ザンスカール帝国のディストピア〜カテジナ・ルースの女王の系譜〜   作:ロドニー

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木星帝国討伐作戦 一

 

宇宙の深淵、その静寂は今、血と硝煙の匂いに塗り替えられようとしていた。

 

 コズミック・イラにザンスカール帝国が転生して現れてから十三年。

 

 ナチュラルとコーディネーターの泥沼の復讐劇は、帝国の圧倒的な武力と、マリア・ピア・アーモニア女王が掲げた「マリア主義」、そして両陣営の争いを根底から禁じる『人類平等法』の可決によって強制的に終止符を打たれた。

 

 しかし、平和の平穏は内側から蝕まれていた。

 

 二ヶ月前。

 

 八人目の子供を身ごもり、妊娠八ヶ月だったザンスカール帝国開発局局長カテジナ・ルース大公は、カガチやタシロら旧一派の陰謀により、出産を強制的に早める毒薬を盛られた。

 

 長女ツクヨミの秘書官兼侍女を務めていたメイリン・ホークが、苦悶の表情で倒れたカテジナをいち早く発見しなければ、その命はなかった。

 

 奇跡的に一命を取り留めたカテジナは、無事に八女であるフユミを出産。

 

 だが、企てが露見したカガチ一派の面々は、裁きを逃れるべく木星圏へと逃亡した。

 

 これが、すべての引き金だった。

 

 ザンスカール帝国の怒りは頂点に達し、逃亡した逆賊どもを追撃、同時に木星の利権を握る「木星帝国」を完全に討伐する作戦が発動される。

 

 後に『第二次木星帝国戦役』、あるいは『火星軌道上沖海戦』と呼ばれる、両軍と民間合わせて数百万人の戦死者を出すことになる未曾有の激戦の幕開けであった。

 

 本来ならば、先陣艦隊の指揮はカテジナの義兄であるクロノクル・アシャー皇太子が執るはずだった。

 

 しかし、先の広大な宇宙空間で行われた大規模慣熟訓練の心労と、カテジナの毒殺未遂による心労が重なり、クロノクルは激しい胃痛と頭痛を訴えてダウン。

 

 急遽、体調が万全でない身体を押して、カテジナ・ルース中将が先陣の最高指揮官としてアドラステア改の艦橋に立つこととなったのである。

 

 「……クロノクル兄さんも、情けない。私の危機に心痛めてくれたのは嬉しいけれど、いざ本番という時に腹痛で寝込むなんてね。マリア姉様も呆れていらっしゃるわ」

 

 アドラステア改の艦長席に座るベラ・ロナ大佐が、切れ長の目をカテジナに向けた。

 

 「カテジナ中将、体調はよろしいのですか? 出産からまだ二ヶ月。本来ならば、大公当主であり開発局の長である貴女が前線に出るなど、あってはならないことです」

 

 「ふふ、心配いらないわ、ベラ艦長。カガチの老い損ないどもに、ルースの血の恐ろしさを教えてやらねば腹の虫が収まらないのよ。我が娘フユミの産声を、あやつらの断頭台への行進曲にしてやるわ」

 

 カテジナの瞳には、妖しくも冷酷な光が宿っていた。

後衛並びに主力艦隊を率いるのは、ファラ・グリフォン中将率いる地球軌道上艦隊と、ザンスカール帝国近衛艦隊あわせて八十隻の大艦隊。

 

 彼女らは遥か後方、アステロイドベルトの手前付近を進発し、先行するカテジナらの艦隊を追う形で航行していた。

 

 先陣艦隊の編成は、旗艦『アドラステア改』。

 

 そして、かつて大戦を戦い抜いた伝説の名艦をザンスカールの技術で近代化改修した『アークエンジェル改』、『エターナル改』、『ミネルバ改』の計四隻。

 

 これらすべてに「ミノフスキードライブ」が搭載され、圧倒的な加速力をもって木星帝国の不意を突く、超高速奇襲攻撃が今回の作戦目的であった。

だが。

 

 「――な、何よこれ……! おかしいわ、こんな数、データにないッ!」

 

 『アークエンジェル改』の艦橋で、最も広い索敵・レーダー範囲を誇る同艦の艦長、マリュー・ラミアス少佐が悲鳴に似た声を上げた。

 

 オペレーターのチャンドラII世が、青ざめた顔でキーボードを叩く。

 

 「火星軌道上、前方に熱源多数! 多数なんてレベルじゃない! 空間を埋め尽くしています!」

 

 「映像、メインモニターに出して!」

 

 マリューが叫び、映し出された光学映像に、艦橋の全員が息を呑んだ。

 

 そこにあるべき漆黒の宇宙が、見えない。

 

 星々の輝きが、完全に遮断されている。

 

 「宇宙が……三割しか見えない……。あとの七割は、全部、木星帝国の艦艇だというの……!?」

 

 木星帝国艦隊は、カガチらの亡命を受け入れた時点で、ザンスカールの来襲を完全に予期していたのだ。

 

 全戦力を火星軌道上に展開し、罠を張って待ち伏せていたのである。

 

 四隻の奇襲艦隊に対し、敵は万を超える大軍勢。

 

 「各艦へ通達! 敵は我々の接近を完全に察知していたわ! 陣形を維持し、迎撃体制を構築して!」

 

 マリューの鋭い指示が通信回線を飛び交う。

 

 その頃、旗艦アドラステア改の下部巨大格納庫では、一人の男が冷徹に、かつ正確に作業員たちへ指示を飛ばしていた。

 

 キラ・ルース大佐。

 

 旧姓、キラ・ヤマト。

 

 現在は開発局局長側付き技士であり、カテジナ・ルース大公の夫――大公配である。

 

 彼は、押し寄せる絶望的な敵の物量を前にしても、一切の動揺を見せなかった。

 

 「下部格納庫、第1から第8ブロックの全コンテナのロックを解除。換装を急いでくれ」

 

 彼が見上げる先には、全長八百メートルに及ぶ、ザンスカールの技術の結晶――サイコミュ搭載型超巨大モビルアーマー『ドッゴーラⅡ』が二機、鎮座していた。

 

 その専用機の主は、キラとカテジナの間に生まれた愛娘たち。

 

 長女ツクヨミ。

 

 十三歳。

 

 母親であるカテジナと瓜二つの美貌、冷徹なまでの性格、そして完璧なスタイルを持つ。

 

 高レベルのニュータイプ能力を有し、さらに「SEED」の資質まで受け継いだ、若き怪物。

 

 

 次女アマテラス。

 

 十二歳。

 

 姉と同じくカテジナ譲りの抜群のスタイルを持ちながらも、性格は天真爛漫。

 

 しかし、その奥底には母親譲りの苛烈さと残虐性を秘めた、もう一人の天才ニュータイプ。

 

 「パパ! 本当にコンテナ全部換装しちゃうの?」

 

 パイロットスーツに身を包んだアマテラスが、キラの元へ駆け寄ってきた。

 

 その後ろから、カテジナにそっくりの冷ややかな、しかし父親には甘えを含んだ視線を向けるツクヨミが歩いてくる。

 

 「ああ、ツクヨミ、アマテラス。敵の数が多すぎる。通常の各種ファンネル(ビット、インコム、プレニチュード・ファンネル)の混載コンテナでは、面制圧の効率が悪すぎるんだ。ドッゴーラⅡの長い胴体を形成する全二百のコンテナブロックのうち、すべてを『ファンネルミサイル・コンテナ』に換装する。一撃の火力を面で叩き込むんだ」

 

 「私はパパの指示に従うわ。あの有象無象どもを、一匹残らず宇宙の塵にして差し上げましょう。お母様を苦しめた罪、その命で購わせるの」

 

 ツクヨミが、母親そっくりのサディスティックな笑みを浮かべる。

 

 だが、アマテラスは少し不満げに首を傾げ、キラの袖を引いた。

 

 「ねえパパ、お願いがあるの。アマテラスのドッゴーラⅡね、二百あるコンテナのうち、二十ブロックだけは『フィン・ファンネル』のコンテナを残してほしいな」

 

 「フィン・ファンネルを? どうしてだい、アマテラス。ファンネルミサイルの方が、この乱戦では有効のはずだよ」

 

 「うーん……なんとなくだけど、嫌な予感がするの。ただの直感じゃなくて、こう、頭の後ろがピキーンってする感じ。あのいっぱいの敵の中に、普通のビームじゃ通じない、変なのが混ざってる気がするんだもん」

 

 キラは目を見張った。

 

 高レベルのニュータイプ、そしてSEEDを宿す娘の「直感」を、技術者である彼は無視できなかった。

 

 「分かった。アマテラスの機体は、後方の二十ブロックをフィン・ファンネル仕様で維持する。その代わり、前方の百八十ブロックは予定通りファンネルミサイルにするよ。いいね?」

 

 「わーい! ありがと、パパ大好き!」

 

 アマテラスがキラに抱きつく。ツクヨミはそれを見て鼻で笑った。

 

 「ふん、甘えん坊ね、アマテラス。ビームが通じない敵など、圧壊させてしまえば同じことですのに」

 

 「お姉ちゃんは固いんだよー。さ、早く乗ろ!」

 

 二人の少女は、それぞれの超巨大MAのコックピットへとリフトで上がっていく。

 

 キラはインカムを取り、整備班に怒号を浴びせた。

 

 「コンテナ換装を急げ! 娘たちが戦場に出るまでの時間を、一秒でも短縮するんだ! 彼女たちに傷一つつけさせるな!」

 

 一方、艦隊周辺の宇宙空間では、すでにザンスカール帝国の誇る量産型モビルスーツ『ゴトラタン』の部隊が、一斉にハッチから解き放たれていた。

 

 カテジナの愛機だった試作機ゴトラタンのデータをベースに、ザンスカール帝国開発局でキラ大佐が完成させた量産型MS。

 

 その背部には、かつての戦術兵器を簡略化した「メガビームキャノン」が装備されている。

 

 「アークエンジェル隊、全二十機、展開終了! 各員、陣形を乱すなよ! 死に急ぐんじゃないぞ!」

 

 アークエンジェル隊の隊長を務めるアスラン・ザラ大尉が、通信コンソールに向かって鋭く叫んだ。

 

 彼の駆るゴトラタンは、隊長機仕様のパーソナルカラーに染まっている。

 

 「エターナル隊、遅れるな! シン、突っ込みすぎるんじゃないわよ!」

 

 『エターナル改』の艦長、アンドリュー・バルトフェルド中佐――かつての「砂漠の虎」が、コーヒーのカップを片手に通信を入れる。

 

 だが、その隣でエターナル隊を率いるシン・アスカ大尉は、すでにSEEDを発動させんばかりの形相で叫んでいた。

 

 「分かってますよ、バルトフェルド艦長! でも、あいつらはカテジナ様とフユミお嬢様を殺そうとしたんだ! 逃がすわけにいかねえんだよ!」

 

 「シン、落ち着きなさい。あなたの熱量は、陣形を維持するために使いなさい」

 

 『ミネルバ改』の艦長、タリア・グラディス中佐が冷静な声を割り込ませる。

 

 彼女の指揮下にあるミネルバ隊二十機を率いるのは、レイ・ザ・バレル大尉だ。

 

 「タリア艦長の言う通りだ、シン。我々の任務は、大公閣下の娘たちがドッゴーラⅡで出撃するまでの時間を稼ぐこと。そして、この初期空間を制圧することだ。ディアッカ少佐、アドラステア隊の配置は?」

 

 「おうおう、こっちは百二十機の大所帯だからな、位置取りが大変だよ。だが、配置に就いたぜ。コードは……例のあれだな?」

 

 アドラステア隊の複数隊長をまとめるディアッカ・エルスマン少佐が、不敵な笑みを浮かべながら愛機のマルチディスプレイを確認する。

 

 アスランのアークエンジェル隊二十機。

 

 シンのエターナル隊二十機。

 

 レイのミネルバ隊二十機。

 

 そしてディアッカ率いるアドラステア隊百二十機。

 

 計百八十機の量産型ゴトラタンが、漆黒の宇宙空間に、一枚の巨大な「十字」を描くように整然と展開していく。

 

 「全機、陣形コード『ソーラ・レイ』を形成! 同調リンク、100%!」

 

 アスランの号令が全パイロットの脳内に響く。

 

 この陣形は、個々のドコラタンが持つメガビームキャノンのエネルギー出力を、量子通信システムによる集団リンクで完全同調させ、一斉射撃によって巨大な一つの面ビームへと昇華させる、集団戦略兵器隊系であった。

 

 「ターゲット、前方の木星帝国艦隊中央群! カウントダウン……3、2、1……放てッ!!」

 

 百八十条の、眩いばかりの濁流が宇宙を裂いた。

 

 それらは放出されると同時に、空間の歪みの中で互いに引き合い、一本の、直径数キロメートルに及ぶ超巨大な光の柱へと変貌する。

 

 文字通り、かつての戦略兵器「ソーラ・レイ」の再来であった。

 

 光柱は、待ち伏せていた木星帝国艦隊のど真ん中を直撃した。

 

 「な、なんだあの光はぁぁぁ線――ッ!?」

 

 木星帝国の旗艦のブリッジで、指揮官が絶叫を上げる暇すら与えられなかった。

 

 熱線に触れた艦艇は、装甲が融解する暇もなく、分子レベルで「蒸発」していく。

 

 一瞬にして宇宙が白く染まり、光が収まったときには、木星帝国艦隊の実に『一割』が、文字通り消滅していた。

 

 「やったか!?」

 

 シンの叫び。

 

 しかし、レイの冷静な声がそれを遮る。

 

 「いや、まだだ。敵の本隊は揺らいでいない」

 

 光の霧が晴れた向こう側から、無数の光点が、まるで湧き出る虫の群れのように押し寄せてきた。

 

 木星帝国製MS『バタラ』、『ペズ・バタラ』、そして不気味な触手を持つ『エレファンテ』や『クァバーゼ』。

 

 その数は、アークエンジェル改の高性能レーダーをしても、測定限界を超えて「ERROR」の文字を点滅させるほどの狂気的な物量であった。

 

 「……測定不能!? 数が多すぎるわ! 万の単位を遥かに超えている!」

 

 マリューが驚愕の声を上げる。

 

 アドラステア改の艦橋で、ベラ・ロナが静かに告げた。

 

 「木星の物量、侮れませんね。カテジナ中将、いかがいたしますか?」

 

 カテジナは、ふん、と鼻を鳴らし、手元の通信機を取った。

 

 「アスラン大尉、レイ大尉、ディアッカ少佐。敵の陣形を散開させなさい。まともにぶつかる必要はないわ。ゴトラタンの機動力を活かし、一撃離脱を繰り返して時間を稼ぐのよ」

 

 「了解です、カテジナ閣下! 全機、陣形解いて散開! 一機につき最低十機は道連れにしろ!」

 

 アスランの指示で、十字の陣形を組んでいたドコラタン部隊が、一斉に星屑のように散った。

 

 木星帝国のMS群が、ザンスカール部隊に襲いかかる。

 

 「死ねぇ! ザンスカールの狗どもが!」

 

 木星のパイロットが叫びながらバタラでビーム・ライフルを連射するが、ゴトラタンは背部のスラスターを猛烈に吹かし、アクロバティックな機動でそれを回避。

 

 すれ違いざまに、ドコラタンのビーム・トンファーがバタラの胴体を真っ二つに切り裂いた。

「遅い、遅すぎる! お前たちの動きは、すべて見えているんだ!」

 

 シンがSEEDを発動させ、瞳の光を失った状態で、狂気的な速度で戦場を駆け抜ける。

 

 彼のゴトラタンが放つメガビームキャノンが、一撃で三機のペズ・バタラを貫き、爆発の炎が火星軌道上を赤く染めていく。

 

 「ふむ、流石にこの数は骨が折れるな。おいおい、そっちから来るかよ!」

 

 ディアッカがマルチ・ランチャーを乱射し、迫り来る敵MSの集団を足止めする。

 

 「だが、俺たちの後ろには、大公閣下と、あの恐ろしいお嬢様方が控えてるんだ。ここで一歩も引くわけにゃいかねえんだよ!」

 

 レイの駆るゴトラタンもまた、精密機械のような正確さで敵のコックピットだけを撃ち抜いていく。

 

 「アスラン、敵の増援が左舷方向から回り込もうとしている。アークエンジェル隊、防衛ラインを維持してくれ」

 

 「分かっている! タリア艦長、ミネルバ改の対空砲火を左舷15度に集中してください!」

「了解よ、レイ、アスラン! 職人芸を見せてあげるわ、対空レザー砲、アーサー、砲撃開始!」

 

 タリア・グラディスの鋭い命令の元、ミネルバ改から無数の対空レーザーとミサイルが放たれ、回り込もうとした木星MS隊を爆炎の壁で阻んだ。

 

 しかし、木星帝国の物量は絶望的だった。

 

 落としても、落としても、火星の影から新しい機体が

 

 次々と湧き出てくる。

 

 双方数百万人の戦死者を出すことになる激戦の、これはまだ序曲に過ぎない。

 

 ゴトラタンのパイロットたちにも、徐々に疲労の色が見え始め、弾薬の残量警告灯が各機で点滅し始めていた。

 

 「……キラ、まだなの? 私の可愛い娘たちの舞台は、まだ整わないの?」

 

 アドラステア改の艦橋で、カテジナが焦れるように呟く。

 

 その時、艦橋の通信ディスプレイに、キラ・ルースの顔が映し出された。

 

 その表情は、完璧な仕事を終えた技術者のそれであった。

 

 「カテジナ、ベラ艦長。ツクヨミ機、アマテラス機、共にすべてのコンテナブロックの換装、およびフィン・ファンネルの維持セッティングを完了した。両機、いつでも出撃できる」

 

 カテジナの唇が、歓喜と残酷な愉悦に歪んだ。

 

 「よくやってくれたわ、キラ。……さあ、ツクヨミ、アマテラス。お行きなさい。あの醜悪な木星の虫けらどもに、ルースの名の下に、完璧なる『平定』を与えてあげるのです」

 

 アドラステア改の下部ハッチが、ゆっくりと、しかし重々しく開放される。

 

 暗黒の宇宙空間に、二筋の、圧倒的なプレッシャーを放つ巨影が姿を現そうとしていた。

 

 全長八百メートル、二百のコンテナブロックを連ねた、龍の如き姿を持つ超巨大モビルアーマー、ドッゴーラⅡ。

 

 そのコックピットの中で、十三歳のツクヨミの瞳が、そして十二歳のアマテラスの瞳が、同時に妖しく、そして冷酷に輝き――二人の「SEED」が、完全に弾けた。

 

 宇宙の天秤が、今、大きく傾こうとしていた。

 

 

ザンスカール帝国の誇る最新鋭量産型モビルスーツ、ゴトラタン。

 

 かつてカテジナ・ルースが駆った試作機の狂気的な超高出力と小型高性能、そして極限の機動性をそのままに、サイコミュを排してガンダリウム複合材で固めた180機の鋼鉄の獣たちが、木星帝国の暗黒の艦隊を迎え撃っていた。

 

 「左から来ます、マユラ、ジュリ! コードソーラ・レイの陣形を維持して!」

 

 アサギ・コードウェルの声が、三機で組むロッテの回線に鋭く響く。

 

 「わかってるって! だけどこの量産型ドコラタン、出力が馬鹿みたいに高すぎて、レバーを少し引くだけで景色がすっ飛ぶよ!」

 

 マユラ・ラバッツが、超高機動に振り回されそうになる身体を耐重Gスーツ越しに抑えつけながら、操縦桿を強く握り直した。

 

 「贅沢を言わないでマユラ。メガビームキャノンの一撃で、木星艦隊の1割を消し飛ばせたのはこの出力のおかげよ。でも、これだけの乱戦になると、さすがに機体の限界が見えてくるわ……!」

 

 ジュリ・ウー・ニェンのゴトラタンが、背後から迫る木星帝国のMSを、超高出力のビーム・トンファーで一閃する。

 

 その動きには一分の無駄もないが、モニターの端には、アラートが激しく明滅していた。

 

 乱戦は激化の一途をたどっていた。

 

 180機いた先行艦隊の量産型ゴトラタンは、圧倒的な性能差で敵を蹂躙しているものの、木星軍の物量と執拗な特攻により、すでに2割から3割の機体が出力低下や四肢の大破を余儀なくされ、母艦へと次々に離脱していた。

 

 幸いにも撃墜された機体はまだゼロだが、戦線が縮小しているのは明白だった。

 

 「クソッ、次から次へと! あのオーブの海で電子レンジみたいに焼かれて、1年もICUで天井を見ていた頃に比べりゃ、マシな地獄だけどさ!」

 

 マユラが呪詛を吐く。

 

 あの時の恐怖は、今も三人の肌に焼き付いている。

 

 オーブへの強行偵察中、緊急発進した自分たちのムラサメ改は、アマテラスの駆る800メートル級超巨大MAドッゴーラⅡが放ったフィン・ファンネルの檻に閉じ込められた。

 

 逃げ場のない空間でメガ粒子砲を撃ち込まれ、機体ごと電子レンジのように加熱され、全身に大火傷を負って意識を失い、海へと沈んだのだ。

 

 生き残ったのは奇跡だった。

 

 一般病棟に移ったとき、自分たちを慕う50人のオーブ軍女性パイロットたちに説得され、共にザンスカールへと亡命した。

 

 そこで受けた最先端の医療が、彼女たちの肉体を完全に蘇らせたのだ。

 

 「もう振り返らないって決めたでしょ。私たちはルナマリア皇太子妃殿下に命を救われ、今はディアッカ少佐の部下としてここにいるんだから」

 

 アサギが自分を鼓舞するように言った。

 

 ザンスカールに亡命した後、オーブで指名手配されたメイリンとディアッカが、ルナマリアがクロノクル様と婚約した真意を確かめにザンスカールへやってきた。

 

 しかし彼らもまたオーブへ帰れなくなり、亡命。

 

 ディアッカは開発局のテストパイロットとなり、アサギたちはルナマリア皇太子妃の直々の頼みによって、皇太子妃近衛隊からディアッカ少佐の部下へと編入された。

 

 「ディアッカ少佐の指揮を無駄にはできないわ。でも、敵の旗艦級が迫ってる……! アサギ、マユラ、回避して!」

 

 ジュリの悲鳴のような警告。

 

 正面の暗黒から、木星帝国の大型MAが放った極大の反物質ビームが、まっすぐに三人のゴトラタンを捉えていた。

 超高機動のゴトラタンであっても、乱戦の死角から放たれたその一撃を完全に回避することは不可能だった。

 

 「しまっ――!」

 

 「直撃する――!?」

 

 死を覚悟した瞬間。

 

 三人の視界が、眩い純白の光の障壁で覆われた。

 

 それは、幾重にも重なり合う正三角形のエネルギー・フィールド。

 

 かつて三人から自由と皮膚を奪い去った、あの忌まわしき、そして今は絶対的な盾となる、フィン・ファンネルの檻だった。

 

 『ふぅ、間に合ったぁ! 三人とも、怪我はない?』

通信回線に割り込んできたのは、戦場にはあまりにも不釣り合いな、鈴を転がすような天真爛漫な少女の声だった。

 

 モニターの向こうから、漆黒の宇宙を切り裂いて現れたのは、全幅800メートルを超える一対の超巨大モビルアーマー。

 

 一機は、不気味なほど美しい漆黒の巨体――カテジナ・ルースに瓜二つの容姿と、冷酷なまでの苛烈さを持つ長女、ツクヨミが駆るドッゴーラⅡ。

 

 そして、三人娘の前に立ちはだかり、ファンネル・コンテナから放ったフィン・ファンネルで彼女たちを護ったのは――蒼穹色のドッゴーラⅡ。

 

 パイロットは、カテジナの次女であり、わずか12歳にしてディアッカ・エルスマンの婚約者である、アマテラスだった。

 

 『あの時はごめんね! 電子レンジみたいにチンしちゃって、お肌、もう大丈夫?』

 

 アマテラスは、母親譲りの完璧なプロポーションをノーマルスーツに包み、無邪気な笑顔でそう言った。

 

 かつて自分たちを死の淵に追いやった残虐性をその身に宿しながら、今は味方として、これ以上ないほど甘い声で謝罪してくる。

 

 その狂気と純粋さに、アサギたちは一瞬言葉を失った。

 

 「アマテラス様……ツクヨミ様……!」

 

 アサギが、安堵と、背筋を走る戦慄が混ざり合った声を漏らす。

 

 戦況のタイムカウンターが、ちょうど「10分」を消化したことを告げていた。

 

 換装を終えた2機の超巨大ドッゴーラⅡの出撃が、ついに間に合ったのだ。

 

 『さあ、お姉ちゃん、少佐の可愛い部下たちを苛める悪い虫さんたちを、お掃除しちゃおう!』

 

 アマテラスの声が弾む。

 

 蒼穹と漆黒の巨躯が、木星帝国の軍勢へと牙を剥く。その圧倒的な光景を目にしながら、アサギ、ジュリ、マユラの三人は、ドコラタンの操縦桿を握り直し、自分たちが真の勝利の渦中にいることを確信した。

 

 宇宙の闇を切り裂くビームの奔流は、絶え間なく生み出される死の光に他ならなかった。

 

 ザンスカール帝国と木星帝国――二つの巨大な意思が激突した戦場は、すでに混沌の極みに達している。

 

 「量産型ゴトラタン隊、陣形コード『ソーラ・レイ』を維持せよ! メガビームキャノン、撃てぇ!」

 

 前線で指揮を執るザンスカール駆逐艦の通信から、悲痛な叫びが響く。

 

 サイコミュを排し、純粋な火力と量産性を追求した試作機ベースのモビルスーツ、量産型ゴトラタン180機が放った一斉射撃は、天をも焦がす巨大な光の帯となって木星帝国の艦隊へ突き刺さった。

 

 しかし、爆炎が晴れた後に残された現実を前に、ザンスカール前線司令部は愕然とする。

 

 「……敵艦隊、全体の1割しか消滅していません! 木星の防壁は健在です!」

 

 「馬鹿な……! あれほどの火力を叩き込んだのだぞ!?」

 

 それどころか、爆炎の向こうから這い出てきたのは、奇怪な形状をした木星帝国のモビルスーツ隊の夥しい大群だった。

 

 乱戦の最中、ザンスカール側の機体は未だ撃墜こそ免れているものの、すでに全体の2割から3割が大破、あるいは戦闘不能に追い込まれ、命からがら母艦へと後退していく。

 

 この絶望的な戦況のただ中で、戦場の中心に鎮座するのは、ザンスカール帝国の象徴たる超大型戦艦「アドラステア改」である。

 

 かつて世界を震撼させた巨大なタイヤをすべて排し、アドラステア級の超大型動力を8基直列配置、さらにミノフスキードライブエンジンを搭載したその巨体は、禍々しくも圧倒的な威容を誇っていた。

 

 上部格納庫に120機のモビルスーツを数え、下部格納庫にはある「切り札」を秘匿している。

そのアドラステア改を守るように、三角形の陣形を展開しているのが、同じくザンスカール系の技術によって生まれ変わった3隻の高性能戦艦――アークエンジェル改、エターナル改、ミネルバ改であった。

 

 これらの艦もまた、タイヤを持たず、8基の直列動力とミノフスキードライブによって、かつての姿からは想像もつかない宇宙戦艦へと変貌を遂げている。

 

 アークエンジェル改のブリッジ。

 

 かつて地球連合やオーブの象徴であった白き脚は、いまやザンスカール帝国系のマルチプル連装ビーム砲、メガ粒子砲、そして対空レーザー砲の砲塔を全身に生やした、黒と灰色の要塞と化していた。

 

 「ハイパーメガ粒子砲、換装後の出力を確認! コロニーレーザー砲と同等、問題ありません!」

 

 「マルチプルミサイルランチャー、次弾装填を急いで! 敵のモビルスーツ隊をアドラステア改に近づけてはダメよ!」

 

 マリュー・ラミアス艦長は、激しく揺れるブリッジの中で鋭く指示を飛ばしていた。

 

 彼女の視線の先には、メインモニターに映し出される木星艦隊の赤い光点群がある。

 

 「エターナル改、ミネルバ改へ通信! 三連連携の陣形を維持。これ以上の接近を許せば、下部格納庫の換装作業が中断されるわ!」

 

 「わかっているさ、マリュー! だが、この木星の物量は少々、コーヒーの苦味が強すぎるな!」

 

 エターナル改のブリッジから、アンドリュー・バルトフェルドの通信が入る。

 

 エターナル改もまた、ザンスカールのメガ粒子砲を多数装備し、その圧倒的な高速戦闘能力で木星の巡洋艦の側面を焼き払っていた。

「ミネルバ改、ハイパーメガ粒子砲の充填率はどうなっている!?」

 

 バルトフェルドの問いに答えたのは、ミネルバ改のタリア・グラディス艦長だった。

 

 「95%よ、アンドリュー! だが、木星の連中、こちらの火線の隙間を正確に突いてくるわ。マルチプル連装ビーム砲だけでは、この乱戦を捌ききれない!」

 

 タリアの焦りも無理はなかった。彼女たちの役目は、アドラステア改の艦長であるベラ・ロナ准将が下した

 

 「ある命令」を果たすための時間稼ぎだった。

 

 アドラステア改の広大な下部格納庫では、全長800メートル級という狂気のサイズを誇るサイコミュ搭載型超巨大モビルアーマー「ドッゴーラⅡ」が2機、不気味に佇んでいた。

 

 ドッゴーラ改の後継機種として開発されたこの超弩級の怪物は、現在、ファンネル搭載コンテナブロックを取り外し、より広範囲の殲滅を可能とする「ファンネルミサイル搭載コンテナブロック」への換装作業の最終局面にあった。

 

 「あと何分だ!? 換装を急げ!」

 

 整備兵たちの怒号が飛び交う。

 

 巨大なクレーンが、重厚な装甲に包まれたコンテナをドッゴーラⅡの背部へと固定していく。

 

 「あと10分……! 出撃まで、あと10分かかります!」

 

 「長いな……。戦場の10分は、1年にも感じられるぞ……」

 

 アドラステア改のブリッジで、ベラ・ロナ准将は冷徹に戦況を見つめていた。

 

 「量産型ドコラタン隊の限界が近い。アークエンジェル改、エターナル改、ミネルバ改。彼女たちの奮戦にすべてがかかっている。……頼みますよ、マリュー、アンドリュー、タリア」

 

 木星帝国の猛攻は苛烈を極めていた。

 

 「敵新型艦、本艦の左舷マルチプルミサイルランチャーの死角に侵入!」

 

 アークエンジェル改のブリッジにアラームが鳴り響く。

「左舷対空レーザー砲、薙ぎ払え! 間に合わないなら、主砲、ハイパーメガ粒子砲――旧ローエングリンを起動! 照準、敵前衛艦隊!」

 

 マリューが叫ぶ。

 

 「ハイパーメガ粒子砲、発射ァ!!」

 

 アークエンジェル改の艦首から放たれたのは、かつての陽電子砲ではない。ザンスカールの超技術によってコロニーレーザー並みの威力を与えられた、極大のハイパーメガ粒子砲だった。

 

 空間そのものを蒸発させるような純白の光軸が宇宙を走り、木星帝国の戦艦3隻を一瞬で塵へと変えた。

 

 「やったか!?」

 

 「いいえ、敵の第二波、第三波がすぐに来ます! ミネルバ改のハイパーメガ粒子砲も発射されましたが、敵の数が多すぎます!」

 

 「くっ……! 量産型ゴトラタン隊の被弾がさらに増えているわ! 早く、早く来て、ドッゴーラⅡ……!」

 

 その時、アドラステア改の底面ハッチが、ゆっくりと、しかし確実に開放された。

 

 「換装完了! ツクヨミ専用機、アマテラス専用機、両機ともにミノフスキードライブ始動! 出撃準備、整いました!」

ベ

 ラ・ロナ准将の瞳が鋭く光る。

 

 「出撃しなさい。ザンスカールの力、木星の有象無象に見せてやりなさい!」

 

 「ツクヨミ、出るよ。お母さんの邪魔をする有象無象は、私が全員バラバラにしてあげる」

 

 漆黒の塗装に身を包んだ「ツクヨミ専用ドッゴーラⅡ」のコクピットで、13歳の少女――ツクヨミが妖艶に微笑んだ。

 

 その容姿、不敵な笑み、そして他者を見下す冷徹な性格は、ザンスカールの聖女と恐れられた母親、カテジナ・ルースと瓜二つだった。

 

 「あはは! お姉ちゃん、待ってよ! アマテラスも行くんだから!」

 

 もう一機、青穹(せいきゅう)の美しき色彩を纏った「アマテラス専用ドッゴーラⅡ」から、無邪気な声が響く。

 

 12歳のアマテラス。

 

 彼女もまたカテジナの血を引いていたが、その性質はツクヨミ以上の残虐性を、無垢な天真爛漫さというオブラートで包み込んだ、ある意味で最も危険な少女だった。

 

 2機の800メートル級超巨大モビルアーマーが、ミノフスキードライブの光の翼を広げて宇宙へと飛び出した。

 

 その圧倒的な巨体は、戦場そのものの支配権を塗り替えるほどの威圧感を放つ。

 

 「あ、見てお姉ちゃん。量産型ゴトラタンのなかに、マユラお姉ちゃんたちの機体があるよ」

 

 アマテラスがセンサーの画面を指差した。

 

 そこには、大破寸前になりながらも前線を維持しようとする、マユラ・ラバッツ、ジュリ・ウー・ニェン、アサギ・コードウェルら、元オーブ軍パイロットたちの駆る量産型ゴトラタンの姿があった。

 

 彼女たちはかつて、ザンスカール帝国によるオーブ強行偵察の際、ムラサメ改で迎撃に出たものの、当時アマテラスが操るドッゴーラⅡのフィン・ファンネルによって空間に閉じ込められ、容赦ないメガ粒子砲を浴びせられた。

 

 機体は電子レンジのように内側から加熱されて撃墜され、全身火傷の重傷を負って1年間もICU(集中治療室)を彷徨った過去を持つ。

 

 しかし、一般病棟に移った後、彼女たちを慕うオーブの女性パイロット50名と共に、ザンスカール帝国へ亡命。帝国の最先端医療によって火傷は跡形もなく完治し、いまやザンスカールの兵士としてこの場に立っていた。

 

 「大変、大変! 木星の変なモビルスーツがいっぱい攻めてきてる!」

 

 アマテラスは天真爛漫に笑いながら、操縦桿のサイコミュ・トリガーを引いた。

 

 「いっけぇー! フィン・ファンネル!」

 

 アマテラス専用ドッゴーラⅡから射出されたフィン・ファンネル群が、またたく間に幾何学的な陣形を形成する。それは敵を攻撃するためではなく、強固な光の結界――フィン・ファンネル・バリアを展開するためだった。

 

 ピキィィィン! と宇宙に精神波の音が響き渡る。

 

 純白の光の障壁が、傷ついたマユラたちの量産型ゴトラタン隊を、そして戦場を支え続けていたアークエンジェル改、エターナル改、ミネルバ改の巨体を包み込んだ。

 

 木星帝国の戦艦から放たれた無数のビームやミサイルが、そのバリアに接触した瞬間、パチパチと音を立てて無力に霧散していく。

 

 「え……? バリア……!?」

 

 量産型ドコラタンのコクピットで、マユラは目を見開いた。

 

 「この力……アマテラス様なの!?」

 

 アサギとジュリも、自機を包む確かな守護の光に息を呑む。

 

 アークエンジェル改のブリッジでも、マリューがその光景に驚愕していた。

 

 「ドッゴーラⅡのフィン・ファンネルが……私たちを護ってくれているの!?」

 

 「信じられんな。あのバカげた巨体で、これほど繊細な防御フィールドを張るとは。お嬢さん方には感謝しなければね」

 

 エターナル改のバルトフェルドが感嘆の声を漏らし、ミネルバ改のタリアもまた、安堵の息をついた。

 

 「間に合ったのね……。ツクヨミ、アマテラス!」

 

 バリアの向こう側では、漆黒のツクヨミ専用ドッゴーラⅡが、ファンネルミサイルを一斉に解き放ち、木星帝国のモビルスーツ隊を一方的に蹂躙し始めていた。

 

 爆発の炎がツクヨミの顔を黒く照らす。

 

 その圧倒的な破壊劇の傍らで、アマテラスは通信回線を開き、バリアの中で震えるマユラ、アサギ、ジュリの3人に、満面の笑みを浮かべたような声で呼びかけた。

 

「マユラお姉ちゃん! アサギお姉ちゃん! ジュリお姉ちゃん! もう大丈夫だよ、アマテラスがちゃーんと護ってあげるからね!」

 

 通信機越しでもわかる、悪意の微塵もない、あまりにも純粋な子供の声。

 

 「あ、そうだ! ずっと言いたかったんだけどね? 前にオーブの海の上で、お姉ちゃんたちのムラサメ改をフィン・ファンネルでぎゅーって閉じ込めて、メガ粒子砲で電子レンジみたくチンして撃墜しちゃったこと、ごめんなさい! あの時はちょっとだけ、やりすぎちゃった!」

 

 天真爛漫に、まるで泥遊びで服を汚したことを謝るかのように告げられたその言葉に、マユラたちは背筋に冷たいものを感じながらも、苦笑するしかなかった。

 

 彼女たちの命を奪いかけた残虐性と、いま自分たちを完璧に護っている絶対的な優しさ。

 

 それこそが、ザンスカール帝国が誇る最強の象徴――ドッゴーラⅡを駆る、幼き双璧の正体だった。

 

 光のバリアに護られたザンスカール艦隊の前で、木星帝国の軍勢は、次々と漆黒と蒼穹の巨体に引き裂かれていくのだった。

 

 

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