最低ですね酒寄所長   作:tanuki2747

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超かぐや姫!生理概念第三弾、今回は綾紬さんと痛み止めに関する話です。

このシリーズは生々しいので読むときは気合を入れてください、無理そうなら無理をして読む必要はないですからね、読むものは選ぼう。

こちらはPixivに投稿済みの同名作品に手を加えたものです。
今回はこちらでした。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=28970028


2030年 綾紬芦花の場合

 背の順はいつも後ろの方。誕生日が来るのはクラスの誰よりも早くて、風邪もあまりひかなかった。バランスの取れた食事、運動、睡眠。健康に直結することに触れられる環境で育った。その分初潮を迎えるのも早かった。保健室の先生に納得したような顔で、

 

「綾紬さんだものねぇ」

 

 と言われたのを覚えている。大人の目から見ても、私はそういう成長の早い部類の人間のようだった。

 教わった通りに道具を使い、失敗を繰り返しながら慣れていき、特に変わったことのない成長を遂げたと思う。自分は普通だと思っていた。確かに生理中はちょっと痛くなることもある。でもやり過ごせたし、ひどいときも軽い痛み止めですぐにおさまった。病院とも縁がなかった。これが普通だと思ってた。

 中学二年生、修学旅行のとき。同じ班の子が生理だからとお風呂の時間をずらした。先に支度をして部屋を出ようとしたとき、その子に袖を引かれた。

 

「芦花、痛み止め持ってる?」

「うん。これでいい?」

 

 渡した小箱を見て彼女は顔を曇らせる。血の気の引いた青白い顔、お腹を庇ってまるまった背中、何かを耐えるように肩を掻き抱く細い指。一目見てわかる、この子は具合が悪い。

 

「ごめん、それじゃ効かないわ」

「そうなの?」

「先生にもらってきてくれるかな」

「うん、布団被って待ってて」

 廊下に出た時、外の空気を余計に冷たく感じた。知らなかった、あんなに痛い人もいるんだ。友達なのにそんなに痛いことを理解してあげられなかった。

「あれじゃ効かないんだ」

 

 悲しかった。寂しかった。自分の痛みが弱いことを恥ずかしく思った。

 

 §

 

 今日は真実の口数が少ない。お弁当の進みも悪いし、若干顔色も悪い。

 

「真実、風邪?」

 彩葉が心配そうに声をかける。真実は首を振った。

「いやー、今日からアレでさ」

「あぁ……」

「痛み止めいる?痛みが強くなる前に飲んでおきなよ」

「ありがとう芦花、もらえると嬉しいー」

「ちょっとまってね」

 

 鞄を開いてポーチを取り出す。そこからシートを3枚出して真実に見せた。

 

「イブプロフェンと、アセトアミノフェンと、ロキソプロフェン、どれが真実に合う?」

「お、おー、芦花って薬屋さん?」

「こんなに持ってる人初めて見た」

 

 真実と彩葉が目を丸くした。友達の痛みを理解できないと知った日から、痛み止めは複数種類持ち歩くようになった。その人の体質によってどれが効くのかは違う。だったらどれにでも対応できるように、複数持っていればいい。そうすれば少しでも痛みを和らげることができるから。私が理解できないものを減らしてあげられるから。傲慢だとは思う。でも親しい人には楽になってほしかった。

 

「うーん、イブかな?」

「はいどうぞー」

「芦花、いつもこんなに持ち歩いてるの?」

「そうだよ。彩葉もいる?」

「あ、いや、私は」

 

 彩葉が目を泳がす。彩葉と同じクラスになって数か月、疑問に感じたことがある。この子はいつだって無理をしてしんどそうだ。でも、生理の時特有の血の気のなさや痛みに耐えている様子ではない。もしかして、と思うのに口にできない。ここまで踏み込んでしまっていいのだろうか。

 

「彩葉ってさー」

 

 シートから押し出した薬を水で飲み下して、真実が口を開く。

 

「アレのときしんどい方?」

「んー……なんかしばらくきてないんだよね」

「え」

「え」

「あ、いやいやいや、やばい方の意味じゃなくて」

 

 慌てて否定する彩葉に一瞬安心する。いや、でも、そうじゃなくて、それって普通じゃない。

 

「いろはー、無理しすぎでは?」

「は、ははは、勘弁してください真実さん……今月バイトのシフトぎちぎちで」

「忙しいのはわかるけど、ちゃんと休んで」

「ごめんね芦花も心配かけて。でもほら、なければないで楽だし?」

「そうだけどさぁ。うーん、あのね、私高校受験の時緊張しすぎて一か月くらい遅れたんだよね。そしたらさ、めーっちゃ痛かったから、彩葉マジで気を付けなね。ほらお弁当のおかず分けてあげる」

 

 真実が彩葉のお弁当に唐揚げを乗せた。

 

「そうだよ彩葉。ちゃんとご飯食べて。今度試験勉強さ、駅前のファミレスでやろうよ。教えてもらうお礼に奢るから」

 

 私も卵焼きを彩葉のお弁当にのせる。質素すぎる、彩葉の節約弁当。彩葉は頑張りすぎだ。時間を削って、お金を削って、命も削って。もっと普通の生活をしてほしい。それが難しいとわかっていても、彩葉に健康に生きてほしいと思ってしまう。この子の苦しみのほんの一片でも私が背負えたら、と願ってしまう。

 

 §

 

 そんなことがあって数週間後のことだった。朝一番に教室に行くと、彩葉が机に突っ伏していた。いつもしゃんと背を伸ばして前を見ている彼女にあるまじき事態。ただことではないとすぐにわかった。こんな時に二人きりでよかったと思った。彩葉、こういうとこ誰にも見られたくないだろうから。

 

「い、彩葉、大丈夫?」

「う……ろか?」

「どうしたの、どこか痛い?」

「いや、ははは……ちょーひさびさにあれきちゃって。まみとあんなはなし、したからかなぁ」

 

 彩葉、そんなに痛いの?まっすぐ座れなくて、声にも覇気がなくて、顔色なんて血の気が引いてるのを通り越して真っ白。呼吸も浅くて痛みを耐えられていない。

 

「薬、痛み止め飲もう。ロキソプロフェンあるから。強いやつだけど、それなら、きっと」

「ごめん、いらない……くすりのんだらくせになっちゃうから、これくらい」

「全然そんな風には見えないって」

「だいじょうぶ、みんながくるまでには」

「お願い、薬飲んで。辛そう」

「ろかのがつらそうだよ」

 

 彩葉が力なく微笑む。どうして私は痛くないんだろう。どうして私は生理が軽い方なんだろう。どうして健康な生活をして丈夫でいられるんだろう。恵まれた性質、恵まれた体、恵まれた環境。全部いらなかった。こんなもののせいで大事な人の辛さを理解できないなんて。

 

「くすり、ありがとう、でもさ、きかなくて」

「薬効かないくらい痛いの?」

「うん。しはんのは」

「それ病院行った方が」

「そうだね、そのほうが、きっといいんだろうね」

 

 ぐったり目を閉じる彩葉。彩葉はきっと病院に行かない。薬も飲まない。ただただ痛いのをやりすごすことしかしない。頻度が低いから、とか思ってるのかもしれない。でもそもそも頻度が低いのが問題なのであって、正常に、周期的にきていればきっと。

 そこで気づいてしまった。もし、毎回彩葉にこんな痛みが訪れていたとしたら。だったら私が彩葉に普通の生活ができるようにと願ってしまえば、それは彩葉に毎月この激痛を望むことと同じになってしまう。じゃあこのまま、年に数回だけのままでいることを望むの?だめだ、わからない。私は彩葉じゃないから、彩葉の痛みが理解できないから、毎月くれば軽くなるかも、なんて淡い期待を抱いてしまう。

 生理痛には個人差があることは聞いている。私みたいに全然痛くない、痛くても軽い痛み止めでやり過ごせる人もいれば、彩葉みたいに動けないほどの痛みを感じる人もいる。ひどい話だ、と思う。どうして平等に、等分に痛みを感じられないんだろう。そうすれば彩葉が感じる痛みを少しでも背負えたのに。

 

「せめて保健室行こう。ついていくから」

「いや、でも」

「歩けないでしょ?肩貸すから。湯たんぽもらえるだけでだいぶ違うから」

 

 促して立たせる。傾いた体を支える。ぞくっとするくらい冷たくて軽い彩葉の身体。私と全然違う。健康の反対側。安定の反対側。自分が持ってるものなんて何もいらないと思った。彩葉が楽になるためだったら何もなくなっていいって思えた。

 

「彩葉、しっかり」

「ごめんねろか」

「いいから」

 

 どうして私は痛くないんだろう。悲しくて辛くて、自分が嫌いになりそうで。滲んだ涙を彩葉に気づかれないように拭った。ぐっと前を見据え、保健室へ一歩一歩、足を進めた。高校一年生の冬、寒い寒い日だった。




夕べぐっすり寝ちゃったから予約投稿忘れてたよね、許してください。
芦花ちゃんの解釈は一生わかりません、監督を逆さまにして振ったら何か出てくるかな?

明日は酒寄さんの話の予定です。
ではまた明日!
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