「いらっしゃい、翼」
「おう……お邪魔……します……グスッ……うぅ……ズズッ……」
「なんで泣きながら私の家に来たの!?」
「歩きながらルカ姉様の『抜錨』聞いてたら泣いてた……」
「翼って感情的だよね」
別に悪い事ではない。翼はクールな男の雰囲気ではあるし天馬兄妹の中で大人しい人なのだが、感動的な映画や曲に触れると泣き喚くので割と喜怒哀楽は激しいのかもしれない。
「もう……そんな女の声聞くより抜錨くらい私も歌えるよ?」
「貴様今ルカ姉様の事そんな女って言った?」
「忘れられぬものだけが美しくはないのでしょう♪♪」
「うわーん!!」
「泣くの早くない!?」
仕方ない。正直一歌の家に到着するまでに既に泣いていたのだから。一歌はそこに追い討ちをかけただけである。しばらく泣きじゃくった翼の頭を撫でる仕事が増えた一歌だが、彼女にとってはご褒美である。
「それで……急に呼び出して俺に何をしろと?」
「マッサージして」
「は?」
「揉んで」
「どこを?」
「足とか……腕とか……腰とか?」
「なんで?」
「翼が最近整体の勉強してるって咲希から聞いたから。後、私……疲れてるんだ……昨日も寝てないの……」
「しんみり言わないで、心配になるから」
あいつのせいかと笑った翼だが、流石に異性を揉むのはどうかと思う。そう一歌に伝えると……
「翼じゃないと嫌」
「志歩は?」
「断られそうだから嫌」
「穂波」
「上手そうだけど嫌」
「咲希」
「調子乗ると背中に乗ってくるから嫌」
「全部俺に当てはまるとは思わないんですか??」
「翼なら真剣にやってくれる」
「穂波も真剣にやってくれそう」
「穂波は胸が当たって女の私でもドキドキしちゃうから無理」
「いちほな尊い」
「翼、お願いするね」
どこからそんな自信があるのか。一歩間違えたらセクハラだと翼は思うが、一歌は……
(これでマッサージしてもらいながらさりげなくちょっと色っぽい声を出せば……翼は私を女としてみてくれるはず!!)
欲(翼)まみれである(翼だけに)。仕方がないと翼は訴えない事を条件にマッサージをすることにしたのだった。これで一歌が喘ぎ声で翼(の性欲)を救うビーストになれば……
「痛い!? 翼? すごい痛いんだけど!? あの……痛い! あの、翼先生!? 先生!? めっちゃくちゃ痛いです!?」
「ふくらはぎ硬いですね」
一歌の想いとは裏腹にガチの整体が始まった。ふくらはぎを摘むように揉みほぐしながら足の指先を動かして筋肉の縮小で硬いかどうかを調べながらほぐしていったり……
「痛い痛い痛い痛い!?」
「一歌さん足硬いです。後、ちょっと背中曲がってますのでゆっくりネジをしめますね」
「痛い!? ちょ!? 翼先生!? あああァァァ!?」
「あぁ……肩が少し丸くなりかけてますね……お客様ご無事ですか?」
「痛い痛い!? え!? なんで!? 普通にしてたら痛くないのに!?」
「ふくらはぎ使い過ぎてますね。力抜けるのが一番良いんですけど、恐らく間違ったストレッチしてるかもしれません。簡単なのはアキレス伸ばしが良いですよ。足の角度真っ直ぐにして、後ろに体重をかけながらゆっくり伸ばしましょうねー」
もしかしたら翼はドSかもしれないと思う一歌だが、翼はただ本気で整体の勉強から学んだ知識を一歌にやってあげているだけである。簡単に言うと実験台ですね。
しかも何がタチ悪いかというとだ……
「終わりましたよー」
「うぅ……痛い……ってあれ? なんか凄い足が楽なんだけど」
「これがハンドパワーです」
普通に足の調子が良くなった。大きく皮膚が変わったわけではないが、何となく緊張からほぐされたような、そんな感じがして足が軽い。
「翼……」
「何だ?」
「Leo/need専属の整体ドクターにならない?」
「勘弁して下さいよ、セクハラなんて言われたらたまったもんじゃねぇ」
却下である。その代わり翼の将来に新しい道が追加された。ついでに一歌結婚イチャラブルートもそろそろ開放してほしい。
☆
「というわけで咲希を実験台にしようかな」
「痛い痛い痛い!? いっちゃん何してくれてるの!?」
「翼から素人でも出来るマッサージ習ったから咲希で試してる」
「拷問の間違いじゃない!?」
「一歌、咲希が死にかけてるからやめたら?」
「えぇ……折角私の翼から習ったのに……」
「一歌ちゃん。本業の人がやるのと素人がやるのは違うからね」
何いってんだ穂波どっちも素人だゾ。一応翼は特殊な訓練を受けているので良い子は真似しないでくださいテロップを流しておこう。
「えっと……ふくらはぎを摘むように揉みながら……足を上下に……うわ、咲希……硬いよ……」
「痛い痛い痛い痛い!? え!? なに!? いっちゃんアタシの事本当は嫌いなの!?」
「そんなわけないじゃん。私はみんなの事好きだよ」
「一歌、逆に聞くけど翼は?」
「愛してる、食べちゃいたいくらい大好き……いっそのこと……ミクと翼の3人で結婚……」
「一歌ちゃんそれ以上はいけない」
3ピー音が聞こえそうだったので穂波は全力で止めた。因みにこのマッサージが終わった後、咲希の足は宙に浮かぶくらいの勢いで軽くなったのだが、今度は本業の人(ど素人翼)にやってもらおうとした結果……
「お客様、俺はど素人ですよ」
「「「「痛い痛い痛い痛い!!?」」」」
一歌よりもっと痛かったし終わったらもっと楽になったレオニの皆様である。
「あれ? 私本来の目的忘れてない?」
「どうした一歌?」
「本当はマッサージ中、喘いで翼を興奮させようかなって……痛い痛い痛い痛い!?」
「はっはっはっ……滅」
「いっちゃんドン引きだよ……」
一歌の声というか、声優の野口瑠璃子さんの声聞いてたら段々彼女の声しか聞きたくなくなるくらい好きになりました。自己解釈では野口瑠璃子さんは落ち着いた声なので、催眠術にかかってる作者です。歌めっちゃ上手すぎるのも大好きです。