100年後のサッカーを、君に。   作:peko34

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13 流星として

 今日も楽しい授業時間を終えて、三時間目が始まる前の休み時間。

 

「一ノ瀬さー、昨日あたしらが部活してるとこ、ずっと見てたよな」

 

 今回見ていたのは女子サッカー選手のドキュメンタリー。目立つから字幕のみだったけど、情緒はすでに限界が近い。

 必死で涙を堪えて、声のする方へと視線を向ける。

 

「? ああ、昨日の、」

 

 女子サッカー部で見た顔だ。うちのクラスじゃないから、僕に用かな。

 篠宮さんも隣で興味なさげに振り返っている。

 

 180センチほどの長身。制服はゆるっと着ていて、少しガラが悪くも見える金髪の女の子。

 数あるスポーツの中からサッカーを選んでくれたことを、神に感謝したい体格だ。

 

「見てた見てた。あ、紅白戦で2得点挙げてたよね!」

「あれやめてくんね? うちら全員気味悪がってたし」

「!?」

「か、花音(かのん)ちゃん!」

 

 結構な言葉に慌てて割り込む支倉さん。

 あなたも友達だったのね。でも一番傷つくところは聞こえちゃったから……止めなくて平気だよ?

 

「……それはごめんね。もう見ないようにする」

 

 部活の見学は自由って先生は言ってたけど、僕は悪い意味で有名人。女子からすると、確かに気味が悪いかもしれない……

 

 女子サッカー部。初心者も参加してたけど、全員本気なのは間違いなかった。

 でもサッカーの邪魔になることはしたくないし、仕方ないか……

 

「あ? いや、まあ──」

 

 だけど花音と呼ばれた女の子は、支倉さんの制止が刺さったか、僕が既に涙腺の限界だったことからか、バツが悪そうだ。

 

「……あー、なんだ、うちの部に気になるやつでもいんのか?」

 

 根は優しい子なのか誤魔化すように切り出してくる。

 相当目を輝かせて見てたから、やっぱ分かっちゃうか。うーん、正直に言ってからかわれたら嫌だけど……まあいいか。

 

「──青の7番が最高だった!」

 

 青いビブスを着た7番、ボランチで司令塔。

 

 相手はほにゃらら花音。『復讐帳』にも載ってない人だし、久しぶりに頭空っぽにして話そうか。

 

「あん、それ確か御堂だろ? クラスもちげーし接点なんかあんのか?」

 

 そう、御堂春(みどうはる)さん。昨日帰ってすぐ調べた。

 紛れもなくこの界隈での有名人。特徴を打ち込んだだけで名前が出てくるレベルだった。

 

「……ち」

 

 花音さんの隣で篠宮さんが舌打ちをしている。

 どうしたんだろ。

 

「接点はないけど、さすがにあの凄さは伝わったよ」

「御堂、あの可愛い人だ。何が凄いの?」

 

 バスケ部の支倉さんははてなを浮かべている。

 見た目は小柄だし、プレーを知らないと分かんないかもね。

 

「それはもう! まず何より視野の広さ! ボールタッチもいいしパスの精度もいいけど視野の広さは別格だったね! 常に首振って敵味方の位置把握してるからプレーも落ち着いて、風格もある。敵チームからしたらあれ──」

「──待て待て待て待て! おい早口!!」

「…………むぅ」

 

 話し出しで止められた。あの子中学時代から試合映像たくさん残ってて、語りたいことは山ほどあったのに。

 

「なにおまえ、そのナリでサッカーオタクってやつ……?」

「まあね。実はまだ戦術には詳しくないんだけどさ」

「…………つまりド素人じゃねーか!!」

「この僕がド素人!?」

 

 ……ふぅー。なるほど。この僕がねー。

 

「あんだよ。サッカーは高度なチームスポーツだ、訂正する気はねえぞ」

 

 戦術はちゃんと頭に入ってる。僕の時代の7人サッカー、かつ端末前提で役に立たないだけだ。

 だからこれはただのジェネレーションギャップ。

 

「ま、まあ、花音ちゃんには分からない感覚かもね」

「っ、テメェが花音ちゃん言うんじゃねえ!!」

 

(今日はボール触っていい? いいよね? 30回股抜きするだけだから!)

《論外。プロになる気ある?》

 

 っく、確かにこの右手、テンション上がると絶対使っちゃう……! 

 いや……なら感情切れば、今でも少しくらいサッカーできるんじゃ──

 

「──てかさ」

 

 考えていたら、篠宮さんが話に入ってくる。

 珍しい。話すのは手紙の件以来だ。

 

「言うこと雑誌の選手紹介まんまかよ。オタ言うならもっと、弱点とか出せねーの?」

「……えーと、あ、もしかして篠宮さんもサッカーに興味が──」

「ない。ルールすらあやふやだわ。ねえならいい」

「む。僕を誰だと思ってるの」

「……ここまで誰か分かんねー奴が聞いてくるとこえーな」

 

 どんなに凄くても、彼女もまだ高校一年生。ないわけがない。

 

「あ? なんだよ、言ってみろよ」

 

 眉をひそめて聞くのはもう一人の女の子、花音さん。

 

「言わないけど。本人いないのに具体的な話したら迷惑でしょ……」

「はあ? んなの気にするやつじゃねーってか、弱点あったらしつこく聞いてくるやつだよ」

「……へえ。そうなんだ」

 

 性格もアスリート向き。

 プロ目指してくんないかなー。試合動画で追いたいなー。

 

「じゃあ言うけどさ」

 

 もし悪いところを修正出来たなら、そんな可能性もあるのかな──

 

「まずは……そう! 司令塔のうえに守備もこなす、正にチームの心臓なのに後半バテバテってどういうことなの!? 思考少なめで済む紅白戦で? 戦術の理解度が1人だけ別格だし、すごい独特だし、あれ戦術も彼女が考えてない? コーチングまで全部こなそうとしててキャパオーバー! 睡眠不足でスタミナ不足! 今日登校中にたまたま見かけたけどコンビニの菓子パン食べながら歩いてたんだよ!? 勿論補食用だったらいいけど、目の下に隈できてて絶対生活のどこか削ってる! あれだけの選手なら学校なんか遅刻したっていいからもっと身体を気遣うべきで──」

「…………」

「…………」

 

 二人が口をポカンと開けて呆然としている。

 ……欲が出過ぎた。

 

「…………ふ。くく」

 

 篠宮さんだけは口を押さえて笑っている。

 

「……つい熱くなっちゃった。愚痴っぽくなっちゃったね」

「ちげーよ! ストーカーっぽかったよ!!」

「でもちゃんと伝えてあげてね?」

「嫌だよ! ビビらせちゃうだろ!」

「あ、ただ何が大事かなんて人それぞれだし、遅刻云々は僕が口出すことじゃなかった。ごめん」

「……い、一応自分の中にはルールもあるんだね」

 

 まずい。正解がない世界で同志とサッカー論争。楽し過ぎて、ブレーキが全然効かない。

 

「つか弱点って、要するに環境の話かよ。本人の話してんだよあたしは」

「……さっきから、なんで真莉が御堂さんの弱点気にしてるの?」

 

 篠宮さんと支倉さんが話しはじめた。

 僕も聞きたいけど、今はものすごく物騒な顔でスマホを操作している花音さんが気になる。なんなの怖いよ。

 

「──で?」

 

 やがて操作を終えると、睨むように僕に目を向けた。

 

「文句つけるだけならSNSの達人様だってできるんだ。お前が誰か、クソ人間って噂しか知らねえけどそこまで言ったんだ。当然なんかあんだよな?」

「……弱点言っても絡まれるんかい。そりゃあるけど、本人に伝わらないなら──」

 

 言いかけたところでスマホのメール画面を見せられる。

 

 ? えーと、『御堂春』

 

『お前のサッカーの弱点話す変なやつがいるんだけど、聞いてもいいか?』

『は? 別にいいけど後でこっちにも聞かせてよ』

 

 素敵な性格だね。

 

「んー、あくまで僕がその立場だったらの話でいい? 御堂さんの性格とか都合も知らないし」

「ああ」

「僕サッカーの話で配慮とかすると、すぐバレちゃうみたいなんだけど」

「配慮なんかしたら殺す」

「……な、なんか2人とも喧嘩腰になってきてない? 一ノ瀬くん、大丈夫だよね?」

 

 正直分かんない。

 

 多分今、この時代に来て初めて流星として人と話せてる。

 葉月として生きることに、不満なんかあるわけない。ただそれとは別に、ここから僕はブレーキを踏む気になれるのか。

 

「まあ、これはただの僕の話だし。そうだなー、僕だったら……」

 

 うーん、色々試したいことはあるけど、やっぱりあの圧倒的な『視野の広さ』は絶対に活かしたいし──うん。

 

「別の高校に行くかな!」

 

 支倉さんが頭を抱えている。

 

「…………」

 花音さんは、どういう表情だ? 言葉を失くしている。

 

「……は?」

 なぜか篠宮さんも機嫌が悪い! 御堂さんと仲悪いとかじゃないの?

 

「いやいや。だって高一の一学期にあのレベルだよ? 絶対強豪校から誘われてるよ! 戦術をチームに浸透させんのは指導者に任せて、栄養バランスは専属の人にでも任せて、ゆっくり休むだろうなー」

 

 それで余った時間はヒーリングミュージックを聴きながら、お洒落して、モチベーションを上げていく。

 あの視野持ちが、ゾーンに入った時どうなるのか考えただけでも震えてしまう。

 

「強豪じゃなくても同地区の『瑞穂台』とか! あそこ今年とんでもないストライカー入ってさ、その子も理論派だから御堂さんと相性絶対良くて──」

「一ノ瀬くん? 声のボリューム抑えようか。詳し過ぎると怖いこともあるんだよ?」

 

 支倉さんの迫力のある笑顔と、机を小さく叩く音で止められる。

 いや、これはただ真白の進学先を考えていただけで──

 

「……うちじゃ、御堂について行けてないってか?」

「え? いやだって。えーと」

「花音でいい」

「花音さんの右足使えないせいで、御堂さん2回ほどパス諦めてたよ?」

「!?……って、テメ……!」

 

 片足だけって、取れる選択肢がいくつ消えるって話で。相手からしたら守りやすくって仕方ない。

 

「っ、サッカー素人はすぐ両足使えとか、簡単に言うよな。ほぼ利き足のみの超一流が世界にどれだけいると思って──」

「花音さんはまた別の話だよ」

「…………言ってみろ」

「ボールを利き足の前に落とす技術はないし、切り返しにもたつく人は別ってこと」

 

 花音さんは可哀想に、歯を食いしばって反論するのを耐えている。

 この努力を感じない身体に言われて、じゃあテメェがやってみろ! って言いたいだろうに僕は怪我人、酷い話だ。

 

「というか単純にその身長と骨格、瞬発力とパワーと左利き。これだけ一級の武器があって右が使えないのは勿体なさすぎて──」

 

 まだ話しているところに、教室に響く鐘の音に阻まれる。

 

「……おっとチャイム。サッカーを語るのがこんなに楽しいと思ってもなかった。声掛けてくれてありがとね!」

「……う、うん。一ノ瀬くん"は"凄く楽しそうだったね」

 

 えへへ、お恥ずかしい。

 中学生ってことで真白には遠慮してたけど、今度サッカー論でも話してみようかな。

 どう思う? 花音さん。

 

 目を向けると顔を真っ赤にして、拳を震えるほど握っている女の子。

 

「…………っ、一ノ瀬ええっ!! まだ話は終わってねーぞ!? 昼休みも来るからな!」

「え、いやそれは……僕サッカー部の練習見られないなら帰っちゃうし」

「帰んな! 学生だろ!」

「……自由過ぎんだろこいつ」

 

 だって篠宮さんと支倉さんへの負債は残ってるけど、返す手段が見つからない。

 

 なら手段のハッキリしてる両親にお金を返す方が優先で……今日が楽しかったからといって、これは別の話。

 僕の仕事は24時間できるしね。

 

 ──でも待てよ。

 

「……んだよ」

 

 篠宮さんの御堂さんに対して気になる反応。

 もしかしたらここに突破口があるかもしれない。授業が終わったあとで、ここだけは探ってみようかな。

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