「それじゃあ今日はここまでー。期末も近いんだから、しっかり復習しとくようになー」
──っし、やっと終わった。教師なら授業時間は守れよクソ!
昼休み開始とともに、弁当の入った鞄を持って1-Bへと向かう。御堂はメールで呼び出しておいた。
あとは一ノ瀬を問い詰めるだけだが──
「遅い! 呼び出しておいて遅れるとはどういうことだ!」
「っ悪い、授業が長引いた」
すでに教室の前には『
身長160ほど、黒の長い髪を片側にまとめたちっこい女。
こんなナリではあるが、中学時代はU-15のユニフォームを着て日本を背負った、正真正銘の超一流。
この年相応な態度からは、そんな風格一切見えねーけどな。
「──で? 私にケチをつけた愚か者がここにいるんだって?」
「ああそうだよ、だけどちっと待ってろ」
中はもう昼休みに入っている。
勢いよくドアを開けて見てみるが──席にいねえ。
「あー……花音ちゃん。一ノ瀬くん、だよね」
真莉たちと、今まさに机をくっつけようとしていた支倉だ。
「そりゃそうだろ。あ? なんで言い淀んでんだよ」
「それと──御堂さんだよね。花音ちゃんに呼ばれたの?」
「あー、そうだけど。えーと、支倉」
「うん支倉! あれ、でもどうして──」
「クラスのやつらが噂してたから。あ、悪い方じゃなくて、同情的なやつ」
「あー……」
まあ、知ってるわな……
支倉は誰にでも気さくに話しかけるタイプで、真莉を通してアタシもすぐ話せるようになった。
ただまあ、入学直後隣の席になったやつが最悪だった。
いつものように話しかけたら数日で、よりにもよって人のいる場所で告白されて、断ったら偽善者呼ばわりで逆ギレされたらしい。
さらにそいつはその二週間後に四階から飛び降りやがった。
そんな支倉を知らねえやつはまあ、いねえだろうな……
「あ! でも仲直りできたんだよ? だからあまり気にしないでくれると嬉しいかな」
だというのにコイツは簡単に許しやがって──
「お、おおマジか。え、脅されてるとか?」
「素だよ素。アタシももう関わるなっつったんだけどな」
今日普通に話しててビビったわ!
「ま、まあ少し、変わってるけど……」
「は、はぁー。なんていうか、聖人っているもんだなー」
目の前では御堂が支倉にすげえ感心してやがる。
んな話はどうでもいいんだよ。
「んでその一ノ瀬は。あいつ昼休み行くアテなんかねーだろ。便所か?」
「……あは。ほんとに帰っちゃった」
「はあッ!?」
支倉は机を合わせようとしていた真莉に一言断って、さっきアタシらが話してた席に移動した。
「あれ冗談じゃなかったのかよ! か、帰るって、んなことありかよ!」
「花音ちゃんがクラス戻って少しして『今日もありがとね!』って、元気いっぱいで……」
「そういう場所じゃねーんだよ学校はよォ!」
サボんならもっと、不良マインドで早退とかじゃねーと理解できねーんだよ!
「…………待て待て。私に喧嘩売ってんのってその、噂の一ノ瀬なの? え、これ聞く意味ある?」
あーっうるせーうるせー! アタシもそう思うけど、なんかそれっぽいこと言ってやがったんだよ!
「先生も『ま、まあ一ノ瀬は今、繊細だから』って」
「あれのどこが繊細なんだよ! 鋼過ぎてキモかったわ!」
「それで一応花音ちゃんに伝言頼まれてるけど……聞く?」
……すげー嫌な予感がする。支倉も「怒らない?」って確認取ってくるところが特に。
「聞く聞く」
御堂は勝手に聞こうとすんじゃねえ。
「えーと、『言い忘れてたけど千葉の美浜学院にも一つ上に凄いキャプテンいるからオススメ』だって」
「……殺すっ!!」
「美浜ー? 誰参考にするとかそんな話? あそこ確かガチガチの組織サッカーで、花音とは相性悪いんだが」
テメェのオススメ転入先だってよクソ!
そんな話されてるなんて想像もつかねーだろうけど呑気な顔しやがって…………あ?
今気付いたが……言われてみりゃ、確かに……
「いや、とりあえず飯食いながら話そーぜ。そんで悪い支倉も平気か? アタシだけじゃ説明むずいわ」
真莉は──ちっ、御堂がいるからか、こっちに目も向けやしねぇ。
「私は大丈夫だよ?」
「いいけどさ。私の弱点の話はどこいった?」
御堂が一ノ瀬の机を借りて座り、アタシは真莉の座ってた席の机をくっつけ弁当を用意する。
御堂が鞄から取り出したのは、まさにあいつの言った通りで──いやその前に、
「……御堂。目の下隈出来てんぞ」
「──っうそ!? 隠したはずなんだけど!」
確かにファンデかなんかで隠してある。こんなの言われてみねーと気付けるわけがねえ。
「い、いやさ。最近ちょい夜更かししちゃっててさ。目立つ?」
「……隠したっていつからだよ」
「何それ。普通に学校来る前だけど」
「あ、あはは」
事情を知ってる支倉も御堂の目を見て、苦笑気味だ。
「……御堂さん、そのパンよくコンビニに売ってるやつだよね?」
「そうそう。支倉も知ってんだ、私これ好きでさー」
「…………朝もそれ、もしくは似たようなパン食べてた?」
「食べたけど、え、なんで!? どういう推理!?」
っ、こえーよ! あんなヤツに話しかけなきゃよかったよ!!
て、そうじゃねえ。もしアイツの言ってんのが正しかったとしたら──
「──テメェ御堂! 昨日アタシに二回、パスすんの諦めやがったな!?」
「どんな脈絡!? なんでキレられてんの!?」
「いいから答えろよ。右足使えねーアタシじゃ頼りなかったかあー?」
「か、花音ちゃん」
支倉が思わずといった感じに入ってくる。
いいんだよ、ウチの部じゃこんな喧嘩くらい毎日起こってんだから。
「…………言おうかなーって悩んだのは確かだけど、花音の武器って他にあんのにわざわざ──!?」
気付いたら御堂の持ってるパンを取り上げていた。
思わずカッとなっちまった。
「……は? なにどういうこと?」
試合中に人の利き足にまで配慮してるやつが、朝昼こんなもんしか食ってねーことに。
「テメェはこっち食え」
差し出すのはアタシの弁当。
このデケエ身体だ。量だけは詰めてある。
少なくともこれ食った後は御堂ほどフラフラになったことはねえから、栄養だってあるはずだ。
「あー……すっごい分かりづらいけど、心配してくれてる? そういうことならありがたく頂いちゃうよ」
「食え、全部食え」
「……え、全部?」
アタシはカロリーさえありゃ動けんだ。これでいい。
取り上げたパンの袋を開ける。
「えー、こんなに分かりやすい子なのに」
なんて言いながら、支倉も弁当に足りない野菜をおかずの隙間に差し込んでいる。
ちげーわ。アタシをサッカーに誘った張本人が、遠慮なんかしてんのがムカつくんだよ。
「なに!? いや全然分かんないから! お前ら二人ともね!?」
「食べたら今日は保健室で少し休んだら? その目の下の隈なら先生も納得すると思うよ」
「……うへー、やっぱそんな目立つんだ。そうしようかな」
御堂は言いながら目を軽く揉んでいる。
食ってすぐ寝るのはいいのか? ちっ、自分の身体以外なんて、真面目に考えたことなんかねーんだよ。
「でも急に色々質問されたのなんだったわけ?」
「言ったら眠れなくなるだろうから言わねー」
「どういうこと!?」
一ノ瀬は明日ぜってー捕まえる。
両足使えだ? 大会も近いのにあんだけ好き勝手簡単に言いやがって、投げっぱなしは許さねえ!
「…………あいつ明日は学校くんだろーな」
「あー、あはは。ちょっと怪しいかも」
「いやおかしいだろっ⁉︎ え、やっぱアタシがワリーのか⁉︎」
「ま、まあ大丈夫だと思うよ? 全然傷付いてなかったし、あの後はもっと絶好調って感じだったし」
……ホントか? まあ、支倉もその場しのぎの嘘つくようなヤツではねえとは、あー、思う。
「そうそう。あの後一ノ瀬くん、真莉と話して連絡先交換したって」
「……んだよその繋がりは」
「まり、まり……あー、花音と同中とかいう」
面倒くせえことになっから、てめえはここで引っかかんじゃねえ。
まあいい、来ねえなら真莉経由で呼び出しゃいいってことな。
つか元気なら、普通に来いって話だけどな!