こちはらpixivに投稿済みの同名作品に一部手を加えたものになります。
今回はこれでした。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=28049882
「去年ってさー、彩葉の誕生日どうしてたの?」
かぐやちゃんに聞かれて手を止めた。聞くのか、聞きたいかあの話を。私はキーボードから手を下ろして彼女に向き直った。
「事件だったよ」
「事件」
「そもそも所長誕生日覚えてなくて」
「うそー、やっば」
そう、あれはちょうど一年前。まだKG型ボディが完成していなかった頃。
§
「はい?」
思わず手にしていた紙コップを落とすところだった。何言ってんだこいつ、何時だと思ってんだ?
「いやー、今日誕生日なの忘れてた」
へらへら笑いながら所長が見せてくれたスマホの画面には、ご友人からの誕生日を祝うメッセージ。
『彩葉、ハッピーバースデー!』
『次の週末誕生日パーティーしようねー』
もう一度時計を見る。22時。もうスーパーやってないが?
「もっと早く言えクソボケ! 誕生日くらい休め灰色の脳細胞! 働き過ぎだワーカーホリック! ホワイト研究所を積極的にブラックにするなオセロ名人!」
「田中さんなんで怒ってるの?」
「今すぐコンビニ行ってくるからそこで待っててくださいっ!」
「は、はい」
私は肩で息をしてまくし立てると、研究所最寄りのコンビニまで走った。が、ない! 目当ての物がない。
「クソついてねぇ……」
日々の行いを振り返った。あーデスク片付けてなかった、ゴミの分別を横着した、KASSENでテンション上がってFワード吐いたし中指立てた。日頃の行いが悪い。反省しろ。
どうするべきか、と考えて、ふとホットケーキミックスが目に止まった。卵、売ってる。牛乳、売ってる。カットフルーツ、売ってる。ヨーグルト、売ってる。まぁ、うん、よし。
スマホを取り出して今日も今日とて研究所に缶詰している佐藤さんと斉藤さんに連絡をした。
『祭です。ホットプレートとボウルと計量カップと泡立て器とお玉用意してください』
そして必要なものを購入すると研究所に舞い戻った。
「田中クン、何があったんだい?」
「ホットプレートありがとうございます佐藤さん。今日所長誕生日でした。コンビニのケーキは売り切れでした」
「なんと……」
ボウルを洗っていた斉藤さんが小さく呟いた。
「そういうわけでこれからミルクレープ作ります。ご協力お願いします」
「レシピはあるかね?」
「調達済みです。スマホ、プロジェクターにつなぎます」
スクリーンに本日の計画を投影した。ここからは役割分担。
「私が生地を混ぜます。斉藤さんはギリシャヨーグルトに砂糖を混ぜてクリーム状にしてください。佐藤さんはホットプレートに火を入れたらカットフルーツを一口大に切ってください」
「承知した」
「お任せください……」
我々は作業に入った。生地はダマのないようにしっかり混ぜた。斉藤さんは私が買ってきた氷でヨーグルトを冷やしながら混ぜ、佐藤さんは実に均一にフルーツを切った。
「火入れ完了」
「ありがとうございます、生地混ぜ終わりました」
「クリームも……完成です……ところで……どうクレープを冷ますおつもりで?」
「あ、しまった、冷まさないとクリームが溶ける」
「どれ、ではクレープを焼く方は田中クンにお任せしますかな」
「はい……我々は……冷却方法を……」
「すみませんお願いします」
ホットプレートに油を落とし、キッチンペーパーで広げる。お玉で生地を落とし、くるくる円形に広げる。表面が乾いてきたら全体の三分の一のあたりにフライ返しを入れ、ひっくり返す。よしいい感じだ。
「焼けました、どこに、おぉ……」
佐藤さんと斉藤さんが用意していたのはアルミホイルとペルチェ素子、その下に取り付けられたヒートシンクと冷却ファン。
「ささ、このアルミホイルの上に」
「十分に冷めましたら……移動させてクリームを塗って果物を挟みます」
「ありがとうございます、じゃあどんどん焼きます」
こうして二枚、三枚と焼き、ミルクレープと呼ぶにふさわしい物体が完成した。なかなかやるじゃん、私たち。
「では……ろうそくを用意するので……所長を呼んできてください……」
「はい行ってきます」
廊下を歩く。深夜の研究所は足音がよく響く。所長、あなたちゃんと誕生日くらい覚えててください。あなたの生まれた日ですよ。祝福されるべき日ですよ。国民の祝日にしたっていいくらいですよ。人間らしく誕生日を祝われてください。ただでさえ人間離れしてるんだ、あんまりやりすぎると神様になっちゃいますよ。それは御免被りたい。あなたには人間でいていただきたい。見えなくなっちゃうと困るだろ。
なんてことは、言ってやらないけど。
「所長! ぎりぎり間に合いました、会議室来てください、早く早く」
「はいはい。なんか田中さんが楽しそうじゃない?」
「自信作なんですよ。佐藤さんと斉藤さんも協力してくださいました」
「なんかこういうの久々だな、実家ぶりかも」
「ご実家では誕生日ケーキでお祝いしてたんですか?」
「んー、したりしなかったり。お父さんがいたころは毎年やってたんだけど」
「それっていつまでです?」
「5歳? 6歳?」
「うわ……これからは毎年お祝いしてやりますから」
「いいよそんなの」
「うるせーですよ、黙って祝われてください。今までのあなたの分も」
「ありがとう。来年はかぐやも一緒にお祝いできたらうれしいな」
「だったらしゃきしゃき進捗叩きましょう」
会議室のドアを開ける。真っ暗な部屋、ミルクレープの上に輝くろうそく。まばらな高さの、色もそろっていない、数だって怪しい、でも所長を祝う光。
「ハッピーバースデートゥーユー」
「ハッピーバースデートゥーユー」
佐藤さんと斉藤さんが手拍子を打ちながら歌う。私も後に続く。
「ハッピバースデーディア、いろはちゃーん、ハッピーバースデートゥーユー」
名前にちゃん付けは不敬だったか? でもそう呼びたかった。あなたの誕生日ですよ、忘れないでください。
所長が、ふぅ、とろうそくを吹き消す。部屋が真っ暗になる。暗くても怖くなかった。消す瞬間の所長がキラキラしてたから。
佐藤さんがすぐに電気をつけてくれた。突然明るくなって目がくらんだ。
「おめでとうございます所長!」
「おめでとう……ございます……」
「所長、おめでとうです」
「ありがとう三人とも。うわ、すごいねこれ、おいしそう」
「田中さんが……がんばってくださいました……」
「あ、いかん、飲み物がありませんな」
「淹れましょうか、コーヒーならって深夜か」
「うーん、いいんじゃない、深夜のコーヒーでも。今日はみんなで夜更かししよう」
それは、あなたのご友人たちに私が怒られてしまうのでは、と一瞬思った。でも今日は夜更かししてお祝いしたかった。
「じゃあ淹れてきます、ビーカーにですけど」
§
「てわけで、大変だった」
「ヴェー、深夜にコーヒーとか不良じゃん!」
「ごめんね不良で」
時計を見る。そろそろ時間だ。今回は深夜ではない。
「じゃあ行こうか」
「うっし、彩葉呼んでくる」
これから所長の家に行って、みんなでお祝いをする。かぐやちゃんの手作りケーキで。
モブとモブとモブがなんかやってて草。
そろそろストックなくなっちゃうな、なくなっちゃったらテキスト投稿したときに更新されるシステムになります。
まだあるので、また明日!