100年後のサッカーを、君に。   作:peko34

24 / 31
22 学校にて

 窓枠に背中を預け、スマホをじっと見つめる。

 画面の中では、御堂が何度目かも分からねえ首振りをしていた。

 

 ボールが来る前。

 来た瞬間も、蹴ってすぐあとも。

 いちいち周りを確認して、身体から無駄な矢印が出ていねえ。

 

「…………」

 

 縦画面動画のど真ん中には常に御堂。

 他の選手なんか顔も分かんねえほど、御堂がどう動いてるかだけが延々映っている。

 

 それが三時間。おまけに比較用だとか言って、昨日のあたしと真白の矢印拡大映像まで送られた。

 

「……っ」

 

 今、どうなってんだよ世界の科学技術は!!

 くそ、調べてえけど見るもん多すぎて、そんな暇がねえ。

 

『矢印付きの初級編。対戦相手のを映すのは、今回だけだよ?』

 

 自分のだけならいつでもどうぞってあの態度。バスケのことも聞きたくなんだろ!

 

「くそ……」

 

 こういう考えに逃げることがあるから、昨日のあいつとの3分勝負は……有効だったとは、思う。

 

 ボールを持ったままなのに急加速して、動きは早くねえのに付いてくのが遅れた。

 なんとか追っかけようとすると、こっちを見てもいなかったはずなのにフードを引っ張られた。

 

 ファウルだろ! と言ってやろうと顔を上げる。

 

『ぶつかるよ』

 

 目の前数センチの距離に、真白が驚くような顔で一ノ瀬を見ていた。

 

『これ相当実力差ないとできないから。こんな舐めた真似されない為にはどうするか。これはお家でも考えてきて』

 

 ……スクリーン、ね。しかも敵同士の。

 さっきから、あたしが御堂にされたことをまんま喰らわせてくれる、と。

 

 ならさっきの守備練習みてえに、あたしが身体を寄せると──

 

 パスにはボールに意志でもあるかのように回転が掛かって、

 少しでも足を開こうもんなら、そこからラジコンへとボールを通される。

 こっちは多分、真白への当てつけ用……こいつ性格最悪かよっ!

 

 この何をしたらいいかも分かんなくなる感覚は、確かに御堂のものと同じだった。

 

 あれだけ上手いと思った真白もまるで相手にされてねえ。

 途中から呆けたように一ノ瀬を見ながら──

 

『そういう、こと……』

 

 何かに気付いた様子を見せた。

 ならここから反撃か? ってところで3分。初日だし、今日は解散って流れになった。

 

 勝ち負けの条件を決めておきながら、こうなるのは当然とばかりに結果に触れもしなかった。

 

 正直サッカーでどれだけ差を見せつけられようが、大してダメージなんかねえ。

 こいつの言葉に説得力が乗って、ありがたいと思ったくらいだ。

 

 なのに……

 メールを開く。ズラッと並ぶ添付動画の最後。

 

『張り切りすぎて体調崩しちゃった。ごめんなさい今日はお休みです』

 

 舐めてんのかあいつは! 急にイキり始めたと思ったら、こいつホントに信じていいのかよ‼︎

 

 

 ……まあいい。宿題になるもんは腐るほど出されて、時間が欲しかったくらいだ。

 まずはあの急加速を、一ノ瀬も使ったってこと。

 

(御堂のあの動きには、なんかタネがあったってことかよ)

 

 ふと引っ掛かって、動画を少し戻す。

 御堂がマークを振り切る瞬間、強烈なデジャビュがあったから。

 

(……出遅れんの、あたしだけじゃねえのか)

 

 御堂に張り付いていたやつの姿が狭い画面から消えて、当人は涼しい顔でパスを出している。

 

 ……ああああっ!! また最初っから見て検証かよ!

 つか! なんかタネがあったところで、試合中にこんなん見れっか!!

 

『篠宮さんの視野は期待外れかなー』

 

 ……デリカシー無し男が。自発的に視野狭くしたこともねえのに、武器として使えるわけねえだろ。

 

(休み時間は……まだあと五分)

 

 もう一度、動画の初めに巻き戻す。

 

(……でも、確かに)

 

 あらためて一から見ると、デジャビュはどんどん酷くなる。

 意識したら原因なんか一瞬で分かった。くそ……何回自覚させりゃあ気が済むんだよ。

 チーム競技を続ける限り、何度でもここに戻ってきてしまう。

 

 この拡大映像自体が、あたしには見慣れた景色だということ。

 

 わざとか? わざとだよな、あの馬鹿、視野狭窄を本気で武器として扱ってやがる……!!

 

「……っ、はっ」

 

 雑だ、ガサツだ散々言われてきたあたしが、適性はデータキャラってか?

 

「……あ、笑った」

 

 近くから聞こえる声に、目を向ける。

 

「んだよ支倉」

「いやなんか、今日ずっと真剣な顔してるからー」

「……いつもしてんだろ」

「ええー? と、そうだ。昨日コーチが『なんで調子出てきたのに、今になって休部なのよ』だって」

 

「あー」

 

 マジか。結構やらかしてたから大して気にされねえと思ってたけど、ちゃんと見ててくれてたのか……

 

「悪い。がっつり調子崩して、当分戻れそうにねーんだわ」

「え。け、怪我、とかじゃないよね!?」

「ねーよ。ただの大スランプ」

 

 支倉が困ったように眉を下げる。

 

「最近の真莉、私もすごいと思ってたんだけど」

「…………ほんとそれな。なのに距離感バグったブルドーザーに、なんの前触れもなくズタボロにされたわ」

 

 今でも信じらんねーわ。あたし普通に授業受けてただけだぞ?

 なのに最悪なタイミングで突っ込んできて、轢いた自覚も無いあいつ。

 

「……なんでかな。車より、人の姿が思い浮かんじゃった」

「そいつしかいねえだろ」

「合ってるんだ……」

 

 一ノ瀬葉月。

 あんな奴だと想像もしてなかったくせに、支倉には散々あいつに近寄んなと言った。

 良くないことだったとは……思う。

 ただ変態なのは確かで、撤回するかはまた別の話で。

 

 あいつのことを今のあたしがどう思っているか。

 

 考えるのもだるいわ……

 間違いなく好きではねえから、嫌いか、嫌いじゃないか。この2択すら考えるのだるいって、どういうやつなんだよ……

 

 でも真白は良かった。

 真面目で常識あって、偉そうなあたしにも物怖じしねえ。

 あの男には苦労させられながらも世話焼いて、サッカーと真剣に向き合っていた。

 

 そんな真白となんだかんだ仲良くやってんだから──まあ、言われるほどのやつでは……ねえと思う。

 

「学校、来ないねー」

「うちは3分の1欠席で強制留年だってよ。余裕はあるっちゃある」

 

 60日程度か? さすがにあいつもそこまで休むほど馬鹿じゃねえだろ。

 

「んだよその顔は」

「留年の条件なんて初めて知った。調べたんだねぇー」

「……ドスケベが。すぐそんなもんと絡めんなや」

「そこまで言う!? せめて恋愛脳って言って!!」

 

 こいつは突然部活休んでも、怒んねえし食い下がってもこねえ。今思えば、あたしが御堂のことで焦ってたときも、全然態度も変わんなかった。

 最近濃い奴らとばっか話してたからすげえ落ちつくわ……

 

 だから当分めんどくせえ話なんかしたくねえんだけど──

 

「──なあ真莉。最近バスケ部休んでるらしいじゃん」

 

 教室の向こうからガクがやってきて、話しかけてきた。

 来ると思ったんだよ……

 

「……なんでガクがうちのことチェックしてんだよ」

「女子バスケ部の先輩が心配してた。様子見てくれってさ」

「だとしても普通てめえに相談いかねえだろ」

「ほんと、なんでなんだろうな。もはや俺がそういう星の下に生まれてきたとしか──」

 

 こいつに話しかける口実だろ、ぜってえ。

 中学のころからなぜかあたしを仲間扱いしてくるこいつ。競技は違えど必死で頑張る同士らしい。

 

「こんなののどこがいいんだあ?」

「私に振られても……私は人気出る理由想像出来るし」

「想像の段階なの!? こんなにイケメンなのに!」

 

 あーうるせえうるせえ。

 ガクは勝手に、空いてる一ノ瀬の席に座って話に入ってくる。

 

「そんでなんで真莉は休んでんだ? 部活サボんなんて初めて、だよな」

「サボってるわけじゃねーし、関係ねーだろ」

「いや、関係っておま、あんだけ俺に仕事吹っ掛けておいて!」

「あんなのクラス全体の問題だろうが」

 

 あんな厄介人間に嫌がらせする連中を止めただけでも、あたしは仕事したわ。

 

「えーと、檜山君? 大丈夫だよ、なんか真莉楽しそうだし」

「そうは言うけどさー。なんつーか、その席に移ってから真莉、なんか変だよな」

「……移った理由は知ってんだろ」

「そりゃグッジョブと思ったさ。でもおかしくなった。ならやっぱ──また一ノ瀬、なんじゃねーのか?」

「…………」

 

 うちのクラス、めんどくせぇ男しかいねえのかよ……

 

「なあ、あんまりあいつに関わらないほうが――」

「……休むと決めたのはあたしの意思だっつの」

「この前一ノ瀬と、話してたのが原因か? なんか言われてたよな」

「──っ、てめ」

「どした?」

 

 やられた。こういうとこが嫌いなんだよ、こいつ。

 

 自分がどれだけクラスで影響と注目があるか、まるで考えてねえ。

 むしろ周りなんか気にするの格好悪い、みたいなこのスタンス、なんなんだよ!

 

「…………」

 

 支倉の後ろに座る女子が、ピクリと動いた。

 クラスで好き勝手したばっかのあたしと、あの一ノ瀬。

 

「ほ、ほら、檜山君、チャイムだよ? 話は後にしない?」

「あー……俺としたことが、めんどくせーこと言っちった。忘れてくれ!」

「……おー」

 

 まあ、あたしの返答も雑だったか……

 自分が言ってたことを人に言われてイラッとするとか、糞過ぎる。

 

「ま、なんかあったら頼ってくれ! これでも問題解決は得意中の得意だ」

 

 そのままいつもの胡散臭い笑顔を見せて、ガクが席に帰っていく。

 てめえは問題起こすのも、同じだけ得意だろうが。

 

 いいやつなんだよ。中学時代も何度か同じクラスで、裏表も見えなかった。

 けどクソなあたしには、ぶん殴っても罪悪感持たなくて済むやつの方が──

 

 チラと横目で、支倉の後ろに目を向ける。

 さっきの女子が、隣の女と嬉しそうに一ノ瀬の席を指差して話している。

 

 この状況で、初心者のあたしが御堂に必死こいて挑む。

 そこで無様晒すとなったら──

 

「はあ……」

「あ、あはは。真莉がこういうの気にすんの、なんか意外かも」

「あ? ああ、確かに。そうかも」

 

 別にクラスん中に敵がいんのなんか珍しくもねえのに。

 

 そういやあいつも……休み時間に他クラスの奴らまで覗きに来て、散々陰口を叩かれていた。

 気づいてねえわけねえのに、よくあれだけ図太く生きて──ってどうでもいいわ!

 あの無駄な存在感のせいで、毎回比較に出てきて鬱陶しいんだよ!

 

 時間を無駄にした。

 授業はじまるまでは、まだ少しあんな。

 

 切り替えて、また初めから動画を見始める。

 さっきより映像に入り込めねえ気がした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。