『もしもし、翼? 一曲聴いてよ……月が綺麗だね。今だけは悲しい歌、聞きたくないよ。月が綺麗だね。逃れ逃れたどり着いた、この部屋……♪♪』
『オザキさんバカにするなよ叩かれるぞ』
『I LOVE YOU』の歌詞を『月が綺麗だね』と変化させるのは一歌くらいしかいない。普通に謝ってこい。
『翼、月綺麗だよ』
『んだな。ライトアップが輝くぜ』
『今度家で十五夜やるから来てね』
『分かった。なんか作ってやるよ』
『お団子がいいな』
『団子か、ならムキムキうさぎも作ってやるよ』
『ムキムキうさぎって何???』
本来ならヒョコッと出てくるのがうさぎ。ムキっと出てくるのがムキムキうさぎである。
☆
「あ、翼奇遇だね」
「あれ? 一歌、志歩も……奇遇だな」
「翼、バイトは?」
「無いぞ。今日は2人だけか?」
「咲希から聞いてないの?」
そう一歌から聞いてふと思い出した。咲希だけはバイトがあり、今日は特別遅くなると聞いていた事を。兄の司もバイトならぬショーキャストで遅くなるので、俺1人で歩いてたなと少し笑った。
「ねぇ、それならどこかでご飯食べない?」
「良いのか? 志歩と一緒なんだろ?」
「私も良いよ、翼行こうか」
志歩はそう言って翼の左手を掴んだ。一歌は少し眉を動かして志歩に聞く。
「ねぇ志歩、どういうつもり?」
「どういうって……幼馴染なんだから手くらい普通でしょ。ほら、一歌も」
「ふーん……それじゃあ行こうか翼」
「なんで2人とも俺の手握ってんの?」
「「いいから行こう」」
そう言われてもとは思ったが、なんか小さい時を思い出して翼も嬉しくなる。咲希達と手を繋いで公園から帰っていた記憶も少し薄れてはいたが、このおかげでまた思い出してきたから。
「一歌、志歩、ありがとう」
「「何が?」」
「ちょっと昔を思い出してな、懐かしいし良い思い出だから嬉しいんだ」
「それなら良かった」
「なるほど、志歩はこれを予想してたのかな」
「まぁ……ほら、お店入るよ」
そう言って3人はファミレスに入ってご飯を食べる事にした。
「翼は何にする?」
「お茶漬け」
「ファミレスにあるの!?」
「一歌よく見て、なんかあるよ」
「珍しいから気になった……まぁ無難にハンバーグかなぁ、和風の」
「私も普通のハンバーグにする。一歌は?」
「じゃあ……オムライス」
「焼きそばパン以外に好きなのか? オムライス」
「翼が昔作ってくれたのこれだから」
「え? あ……そうか」
なんかそうだった気がする。あんまりこれは思い出せない。一歌にも、志歩にも、咲希にも、穂波にも、作った料理を食べさせたし、色んな種類を作ったのだ。でも、一歌が言うなら翼が思い出せなくてもそうなんだろう。
「因みに志歩は?」
「私は無難にハンバーグ……ってかその時は咲希も混ざって一緒に作ったんだけど?」
「うっ……ごめん……あんまり覚えてない」
「別に、怒ってないし。翼色んな料理作ってるから仕方ないのは分かってる」
「翼は料理人だからね」
翼は料理人。だからこそ逆に、思い出の品くらいは覚えておけと自分に言い聞かせた。そんな中、料理も届いたので、3人で手を合わせてから一口ずつ食べる。
「翼、あーん」
「志歩??」
「あーん」
「翼??」
志歩が先手を打った。いや、そもそも志歩は翼なんて眼中に無いはずである。にも関わらずこの行動は何なのか……
「私のデミグラスだし、翼、和風食べさせて。私がハンバーグ好きなこと知ってるでしょ」
「いや……そうなんだけどさ……」
「なに? これから一歌ともやるんだから今更恥ずかしがらないで、前も食べさせあったでしょ」
なるほど、志歩は一歌と食べ比べをさせるために緊張を解す役割をしたのかと翼は納得する。一歌は一歌で目に光を無くしてはいるが、志歩の言う事に妙な納得をしてしまった。
「ってか前も……って言った?」
「前に私と翼が公園で歌ってた時ね」
聞いてないぞ浮気者翼。翼は少し苦笑いしながら、一歌にあの時の話をしておいた。志歩には何の悪気も無いのだとしっかりフォローを入れて。
「ほら、一歌もオムライス翼にあげなよ、そして私にも食べさせて」
「志歩ってそんなキャラだっけ……?」
「私は翼と一歌の仲を応援してるからね」
「う、うん……翼、あーん」
「おう、あーん……ほら、一歌と志歩も」
「「あーん」」
何ということでしょう。志歩の助言(?)のおかげで翼が一歌と志歩で二股をかけている様に見えてきたではありませんか。因みに志歩は一歌だけに聞こえる様に応援すると伝えた。
「なんかさ……お前ら可愛いな」
「「はぁ!?」」
何ということでしょう。翼の言葉のせいでもはや天然タラシ野郎翼ご本人が完成したではありませんか。見て下さい、一歌と志歩の顔は真っ赤です。
「いや、揶揄ってるんじゃねぇよ。なんか昔に戻ったみたいに俺に甘えてきたから」
「一歌は兎も角私は甘えてたっけ?」
「志歩は雫姉さんが多いけどさ、俺が雫姉さんと話してたら『遊ぼう』って誘ってくれたりしただろ」
「そういえば志歩は誰もいない時とかに隙を見て翼の隣にいたよね」
「そうだっけ?」
軽く嘘をついた。本当は覚えているが、恥ずかしいので知らないフリをした志歩。翼と一歌は少し微笑んで互いに料理を食べ進めた。
「美味しかったね。翼の料理には負けるけど
「うん。翼、今度オムライス作ってよ」
「良いぞ。それで……」
また、両手を繋がれていた翼は指摘しようとしたのだが……
「「幼馴染だからね」」
「まぁ……良いか」
結局志歩、一歌と手を繋ぎながら帰ったのは今日の思い出である。