こちはらpixivに投稿済みの同名作品に一部手を加えたものになります。
今回はこれでした。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=28278842
「てことでー、はじめよろしく☆」
「いや説明しろ」
目の前にはCADで作られた乗り物のデータ。要するにこれを作れと言いたいらしい。
初夏、所長は海外で学会および会合のため出張。仕事も資料整理くらいしかなく、ぶっちゃけ暇。私とかぐやちゃんとヤチヨは暇を持て余しているモラトリアム大学生みたいだった。そりゃ変な提案もされる。
「ヤチヨと昔の紅白歌合戦の動画見たの」
「あぁ、アーカイブスの」
「そしたらさー、道路をサメが走ってて」
そんなのあったような気がする。小学生の時に見たような。首都高を男性の歌手がサメ型の車みたいのに乗って走ってて、最後に花火が上がったやつ。ド派手でよかった。
「あれかー。それで、これを?」
CADで作られているのはサメ型の乗り物だった。つまり、これに乗って走りたいと。
「やんないから」
「おねがーい?」
「おう私には効かないぞ、肝心の所長は今いない、諦めるんだね」
さあ実験室から出てけ、と言わんばかりにしっしっと手を振った。かぐやちゃんは恨みがましく私を見つめたかと思うと、しょんぼりとしてこう小声で言った。
「だって彩葉がいなくてつまんないんだもん。さみしい」
「……」
いや、わかる、けど。折れるな、ここで折れるな。
「彩葉にさ、配信で楽しいことやってるの、見せたいなって。そしたら寂しくないかなって」
「……」
まだだめ、だめだから、絶対に。
「はじめもさ、彩葉いなくて寂しいよね?」
3Dプリンターを起動させた。
§
結局完成まで三日ほどかかった。3Dプリンターで骨組みを作って、発泡スチロールで外観を整えて、見事なサメの乗り物が出来上がった。動く部分は電動キックボードを改造し作った。要するに、四輪タイプの電動キックボードの改造。ハンドルは短くして座った状態で操作できるようにした。その上で、牽引できるようにした。嫌な予感がする。
「かぐやっほー! 月からやってきたかぐやだよー。いろP! みてるかー!」
かぐやちゃんがいつもの口上を述べている。ついでに所長へのラブコールも。カメラはヤチヨが回してる。ヤチヨはツクヨミのシステムに介入していつでも映像と音声に修正をかけられるようにしてくれている。なんせ研究所の敷地内なので。
「ということでー、今日のアシスタントを紹介しま~す」
「……どうも、モブ研究員です」
「ねーもっとなんか言ってよ」
「うるせえはよ乗れ」
「はーい」
かぐやちゃんがサメに乗った。サイズ感的には、さびれた遊園地にある100円入れると歩くパンダくらい。うん、いい感じのサイズだ。サメはシュモクザメにした。ハンマーヘッドシャーク。かっこいいから。ホオジロザメはダメですね、あいつはいかにも「俺は強いんだぜ」という見た目をしすぎてて型にはまりすぎている。それより、シュモクザメの方が見た目の奇妙さと恐ろしさ、そして不思議な生き物感が出ていて最高だ。安易にホオジロザメをお出ししてくる人は何もわかっていない。それはそれとして、ネコザメとイヌザメの猫感、犬感は異常だ、かわいいにもほどがある。
問題はここから動くか、なんだけど。
「これどうやって動かすの?」
「足元のペダル踏むと加速、離すと減速、ブレーキは手元」
「おっけー」
正直自信がない。色々改造した結果、動かないことが度々ある。やっぱり素人に毛が生えた専門外の学者がやるもんじゃない。かぐやちゃんがペダルを踏み込むような動きをする、が、空回る音がする。
「あれー、
「ばっおま、名前呼ぶな!」
慌ててヤチヨの方を見た。大丈夫なの、今の。
「あ、だいじょうぶだよー。修正入れたから。顔も隠してある」
「ならいい、けどさ」
いいのか?
「ねー
「こいつ……ちょっと待ってて」
私は牽引用のロープを持ってきて、フックをひっかけた。さながら釣り上げられたサメだ。
「10m、それ以上は無理」
「オッケー! いけいけ
「だからやめろってんだよぉ!」
体にロープを襷のようにかけて引っ張る。すごく力がいる、が、これくらいはなんとかなる。体の使い方は知ってる。
「せーのっ」
引っ張られてじわりじわりと地上を進むシュモクザメ。不思議な目を持つ巨大な魚は、どこか恐ろしいようでなんとなくひょうきん。
「おぉー、すっげー、やっば楽しい!」
「ねーかぐや、ヤッチョも次やりたいなー」
「いいよー」
「私に許可を取れや!」
ぎゃあぎゃあ騒ぎながらなんとかサメを引っ張る。10mのつもりだったけど、かぐやちゃんがあんまりにも喜ぶもんだから20mくらい動かした。それからヤチヨに交代してまた20mくらい。やりすぎだよこんなの。カメラ回してるかぐやちゃんが笑いすぎてめっちゃぶれてるし。これ見てる人酔わない?
「かぐやちゃん、これ画面大丈夫なの?」
「あやっば」
かぐやちゃんが配信中の画面を確認する。コメント欄は案の定、画面酔い報告の嵐だった。そらそうよ。
「うおーやっちった。みんなごめーん、許して~あ! いろP!」
「え?」
「お?」
ヤチヨと一緒に画面をのぞき込む。見慣れたハンドルネームが見えた。所長だ!
『iro: 敷地内で何やってるの……
「名前書くな!! 最低ですよ!!」
「大丈夫大丈夫、ヤッチョのスペシャル修正入ってるから」
「そういう問題じゃない! 早く山盛りお土産抱えて帰ってきてくださいよっ」
『iro:
「私にこいつらのお守させないでくれって言ってんですよぉ!」
「ねー
「できるかアホッ」
§
配信から数日して所長が帰ってきた。ながい期間だった。
「ごめんね待たせて」
「彩葉、次はかぐやも連れてってよ」
「私も行きたいな、彩葉」
「いや、無理でしょ。二人とも扱いが貨物じゃん」
肉体が機械である二人は今のところ旅客扱いにはできない。だから今回飛行機には乗れなかった。
「そのことなんだけど」
所長は鞄から書類を取り出した。なんだこれ、国連のマークが入ってる。えーっと、合意書って、まさか……
「二人を旅客扱いできるようかけあってきたよ」
「やたー! 飛行機乗るぞっ」
「嬉しいなぁ、ありがとうね、彩葉」
「……」
「どうしたの、田中さん?」
「所長が、たまに怖くなります」
「……だめ?」
「だめでは、ないですね……」
いやあなたすごすぎですよ。
ギリギリ思い出した、えらい。
てことでまた明日!