ここからしばらく一人称になります。
突然だが、自分語りをしようと思う。
と言ったところで、特筆する様な事もなかった。
2000年代初頭に、日本国に生まれ、しばらく生きた。
大きな不幸も無く、大きな幸福も無く、平坦な人生。
語り始めるとしたら、そのあとの話になるだろう。
【ドラゴンクエスト】
という、ゲームがある。
1980年代初出の、日本のRPGの金字塔とも呼ばれる名作中の名作。
世界を救う勇者として冒険をし、魔王や邪神といった魔物たちと戦う王道RPG。
結論から言うと、俺は、死後、このドラゴンクエストの世界に転生を果たしたのだ。
赤ん坊の体を得た瞬間、俺は自分が転生したことを悟った。そして…はっきり言って興奮した。
さらに、世界地図などからこの世界がドラクエの世界だと知ったときはさらに興奮した。
…だが、そんな興奮が続いたのは最初の数年程度だった。
言葉を理解するようになった俺が最初に知ったのは、この世界はもう平和になった『後』なのだということ。
ドラクエ2…第二作目の冒険が終わった後、この世界は邪悪な存在の侵攻を受けることなくただただ平和な時間が続いていくという。
俺が転生したのは、まさにその平和が始まって少し経った頃だった。
邪悪な魔物たちはその残党すら狩り尽くされ、世界は平穏そのもの。
失ったものが多すぎたせいか、人間同士による戦争すらおこらないまま、俺は15歳の誕生日を迎えた。
俺はここで、何も成せないまま片田舎でひっそりと死ぬのかと、少し残念にも思っていた。
仕方がない。むしろ、ここから先の平穏が約束されているのだから良いだろう。
そう思い、自分をごまかそうとしていた時。
俺は、【蜃気楼の塔】に迷い込んだ。
【ドラゴンクエスト列伝ロトの紋章】と呼ばれる漫画作品に登場した、精霊の加護に守られた神秘の塔。
俺が入り込んだのは、本当に偶然だった。
しかし同時に、必然だった。
何故なら、今代の蜃気楼の塔の主にして、【時の砂の大賢者】たる賢者…ベゼルは、肉体の時間を操作する【時の砂の呪文】【サンズオブタイム】をもってして耐えられないほどに、限界を迎えていたから。
…当初ベゼルは、偶然迷い込んだ迷子の子供を家に帰そうとした。
だが、その直後に俺の中に潜む魔法の才を見出した。
後に尋ねてみたところによれば、「あと100年早く生まれていれば歴史に名を刻むほどに優れた才を持っていた」らしい。
実際、ベゼルのお師匠の指導の下で呪文を学んだ俺は、数多くの呪文を次から次へと矢継ぎ早に習得した。
とにかく、才を見出された俺は、何も迷うことなく彼の弟子になった。
そして、彼の肉体が死を迎え、彼の魂が【転生の呪文】を用いて誰かに生まれ変わるための旅に出るまでの間、蜃気楼の塔で修業を積み重ねた。
…そして、ベゼルのお師匠が死んだ。
と同時に、俺の額に【時の砂の大賢者】の証である【第三の目】が発言し、俺が【時の砂の大賢者】になった。
お師匠の使った【転生の呪文】は、魂を移動させるもの。
が、その移動先はどこのだれなのか、いつ生まれるのかは使用者である彼本人ですらその時が来るまでわからない。
ゆえに、俺は蜃気楼の塔の留守を任された。
そうして、蜃気楼の塔での留守番が始まった。
5年がたった。
俺は蜃気楼の塔の中の書物を読み漁り、さらなる研鑽を重ねた。
お師匠の生まれ変わりは訪れない。
10年がたった。
俺は蜃気楼の塔を用いた時間移動によって、魔物が活性化していた時代に赴き、レベル上げに励んだ。
お師匠の生まれ変わりは訪れない。
…50年がたった。
両親が死んだ。
葬儀を終わらせたのち、俺は鏡に映る老いた自分の姿から目を逸らすように、【時の砂の呪文】【サンズオブタイム】を使い、肉体を若返らせた。
…お師匠の生まれ変わりは訪れない。
………100年が、たった。
俺を知る人間が、皆死んだ。
レベルはとうの昔に99になり、蜃気楼の塔の中にあった各種の種を使うことで究極の肉体を生み出した。
蜃気楼の塔の中の書物はすべて読んで、自分のものにした。
………お師匠の生まれ変わりは、まだ訪れない。
………200年が、たった。
お師匠の魂の波動を、はるか遠くに感じ取った。
まだ弱弱しい赤ん坊の肉体。
この蜃気楼の塔に来ることができるようになるまであと10年はかかるだろう。
だが、そのくらいなら待てる。
…早く、終わってほしい。
「…極大五芒星【マダンテ】!!!」
…ああ
…ようやく、楽になれる。
「で、どういうわけか今に至るってわけ」
「いきなり何の話だ?」
台所に立つ顔に傷を持つ男…ザルドが俺に聞いてくる。
「気にしないでくれおじさん。しいていうならすべてが終わったと思った瞬間から始まっちまって困惑しているだけだ」
が、おじさんと言えどさすがにこれだけで理解は難しかったらしい。
「訳わかんねえな…?お前はたまに不思議なこと言うな。普段はベルより聞き分けと外面がいいだけのクソガキなのに」
「お?なんだ?義母さん直伝の流儀『売られたケンカは100倍返し』実践の機会か?」
「実践すんなそんなもん。ていうか、アルフィアに染まり切るのだけは勘弁してくれ!あんな暴力の化身はあいつだけで十分…」
「【福音】(ゴスペル)」
「あボンっ!?」
「おじさぁーん!?」
おじさんの不用意な発言は読書中だった義母さん…アルフィアには不愉快なものだったようで。
台所の向こうにいたおじさんは轟音と共に壁に吹い飛び、頭から突っ込んでいった。
「義母さん!【
「私を不快にさせた
我が家の暴君閣下は本日も変わりないようだ。
俺の魂の叫びに顔を上げることすらしない。
…が、俺には切り札がある。
「それに何より!ベルの教育に悪い!将来何でも暴力で解決するような子に育ったらどうするんだ!あのベルが!」
この言葉に、義母さんはピタリ、と動きをとめる。
そして、ため息を吐き出し、渋々という言葉が似合う苦い顔で言葉を吐き出す。
「…ハァ。わかった、今日だけは勘弁してやる」
「ヨシッ」
「ベルパワーやべー…」
手のひらクルックル。
復帰してきたおじさんもこれにはびっくりの様子。
…と、噂をすればなんとやら。
「僕がどうかした?」
ドアが開くとともに、処女雪のような白い髪をたなびかせ、俺の弟…ベルが帰ってきた。
「おっと、お帰りベル」
「ただいま兄さん。さっきすごい音が聞こえたけど…(穴の空いた壁をチラ見)…また?」
「いかにも。これで一昨日ぶり…今月だけで通算24回目の壁破壊だ。倒壊の危険は少ないが、いつも通り、修理が終わるまでここには近寄らないように」
「はーい」
ぽてぽてという擬音の似合う歩き方で帰ってきた可愛い弟に被害状況を伝え、立ち入り禁止の旨を伝える。
「あと、まだ誰も入っていない内に風呂入っちまえ」
「うん!一番風呂ありがとう!」
「どういたしまして」
そうして、外で遊んでいたために少し汚れた格好だったベルは素早くお風呂場へ駆けていった。
『双子の兄』の言葉にそれはもう眩しい笑顔で返事をしてくれるのだから、もう可愛くてしょうがない(前世前々世から通算200歳オーバーのおじいちゃん)。
さて、そろそろ説明をするとしよう。
【ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか】
という作品がある。
2013年1月末に第一巻が刊行され、その後熱狂的な人気によってアニメ化なども次々と進行していった。
英雄になることを夢見る主人公が、様々な出会いと別れ、そして冒険を経ることで英雄となる物語。
…結論から言うと、俺はこの世界に転生を果たした(デジャヴ)
…なぜ俺が二回目の転生を迎えたのか。
それには、俺が前世…大賢者として放った最期の魔法が影響している。
『極大五芒星【マダンテ】』
ドラクエ世界でも名実ともに頂点に君臨する、最強にして最大の呪文。
…俺の使ったマダンテは、現在スマホゲーなんかで使われているマダンテとは少し違うものなのだが、まあそれは今はいいだろう。どちらにせよ最強の呪文なのだから。
とにかく、原因はその【マダンテ】。
そして、それを放ったあの時の俺は、【時の砂の大賢者】…有り体に言ってしまえば『世界最高最強の魔法使い』。
MP…魔力の量で威力が決まる、ただでさえ強力な【マダンテ】がそれほどの魔法使いの力で放たれたのだから、それはもう想像を絶する威力を発揮したのだ。
…次元に穴をあけ、そこを通って魂が世界を移動してしまうほどの。
肉体を失った俺の魂は、本来であれば普通にあの世に向けて昇天していくはずだった。
が、その穴がちょうど魂の通り道に発生してしまったのか。はたまた吸引力が強すぎたからか。
俺の魂は、次元に空いた穴に吸い込まれていき、世界を飛び越えてしまったのだ。
そして、その結果、俺は再び転生を果たしてしまったのだ。
それも、放っておいたらどんな爆弾が起爆するかわからない、『ダンまち世界』に。
よりにもよって、主人公であるベル・クラネルの双子の兄、ゼロ・クラネルとして。
「どうすっかねぇ…」
狭い湯船に一人つかりながら思案する。
この世界には様々な破滅フラグが点在しており、その大多数が冒険者…というか
「当然、
正直、ベルを見捨てられないという情さえ除けば、今すぐ逃げ出したい気分だ。
この先ベルが経験する騒動の多くは生半可な力じゃ切り抜けられない上にどうあがいても痛みを伴うような代物が多い。
そして、多分俺はどうあがいても必ず巻き込まれる。
それもこれも
「くそっ、せめて呪文が使えればなぁ…」
この世界に来てから、呪文を使おうとはした。
感覚は覚えているし、使えるという確信もある。
が、何故か使えない。
感覚として確実に使えるはずなのだ。何故なら、自分の体の中に『MP』…ドラクエの魔力があることを確認済みだから。
しかし、どういうわけか使えないのだ。
生まれてからはや7年が経つが、その間様々な方法を試してきた。
死の淵に立ったり(アルフィア義母さんの流れ弾)、極限状態になったり(近所の森で迷子になって2日間絶食)。
果てはモンスターと対峙したりもした。
が、ダメだった。
前世では大賢者としてブイブイ言わせてた()のに、今じゃ下級呪文一発も打てやしない。
「流石にこれじゃキツイよなぁ…どうすりゃいいんだ。あと試してないのは【
【
それは、その名の通り神によって与えられる恩恵。
このダンまち世界には、比喩でも何でもない『神』がいる。
それも、大体が地球の神話で語られているような神々だ。
彼ら彼女らは、その力の大半を封印し、普通の人間同然の肉体でこの地に降り立ってきている。
そんな彼らが持っている数少ない神としての力が、これだ。
【
【
人間にとっては成長促進剤のようなもので、これさえあれば何でもできるといった都合の良いもの…ではなく、成長するためには相応の経験を積み、試練を乗り越える必要があるという代物。
「しっかしこればっかりは神を見つけないことにはなぁ…はぁ~。どっかに都合のいい神転がってないかなぁ(都合のいい神とは)」
神々の大半は、物語の舞台である迷宮都市『オラリオ』に居る。
無論、オラリオ外にもいない訳では無いが多くは無い。
居るとしても、隠居中の祖父ゼウスだったり、各地を旅しているアルテミス、他にはアマゾネスの国を支配するカーリーなどしか…
…
「居たああああああああ!都合の良い神転がってたあああああああ!!!」
絶叫を上げながら風呂場からバスタオル1枚で飛び出す。
「どわぁ!?何だ何だどうしたんだ!?」
大声をあげる半裸の俺に、おじさんが驚く。
だが、それを無視した俺はそのまま外に走っていき、畑に向かった。
「お、おい!風邪ひくぞ!?」
後ろでおじさんが心配している声が聞こえるが、申し訳ないが今はそれどころではない。
畑に着いた俺は、いつも通りアルフィア義母さんにセクハラしようとして返り討ちにあった祖父を探す。
なぜ畑なのか?
「…ぬ?ゼロ?なんじゃそんな格好で外を出歩いて。露出趣味か?」
それは、このジイさんが野菜とともに畑に埋められているのを見ればわかるだろう。
「ジイさん!折り入って頼みがある!」
「お、おう。なんじゃ?( ゚д゚)ハッ!まさか、ワシと禁断の関係に…!?わ、ワシ男まで行ける口じゃな」
「ジイさん神だろ!?俺に【
「…は?」
この10年孫に伝えていなかった神であるという秘密がなぜ看破されたのか。なぜ【
唐突すぎて理解が追いつかない祖父…最高神ゼウスは、畑のなかに埋まったままの状態で、自身を見下ろす半裸の孫を見あげたまま、固まるしか無かった…。