「出店ですか?」
そう言ったのはカフェでキッチン担当をしながら料理人を目指す天馬翼。頷き、言葉を発したのはカフェの店長水蓮寺である。
「私はこう見えても若い人が好きなバーチャルシンガーのファンでね。もう少しで『バーチャルシンガーファンフェスタ』というイベントが行われるんだ」
「へぇ、知らなかったです。そのイベントも、店長の事も」
「それで、その日に開催者から許可を取って出店としてご飯を売ろうと思ったんだけど……」
なるほどと翼は納得した。だが、いきなりということや、きっとこのフェスは初音ミクも出るだろうと考えた翼は、万が一、一歌に誘われたら予定が被るので相談させてくださいと伝えたのだった。
☆
「いらっしゃいませ、バーチャルシンガー達の歌声のお供にコーヒーや軽食はいかがですか?」
結局バイト出店に参加したのは翼。一歌は別のメンバーとこのイベントに参加すると咲希から聞いたので、ここにいる事すら伝えてなかった。いや、伝えようとしたけどなんか歌を歌うとか聞いてたから練習の邪魔するのもと考えて、妹にも黙っていたのだ。2割は嫉妬の俺も誘えや。も、あったがよく考えたら翼は歌を歌わないし、歌よりも料理に人生をかけてるので他のみんなとは覚悟の種類が違う。なんか立場が違うだけで少し寂しい。
「すみません、コーヒーを1つ下さい」
「いらっしゃいませ。コーヒーですね……お入れしますので少々……って……」
「こんにちは翼くん」
「雫姉さん……ってあれ? 今日は騒がないんですか?」
コーヒーを頼んできたのはまさかの雫だった。翼は多分付き添いとかで来てるんだろうなと思ったが、雫1人でしかもこっそりと話しかけてきたので驚いた。
「今日はMORE! MORE! JUMP! のみんなで来たの、本当は紹介したいのだけど……今日はお忍びなのよ」
「なるほど。あ、雫姉さん後ろから来る」
「雫! 何してるの?」
「愛莉ちゃん、今このお店でコーヒーを買ってるのよ」
「へぇ、コーヒー? 良いわねわたしも頂くわ」
「はい、コーヒー2つですね」
そう言って、翼が本気で入れたコーヒーを渡す。ついでに2つサンドウィッチを手渡した。
「あら? 店員さん、こんなの頼んで無いわよ?」
「私は雫様のファンなので宜しければ貴方もぜひ」
「いいの? 翼くん……」
「大丈夫です。その代わりこの出会いは内緒に」
「ええ、わかったわ」
「雫? 何喋ってるの?」
「なんでもないわ。ありがとう、頑張ってね、天馬さん」
雫は愛莉に気がつかせない様にネームプレートに書いてある名前を言いながら、その店員にファンサービスをしたかの様に見せかけた。翼は少し笑って小さく手を振った。
「あの……パフェって作れますか?」
「はい、いちごパフェですね。少々お待ちください」
次の客は白っぽい長い髪の女の子と黒髪のショートヘアー、どうやら黒髪の短髪がパフェを食べたいって言ったらしく翼の店に並んでくれた。
「はい、いちごパフェ2つ」
「お、美味しそう……」
「凄い! なんて可愛さと美しさなの……!?」
「喜んでもらえて何よりです。こちらはカフェ『MEGAMI』というところですので、もしお近くにお住まいなら立ち寄ってみてください」
「ここ、私達の地域じゃない!? 行けないこともないし……今度瑞希も誘って行こうかな」
「絵名、ニーゴのみんなも誘おう」
「ええ、奏もまふゆも瑞希もみんなで行くわよ」
『みずき』という単語が聞こえたのでまさかなとは思ったが、その後ブンブン手を振って絵名と奏を迎えに来た人間は明らかに翼の知り合いだったという。バレてないからヨシ。
「言わぬが花だな。美味そうに食ってくれてるなら、よし」
「天馬さん、売り上げどう?」
「店長、報告の前に物品しまってきてくれません?」
なんか店長めっちゃグッズ買ってた……というかこの人GUMI推しかよ。とりあえず売れたものをチェック付けながら計算をした翼である。
「天馬さん、ステージやるみたい。行ってきたら?」
「良いんですか?」
「私は物品とGUMIしか興味あまりないし、確か幼馴染の人出るんでしょ?」
「んじゃ、変装して行きますね」
そうして翼はなんとなくグラサンとジャケットを羽織ってお忍び返しでステージを見に行った。そこにいたのは一歌と見知らぬ女の子3人程。多分宮女の人達とか、バンド同士で交流がある人達なんだろう……
「あれ? あの人小豆沢こはねさんじゃん。ビビバスの人も出てんのか。しかも……モアジャンの人と……あの人兄さんと同じショーの人じゃね? いるし……なんだ? 俺から見ての遠い知り合いのオールスターか?」
しかも歌が上手すぎる、絶対人前で何かするなんて芸当は出来ないなと笑いながら、友達の友達とか、兄の友達とかの人を見ながら笑っていたのだった。
「まだ、遠いな一歌は……」
そうして翼は店に戻った後、フライパンを掌で高速回転させてそのまま焼きそばを作っていたらしい。
☆
「え!? あの時翼いたの??」
「いたってお姉ちゃんから聞いたよ。なんかバイトしてたんだって……しかもこれ」
志歩が一枚の新聞を見せる。そこには歌を披露した一歌達が写っておりとても笑顔だったのだが、それよりも小さい切り抜きでフライパンを掌で回してたカフェ店員の姿とそこから焼きそばを作るカフェ店員。即ち翼の姿が少しばかり写っていた。
『イベントの出展でフライパンを掌でぶん回し、焼きそばを作るキッチンスタッフ……この人何者??』
「えぇ!? お兄ちゃん教えてくれれば行ったのに……というか何してんの!?」
「まぁ、バイト中なのもあるしメインはファンフェスタだからね……でも、わたしのドラムスティックより回してるの何コレ……?」
後日Leo/needが集まってバンド練習とついでにファンフェスタの話をしていたら、志歩から衝撃の発言を聞いた一歌達。写真を見たが、明らかにカフェ店員の仕事でも、出展者の仕事でもなかった。しかも店長らしき人は腕組んで笑ってるし。
「そういえば咲希、あの時翼はカフェのバイトって言ってたんだっけ?」
「うん、確かいつものようにカフェ『MEGAMI』ってところでバイトしてたよ。まさか出店でイベントに出てるとは思わなかったけど……アタシ達の家から結構近いから、あの後遊びに行けばよかったなぁ」
「遊びじゃなくて食べに行こうよ。翼に迷惑でしょ」
「まぁ、志歩ちゃんの言う通り今度みんなで食べに行こうか」
「じゃあ今日行かない? お兄ちゃんバイト中だし!」
「いいね、志歩も行こうよ」
「咲希と一歌が言うなら……」
「わたしも一緒に行くね」
そう言ってみんなは練習帰りに翼のバイト先にご飯を食べに行ったのだった。
「お兄ちゃんアタシに隠し事しちゃダメ!!」
「私達に隠し事は無しだよ」
「そうだよ翼、お姉ちゃんだけにバラすとかありえないんだけど」
「翼くん、覚悟してね?」
「なんで来店して早々バイトスタッフの首狙ってくるんですかお客様」
「天馬さん、テーブル案内してー」
「店長この状況よく見てくれません??」
「フライパンいくらでも振り回して良いからさ」
「そんな目的でカフェのキッチンやってねぇよ!?」