100年後のサッカーを、君に。   作:peko34

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17 三日前の出来事②

「……あー、感じ悪いかもしんねえけど」

 

 篠宮さんは面倒くさそうに頭を掻いている。

 

「走り込みで倒れ込むやつら、大袈裟だとは思ってた」

「⁉︎ やっぱり! う、うわぁぁ、天才であるが故の共感欠如……持ってるやつはいつもこうなんだ!」

「……あ、あとはまあ、中一んころ、三学年合わせたマラソン大会でも上位に入ったな」

「そんなに早くから才能開花を!? 恐ろしい……こんな人をハンデもなしに走らせて、学校は何考えてるんだ!」

「うっせえ! わざとらしいんだよ!」

 

 授業中調べてみたら、バスケは身長が特別大事なスポーツとのこと。

 すごい偏見だけど、この身長なら活躍に飢えててもおかしくない。

 

 篠宮さんは怒りながらもどんどん口角が上がっていく。

 

「あれ、だけど一位じゃなかったんだ」

「なっ、てめ、こんだけ言って、大したことねえってオチじゃねえだろうな!?」

「そうじゃなくてさ。なんで勝てなかったのかなって」

 

 そんな心臓だけで決まるものでもないけど。

 バスケット。滅茶苦茶走るスポーツらしいのに、中学ではやってなかったのかな。

 

「……いや普通に負けたわ。足がつりかけて、仕方ねえから足揉んで走って、完敗だったわ」

「どこつったの?」

「あ? 普通に、もも裏だけど」

「ふーん」

 

 エンジンは余ってるのに、タイヤが先に焼けていた、かな。

 

「分かった。その場合のスペアタイヤはこっちで用意しておく」

「……なんも分かんねえよなんの話だよ」

 

 こればっかりは端末を通さないと絶対信じてもらえないから。

 

「つーか。心臓、ねえ」

 

 篠宮さんは自分の胸に手を当て、音を聞こうとしている。

 

「ま、それがマジかは置いといて。不覚にも話は面白かったわ」

 

 ひとつ笑って、話は終わりとばかりに机の中から化学の教科書を取り出している。

 

「え、なんで、まだ話は──」

「ふっ、あれだけの変態かまして持ち直すとは思わんかったわ」

 

 ……初めて普通に褒められた。

 ま、まあ、そんなでもないんだけどさ。ってそうじゃないわ!

 

「……急に興味を失った理由は聞いてもいい?」

「あたしの課題はスタミナじゃねーの。そこ鍛えたところで試合にゃ出られねーんだよ」

「あー」

 

 なるほど……ね。いくら走るといっても、スタミナさえあれば活躍できるスポーツじゃないのか。

 そんなうまい話はさすがにないか……

 

「まあいいか。では次の話」

「次の話はねーんだわ! ホントに食い下がってくんな!」

「こ、今度こそ篠宮さんの役に立つ話だから!」

「……なんだよこいつ。どうすりゃ引いてくれんだよ……」

 

 篠宮さんは渋々と、持っていた教科書を机に置いてくれた。

 危なかった……さっさと本題へ移ろう。

 

「篠宮さんって、御堂さんとなにかあるよね。もやもやしたなにか──って、どんだけ睨むの!?」

 

 話の途中なのに、今にもまた足が飛んできそうだ。

 

「……距離感間違え過ぎじゃね。踏み込んでいい話かどうかも分かんねーの?」

「な、内容を聞きたいわけじゃないよ? ただ僕はそういうの解決する手段があるって言いたくて」

「そういうのってなんだよ」

「だからもやもや全般だって。愛情、憎しみ、嫉妬、憧れ、罪悪感──」

「……クスリでも売りつけそうな導入やめろや」

 

 おっと。ふふ、これ実は僕が編み出した方法だから、ちょっと勿体ぶっちゃった。

 

「──篠宮さんさ。一月後、サッカーで御堂さんに勝ってみない?」

 

 相手の土俵で勝つ。

 はい最強。まあ厳密には解決できるわけじゃない。

 

「これ凄いんだよ!? どんなに複雑な思いだって、脳内麻薬で全部洗い流せちゃうの! 僕もほんと嫌いな人いたんだけどね? 格ゲーマーとか言ってたけど身体を動かす技術で僕に勝てるわけな──っと」

 

 ついVRゲームの話しちゃった。大丈夫かな。

 

「…………」

 

 篠宮さんは無表情のまま僕を見て、なにも答えない。

 馬鹿にされると思ったけど、なんかこの人全然反応が読めないな。

 

 さらに追撃を仕掛けるか迷っていると、教室に鐘の音が響いた。

 

「え、チャイム。なんで、早くない?」

 

 周りを見ると、いつの間にか教室には僕ら二人だけだ。

 そうだ……さっき檜山のカットインがあったんだった。いいところだったのに、あの男!

 

「はあ、遅刻させてごめん。僕もう帰らなくちゃだから、もし続きが気になってくれるならここに──っ!?」

 

 僕の連絡先を書いたノートの切れ端を取り出したところで、ひったくられた。

 

「え……なに」

「お前さ、その自分の土俵で負けた側の気持ちとか、考えたことあるわけ?」

「……え、あ、あーと、ごめんなさい。勝負の世界の話だから、いいかなーと軽く考えてました」

 

 マズった。良くない感情だとは分かってるのに、同じ競技者なら受け入れてくれると勝手に決めつけちゃった。

 

「別に責めてるわけじゃねーから」

「いや怒っとる……正直言うとそりゃあ。悔しかっただろうなーとか、昨日眠れたかなーとか沢山考えたけど」

 

 それよりもう、次の授業始まっちゃってるけど……

 言ってみるけど、篠宮さんに動く気配がない。

 

 代わりに、篠宮さんは取り出したスマホを僕の机に置いた。

 

「録音するわ。いちいちお前の言う事疑うのだるいし、いいよな」

「……それはもちろん」

 

 証拠を残すことで、僕に適当な発言を許さない。かな。嘘ついてるわけじゃないし、全然構わない。

 

「あ、でも疑わしいんなら、質問してくれれば全然答えるよ」

 

 時間がなかったから飛ばした部分もある。

 まさか延長戦してくれるなんて、思ってもみなかった。

 

「はーん。じゃあ、あれだ。御堂はスタミナ弱点とか言ってたやつ。また随分と都合のいい話だよな」

「えと、なんの話?」

「心臓ってそういう事だろ。あたしのスタミナなら御堂に勝てるとか──」

「──ぷ。あはは! 何言ってんの!? 都合の話なら、むしろ最悪と言っていいのに!」

 

 昨日は試合映像探してたら、日本代表ユニフォームで試合してたんだよ?

 こんな人にドデカ感情抱えてるって、前世でどんな悪いことしたんだ!

 

「でもその自信は、素敵だね!」

「……っ、テメエは、いっぺん死ねっ!」

 

 あーもう、だから暴力はダメだって。

 僕にこんな蹴りが当たる訳ないからいいけどさ。

 

「じゃあついでに言っとくね。御堂さんに勝つといっても、それは100人に2人は篠宮さんの勝ちと判定する程度の話ね」

「っ、それは判定負けっつーんだよ!」

「でも部外者の判定なんて、篠宮さんは気にしないでしょ?」

「あ? 部外者って、どういう…………」

 

 篠宮さんは言いかけて、顎に手を当て考えている。

 

「……その二人の中に、御堂は入るって、話か」

「絶対入るよ。あんなにプライド高くて、先輩にも一切臆さず指示出して、勝ち負けこだわってないわけないもん」

 

 なによりどれだけ実力を見せつけたところで、篠宮さんに好き勝手やられる張本人。

 誰より負けを実感するはずだ。

 

「って、あり得ねえわ! サッカーなんて知んねえけど、心臓と一月の努力だけでどうにかなるもんじゃねえだろ!」

「えーと、そりゃ篠宮さんのバスケ経験も勘定に入れてるけど、え、入れてもいいよね」

 

 切り返しの技術やフットワーク。急停止と横移動。少しバスケの映像を見ただけだけど、育ってないわけがない。

 

「ち…………やっぱそうかよ。あたしのバスケしてる姿を見たわけじゃねえんだな」

「……身体付きで努力してる人くらいは分かるんだけど」

 

 普通の運動部ってくらいだと自信ない。

 でも檜山と篠宮さんクラスなら、診断なしでもめちゃくちゃ分かる。

 

「努力とかじゃねえっつの。あたしにはチーム競技の才能ねえんだと」

「……ねえんだと?」

「んなこと知るかよっつって続けてるけど、ま、実際支倉とかと差は感じるしな。期待には添えねえわ」

「協調性とかの話……?」

 

 そんなもん僕だってない。というか支倉さんは相手が悪過ぎる。

 

「視野狭すぎだってよ。すぐカッとなって周りが見えなくなって。そんなんでチーム競技やるとか信じらんない、とか言われたわ」

「……視野。あー、それは、まあ」

 

 それが本当なら、確かにチーム競技では辛いかもしれない。

 スポーツ視野は鍛えづらいし、実感も出にくい。正直子どもの頃から育てたい能力ではある。

 

 篠宮さんもヘラっとした顔で言ってるけど、弱点を僕なんかに喋るタイプか? 相当刺さった言葉なんだと思う。

 

「というかその口調。もしかしてそれ言ったのが御堂さんってこと?」

「……言っとくけど、先に突っかかったのはあたしだから」

「あ、いや、どっちが悪いとかじゃなくて」

 

 他人に指摘するって、やっぱり自分の武器を理解して使ってたのかなー、あの人ほんと最高だなーって。

 今は置いておこう。

 

「でも視野が狭いって、すごくいいね!」

「……あ?」

「なんか無駄に不安にさせちゃった。先にどういう提案するのか言えばよかった」

「いや……てめえも御堂の視野を絶賛してただろうが!」

「大事だけどさ、サッカー初心者が広い視野でなにすんの」

 

 足でボールを扱うのって、実は本当に難しいんだから。

 

「僕が篠宮さんに提案するのは、どんな相手だろうが張り付いて、引きずり回して沼に沈める『エースキラー』」

「…………」

「『持久力』の化け物が、バスケ仕込みの動きで自分だけを見つめてくる。ふ、ふふ……あは、いいじゃん、目指せトラウマ製造機!」

 

 ムキになるってのもいいなー。

 試合中ならちょっと困りものだけど、練習では伸びそうだし。むしろ初心者にはありがたい性格だ。

 

「し、視野が狭くていい、なんて聞いたこともねえよ! 適当ばっか言ってんじゃねえ!」

「そのへんは実感が必要だね。いま僕、妹にサッカー教えててさ。興味があったら参加してみない? 毎日やってていつでもいいから」

「は、はあ?」

 

 なんだか質問に答えてたら、言いたいこと全部言えちゃった。

 

「お試しでもいいよ。1時間……いや、じゅ、10分でも」

「……っ、てめえの、そういう態度が──っ」

 

 軽く見えたかもしれないけど適当言ったつもりはない。

 信じて欲しいと、絶対目だけは逸らさない。

 

「……よく分かんねーけど、一ノ瀬はあたしの確執に付き合う、てか?」

「そんな上からじゃないから。ぜひお供させてくださいって言ってる」

「……一ノ瀬にも、なんか狙いがあるってことな」

「あるね。聞く?」

「どうでもいい。つーか元はあたしが悪いんだが? こっちについていいのかよ」

「それこそどうでもいいよ。僕がそんなに善人に見える?」

 

 もはや「借りを返したい」なんて、当初の目標すらおまけと化しているのに。

 

「……言っとくけど、参加するなんて言ってねーからな」

「もちろん。限界まで食い下がったし、これでだめなら仕方ない」

「限界どころじゃねえわ……」

 

 そうだね、さすがにこれ以上は迷惑過ぎる。

 

 ほとんど空のリュックを持って、一瞬で帰宅準備を終える。

 だけど篠宮さんは動く気配もなくなにか考えている。

 

「……んだよ、帰るなら帰れよ。なんで帰りたがってんのかもしんねーけど」

「うん、じゃあ──聞いてくれてありがとね」

 

 向こうは「おー」とだけ言って、窓から外に目を向けている。

 

 

 

 そのまま教室を出ると、ドアの近くに支倉さんが待っていた。

 

「……ごめん、全然予想してなかった。支倉さんまで遅刻させちゃった」

「え? ううん、勝手に待ってただけだし! あ、話は聞こえてないから!」

「大丈夫だって。支倉さんもありがとね!」

「……いい笑顔っ! えーと、真莉黄昏ちゃってるけど」

 

 まあ、気付けばめちゃくちゃ情報量詰め込んじゃったから……

 と、そうだ、花音さんを避けることになっちゃったし、気分もいいし──

 

「迷惑ついでに、お昼に来るっていう花音さんに伝言お願いしてもいいかな」

 

 たまにはお節介でもしようかな、なんて。

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