「はーっはっはー! よく来たな一歌!」
「お、お邪魔してます。司さん」
「兄さんうるさい」
「うむ! 咲希と翼から話は聞いた、突然の大雨で災難だったと思うが、今日は遠慮なく泊まってくれ」
「いっちゃん後で漫画を課してあげるね!」
「貸してあげるだろ、税金か?」
「なんの話??」
「うん、ありがとう咲希」
「文じゃ分からんか」
事情を伝えた翼は兄である天馬司、妹である天馬咲希に一歌を任せて、自分は料理に手をつけた。自分で作ったのが殆どなので、別に食って良いだろうと思い会話に参加せず無言で食べ進めていく。
「おい、翼」
「なに?」
「折角一歌が遊びに来てるんだ。少しばかり会話に参加したらどうだ?」
「俺が話すより兄さんが話した方が良いんじゃねぇの?」
「良いわけないだろう。すまんな一歌」
「いえ……翼ならそういうと思ってましたから」
「もう、つばさお兄ちゃん暗すぎ! もう少しお兄ちゃん見習って馬鹿みたいにうるさくなろうよ!」
「な!? 咲希! 馬鹿みたいにうるさいとはなんだ!」
「マジでうるせぇなこの兄妹」
「あはは……」
一歌からしたらお前もその兄妹の1人だぞと思うが、翼が似てるのは髪と顔つきくらいで、性格は司と咲希の真逆であるから珍しいと思う。
「そういえばこの筑前煮美味しい! これお兄ちゃんが作ったの?」
「ノリと勢いでな」
「この魚もいい焼き加減だな! これも翼がやったのか?」
「ノリと勢いでな」
「私このお味噌汁だったら毎日食べても飽きないかも……これ翼が作ったの?」
「ノリと勢いでな」
「「「どんな作り方なの(なんだ)!?」」」
ノリと勢いです。まぁ8割冗談で、単純に司が舞台稽古、咲希がバンドのキーボード練習で遅い時はめっちゃ料理してるので作れないものはあんまりない。
翼は司や咲希みたいに表立って何かをする事はあまりないが、裏での作業は得意である縁の下の人間なのだ。
「というか、さっきのいっちゃんの言葉ってプロポーズじゃん」
「え? あ……いや……えっと……翼……今のは……!?」
「一歌に暇があれば毎日でも作ってやるよ。兄さんがな」
「なんで俺なのだ!?」
「本当に翼お兄ちゃん鈍感過ぎて殴りたい」
「ねぇ翼、私ギター持ってきたから殴っていい?」
「何の脈絡もない殺人宣言はやめろ。後、咲希はなんて言ったんだよ?」
「お兄ちゃん散れ」
「怖いわ」
因みに咲希と司は一歌が翼を好きなのは知っているのだが、司は2人の幼馴染に好かれているのは知らない。つまりはこの兄弟は自分の事だけは鈍感なのである。
「んで、会話だっけか? えっと……最近どうだ?」
「お兄ちゃん会話下手くそ」
「女子校にいるし近況もわかんねぇから聞いただけなんだけど」
「お兄ちゃんが?」
「一歌が! 俺は兄さんと同じ高校だろ」
「そう言われてもそこまで大きな事はないかな。私は学校よりもバンドで何かあった時の方が多いし」
「一歌友達……」
「いるよ。でも、学校って大体体育祭とかのイベントくらいでしょ? 私はバンドでフェスに出させてもらったとかの方が多いからさ」
「一歌友達……」
「いるって! ってかなんで咲希も信じてないような目で見るの!?」
「いやー……冗談だよ???」
「なんで疑問系なの!?」
「こら、一歌をあまり揶揄うなよ?」
「いや、俺だって揶揄うつもりは無かったよ……焼きそばパンとミク信者じゃなければな」
「ミクと焼きそばパン食べながらベイパレードしたい」
「食うか遊ぶかどっちかにしろ。ってか、ミクに関しては結婚したいんじゃねぇんだ」
「結婚相手はいるから大丈夫」
「ちょっと待て聞き捨てならねぇ」
「確かにいるよな」
「いるねぇ」
「兄さんと咲希はなんで知ってんだ!?」
その瞬間翼に電流が走る。ちょっと待てよと。一歌が結婚云々は置いておいてだ。咲希が知っているのはともかく、司も知っているとは何事だ? 一歌は司が好きなはず、それを司が知っているという事はだ……
——もう既に一歌は司に告白していて、返事を保留にされているのでは……
「一歌……可哀想にな……」
「なんで!?」
「兄さん……早く返事しろよ? じゃないと……殺すからな?」
「なんで弟に殺人宣言されてるんだ俺は!?」
「あぁ……もしかしたらつばさお兄ちゃんとんでもない勘違いしてるかも……」
「いつでも牢に入ってやっても良いんだからな!」
「「不謹慎な事を言うな(言わないで)!!」」
「お兄ちゃん達一旦ステイ。とりあえずいっちゃんお風呂入ってきたら?」
なんか面白い事になってるので咲希は放っておいた。ただ、一歌と司に関しては恐ろしい発言をした翼に対して慌てるしか無かった。
「寝るぞ一歌」
「え? ベッド使って良いの?」
「使わせないと兄さんが怒る」
「なんで司さんが??」
「弟の部屋に寝るとしても兄さんの婚約者予定の人だしな」
「は?」
「え?」
なんとか翼の発言によって誤解は解けたものの、それならば一歌の好きな人(結婚相手)は誰なんだ問題に……
「まぁ……そりゃそうだよなぁ……」
「お兄ちゃん何話してるの?」
「なぁ、咲希」
「どうしたのお兄ちゃん?」
「一歌ってさ……バンドメンバーの誰かを好きになってるのかな?」
「仮に天変地異が起きてもそんな事ないから安心して」
「俺はまぁ……その方が良いと思うよ。一歌が女の子を好きでも」
「黙ってお兄ちゃん。というその方は絶対ダメ」
「相手は……もしかして咲希……」
「キーボードで殴るよお兄ちゃん」
咲希に呆れられた。
「そういえば、昔から気になってたんだけど、どうしてメッシュの色を黒髪にしたの?」
「兄さんにも言ったけど赤とか青とか不良だろ。黒髪こそ至福。黒髪最高。日本人男性であるならば黒髪で産まれたかった」
「ウチの家系と日本人に謝ってね。それにしても……何だかいっちゃんと同じ色だね」
「そいやアイツも黒髪か。なんか若干……微妙に青っぽい感じがしたんだが……」
「そんなわけないでしょ。お揃いだね」
「純粋黒髪と比較されると何とも言えねぇな。こっちは養殖黒髪だし」
「自分で染める事養殖って言わないでしょ」
「まぁ、一歌と一緒か……」
「嬉しい?」
「一歌の好きな人に申し訳ねぇな」
「やっぱり殴っていい?」