100年後のサッカーを、君に。   作:peko34

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幕間 御堂春

 公園まで辿りついたところで、一ノ瀬葉月がダボダボのクソダサTシャツでこっちへ歩いてくる。

 何XLなんだよあれ……想像もつかん。

 

「いらっしゃい。あれ、一人なんだ」

 

 普段ならこんな男、間違いなく目を逸らす。

 なのにただベンチから立ち上がって、ただ歩くだけで発生する違和感がそれを許してくれない。

 

「真莉はなんか予定合わないって。だから場所だけ聞いてきた」

「え……? そ、そうなんだ。じゃあ今日は、どうしよっかな」

 

 プ。それでもこういうキョドリは見た目相応かよ。

 真莉ならなんも知らずにバスケ部出てるわ。

 

 嘘がバレてもなんだし、この話は終わりと辺りを見渡す。

 

 ここが二人にサッカーを教えたっていう公園、ね。

 なんつーか……

 

「せっま」

「まあ……そうね。でもその分人数も少ないから」

「少な過ぎだろ。真莉抜けて2人じゃん」

 

 網ん中に入ると一層狭く感じる。

 

 目の前にはゴールの線を描いただけの壁。

 ちょっと長いパス一本で向こうまで届く。フットサルすら出来るか怪しいレベル。

 

「いいの。僕らは今基礎練にハマっているから、広さは必要ないんだって」

「はいはい必死必死」

 

 分かるよ? こいつの事は色々聞いてきたんだ。

 そりゃあ必死にもなる。

 

「と、そうだ。まだ妹も来てなくてさ。いつもはもう来てる時間なんだけど……」

「約束してないのかよ。それ普通に来ないこともあんじゃん」

 

 

 一ノ瀬真白──

 中学ん頃と比べると、信じられないほど成長はしていた。

 

 ただ4日前の試合を見た限りでは、鍛えたばかりの武器を試合でどう使っていいのか持て余してるって感じで。

 

 参加のお礼と声かけてみたら、こいつも私のファンだとか。

 持ってたサッカーボールにサインをしてあげて、連絡先も交換した。兄と違って素直で可愛かった。

 

 真莉が言ってた『真白が部に戻るまで〜』ってセリフを思い出す。

 サッカー部からはなぜか離れてるみたい。

 

 

 ──仕方ないから少し鍛えてやることにした。

 

『明日うちの部来なよ。試合で試したいこと、試したかったこと、いっぱいあるよね? はー? 兄との練習? 私から言っとくって。大会近くなるとうちらもあんま相手出来なくなるしさ、兄貴とならいつでも出来んじゃん』

『…………ぜ、是非お願いしたいです』

 

 

 

 ちょっろ。

 試合に負けて悔しい思いしてる女の子を、きちんとケアしないからこうなんだよ。

 

「約束はしてないけど、今まで毎日来てくれてたんだって」

 

 そんでこいつのこの、妹を信じ切った顔よ。

 うちのやつらも真白を可愛がってたし、ここには戻ってこない可能性すらあるのに呑気なもんだよね。

 

「なんかあったかな……僕ちょっと連絡を──」

「ちなみに思春期の女にそれは、過干渉過ぎて嫌われるやつだから」

「……まあ、今日くらいはいいか」

 

 こいつ意外とお兄ちゃんしてんのか? 予想外のことしようとすんなよ危ないなー。

 

「……なんかさー。忙しいなかせっかく来たのに、グダグダじゃん」

「は、はわわ……」

 

 もう余計なことは考えさせないよう釘は刺しておく。

 人間誰しも『推し』が自分のせいで退屈してたら、焦らないやつなんかいない。

 

 くふふ、情報出し過ぎなんだよ。仲良し村で生きてきたんかお前は。

 

 

 試合後──冷静になって考えてみても、こいつはどうしても不自然だった。

 

 真莉の武器は分かる。

 圧倒的な運動量と、研究と観察。それと性格もあるだろうけど、大枠はたったこれだけ。

 

 これを奇跡的に見つけられたとして、私に挑もうと思えるか?

 私に勝てると、悪評だらけの男が真莉を説得できるのか?

 

 この前の試合展開までいくには、どうしたって足りていないものだらけだ。

 信用、実力、コミュ力──おそらくそんなものよりもっと大きなもの。

 

 まずは真莉から探ってみた。

 だけど見た目に反して口は固いし、察しも良くて撤退。

 

 

 次に花音。

 『あいつ、意外かも知んねえけどサッカーに詳しいかもしんねえ……』

 

 試合後に真莉に解説してたから、知ってるわ。

 それでも檜山からのサッカー勝負をなぜかあっさり受けたって噂の話は、推理が前進した気がする。

 詳しいだけじゃなく、自分でプレイもできるってわけか。

 

 

 

 そんで一ノ瀬と仲良くしてたのは、もう一人。

 サッカー部じゃないから期待は薄いけど──

 

『……あのさー。支倉の気持ち、分かったわ』

『え? 急にどうしたの?』

『私も昨日、公衆の面前で一ノ瀬に辱められて、泣いちゃって……』

『⁉︎ え、ホントに⁉︎』

『噂になってんの、聞いてない?』

『ご、ごめん、また変な噂って思ってた……』

 

 聞きこみして不思議だったのが、迷惑掛けられた側ほど一ノ瀬を悪く思っていないこと。

 

『でもきっと悪意はないんだよ? だって一ノ瀬くん、御堂さんの大ファンだって──』

 

 だからこそなのか、代わりに全然予想もしてなかった情報が手に入った。

 

 そこからはもう、支倉の溢れんばかりの思いやりの気持ちで、一ノ瀬がどれだけ私に夢中かを教えてくれた。

 

 ……これ、私が直接突っ込んでく方が早くね?

 

 

 

 なんて思って今、意識を目の前に戻す。

 

「えーと、えーと……実は僕、占いが得意で──」

 

 そこには予想通り私の機嫌に、一喜一憂している大男。

 

 恋愛ハウツーとか調べる必要なかったー。

 私この歳にして既に2回も男に告られてるし、持ってる経験値が違うんだわ。

 

「あ、じゃあさ! この前の試合映像でも見ながら解説を──」

「いや、もういいから」

 

 持っていたボールを落として、右足の甲で弾く。

 軽くリフティングを続けると、一ノ瀬はパチパチ拍手までしはじめた。

 

 ご機嫌取りもいいけどさ。

 この私にここまでさせて、下らない秘密だったら怒るから──ねっ!!

 

「え──」

 

 落ちてきたボールを跳ね上げずに蹴り込む。

 一ノ瀬の膝の高さへ、様子見の軽いシュート。

 

 実力を測るには、まず何よりもトラップ技術から。

 そんな軽い気持ちだった。

 

「えーと……? これで良かった、かな?」

 

 困惑しながらも、試されたことは分かったらしい。

 

 二メートルの距離で放たれたボールの勢いを完全に殺して、トラップどころか足の甲に乗せている。

 

「…………」

 

 そんな身体で、そこまでしろなんて言ってない……!!

 

「……まあ、合格かな」

 

 このケースをチラとでも考えなかったわけじゃない。

 この男が、私より格上だからこそ無茶を通せた可能性——

 

 アホらしくてすぐ捨てた思考だけど、おかげで無様に驚く姿は見せなくて済んだ。

 

 そもそも私の武器はトラップじゃない。たった一つ上回れただけの話だし。

 ただこの実力が、こいつの秘密だったのか? 上手いってだけなら逆に期待外れなんだけど。

 

 今日ここに来たのはこいつの才能発掘能力と、思考の仕方。

 あわよくば育成能力の秘密を誰にも邪魔されずに確認するため。

 

 そしてその内どれか一つでも特筆するものがあれば、うちに通わせる。

 でもこんだけの実力ならプライドも相応にあるだろうし、引き抜けんのか?

 

 少し……態度は変えるか。高圧さは落として──

 

「せっかく来たんだから、もう少し色々聞いてもいいかい?」

「……せっかく、来てくれたんだしね。なんだか不自然な状況に思えてきたけど」

 

 今はとにかく、こいつの情報管理能力が終わってるうちに、暴けるだけ暴いてやる……!

 

 

        ♢

 

 

 家に帰って、着替えもしないでベッドに横になる。

 予想以上に上手くいったはずなのに、なんだかひどく心が疲れている。

 

 あいつから連絡も届いていない。招待した側は解散した後、女に『今日はありがとうメール』を送るもんじゃないのかよ……!!

 

 なんだか疲労で頭が回らない。

 

「……どんな話をしていたんだったっけ」

 

 確か一ノ瀬が座っていたベンチに場所を移し、横並びに座って──

 そうだ。まずはあいつの思考確認から始めたんだ。

 

 

 

「私がなんで初心者の真莉を入れたがってると思う?」

「そりゃ、あんなのどうやったって主力に育つと思うけど」

「……今だよ今。大会近いのにあれにこだわる理由だよ」

「今でも十分役に立つと思うけど。んー、特に瑞穂台(みずほだい)戦で活躍しそうかな。あそこの『橘ありさ』に引っ付かせてさー」

 

 支倉の情報通り、女子サッカーには相当詳しいらしい。

 でもここまでは誰でも思いつくことで──

 

「篠宮さん一人じゃあ抑えられないと思うけど。ほら、あの視野なら──」

 

 そこからは止まらなかった。

 ありさなんかをそこまで評価してるのは腹立つけど、合格。マネージャーとして欲しいと思った。

 

 

 

 次はうちのチームを語らせることで、才能発掘能力を試させてもらった。

 

「篠宮さんとよく話してたBの先輩。上にあげて守備の統率任せてみるとか。あの人いつもすごくいい動きしてて、御堂さんの負担も相当減ると思う」

「はー? あの人が向こうにいなきゃ、そもそも試合になんないんだけど」

 

「あれ、評価はしてるんだ」

「これから守備の要になってもらうんだから、A(私ら)の相手したほうがいいんだよ」

「……ちなみにその意図を、先輩は知ってるの?」

「言ったら必死さが減るじゃん」

「……うわぁ」

 

 ここで呆れた顔をされて、喧嘩になった。

 私のファンじゃなかったんかい。

 

 私と同じレベルまで人を見れてんのに、なんで衝突すんだよ。こいつ全然引かねーし……

 

 

 

 そうしているとふと、こいつのサッカー観が気になった。

 

「支倉から聞いたけど、私の戦術見て自分のサッカースタイル決めたって?」

「聞いたんだ。そうそう、御堂さんに比べると少しショボいんだけどね?」

「……どんなんだよ」

 

 聞くと、えー? だの、真似しないでよーだの鬱陶しい前置きした後、

 

「僕を皇帝としてチームメイトを支配する──名付けて『インペリアルサッカー』さ!」

 

 語呂と頭の悪さには笑わせてもらった。

 今さらマラドーナか? ベッケンバウアーかー? この時代によくそんなもん目指せたな! 

 

 鼻で笑われるだけだった私のサッカーを……こいつはまじで参考にしていた。

 

 

 

 そうだ。ここでこいつを完全に落とすことに決めたんだ。

 似たような思想を持つこいつには、なんとしてもうちの部に入ってもらう。

 

 恋愛感情を利用するなんて初めてだけど、人を操ることに長けた私にできないことはなかった。

 

「そういや一ノ瀬って、名前はなんだっけ?」

「葉月だよ」

「ふーん、一ノ瀬が二人とかこんがらがるから名前で呼ぶわ。お前も春でいいよ」

 

 まずは名前で呼び合う。ハウツーによると、地味なくせに効果は抜群らしい。

 今でも自然な提案ができたと思ってる。

 

「は、はづ……」

 

 なのに、私はなんで上手く呼べなかったんだ……?

 この時の感情はどうしても思い出せない。

 

 ……まあいいや。

 この話の流れなら、次普通に呼んでも不自然じゃないでしょう。

 

 

 

 また喧嘩が始まった。

 あいつが栄養摂れとか睡眠取れとか、この私にクソ浅いアドバイスをしてくるから。

 

 その二つが大事なことを知らないとでも思ってんのか?

 強豪と同じ時間を生きてて、私ら勝てんのかー?

 

 ただでさえ上の世代は化け物だらけだ。

 そこに張り合っていくんだから、戦術の浸透が先だろうが。

 睡眠も栄養も、大事にすんのは大会前でいい。普段から気を付ける時間なんてない。

 

 この先輩たちとサッカーがしたいと思えたから来たのに、速攻引退させてどうすんだよ。

 

 そこまで言っても向こうは引かなかった。

 ダイヤモンドの如く融通が効かないせいで、部員にも話せないような本音で話してた。

 

 気付けば日が落ちかけていた。

 私ら、何時間話してんだ……?

 

「……はあ。分かった。ならさ、せめてお金に余裕あったりしない?」

「……っ⁉︎ 〜〜〜っっ、……金、掛かんのかよ」

「ん?」

「いくら払えばいいんだよ! 私今2千円くらいしか持ってないんだけど⁉︎」

「早い早い早い……なにに払おうとしてるの」

 

 思い返してみるとこの会話……なんだこれ。

 不自然に楽しかったせいで、相談料とか勘違いした、ような……ってないわ!

 

 この辺から記憶曖昧で、無意識に、適当に答えてただけだ。

 でもまあ、次の言葉はしっかり覚えてる。

 

「まだコンビニでご飯買うくらいなら、僕がお弁当作ろうかって話」

「…………は?」

「妹もお金払ってるしただにはできないけど。一食600円でどう? 少し高いかもだけど、栄養バランスは保証するよ?」

「は、はあ⁉︎ なんでそこまですんだよ!」

「自分のと真白のを作るついでだし。三人分でもそんなに変わらないし」

「〜〜〜っ!」

 

 これだよ。色々考えてバカみたいだった。

 

 今思い出しても確信できる。

 異性にお弁当を作ろうとするとかさー。

 

 こいつは既に、完全に私に惚れていた。

 

 

 

 そこからは遠慮しないで一気に行かせてもらった。

 

 うちの部に参加しろ。

 こんな狭いとこでサッカーしなくても、うちですればいい。

 妹にも対人練習させられるし、紅白戦にも出せる。どうせうちは人数足りないから。

 

「い、いいの……⁉︎」

「もちろんこっちにも協力してもらうから。コーチしろとまでは言わない。うちの奴らに手本を見せてくれればいい」

「それはもちろんっ! あ、でも僕まだ3分くらいしかまともに動けなくて……」

 

 一撃だった。なんだったんだよさっきまでの遠回りは!

 

 スタミナが足りないのも、真白が参加してくれるだけでも相当デカいから別にいい。

 

「ただし、学校はちゃんと来ること」

「…………え」

「当たり前だろ。うちの顧問、サッカーは緩いけど教師なんだわ。学校サボってるやつを練習だけ参加させるわけないじゃん」

「……んんー……お、おっしゃる通りで」

 

 そうだ、ここはなんで悩んでたんだ?

 もう結構休んでるらしいし、これ以上休んだら留年なのはさすがに聞いてるよな。

 

 念の為、支倉のことも確認しておいた。

 

「や、やっぱ……まだ支倉が好きで、き、気まずいとか……?」

「…………ぇ」

 

 この質問に、一ノ瀬が口を開けて止まったのも気になる。

 何かを私に聞こうとして、止めてを繰り返してた。

 

「いや、きれいさっぱり諦めさせてもらったよ」

「まじで? 仲良さそうだったじゃん」

「仲良くしてもらってるだけだよ。全く、恐れ多い」

 

 とは言うものの、男は未練たらしいうえに浮気なんかも平気でできるらしい。

 

 真莉はお子ちゃまだから論外。

 こんなあっさり落ちる凄いやつと一か月過ごして、キープすらしてないのはさすがの視野の狭さと言っていい。

 

 支倉だけは要警戒。

 

「…………学校行くよ。ありがとね」

 

 気付けば、網の向こうの遊具から子供の声がしなくなっていた。

 足元のボールも暗くなって、ああ、そろそろ帰らなきゃいけない時間かって思って──

 

「じゃあ今日はありがとう。なんかさ。滅茶苦茶楽しくて、一瞬だった!」

 

 ……一ノ瀬の満面の笑みに対して、私はどう答えるべきだったのか。

 なんでか聞こえない振りをしてしまった。

 

「春さん。また明日!」

 

 背中から聞こえた声にはまあ、手で合図は送れた……はず……

 

 動いてもないのに、暑くもないのにもの凄い汗をかいていた。

 

 〜〜つか! 名前で呼ぶくらいなら、今日はありがとうメールもしてこいチキンが!!







長くなりましたが、これにて二章は終了となります。
今日の夕方あげる話は公募用のエピソードなので、若干ifの話です。

第三章以降については長くなるため、活動報告に掲載しています。

もうこのひと月、興奮が止まりませんでした。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました‼︎
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