100年後のサッカーを、君に。   作:peko34

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20 タイムリミット

「あ、でもそのボールは家でも足で弄ってて欲しいから、まだ置いといて大丈夫だよ」

 

 目がバキバキ、立ってるだけなのに身体に力が入りまくってる。

 本当に、ここ数日で何があったんだ……

 

「まずはドリブル練習、とかじゃねえのかよ」

「……ごめん。実はドリブルも、パスもシュートも大して教える気はなくて……」

「そ、それ全部ねえなら、もうサッカーじゃねえだろ!」

 

 だって御堂さん相手なら、そこに少しでも自信持ってほしくないし!

 

 でもせっかく買ってきてくれたんだ。スパイクの良さだけはひたすら語る。

 センスいいよお、僕も欲しいよお。あ、お揃にしてもいい?

 

「黙れ」

 

 この圧力よ……もしかして僕は勢いだけで、人間関係という一番デリケートな部分に突っ込んでしまったのかもしれない……

 真白まだかなーと、目を網の入り口に向けるとちょうど──

 

「す、すみません! ちょっと時間かかっちゃって!」

 

 真白が慌てたように入ってくるところだった。

 お部屋のお礼を言うと、キッと凄い視線が返ってくる。

 ……アスリートの部屋が汗臭いって、僕はかっこいいと思うけどな。

 

 篠宮さんも中学生の乱入で、少し気は抜けてくれたみたい。目を丸くしている。

 

「お、おー。近くで見っと、一ノ瀬と全く似てねーな」

 

 ……そうなの? 僕も痩せたらこのレベルになれるだろうって、密かに期待してたんだけど。

 

「あ、血は繋がってないんです」

 

 っ、そうなの!? てことは、連れ子、養子、拾い子……僕のルックス保証は!?

 ──と、なぜか真白がこっちを見ている。警戒警戒。

 

「一ノ瀬真白です。今日はよろしくお願いします」 

「……まーじで一ノ瀬の妹とは思えねえ。篠宮真莉。ここでは後輩なんで真莉でいいよ」

「じゃ、じゃあ私は真白で……というかまた来てくれるんですか!?」

「ま、正直分かんねえけど、とりあえずな」

 

 真白は僕の方を見て、その横にある起動中のパソコンを見て、「こいつまたやったな……」ってじと目を向ける。

 

「あの、学校で、兄を嫌がらせから守ってくれたって。すみません、私そのことさっき聞いたばっかりで……」

「……待て待て逆だから。この失うものがない無敵人間と心中しようとした、馬鹿の方を守ってやったの」

「あ、あはは。兄はやっぱりそういう立ち位置でしたか……」

 

 ねえ、やめよ。落ち着いてくれたのはいいけど、妹の前でする話じゃないよ……?

 

「ほら真白はアップして、後で待ちに待った対人練習もするんだから──」

「あ、サッカーボール! あれ、真莉さん初心者って聞いてましたけど」

「わりいな。その通りだよ」

「あ、いえいえ。でも対人練習って──えーと……」

 

 初心者相手じゃ練習になんないって?

 でたでた。この人がどれほど貴重な存在かも教えておけばよかった。

 

「いやこっちも初耳だわ。あたし一昨日御堂とやったけど、まるで相手にされなかったんだが」

「……御堂さんと、なにを?」

「サッカーだよ。紅白戦」

「な、なんで僕を誘ってくれなかったの!?」

「うっせえ。てめえ女子サッカー部出禁だろうが」

「っ!?」

「ちょ!? ねえほんとに、なんで妹の前で言っちゃうの!?」

 

 あ、兄としての威厳が……なんで口止めしてないんだよ僕は!

 

「な、なんで出禁なんですか!? あ、兄が、キモいからですか!?」

「その通りだけど、一発で当ててやんなよ……」

「はいはい、その話はおしまい。御堂さんとの話を聞かせて」

 

 強引に間に入って、真白には今日のメニューを渡す。

 明日あたりから、真白には地獄の基礎練が待ってるのに呑気なもんだね。

 

「お、おしまいじゃない! ねえ言ったよね!? 女子を敵に回すのだけは駄目だって!」

「はっ、忠告された時点でほぼ全員敵だったわ」

「っ、くぅ、だ、だって……!」

 

 そんな自分の末路なんか全然分かってない様子で騒いでる。

 まだまだ基礎体力不足、筋力不足の真白が、篠宮さんの練習可能時間を見て羨まないわけがないんだから。

 

「ふ、くく。兄貴の悲しい論破で笑うわ」

 

 あなたのせいでしょうが……!

 真白が渋々と網の外周を走り始めるのを確認して、篠宮さんから詳しい話を聞く。

 

 ちゃんと僕が言った通り張り付いた。

 小回りやスピードには自信があったが、全くついていけない。

 

「なぜか一歩、二歩目だけ、毎回あいつの方が速い」

「ふむふむ。他には?」

「……なんかあたしの進行方向にだけ障害があんだよ。バスケのスクリーンみてえな」

「ああ。サッカーでは反則のやつ」

 

 バスケを調べてた時に、へー、これできるんだ。って驚いたから覚えてる。

 別の選手が体を『壁』にして、ディフェンスの進路を塞ぐプレー、だったか。

 

「そんな反則になるようなやつじゃねえけど。そもそも、いくら張り付いても向こうは疲れもしねえし……」

 

 ……めちゃくちゃやられとる。

 言葉通りに受け取っちゃったかー……

 

「視野の広い相手に、主導権全部渡したらそうなっちゃうって」

「──っ、て、てめぇが付いてけつったんだろ!」

「人が嫌がる事をするんだから、その人の気持ちになって考えようよ」

「っ、ほんと、碌なこと口にしねえな……」

 

 あらためて車椅子に座り、PCをいじる。

 まさか事前に御堂さんと戦ってるとは思ってもなかった。

 

「まだ全然未編集だからちょっとキモいかもだけど」

 

 映すのは、御堂さんのプレイ映像詰め合わせ。

 なでしこアーカイブに映った御堂さんを全部切り抜いて、拡大して、全身を映したもの。

 

「……おま、これ」

 

 拡大しすぎて、蹴ったボールがどこに行ったのかすらも分からない。

 

「まだ必要ないと思ってたから、矢印つけてないんだよねー」

「動画時間……3時間……待て」

「そう。あの子試合露出多くて超大作になっちゃった。あとで編集したものも篠宮さんのスマホに送るから──」

「だから待てっつの! こういう覚悟は決めてねえんだよ!!」

「……念のため言っとくけど、これ元は公式映像だからね?」

「女子を取り扱うんだから、こういう変態対策もしっかりしとけや!!」

 

 まあそれは公式に言ってもろて。

 御堂さんの未編集映像、矢印映像、比較用の篠宮さんの矢印映像。逐一送ると伝える。

 

 御堂さんに先手を取られない方法、どこで休んで、どこで体力を使っているか。自分ならどこを嫌がらせできるか。見るべきものは腐るほどある。

 

「せっかくなら、まず自分で見て考えて欲しいんだけど、どう?」

「……んな悠長でいいのかよ」

「なんにも見つけられないなら、篠宮さんの視野は期待外れかなー」

「っ、長所みてえに言うんじゃねえ!」

 

 篠宮さんは、多分御堂さんに対して最初から脳が焼けてる。

 だから別に教えてもいいけど、自分で見つける力は僕も大事にしている。この辺は篠宮さん次第かな。

 

「聞きたかったらいつでも聞いてね」

「……今はいい。でもなんでここまで手間かけんだよ」

「? えーと、」

「あたしになに望んでんだよ。返せるもんなんかねーぞ」

 

 ……ああ。お互い貸しだ借りだ面倒くさいね。

 関係も築いてないのに踏み込んだ僕のせいかな。

 

 確かに今回は少し手間だった。

 過去の御堂さんより、この前見た好き放題している御堂さんの方が断然好きだし、拡大映像は展開分かんないしで。

 楽しく編集できたとは言い難い。

 

 うーん、でも僕にも目的があるのにしてほしい事なんて──と、そうだ。

 

「じゃあ篠宮さんが出る試合だけ、出禁解除を花音さんにお願いできませんか!?」

「……お前はそういうショボさが信用落とすんだよ」

 

 だって! 出禁を忘れていたわけじゃない。

 ただ浮かれて、まるで頭になかっただけ。重要なんだよ僕には……

 

「……はいはい実現するならな」

 

 ふぅ、二人は仲良さげだったしこれで安心。

 なんだかな、この前話した時には考えられないほど上手くいっている。

 

 篠宮さんが自分で行動してくれたこと、御堂さんの初心者に対する容赦のなさ。

 そして最後に篠宮さんの背中を押したのは……悔しいけど端末の力だ。

 

 未来では、誰もが持っていて当然の存在。

 だけどここまで何もかもおぜん立てされて、そんな前世の感覚をいつまでも引きずるのは……相当格好悪い。

 

 少し考えて、切っていた端末のボリュームを元に戻す。

 

《──シカト作戦はもういいの?》

(勘違いするんじゃない。君の予想を覆すには、見ていてもらわなきゃいけないだけだ)

 

 この篠宮さんと、篠宮さんへの真白の反応を見て、僕も感謝の気持ちは忘れちゃいけないと思っただけだ。

 

《あ、そう。なら話の続き。一カ月であんな子に勝てるわけないよね。どうせ負けたら流星はムキになって延長するに決まってる。W杯も近いのに何やってんの? まさか録画で済まそうとか考えてる? 試合結果なんていつどこで目、耳に入るか分かんないのに──》

 

 …………ふぅー、これだもん。

 なんでも知ってるAIに、ライブ感なんか必要ないだろっ!

 

 新しい知識だらけの世界と、ネットに繋げないAIは最悪の組み合わせと言ってもいいかもしれない。

 篠宮さんを誘った時からずーっとうるさかった。

 

 四年に一度の祭典。

 僕らにとって初めてのワールドカップ。世界中から集まるトップアスリートたち…………僕だって、リアタイで見たい‼︎

 

 女子サッカー部もインターハイが近いわけで、だから僕の都合ってだけでもなくて……

 

 入院中、看護師さんにW杯の事を聞いてから一度も調べなかった。

 全ては世界一が生まれる瞬間を、何も知らない僕らで迎えるために。

 

 なにがなんでも、この一カ月で終わらせたるわ!!

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