こちはらpixivに投稿済みの同名作品に一部手を加えたものになります。
今回はこれでした。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=28645088
また馬鹿げたCADの画面を見ながらシロナガスクジラみたいなでかいため息をついた。なんでこう、アホみたいなことばっかり考えるかな?
「これやらない?」
「えらく昔のCMだね」
「そそ、3秒クッキングってやーつー」
目の前のぴかぴかきらきらなかぐや姫はスマホで動画を再生して見せてくれている。動いているのは解像度のやや低い、時代を感じさせるたった60秒の動画。えっとこれは、私が生まれた年のCMか。そりゃ見た記憶がないわけだ。通信会社の、新しい規格をPRするためのものだ。
その映像に映し出されるのは、塩ビパイプからエアコンプレッサーによって射出されるエビ、空気中でまぶされる小麦粉と卵液とパン粉、そして吹き上がる炎、そこを通り抜けるエビたち、最後に衝撃吸収材にぶつかり皿に並ぶエビフライ。なるほど、調理されている時間は3秒。でも準備と片づけに3時間ずつかかりそう。
「これさー、今度配信でやろうと思って。ここで」
「実験室で!?」
「だめ?」
だめだよだめ、ここ仮にも最先端技術の研究所だって!
「ここ見せちゃいけないもんいっぱいあるでしょ」
「背景はヤチヨがモザイクしてくれるからダイジョブ!」
「それなら、まぁ……ちょっとまってここでやるってことは」
「てことでアシスタントよろしく~」
「責任者だから立ち合いはするけど、配信には出ない」
出るもんか! この前のサメの時は不可抗力だったとはいえ、私は一般人なんだ。こんな有名人の動画にぽんぽん出されてたらたまったもんじゃない。
「こういうのは所長に」
「彩葉、今新曲作ってくれてて忙しくて」
は? もっかいいって?
「びっくりした、新曲って言ったのかと思った。え、いろPの新曲ってこと?」
「お、はじめ気になっちゃいます? ん?」
このっクソガキが、泣かすぞ。人の推しが自分の恋人だからって調子乗りやがって、いろPの新曲だって? かぐやちゃんがそう言うってことはつまり歌うのはかぐやちゃんなわけで当然ヤチヨも歌うわけで。こちとら二推し三推し箱推しで君ら推してんだぞ、舐めんじゃねえよ靴舐めさせてくださいお願いします。
「協力してくれたら、ちょーっとだけプレビュー版聞かしたげてもいいかも~」
「謹んでお受けいたしますかぐや様」
私は、弱い。
§
とはいえ、どうやってこれを実現させたものか。元の映像は見事に編集と合成で作り上げられている。これを実現させるためには少々頭をひねる必要がある。
まず射出方法、これはベース通りパイプとエアコンプレッサを使えばいいだろう。しかし射出されるエビは空気抵抗を受けて曲がりやすい。これをなんとかしなければ。
「単純に考えると、弾丸みたいに回転させればいいんだよね」
手書きのノートをボールペンでこつこつ叩きながら考えていると、ヤチヨが覗き込んできた。
「弾道の計算はヤッチョとかぐやがやるよー。はじめちゃんは実現方法だけ考えてくれるといいかな」
「計算やってもらえるのは助かるなぁ。パイプはもうそれ自体を3Dプリンターで作ろう。でもってエビをそのまま入れると回転の時にぼろぼろになるから、ケースに入れて射出。ロケットみたいに空中でパージするようにしよう」
こういうのは夢と希望を乗せた方がいい。配信でやるんだし、かぐやちゃんも喜ぶだろう。このへんはもう全部プリンターさんに任せよう。
さて、ここは動画からの大きな変更点だ。エビフライを作るのをやめる。というのも、
「あんな短時間しか火を当てないんじゃ卵液が半生で食感が悪い」
「かぐやもそう思いまーす」
「というわけで、てんぷらにしよう。衣を薄くすれば短時間でも火は通るし、てんぷらならエビが半生でもそれはそれでおいしい」
「お、いいじゃん。抹茶塩用意しよ」
かぐやちゃんがやる気になってくれたのでてんぷら案はよし。
ここまでの流れを整理すると、まずケースに入ったエビをエアコンプレッサによってパイプから回転をかけつつ射出。ケースはエビがパイプ外に出たあとに外れて落ちる。このとき、エビは空中で回転しているので、この後の衣をまとわせる工程、ミスト状の油を吹きかける工程で均一に塗布することができる。問題は加熱だ。油をミスト状にしたため、火を起こすと引火する。短時間、ピンポイントの加熱が必要になる。
「なにかいい案ない?」
「んー、光とかどうかな?」
「ビーム! はじめビーム出して!」
「無理だよ所長じゃあるまいし」
「はじめちゃん、さすがに彩葉もビームはでないかにゃぁ」
出ないんだ……でもビームくらい光を集めればいけそうではある。
「研究所内のレーザー照射器をありったけ集めてレンズでまとめよう。虫眼鏡で紙燃やすみたいに」
「あ、はじめ火遊びしてる。おねしょするよ」
「しないわ!」
というわけで加熱方法が決まった。あとは動画と同じように衝撃吸収材にぶつけて皿に落とすだけ。いけるな、いけてしまう、なんでいけるんだよ。
§
「かぐやっほー! 月から来たかぐやだよっ今日はお料理するから見てってな」
「アシスタントのモブ研究員です。ヤチヨ、今日もちゃんと修正かけて」
「りょ~」
ちらりと画面を確認すると今日もコメントが流れていっている。
『かぐやっほー』
『モブキタこれで勝つる!』
『今日もピー音祭り』
やかましすぎる。大丈夫か? と思いつつ配信開始。まずは材料の説明。
「えー、材料はエビ6尾と」
「よっしゃ移動すっぞ
「だから名前! 学習しろ!」
「いいからいいから~はいこれつけて」
『早速ピー音入って草』
『材料の説明くらいさせたれ!』
かぐやちゃんに渡されたゴーグルをつける。やるんだな!? 今! ここで!
「てんぷら粉は事前に溶いておいてねー。エビはケースに入れてレーンに入れてぇ……スイッチ、オン!!」
やたらとでかいスイッチが押される。エアコンプレッサから瞬間的に空気が吹きだし、エビを発射させた。
ケースは回転しながらパイプを進み、外に出ると同時にケースが脱落、中のエビが宙を舞う。宇宙人達が計算した完璧な軌跡でそのまま突き進み、下から吹き上げられたてんぷら粉水溶液をくぐる。直後に油ミスト地帯を通り……今!
それは、神の舞い降りた瞬間だった。後にかぐやちゃんは語る。『あれはやっぱ持ってるね』と。
「
「あ」
「やべ」
計算されつくしたタイミングで照射されるレーザー、その光がレンズにより束ねられ空飛ぶエビに降り注ぐ。その瞬間に、実験室のドアをひらきやってきてしまった所長。目の前を通り過ぎる、サタデーナイトフィーバーもかすむほどの光を浴び、今まさに揚げられているエビ。まぶしい、エビがきれい。所長はもっときれいだね。
「は?」
『は?』
『は?』
『ちくわ大明神』
『誰だ今の』
呆気にとられた所長の前を飛び越え、衝撃吸収材に激突したえび天。そして皿の上に落ち、美しく並ぶえび天。
「え、なに、これ」
「おつかれーいろP、いやーえび天つくったからこの後呼びに行こうと思ってたんだけどちょうどよかった! 出来立て食べて」
「これやったのかぐや?」
「そだよー。
『流れるようなピー音で草も生えない』
『俺らもナンモワカラン』
所長の視線がこちらを向く。うわやば、これ叱られる時のやつ……
「
「はいっ」
「責任者。そこに正座」
「はいっ」
『いろPガチおこ』
『叱られモードモブからしか得られない栄養』
さっきからずっとコメントがやかましい。くそっ他人事だと思って調子乗りやがって。所長怒ると怖いんだから!
「かぐやも正座」
「ヴェエエエエエ」
「ヤチヨも」
「彩葉、ヤチヨは二人を止めようと」
あ、この8010歳、しれっとパチこいてる!
「所長! 違います! ヤチヨも積極的に参加してました!」
「ち、ちが、言い出しっぺはかぐやでっ」
「なんでよーっ! 確かにそうだけど
「問答無用、全員そこに正座」
「あの、彩葉? お願いだからあったかいうちにえび天食べて? 抹茶塩も用意したし」
こうして本日のかぐやいろPチャンネルの配信は、えび天を食べながら三人を説教するいろPというシュールな絵面で幕を閉じたのであった。
やべぇそろそろストックきれちゃう、どうしよう?
それはそれとしてまた明日。