100年後のサッカーを、君に。   作:peko34

20 / 20
18 篠宮真莉

 最初に見た時は、はっきり言って下手だった。

 

 中学2年の夏。

 地区大会二回戦。

 

 相手チームに、黒髪を片側にまとめた小せえ女がいた。

 ドリブルは見るからに雑だった。

 ボールが身体から離れ過ぎてるし、手元を見る回数も多い。シュートは打とうとすらしない。

 

 ──パスだって上手くない。

 

「っ、わ!」

 

 こっちが詰めると、慌てたように両手でボールを押し出す。回転も汚ねえ。高さも微妙で不細工なパス。

 

 なのに通った。そのまま向こうに点が入る。

 

「ナイス!」

「……ちっ」

 

 うちの方が強かった。

 あからさまだろ、こいつらベンチに二人しかいねえし。

 見るからに初心者もいる。

 

 わりいけど狙わせてもらった。

 

「真莉!」

「分かってる!」

 

 ボールを持ったそいつへ詰める。

 たったそれだけで、向こうは慌てたように手でボールをつく。

 ──取れる。

 

「っ、こう!」

 

 はずだった。

 直後そいつが身体をひねって、変な位置からボールを放った。

 

「──は?」

 

 あたしの脇を抜けたボールが、右奥にいた選手へ届く。

 そのままシュートを決められた。

 

「ナイス御堂!」

「うへへ、ま、まあね!」

「……どもんな。まぐれかい」

 

 ありえねーパス。チームメイトと呑気に喋ってっけど、怪我とか怖くねえのかよ。

 ……どうでもいいけど。

 

 今度は逃げ道も潰した。目の前にあたし。右には味方。左にも一人いる。

 

「……っ、諦めて、ボール渡せや!」

「〜〜、く、くわっ」

 

 身体の横から、片手で投げたようなクソみてえなパス。

 

 速くもねえ。綺麗でもねえ。

 それでも味方が走ってきた場所へ転がって、またシュートを決められた。

 

「マグレだ気にすんな」

「……知ってるわ」

 

 花音に背中を叩かれ声をかけられる。

 別に落ち込んでねーから!

 

 ただ、なんでか不自然なことが起きていて──

 

「御堂!」

「ちょ! そっち空いてるって!」

 

 そいつがまたボールを受ける。

 コートにいる敵も味方も、全部知ってるみたいに動いていた。

 そこでようやくあたしは騙されたことに気づいた。

 

       ♢

 

 試合中、フリースローで時計が止まった時だった。

 隣にいたそいつへ、小声で話しかける。

 

「いつまで下手な振りしてんだよ」

「……は?」

「このまま負けんぞ。こっちは別にいいけど、つまんねえことしてんじゃねえよ」

 

 騙しあいは否定しねえ。だけど最後に本気のプレーが見たかった。

 この時はただ、それだけだった。

 

「……私、バスケ部の助っ人で来ただけなんだけど」

 

「…………は?」

「体育以外で試合するの、二回目だっつの。なんなわけ?」

 

 本気で、こいつの言ってる意味が分からなかった。

 

「あ、くそ、話しかけてくんなよ!」

 

 その声に顔を上げると、花音がリバウンドを拾ってくれていた。

 

「おらっ、速攻!」

「…………」

 

 だけどあたしは走れなかった。

 そこからはもう思い出したくねえ。

 

「真莉! 左!」

「分かってる!」

「空いてる!」

「っ、うっせえ!」

 

 女が視界に入る。

 もうこいつに分からせてやることしか考えられなかった。

 

「真莉、一回下れや」

 

 花音が無表情であたしを見ていた。

 

「は⁉︎ んでだよ!」

「集中できねえなら出てけや!」

「っ、離せよ!」

「真莉!」

 

 体力ならあり余ってんのに、まさか下げられるとは思わなかった。

 

 あいつは結局、最後まで下手だった。

 

 

 

       ♢

 

「っしゃあ!」

「ナイスー!」

 

 当然試合には勝った。今日大活躍した花音が嫌らしい顔で絡んでくる。

 

「真莉が急にヘラるから焦ったわ!」

「……ほんと、悪かったよ」

 

 花音はまじでさっぱりしてんな。

 

「っ、急に素直っ!」

 

 はっ。まあ、納得し辛えけど、勝ちは勝ち。

 

 忘れて、次へ切り替えろ。

 そう思いながら、なんとなく向こうのベンチを見た。

 

「……あ?」

 

 あの女が泣いていた。他の奴らも悲しんではいるけど、泣いてはねえのに。

 タオルで顔を隠して、それでも隠し切れていない。

 

 

 

「初心者が負けて泣いてんじゃねえよ」

 

 体育館の廊下ですれ違ったとき、言ってしまった。なんでか腹が立ってた。

 

「…………は?」

「今日、バスケ二回目なんだろ? 負けて当然だろ」

 

 言ってから、自己嫌悪が止まらない。

 

「……分かってるだろうけど、私がバスケ練習してたらお前なんかすぐ抜けるから」

 

 だから言い返してくれて、助かった。

 罪悪感なんて吹き飛ぶほどに、言い返す言葉が出なかったから。

 

 あたしの身長でできる事──パスとドリブル。

 ポイントガードとして徹底的に磨いてきた。

 

 その一つが、こいつに数カ月経たずに抜かれる未来が見えてしまったから。

 

「チーム競技でその視野の狭さ、信じらんないわ。あり得ないから」

 

 周囲を見る感覚を取り戻すのに、半年掛かった。

 

       ♢

 

 それから、高校へ入って。

 

「あー、アタシこれからサッカー一本でいくわ」

 

 花音の突然の言葉からまた、スランプがはじまった。

 

「ちょ、急になんだよ⁉︎」

「あの御堂がここ来てんだよ。なんか誘われた」

「……は? あいつ、有名人だろ。なんでうちにいんだよ」

「なんか自分で考えた戦術試せて、一番強いとこ探してたんだと。顧問が素人なんだってさ」

「あいつも一年だよな……戦術なんて口だせねーだろ!」

「チームは歓迎ムードだったな。めちゃくちゃ進学先吟味したらしいわ」

 

 い、意味わかんねえ。それ、競技者のトップレールから外れてまでしたいことか……?

 別に、あたしに関係ねえけど。

 

 

 

「真莉、外!」

「っ!」

 

 ボールを持って、目の前の相手を抜く。

 

「──真莉!」

「っ、やべ……!」

 

 声に気付いて、慌ててパスを出すが遅い。

 相手ボールになる。

 

「……すんません!」

「ううん、次!」

 

 直したはずの視野が、また悪化してやがる。

 

 周りを見て、熱くなり過ぎない。味方を使う。

 分かってんのにレギュラーを意識するほど、上手くいかなくなった。

 

 あいつはもう、自分の競技で中心にいる。

 ケンカを売ったあたしがベンチにも座れてねえのを見たら、あいつはなにを思う?

 

『チーム競技でその視野の狭さ、信じらんないわ』

「…………っ」

 

 気付けば、また味方の声が遠くなっている。

 焦れば焦るほど、あの日御堂に言われた通りになっていった。

 

「篠宮! 一度外で頭冷やしてきなさい!」

 

 3度目のポカで、ついにコーチに追い出された。

 自分でも当たり前だと思う。

 でもまあ、落ち着く時間は欲しかった、か……

 

 体育館の外の段差に腰かけた目の前では、花音が楽しそうにボールを追っている。

 中学んときはどうやって立ち直ったんだっけなー。

 

「……たしか、御堂の名前を調べて、サッカーの年代別代表だと知って──」

 

 ああ、住む世界が違うやつなんだと分かってから──

 

「え、なに」

「──っ⁉︎」

 

 横にタオルを持った御堂が立っていた。

 馬鹿か! 花音がいるんだから、サッカー部もそりゃいるだろ!

 

「え、私じゃない? いや代表の御堂って」

「…………」

「あ、まさか先輩でした? すんません」

「…………死ね」

「なんで!?」

 

 あー、阿保らしい。まじで頭冷えたわ。なに意識してんだよ恥ずかしい。

 覚えられてねえじゃん。

 

 

 それからはもう順調だった。

 コーチの評価は大分落としちまったけど、この調子なら冬にはベンチ入りを目指せる。

 

 視界が開けていくのを感じる。

 あともう少しで、あたしはようやく楽しくバスケに──

 

『篠宮さんさ。一月後、サッカーで御堂さんに勝ってみない?』

 

 戻れるはずだったんだ。

 

 

『視野が狭いって、凄くいいね!』

 

 このデブ、頭かち割ってやろうかと思った。

 

 でもなぜか、手は出なかった。

 ……いつから、こんな認められることに弱くなった? 言ってることめちゃくちゃ過ぎんのに。

 

 

 

「ねえ、真莉。どうしたの? い、一ノ瀬君に、なんか言われた……?」

「支倉さー、今日部活終わったら、ランニング付き合ってくんね」

「……え? ぶ、部活のあとに、は、走るの?」

 

 なんであの時支倉が引いてたのか、後になって分かった。

 

 

 

「はッ……は、ぁ……っ、ぁ゛……っォェェ……!」

「……いや悪い。アイドル支倉にそんな声出させて」

 

 部活終わりに土手まで移動して、なのにその時間でスタミナがほとんど回復していない。これが普通だったのか?

 ……心臓の話は、マジだったとでも言いてえのかよ。

 

 だったら御堂に勝つってのも──

 

「…………馬鹿じゃねえの」

「バ、バカって言った!!」

「いやお前じゃなくて……」

 

 まあ、試すのはタダか。

 

 

 

「え、紅白戦参加してくれるの⁉︎ あ、ありがとー! いつもバスケ部には助っ人頼んで、ほんとごめんね」

「あ、いや、あたしがちょっと試したいことあったんで」

「? そうなんだ。でも助かる! 22人なんて全然集まんないんだから!」

 

 御堂のマークを申し出た。驚かれたけど、なんでかすんなり決まった。

 

 あとで聞いた話。A(レギュラー)チーム入りを目指すB(控え)にいて、わざわざ御堂のマークにつきたい人なんかいないらしい。

 

 かっこ悪くても、上手く切り替えて上を目指せる人たち。全然好きで、嫉妬する。

 

 

「あー、真莉、だっけ?」

「っ、……は?」

「助っ人ほんと助かる! ねえ、このままサッカー部入らない⁉︎ 今ならなんと、すぐにBチームのレギュラーだ!」

「…………名前。覚えてたのかよ」

「あ、いや、花音がそう呼んでたから。……やべ」

「──な、てめっ」

「あー……どっかで会ってたらほんと申し訳ない! もうまじで忘れっぽいんだよ私」

 

 忘れられて、ホッとしていたはずなのに……

 

「負けて泣いて、もうスッキリしましたってやつかあ?」

 

 っ、なんでクソみてえなこと聞いてんだよあたしは!

 

 御堂からへらへらとしていた顔が引っ込んで、少し心がスッとしてしまった。たった一瞬だけど。

 

「……なんそれ。私がなんかで負けて覚えてないなら、お前には負けてないってことだから」

 

 返す言葉に、爆弾乗っけてくる奴なのは変わってなかった。

 

 だめだ。もう、ムカつきが止まらない。

 楽しくバスケ、なんてものには間違いなく戻れない。

 

 

 試合は一切、相手にもされず終わった。

 当たり前だ。努力と才能の世界で、これ以外の結末なんて起こっていいわけもねえ。

 

 ……なにが、エースキラーだ。

 

 あたしをドリブルで抜いた時には、「あ」なんて声が聞こえた。自らに相当な縛りまで課していたらしい。

 

「助っ人お疲れー! や、試合前はごめん! ちゃんと思い出したわ、まさか金髪になってるとは思ってなくてさー」

 

 うるせえ。

 花音も金髪にしてっけど、覚えてたんだろうが。

 

「懐かしの……視野の狭さで思い出させちまったか?」

「ぅ……い、いや、その溢れ出るガッツでね! えーと、女子サッカー部は、いつでも君の参加を待っている!」

 

 もう、無理だ。

 無駄に突っかかってクソなことしか言わねえ自分が、ムカついて仕方ねえ!!

 

 女一人で男の誘いに乗るのは頭がおかしい。

 意味わかんねえけど、あたしに復讐企ててた男だぞ?

 

「知らねえ」

 

 どうせもう視野は戻りそうにねえし、こいつ潰せる可能性があんだろ?

 

 練習してるって公園は見に行った。

 何故か車椅子に乗ってて、妹らしきやつと喧嘩してて、怪しさしかなかった。

 でも……もういいわ。あの薄気味わりい男のバカげた話に、全部賭けてやるわ!




17話を後から読み直して、あまりに冗長で詰め込みすぎだったので1000文字ほど削っちゃいました……
この先、以前読んだ設定とか出てくるかもしれません。ごめんなさい!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

現代社会における万能チートの正しい使い方(作者:寸劇の小人)(オリジナル:現代/日常)

現代日本に住む30歳のサラリーマンが何でもできるチートを手に入れて地味に俗っぽく使う話。▼お金稼いだり恋愛したりするよ。▼ざまぁは気分が悪くなるほどのやつはありません。▼現代ファンタジーというよりSFっぽいかも。▼他のチート所有者なし(重要)。▼AIを補助利用しています。▼【執筆状況】▼週1更新▼次話投稿予定:7話前編9/27(日) 20:05前後 に投稿予…


総合評価:11881/評価:8.75/連載:12話/更新日時:2026年09月20日(日) 20:05 小説情報

俺が買った『猿でも分かる魔法の使い方』が本物の魔導書だったので、とりあえず確率操作で無双します【リメイク】(作者:パラレル・ゲーマー)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

佐藤健司、二十五歳、フリーター。▼時給千二百円の深夜コンビニバイトで心をすり減らし、奨学金の返済と将来への不安に押し潰されかけていた彼は、ある日、神保町の古本屋で一冊の胡散臭い本を見つける。▼その名も――▼『猿でも分かる魔法の使い方!!! ~今日から君も世界の理をハックしよう!~』▼一〇〇円で買ったその本は、開いてみれば中身が真っ白なだけのハズレ本。▼騙され…


総合評価:2874/評価:8.16/連載:52話/更新日時:2026年07月29日(水) 22:53 小説情報

超能力者のプロ野球人生(作者:星野林(旧ゆっくり霊沙))(オリジナル:現代/スポーツ)

雷に打たれて超能力に目覚めた高校生、大久保利通は最初ノートのページを数メートル先から開く程度の能力しか持ち合わせていなかったが、練習で投げたボールが顧問の目に留まり、投手を志すことになる。▼・最初数話は高校生で能力を引き上げて、体を作る話になります。▼・4話目にドラフトを行う予定です。▼・長くても9月上旬まで連載できればと思っています。▼・毎日投稿を心がけま…


総合評価:6572/評価:7.5/完結:42話/更新日時:2026年09月11日(金) 18:00 小説情報

甲子園優勝投手村田、ドラ1で燕へ(作者:ドンクライ(泣くのはおよし))(オリジナル:現代/スポーツ)

 久し振りにパワ◯ロやった記念▼ 要は架空選手の無双系スレです▼ 小説というほどのものではありません。スナック感覚でどうぞ。


総合評価:3945/評価:8.22/短編:10話/更新日時:2026年09月11日(金) 15:20 小説情報

董白を拾ったら三国志が壊れ始めた 〜にわか知識の下級書吏と、死んだことになった董卓の孫娘~(作者:ねじぇまる)(オリジナル:歴史/戦記)

董卓が殺された日、俺は、死ぬはずだったその孫娘を連れて逃げた。▼水の汲み方さえ知らなかった十三歳の少女は、やがて俺の知る三国志さえ追い越していく。▼現代日本から後漢末へ飛ばされて一年。長安で下っ端の書類仕事をしていた俺――柳誠は、董卓の死で府が崩れた日、逃げる人波の中で立ち止まる董白を見つけた。▼兵は董氏の縁者を探し始めている。このまま残れば、彼女も殺される…


総合評価:2428/評価:7.68/未完:61話/更新日時:2026年09月24日(木) 12:09 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>