後、静かに髪を整えて髪飾りを整えてあげた翼。
「もう……お兄ちゃんのバカ」
「俺はバカだぞ……あたしって、本当バカ」
「なんの話??」
「さやほむ尊い」
「いつの話!?」
「リンテンの話……いや、カイテン??」
「それよりもさ。さっさといっちゃんに告白しなよ。好きなんでしょ?」
「なんで一歌が出てくるんですか?」
「星が綺麗とか海が綺麗ってさ。告白の台詞のやつでしょ? ほなちゃんが意味教えてくれたよ」
「ほう……お前にはアレが一歌への告白だと。そう思っているのか?」
「いや、絶対そうでしょ。って事はさ、司お兄ちゃんが好きって言うのは建前だよね?」
まさかそこまでバレかけているとは。多少適当にヒントをあげたつもりだが、穂波が相手では流石に負ける。1つ息を吐いた翼は手持ちのスマホを一度見て……
——貴様でなんとかしてくれ
「薄情者……」
「で? どうなの? これ以上誤魔化すならもっと確信言うけど?」
「たとえば?」
「いっちゃんの好意を見ても付き合わないのはアタシ達がプロになるからでしょ」
「そうだよ」
やばいと思った時には遅かった。おのれ語録め、今度アセンションの時になったら覚えておけ。
「いっちゃんは気にしないよ」
「だろうな。でも、俺には俺の考えがある」
「いっちゃんサボらないよ、練習もちゃんとやるよ」
「そこじゃなくて、そもそも俺はプロじゃない」
「星乃一歌、一般人と結婚の見出しでOKだよ」
「全世界に殺されそう」
最近幼馴染で結婚した『ともなんちゃら……りるさん』って声優がめっちゃ叩かれてるし。翼も刺されそうである。
「あの声優好きなんだけどなぁ、セツナさんとか可愛かった……」
「本当になんの話? 話を誤魔化さないで」
「あ、そいえばこの原作にもいるのか……奏さん……誰だこの人」
「本当になんの話!?」
「とりあえず今度一歌とキャッチボールするからその時にな」
「なんでキャッチボール??」
「一歌が青春したいんだってさ」
「もう青春してない??」
「後、俺が一歌をLOVEズッキュンな事は内密に」
「ほなちゃんくらいしか知らないからアタシから言っておくね。あ、しほちゃんは?」
「一歌にバレなきゃどうでもいいわ、ありがとう咲希。後、一歌貴様今度燃やすぞ」
「急にどうしたの!?」
「ってか穂波知ってんの!?」
「うん、ほなちゃんがね……」
——そもそも司さんが好きって思ってる人が一歌ちゃんと間接キスもしないし部屋に呼ばないよね……もしかして翼君……一歌ちゃんが司さんを好きって思うフリしてるんじゃないかな?
「って言ってて……よくよく考えてみたらアタシもいっちゃんとつばさお兄ちゃんが2人でいるとき明らかに相手に好きな人が別にいるような、そんな眼してなかったなぁって」
「名探偵になれるよ君たち」
2人は名探偵プリなんちゃら(咲希と穂波略してさきほな)
「あ、でもしほちゃんはまだ知らないはずだよ! 多分、可能性的に……さりげなく……なんとなく?」
「レオニにばれんのも時間の問題かよ……一歌にはマジで黙ってて下さい妹様」
「アタシ今度からフランって言えば良い?」
「違う妹様出て来た」
☆
「翼ー!」
——バシン!
「なんだー!」
——バシッ!
「これ終わったら翼の部屋で寝るからー!」
「国に帰れ貴様ー!」
——ズドン!
「嫌だー! 私は翼がいないと生きていけないー!!」
「ヤンデレは帰れー!!」
——メキメキィ!
「翼のベッドで寝てー! 翼の布団の匂い嗅いでー! 安心して丸くなるのー!!」
「猫か貴様はー!!」
——ニャーン!!
「楽しいねー! キャッチボール!」
「なんか割と面白くなってきたぞー!」
——ズドーン!
「翼ー!」
「なんだー!」
「つばさお兄ちゃん大好きー!!」
「咲希の真似すんな気持ち悪いー!!」
——ひでぶ!
酷いキャッチボールをしたので翼は一歌に話すら出来なかった。
「一歌……可愛いなぁ……」
「なんだってー!?」
「一歌ー! ヘソ見えてるの可愛いぞー!」
「へっ……? きゃあぁぁぁ!?」
その後翼は何故か殴られた。
「あいつ……グーで来やがった……しかも勝手に俺のベッドで寝てるし……」
「zzz……」