メルループ 傍から見なかったら孤独な戦い 作:haguruma03
彼女、桜羽エマが記憶を取り戻したのは、ラウンジに到着した時だった。
見知らぬ場所に連れてこられた事への不安、ヒロに手ひどく対応されたことへの悲観、そして忘れていた大事な友人の記憶。
それら全てが、突然湧き出た記憶によってエマの頭の中から吹き飛んだ。
当然湧き出た未来の記憶。
13人との関わり、信頼、友愛、殺害、惨劇…そして別れと希望。
そんな記憶が頭に浮かんだ時、エマは頭を抱え首を振った。
(こんな…こんなの嘘…だよね?ボクの妄想だよね?)
最初は信じられなかった。
今目の前にいる皆と友達になれるのだと。
ヒロちゃんと仲直りできるのだと。
自分が見殺しにしたユキちゃんが生きていて、黒幕だなんて有り得ない…と。
それらは弱い自分が見せるただの妄想だと彼女は思った。
それはそうだ。これが未来の記憶だとすぐに理解できる人間なんて稀。
ゆえに現実逃避するように、エマは頭に浮かんだ数多の記憶を無視しようとした。
だが、それはヒロが看守を殺そうと火かき棒を振り下ろした光景を…頭に浮かんだ未来の光景とまったく同じ光景を見た時に、気がついたのだ。これは妄想じゃないと。
そんな時だった。頭の中で死んだはずの友人の声が響いたのは。
ならこの先にある未来はどうなるのでしょうね、ね?エマ?わかりますよね??
その声が幻聴なのか現実なのかはエマには分からなかった。
おそらく幻聴なのだろうと、こんな不安そうな声をユキちゃんはしないと判断した。
つまり、この声は自分の心の声なのだと。
ゆえに、エマはその心の声に従った。
衝動的に走り寄ろうとしているメルルの服を引っ張ったのだ。
その結果、予想通りメルルは体勢を崩してヒロに向かって転がった。
メルルが空を飛んだ。
そしてそのおかげで、ヒロは首を切られることなく生き残れた。
そう、ヒロは生き残れたのだ。
未来が変わってしまったのだ。
メルルの服を引っ張るというわずかな行動で、ヒロが死ぬのを防ぐことができる。
絶望の未来を覆すことができるエマは実感することができた。
そんな実感を感じながら看守に連れられていくメルルを見ながらエマは理解した。
得た記憶は妄想ではなく未来の記憶なのだと。
ゆえにエマは決心した。
(ボクが、皆を救えるかもしれない…!!)
そんな強い志を桜羽エマは持つ。
周りも似たようなことを考えているなど知りもしない。
そこからのエマは迅速に動き始めていた。
メルルとアリサと医務室に行き、一度別れ、絶対にやっておかなければならない事を行い、そして再び医務室に帰ってきた。
(ヒロちゃんとメルルちゃんを説得するために写真を手に入れなきゃ!)
そんな想いと共に、今現在エマはメルルと握手を行っている。
ニコニコと笑うエマ。
目尻に涙を浮かべながら何かを決心した表情のメルル。
そして優しく見守るアリサ。
3人がいる医務室にて、エマの思考が回る。
みんながいつどうやって魔女化が進んだり、殺そうとしてしまうのか、完全に把握することはできない。
もう未来は変わっちゃってるし、知っている記憶と同じことが起こるとは考えづらいよね。
なら、まずやらなきゃいけないことからやらなきゃ...
そう考えながらエマは目の前の少女を見る。
純白のシーツと掛け布団が敷かれたベッドに座る純白の服をきた少女。
氷上メルル。
優しそうな顔つきと目尻に涙を浮かべているその表情から庇護欲が湧くような少女。
そしてバッドエンドを避けるための重要なキーパーソン。
皆の事を心の底から心配し寄り添いながらも、死ぬ事と魔女化を望む矛盾し歪んだ心を持つこの牢屋敷の黒幕。
放っておけば、牢屋敷の惨劇を誘発させ続ける不幸を呼び寄せる子。
だが、そんな黒幕である彼女の協力がなければ、他の子たちを安全に魔女化させることはできない。
そして皆を魔女化させなければ真の黒幕であるユキに会えない。
ゆえに氷上メルルの協力が必要である。
次に二階堂ヒロ。
美しくも強さを感じさせる顔つきと、苛烈なほどの正しさを追い求めすぎる少女。
そしてバッドエンドを避けるためのもう1人の重要なキーパーソンである
勘違いや魔女因子が原因により桜羽エマへの殺意に満ち溢れており、放っておけば、桜庭エマをさまざまな方法でシャワーに誘う殺人鬼。
だが、そんな彼女がいなければ皆を纏めれず、魔女化させることもできず、ユキを説得することができない。
ゆえに二階堂ヒロの協力が必要である。
そんないろいろな意味で協力しそうにない2人を説得しなければならないという無理難題が存在する事を桜羽エマ自覚していた。
知っている未来の記憶は数多の犠牲と死に戻りによってようやく得られたもの。
その道筋をエマは辿るつもりはかけらもなく、そして、たどらなくても一つの鍵となる存在に気がついている。
それは写真。
メルルが大切にしている、ユキとメルルが2人写った写真であった。
(あの写真があれば、メルルちゃんとヒロちゃんは考えを変えてくれる…と思う)
エマはそう考える。
写真だけで2人を完全に説得できるなんてエマは思っていない。
だが、その写真が一周目でも二周目でも大事な物だったことには変わりない。
メルルちゃんとその写真を見れば、看守を使ってボクを殺そうとする前にユキちゃんについて話を聞いてくれる…はず。
ヒロちゃんとその写真を見れば、ボクに火かき棒を振り下ろす前にユキちゃんについての話を聞いてくれる…はず。
だから、メルルちゃんにあの写真を貰う、または見せてもらう必要がある
そうエマは考えていた。
ゆえにエマは口を開いた。
「ねぇ、メルルちゃん。ひどい転びようだったけれど、体のどこか痛かったりしない?」
「え…だ、大丈夫です…!!どこも痛く有りません…!!」
メルルがコクリコクリと頷く。
その言葉にエマも心から安堵した表情と共に頷いた。
「よかった。あれだけのことだったから心配だったんだ…」
「心配してくださって、ありがとうございますエマさん….!」
やっぱりメルルちゃんは礼儀正しいなぁ、とエマは過剰なほどの感謝を伝えるメルルに思うがそれを口にしなかった。
「…気にしないでメルルちゃん。他になにかあったりしないかな?」
「他に?...えっとなにも体に異変はないのですが…?」
メルルはキョトンとした顔をして自らの体を見るが、エマは首を横に振る。
「そうじゃなくて、たとえば…持っていたものがなくなっているとか?」
(持っていたもの…?)
エマの写真について探りを入れる言葉を聞いたメルルはその真意を掴み損ねていた。
未来の記憶では何度もエマと会話をしてきたが、そんな事を言われたことなんて一度もなかった。だからこの質問は何かの探りを入れるための質問なのかと思ったが、メルルはすぐにその考えを自ら否定した。
エマさんに限ってそんなことするわけがありません…!
盲目だった。
今まで数多の少女たちを騙してきた黒幕と思えぬほどの盲目をエマに対して発揮していた。
だがそれは、今までのメルルの様子を見れば、ユキしかり共犯者になったエマしかり、一度信頼を置いた者に対して盲目になる事は容易に想像できるだろう。
ゆえに、メルルはこう考える。
つまりエマさんの質問は言葉通りの意味なのだと。
ならば、答えは簡単である。この牢屋敷、連れてこられた少女達が外からもってこれるものなど一つもない。
同じ連れてこられた少女という設定を持った自身もまた同じであるとメルルはそう考えて。
あっ。と思わず声が漏れそうになった。
他の少女たちは一切の物品をこの牢屋敷に持ち込んでいない。
だが、メルルは唯一1つだけ私物を身につけていた。
見つかってしまえば怪しまれるが、それでもメルルが持っていた私物。
それはユキと2人写った写真。
メルルの心の支えである宝物であり、親愛する大魔女の姿を肉眼で確認できる唯一の物品。
メルルは知る由もないが、今現在多くの少女に狙われている写真を彼女は持っている。
そんな肌身離さず持っていた心の支えが、それ以外の活用法がある事実にメルルはやっと気がついた。
(この写真をお見せすれば、エマさんやヒロさんは、大魔女様を呼び出す協力をしてくれるはずです…!!)
そんな今日いったい何人の少女が思いついた事柄を、所持者であるメルルがやっと気がついたのだ。
多くの少女たちと同じ事を考え、そして目の前に協力者になってくれるエマがいる事に喜び、メルルは早速、写真を取り出そうとポケットに手を入れた。
「…っ!?」
冷や汗がでた。
すぐさま、メルルは自分のポケットを探る。
右ポケットは空。
左ポケットも空。
体にかかった布団を跳ね除けベッドの上、そしてその近辺を見るが見当たらない。
「…!??」
ない。存在しない。
心の拠り所のような宝物。エマやヒロを説得できる鍵。
それがない。肌身離さず持っていた大事な宝物がポケットからなくなっている。
あるべきものがない事にメルルは叫び声をあげそうになり、瞳が涙で潤む。
それは大事なものが無くなった事や、希望の道標となる物品が無くなった事へのなどさまざまな感情が入り混じった故の結果であり、そんな彼女の様子を不審に思ったアリサが口を開いた。
「どうした氷上?」
「あ、アリサさん…」
「本当にどうした氷上!?」
突然のメルルの泣き顔に狼狽えるアリサ。
メルルは、嗚咽しながら、涙を拭い、ゆっくりと語り始める。
「大事にしていたものが…ないんです…!」
「大事なもの?」
「はい….肌身離さず持っていた、大事な…っ!」
嗚咽混じりの言葉が止まり、ここでまたメルルは気がつき背筋が凍った。
写真。
メルルとユキが写った思い出が映された一枚。
そして、メルル以外の少女達が持っていないのに、なぜかメルルだけ持っている私物。
希望の鍵であると同時に、他の人に見られた瞬間色々と不味い代物。
そんな肌身離さず持っていたものがない。
つまりそれは、 何方かに写真を拾われたのではないでしょうか…?
「エマさん、アリサさん…」
切羽詰まったメルルの声にびくりと呼ばれた2人は肩をビクリと震わせた。
「な、なんだ氷上?」
「どうしたのメルルちゃん?」
「私の持っていたモノ…拾ってませんか?」
動揺する心情を落ち着かせてゆっくりと放たれたメルルの言葉。
その言葉はあまりの緊張から震え、恐る恐る聞いたがゆえに低い声だった。
しかしその内容は、盗んだか?ではなく拾ってませんか?という、相手の悪性を排除した聞き方で有り、メルルの素の優しさがわかる聞き方。
だが、それは今のメルルの内心を知っているのならわかる事。
その事情を知らない人間からしたら、その言葉は。
『見たな?』と秘密を見てしまった者に告げる一言と聞こえてもおかしくない声であった。
そんな普段と違って見えるメルルの様子を見て、アリサは気がついた。
(これ…桜羽や二階堂が見た写真のこと言ってんのか…!?)
メルルが持っており見られたくないもの。
その存在に心当たりある物品はアリサが知る限りそれしかなかった。
そして、この世界線でアリサはその写真を、ラウンジから医務室に入った時までメルルと共にいたが見た覚えが一切ない。その行方なんて知らない。
だが理解していることがアリサにとって一つある。
写真を見られたかもしれない…そう考えたから氷上はこんな殺意をウチらに…!
理解していない。
だが、アリサはそう勝手に理解していた。
この質問に一歩間違えれば、看守の鎌がウチと桜羽の首を叩き落とすのだと。
アリサ自身、メルルから殺意を向けられた事はないどころか数多の世界線において他者から殺意を向けられたことがほとんどない。知っている殺意は植え付けられた知識のみ。
ゆえに勝手に勘違いしている。
大切なモノ、見られてはいけないモノ、それを見られたかもしれないから、奪われたかもしれないから、こんなにも氷上メルルは殺意を向けているのだと、勝手に勘違いしていた。
実際に他の世界ではナノカからリボン関連で怒りを向けられている。それがアリサの思考に拍車をかけていた。
これが、記憶のないアリサだったのなら、「疑ってんのかてめぇ」や「しらねぇーよ」とキレるか、冷たくあしらうかのどちらかだっただろう。
だが、ここにいるのは記憶のある紫藤アリサ。
メルルに対して恩義があり、ナノカのリボンを盗んだと濡れ衣を着せられ、返せなかった事に後悔した記憶をもっている。
だからこそアリサは、メルルの無くなった物についての質問に解答した。
自らの答えが自らやエマの命が関わっている事を理解しながら誠心誠意返答をした。
「うっ、ううちは知らねーよ!盗んでねぇし見てもねぇ!信じてくれ…っ!」
目を見開き視線は泳ぎ、声が上ずりながら吐かれた言葉。
めっちゃ怪しかった。
信じられないぐらい怪しい回答がアリサの口から放たれた。
答えを間違ったら殺されるかもしれない。大切なものを盗んだと勘違いされるのは嫌だ。
そんな様々な感情を含んだらこうもなる。
そしてそれはアリサだけではなかった。
「ぼ、ボクも知らないよ!拾ってないし…見てもないよ!」
追撃される怪しい回答。
声を震わせながらエマは告げ首を横に振るう。
エマもまた同じ気持ちだった。
そして同時に、メルルが写真をなくしている事に驚愕していた。
この様子だとアリサちゃんが拾って隠しているわけがないし、盗んだなんてあり得ない。
じゃあどこかに落としたのかな…?
でもラウンジから医務室までついてきたけど、そんなもの落ちてなかった。
アリサちゃんもメルルちゃんも演技をしているように見えない…ならどこにあるの?
そんな疑問が頭に浮かんでいる時、ほぼ同じ事をメルルもまた頭に浮かべていた。
エマさんもアリサさんも違うと言ってくれています!なら本当に知らないという事です…!嘘なんてつくわけがありません…!
もうなんでこんな信じやすいのに黒幕をしているのかわからない思考をメルルは頭に浮かべていた。
そしてそんなメルルは考える。
ラウンジから医務室までの短い移動経路。
その道筋にはなく。ベッドの周りにもない。
道中看守に運ばれているメルルから写真を盗むなど、アリサやエマにはできない。
それにその瞬間写真を落としたのなら、アリサやエマだけじゃなく看守やゴクチョーが拾っているはずである。
氷上が実は写真持っていてウチらに探りを入れてる?いや、氷上がそんな嘘つくわけがねぇ。桜羽もありえねぇ…なら写真はどこに行きやがっ…あぁ?
アリサちゃんやメルルちゃんがそんな事するわけない…。ならどこに…っ!
エマさんもアリサさんも違うって言ってます…ならいったいどこにいったのでしょ…う?
そこで3人は気がついた。
メルルがモノを落とす絶好の機会があった事を。
ラウンジから医務室までの間で無くしたのではない。
それより前に無くしたのだ。
(こ…転んだ時!?)
頭に浮かぶのは綺麗に空中を回転して転がっていくメルル。
そう、落とすのならそこしかない、そこでしかあり得ない。
つまり、写真を落としたのは、ラウンジだ。
10人の少女が残されたラウンジにだ。
「え、あ、あの!もしかしたらラウンジに..!!」
「そうだな氷上。何を落としたかウチにはさっっっぱりわかんねぇが、とりあえず探しにいくか」
「そうだねアリサちゃん!大丈夫メルルちゃん?動ける?」
「だ、大丈夫です…!」
三者三様、テキパキと身支度を整え動き始める。
3人とも妙に上手く話が進むなどとは一切考えていない。
それはそうだ、まさか3人同じ思考で動いているなどと考えても見ないだろう。
3人が考えているのはラウンジに落とした写真を自分が一番に拾わなければならないという思いだけであった。
アリサは考える。
もう拾われてるか…?だとしたら不味じぃな…誰に拾われても良くねぇが特によくねぇ奴らがいる。特に沢渡に見つかると不味い
エマは考える。
ヒロちゃんが見つけたならそこで真実に気がついてくれるかもしれない。ミリアちゃんなんて1番の安パイ。でもそれ以外の皆なら何が起こるかわからない。特にココちゃんに見つかると不味いよ
メルルは考える。
不味いです…!よくありません…!
皆さんにバレるとどうなるかもわかりません…それに…ココさんに見つかるとよくありません!
奇しくも3人同じ顔を思い浮かべていた。
頭の中の彼女はニタリと笑い配信画面でピースしている。
2週目序盤で配信にて様々な事を暴露したココと同じ表情をしていた。
思い浮かべれば浮かべるほど、3人の身支度をする動きが早くなる。
ここにココがいたら怒りの声を上げたかもしれないが、それは因果応報今まで(未来)の動きからみたらしょうがない事なのかもしれない。恨むのなら未来の自分自身を恨むべきである。
だが、そんなこの場にココはいない。
代わりに新たな人物が扉を開けて医務室を訪れた。
「メルルさんいますか〜!?」
「うっせぇーですわっ!」
「シェリーちゃん…うるさい」
凄まじい音と共に開け放たれた扉と言葉は、医務室にうるさいほど響き渡りそれに続いてガヤガヤと2人の不満げな声が続く。
現れたのは3人。
橘シェリー。遠野ハンナ。城ケ崎ノア。
シェリーが快活とした表情で医務室に入り、その後ろを呆れた表情のハンナ。キョロキョロとあたりを観察しているノアが続いて入ってくる。
「あれ?3人ともどうしたの?」
椅子を下の位置に戻そうと抱えていたエマが疑問の声を上げる。
シェリーちゃんとハンナちゃんが一緒にいるのは今まで見たことあるけど…ノアちゃんが一緒にいるのはあんまり見たことがない。
そんなエマの疑問にシェリーはニコリと微笑み。
「え?」
「ひぇ…!?」
エマの横を通り過ぎてベッドから降りようとしたメルルの手を無理やり握った。
無理やり握手をするように、両手でメルルの掌を握るシェリー
「な、なんですか…なんなんですか…!?」
困惑し、またも涙目になるメルル。
だがそれは困惑だけではない、一筋の恐怖も含まれていた。
魔法【怪力】
いまシェリーがその力を使えば、メルルの両腕はあの砕かれたリンゴのように粉砕されてしまう。
その事実を未来の記憶を持っているメルル(とこの場にいる全員)は知っている。
だが、本来ならその事実を理解しているのはシェリーのみ。
未来の記憶を持っていない少女達はシェリーの魔法を知っているわけがない。故にシェリーの行動にオーバーなリアクションをすることはできない。
つまり今の状況を側から見た時に、シェリーの今の行動に対して、おかしな反応するのは余りにも怪しいのだ。
そう、シェリーを除く幾人かは理解し、背筋に一筋の冷や汗が流れる。
だがそれと同時に、心のどこかで安堵はしていた。
橘シェリーは普通とは違う人物だが、おそらく、きっと、めいびー、人を無闇に傷つけようとする人物ではないと、全員が期待も込めて理解していた。
そして傷ついても、メルルなら死にはしないだろうと、メルル自身を含めて思っていた。
そんな他者の気持ちなどいず知らず、シェリーは満面の笑みでメルルに爆弾をぶつけた。
「メルルさんが黒幕ですよね!!」
ガタガタン!!という音を立ててメルルはベッドからひっくり返った。
おまけで辺りの少女達が持っていた物が次々と床に落ちていく
沈黙が広がる。
「メルルさんが黒幕ですよね!!」
「2度も言うなですわ!!!!」
ハンナのチョップがシェリーの脳天を直撃した。
牢屋敷の廊下。
見回りする一体の黒尽くめの化け物の姿があった。
姿は身長2m以上で、仮面で顔を隠しぼろぼろの黒衣を纏っており、すでに人としての原型をなくしている。腕がいくつも体から伸び、そのうち一つが大鎌を持っている。
看守。
なれはて、とも呼称する動く死の象徴。
そんな化け物の前に1人の少女が現れた。
肩にライフルを担ぎ、真正面から化け物の進路を塞ぐように立ち塞がる少女。
黒部ナノカ。
彼女はライフルをその化け物に一切向けず、静かに語りかけた
「おねえちゃん…ぜったい助けるからね」
優しげな声で告げられた言葉。
だがその声への返答は一切行われない。
看守はまるでしゃべれないデク人形のようにその場で立ち止まりじっとナノカを見つめる。
そしてゆっくりと近づいてくる。
この動きが、自分に寄り添おうとしている動きではない事をナノカは理解している。
ただ、命じられるがままのロボットのように動いている。
この動きも進路状邪魔な自分をどかそうとしているだけなのだと、ナノカは理解している。
そんな哀れな姉の姿にナノカは背を向けた。
ゆっくり追ってくる看守。
そんな看守からライフルを担ぎながら逃げるのは、少し時間がかかってしまうだろう事をナノカは理解している。
この一連の行動に意味はない。ただ自らを危険に陥れただけの行動。
だが、この一方的な対話でナノカは改めて心に決心をした。決心できた。
(私が…私だけが、お姉ちゃんを皆を救えるんだ!!)
そんな気高い志を胸に、ナノカは看守から逃げる。
今度こそ…いや、今度も皆のハッピーエンドを目指して
なお
(まってナノちゃん!!ちょっとまって!この体久しぶりだからそんなに早く動けないの!!この前やっと二足歩行できるようになった記憶があるの!めっちゃ鈍いんだよこの体!!あとこの体声出せないの!!!だから待って!!!!色々待って!!!!!!)
自分の姉が、内心焦り散らかしているのを彼女は知らない。