こちはらpixivに投稿済みの同名作品に一部手を加えたものになります。
今回はこれでした。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=28104234
土曜日、夜9時。研究所の会議室にわいわいみんなで集まっている。今日はかぐやちゃんが出るラジオ番組の放送日。金曜の夕方にそれを思い出したときについつぶやいてしまった。
「一人で受け止められない……」
こんな弱音を汲んで集まってくれる同僚達がいることは喜ばしい。喜ばしいんだけど、
「いやなんで所長もいるんすか」
「せっかくだからみんなで聞きたいじゃない? 終わった後に音楽鑑賞会するんでしょ、ここの音響で」
ここの会議室は異様に高画質のモニターと謎に5.1サラウンドの音響が備わっている。なんのことはない、映像鑑賞会、音楽鑑賞会をこの会議室でやっているから。違うんですこれは、うちの制作物であるかぐやちゃんとヤチヨがバリバリに歌って踊るのでその様子を確認して今後のアップデートに活かすための設備なんです。所長が踊ってるのはなんでかわからん、所長最高、歌って踊れて頭良くておまけに美人。本人にはぜってー言わねえ。
職員一同、そわそわしながらうちのかぐや姫の登場を待つ。日本放送協会さんには大変お世話になっている。幼少期から指しゃぶりのように慣れ親しんでいた教育番組から、学校の道徳教育のために見せられた教材番組、さらに深夜帯の疲れた脳みそに程よく優しい番組まで隙のない構成をされている。特に緊急地震速報のシステムは我が国を支える大切な存在で、これのために受信料を納めていると言っても過言ではない。紅白見に行ってみたいなー、今年かぐやちゃん出たりして。
「あ、始まった」
和風の音楽が流れ始めた時誰かがそう言った。全員がスピーカーの方を見る。
『ぶんぶんハローえぬえいちけー』
かぐやちゃんがふざけている声が聞こえた。なにしてんだあいつ。それを聞いた所長が小さく肩を震わせている。楽しそうで大変によろしい。こうしてかぐやちゃんが外で誰かと接して、それを所長が喜んでいると思うことがある。がんばってよかったなって。私たちの成果は無駄じゃないんだなって。
かぐやちゃんはパーソナリティのVtuberと楽しくトークをしている。この前のバーベキューの時のこととか、配信で視聴者のコメントを取り入れるようにしていることとか。
「なんか、楽しそうですね」
「うん。かぐやがああしてると私も嬉しいなって」
「なんですかそれは、親ですか」
「んー、育児はした」
「今の発言、関係者以外の前で禁止ですからね」
トークをして、曲を流して、またトークをして。普通のラジオなのに知ってる子が出てると思うとそわそわしてしまう。おまけにかぐやちゃんは私の推しでもあるし。どうだ、うちの推しはかわいいだろう。もっと好きになってもいいんだぞ。全国のオタクに推してもらいたい、最高だから。
話は盛り上がり、10年ぶりの復活ライブの件になった。あれすごかったなぁ。未だになんで最前列に招待してもらえたのか理解できてない。いや関係者だから当たり前なんだけどさ。あんなの見せられたら強制的に好きにさせられる。
『復帰してからタイトル知ったの。返事って。泣いちゃった』
へぇ所長なかなか粋なことするな。そんなに温めてたんですか、やるじゃん。ちらりと所長に視線を送る。なんかこの人、そわそわしてんな、どうしたんだ。
『お手紙が届いてます』
突然背筋を伸ばした所長。おい、おいマジか酒寄。
『いろっぴー、酒寄彩葉です。Replyは幼少期に父と作った未完の曲で。かぐやの卒業ライブに寄せて完成させました。私にとってかぐやへの返歌であると同時に父に向けての返歌でもあります。自分のほんとうの気持ちを形にした私にとって宝箱のような作品です。かぐや、やりすぎないようにね。帰ったら今日はパスタが食べたいな』
あぁ、うん、落ち着こう、まだその時じゃない。6秒、そう、6秒待つんだ、アンガーマネジメントだ。
『なぁにぃ~今日何味にしようか……なんだよぉ今知ったんだけどぉ……えぇ……いろはぁ最強な曲いつもありがぁとぉ……あとで連絡すっからさあ~オイル系がいいかトマト系がいいかクリーム系がいいか、なんでもつくるよぉ~』
まだ怒るな、もうあと6秒待つ。アンガーマネジメントだ。貧乏ゆすりが止まらない。マジかこいつら、マジか。せめてこう、もう少しどうにか、ならないのか。
こうしてラジオが終わった。深呼吸をする。オッケー、波は過ぎ去った。第二波第三波が来ただけ。
「し」
「……あ」
「だめだ田中を押さえろ!」
「かぐやちゃんがゲストって時点で読めてただろ!」
「だから午前中に献血行けって言ったんだよ血の気が多すぎる!」
同僚達に羽交い絞めにされる。えーいはなせはなせはなせっ悪いのは所長だろライン越えだよこんなの!
「所長!! 公共の電波に!!!! 私信を流すな!!!!!!」
「いやあの、かぐやが喜ぶかなって」
「視聴者に対して『かぐやは私のです』って威嚇すんじゃないよこのめんどくせぇ独占欲丸出し天才科学者!」
「田中さんそれほめてる? けなしてる?」
「両方だよばかっ! 所長最低! さいていっ! かぐやちゃんに早く返事してあげて!」
「し、しました、トマト系がいいですって」
羽交い絞めされてぶらんぶらんしながら大きい声出したから息が上がった。くそ、まじこいつ、まじ、なんでここで聞いてんだよ、かぐやちゃん帰ってきちゃうだろ。
「はぁ……はぁ……所長、おうちにかえれ、ゴーホーム」
「え?」
「おうちでご飯食べてください、はよかえれっ」
「そうですよ所長、帰ってください」
「一人で聞くと寂しいからってここで聞いてたことは連絡しときますんで」
「君たちさぁ……わかった、鑑賞会はまた今度やろう。じゃあね」
所長を見送って、やっと落ち着いた。まだ頭がガンガンする。
「すみません、取り乱して」
「いやいい、わかるあれは、所長が悪い」
「そうそう。かぐやちゃんはしっかりやってたけど、所長が先に踏み越えた」
「てことで我々の憂さは鑑賞会で晴らそう」
先輩方が取り出したのは見たことのないディスクだった。
「オタ公さんからもらったんだ、かぐやちゃんの路上ライブ時代の映像」
「……見せてください」
「見よう見よう。いろP着ぐるみ時代だよ」
「う、マジ見たいです、ありがとうございます本当にありがとうございます」
会議室にはいつまでも明かりがともっていた。
危うく忘れて寝るとこだった、思い出せてラッキー。
てことでまた明日!