その夜。
その家に住む子供の弟…即ち、ベルが寝静まった頃。
ゼウス、アルフィア、ザルド…かつての『最強』の生き残りたる三人は、目の前の少年…ゼロと対峙するかたちでソファに腰掛けていた。
「…あー、ゼロ。この際だ、なんでお前が
おじさん…ザルドが切り出す。
彼らにしてみれば秘密が漏洩している可能性すらあるため今すぐに聞きただしたいところだが、今はそれよりも重要なことがある。
「そうじゃぞ、ゼロ。【
ジイさん…ゼウスもそれに続くように…まるで俺を諭すかのように言う。
「…」
義母さん…アルフィアは、その瞳を閉じたまま沈黙を貫く。
こちらの意図を測りかねているからかは分からないが、いったん静観することに決めたらしい。
…さて、三者三様の反応を見せてくれたところで、俺もそろそろ話をしなければならない。
が、前世のことなんかどうやって説明すればいいのか…というか説明するべきなのかという疑問が浮かぶ。
ラノベなんかでよくある、中途半端に隠し通そうとするのは愚策だ。それがなくとも、神々は嘘を見抜ける。
いずれバレるのは確かだろう。
が、だからといってホイホイ話すのが正解、と言うわけでもない。
特に、まだ彼ら彼女らと十分な信頼関係を築けたとはいいがたい今の段階ですべてを打ち明けるのは危険が大きすぎる。
子供の戯言と流してもらえればいい方、悪ければ精神科へ直通だ。
…仕方がない。
素直に隠すか(素直とは???)
「…まず、俺は理由も含めて、『全ては』話さない」
「…続けてくれ」
初っ端から隠し事をしますと宣言したが、おじさんはまだ俺の話が終わっていないと判断し、続きを促す。
「無論、いつまでも話さないわけじゃない。時が来れば必ず説明する」
「…その時は、今ではないと?」
「いかにも。しかし、俺には確固たる目的があり、【
「ふーむ…」
瞳を閉じ、俺の言葉を吟味するジイさん。
当たり前だろう。
7歳の子供が、「力を欲している。けど目的は私欲じゃない」だなんて言い出して、「ハイそうですか」とはなるまい。
さてどう誤魔化したものか…。
「…ゼロ」
と、ここで沈黙を貫いていた義母さんが声を上げる。
そして、珍しく瞳を開くと、そのオッドアイは俺の目と交差する。
瞬間。
「…ッ!」
威圧。
病に冒されてなお…現役最強の名を欲しいがままにする、レベル7の冒険者【静寂】のアルフィア。
その彼女が、俺に全力で圧をかける。
…後で知ったことだが、このときの絶対的な存在感の暴力は、その余波のみで半径1km圏内の全ての人間…早い話が村中の人間の意識を刈り取ったらしい。
とにかく、それほどの重圧が、俺一人に向けられる。
「お、おいアルフィア…」
「黙っていろザルド」
見兼ねたおじさんが止めようとしたが一蹴。
そして、義母さんはさらに目を鋭くすると、重々しく口を開く。
「…お前は、『英雄』になりたいのか?」
その言葉に、俺への圧はさらに強まる。
…だが、俺はその圧に屈さず、しっかりと義母さんの目を見据え、答える。
「
一瞬。
あっけにとられたような気配と共に俺への圧が霧散する。
俺は畳みかける。
「3人…いや、世界が求めているのが救界を果たす『英雄』であることは知っている。
そのうえで。俺は、『英雄』にはならない」
「…そう、か」
断言する。
そして、それを聞いた瞬間、義母さんは瞳を閉じる。
その表情は安心しているようにも、苛立っているようにも、後悔しているようにも見えた。
「…ああでも、安心してほしい」
「…?」
しかし、俺の言葉は終わらない。
そして、告げる。
「『
「なッ…!?」
なんてことないように告げられた一言。
驚愕故か、再び瞳を開く義母さん。
そして、すぐにまた目を閉じ、片手で頭を押さえるようにして俺に問う。
「…つまりお前は、「『英雄』にはならない。が『黒竜』は倒す」…と、そういうのか?」
「そうだ」
きっぱりと告げる。
「…話にならん。子供の戯言に耳を傾けたのが間違いか」
あきれ果てたような声と共に義母さんは立ち上がり、ベルの眠る二階に向かおうとする。
おじさんもジイさんも二人して頭や頬を掻きながらも、それを否定しようとしない。
そのまま話は終わる…
かのように思われた
「ベルは…『英雄』になる気でいる」
決定的なその一言。
その一言に、全員が動きを止める。
義母さんの瞳は先ほどとは比較にならないほど見開かれ、おじさんは思わず立ち上がる。
ジイさんは両の手で顔を覆い、座ったまま下を向く。
だが、それを気にせず俺は続ける。
「そして、その夢は誰も…誰一人として。阻むことはかなわず、止めることのできないまま、現実のものとなる」
そして、少し言葉を区切ってから、慎重に言葉を紡ぐ。
「…初めに言った通り、俺は今すぐ全てを話すことはできない。…だが、話せることは話す。これも、その一つ」
俺はここで少し、表情を緩める。
「なぜこれを知っているのかという質問をしたいことだろうから、それには答えることにしよう」
そこで、告げる。
「答えは…『未来を知っている』から」
それにいち早く反応したのはジイさん…最高神ゼウスだ。
「…
「…ああ。より正確に言うなら…『限りなく確定しているに近しい未来』だな。所々に穴は空いているし、相違点はいくつか存在するだろうが…」
腐っても神であるジイさんが『嘘はない』と断言したことで、俺の言った事が現実味を帯びる。
「待て待て待て!なんでベルが…あの子が英雄になるんだ!そしてなんでお前はそれを知っているんだ!」
話についていけないおじさんが慌てながら声をあげるが…
「スマンが、その二つの質問には答えることができない。前者は最悪おかしな方向に未来が変わってしまうかもしれないし、後者は単純に今話すわけにはいかないから」
「なッ…!?」
キッパリと質問を突っぱねる。
主人公だから…というのもあるが、ベルの性格から考えても、放っておけば勝手に『英雄』を志してくれるだろう。
が、外部からの抑圧を受けるとなれば話は別だ。
万が一ベルが『英雄』を目指さなくなってしまえば、最悪世界滅亡へ一直線!
…なんてこともありえる。いや、そうなる可能性がほとんどか?
とにかく、ベルは『英雄』になるし、ならせなければならないのだ。
そして…
「話を戻そう。ベルが『英雄』になるという『限りなく確定しているに近しい未来』。それこそが今回の話の発端…俺が力を求めた理由の一つだ」
「…というと?」
唯一冷静さを取り戻したジイさんが返してくる。
おじさんは…脱力したように座り込んでしまった。
一番後が怖いであろう義母さんは…なんてこった。まだ硬直から帰ってきていない。
こりゃしばらくは帰ってこないな(他人事)
勝手に続けてしまおう。
そして、宣言する。
「俺の目的はたった一つだ。『ベルの力になること』…ひいては、それから直結する『より良い結末を紡ぐ』こと。」
嘘ではない。
ベル・クラネルの双子の兄とくれば、遅かれ早かれ、どうせ巻き込まれることが決まっている。ならば、せめて持ち得る力でより良い方向に進もうとするのは、決して間違ってはいないはずだ。
「ベルが英雄になることは止められないし、俺自身は
そして、俺は言葉を一度きり、三人に対し深々と頭を下げる。
「だからどうか…俺に力をくれ。【
そこから、どれ程静寂に場を支配されていたのだろうか。
「…お前の話は、要領を得ないうえに信用に欠ける。そう簡単に信じるつもりはない」
瞳を閉じた義母さんから告げられるのは、厳しく、また反論のしようもない正論だった。
「…アルフィアの言葉は厳しすぎるが、俺も同意だ。嘘を言っていないといわれても、単にお前が信じ切っているだけという可能性もある」
おじさんも、義母さんに比べれば柔らかいが、義母さんの意見に賛同する。
「ゼロ…」
ジイさんは俺の名前を呼んだきり、目を伏せてしまう。
…
…仕方がない、か。
こうなればどうにかしてオラリオないし野生の神がいるところを目指して家出をするしか…
「だから、お前にチャンスをやる」
「…ゑ?」
チャンス?
義母さんが?誰に?
「私たちには到底理解できないし、理解するつもりも無い。…だから、お前が本気で力を望むのであれば、言葉で説得するのではなく行動で示せ」
「…っ!」
一瞬、ひときわ大きく心臓が跳ねる音がした。
そして、どうにかして冷静さを保とうとしながら、聞き返す
「何を…何をもって、覚悟を示したと?」
「知らん。ただ言葉ではなくその行動で、私を納得させてみろ」
話は終わった、とばかりに、義母さん今度こそ二階に上っていった。
「…ゼロ。俺は正直、お前達二人には冒険者になってほしくはない。」
と、ここで完全に蚊帳の外だったおじさんも話に加わる。
「だが、わかっちまうんだ。ベルはまだわからんが、お前はきっと…いや、必ず冒険者になるんだって。だから、俺はお前を見守ることにする。手助けはしない、代わりに絶対に否定しない」
「おじさん…」
最後に、おもむろにジイさんが口を開く。
「…ゼロ」
「…なんだ?ジイさん」
聞き返した俺に、ジイさんは立ち上がり、俺の頭をわしゃわしゃと撫で始め、優しく微笑みながら、空いている手で拳を作り、俺に差し出す。
そして
「…
「…ああ。約束する。無理だけはしない」
そういって、俺も拳を作り、ジイさんの拳に自分の拳をかるくぶつける。
「…ヨシ!」
俺の返事を聞き、ジイさんはニカッと笑う。
かくして、この夜を境に、あるかどうかすら定かではない【力】を得るための挑戦が始まった。自分の為ではない、誰かの為の【力】を。
期限は1~2年。
現時点での目標は、2年後に迫る【アストレア・ファミリア】壊滅を阻止すること。
「さーて、やってみるか!」
なんだか要領を得ない内容になってしまった。
多分いつか修正する