メルループ 傍から見なかったら孤独な戦い 作:haguruma03
3人から6人に増えた医務室。
本来ならばうるさくなるその部屋は、嫌な会話の『間』が存在していた。
わずか数秒にも満たない言葉と言葉の後の沈黙。
そんな沈黙の中で、元から医務室にいた3人の頭の中は思考が高速で混乱していた。
混乱に乱れたそれらの思考を簡潔に纏めると
何故バレた!?の一言に尽きる。
シェリーがメルルに言い放った問い。
黒幕に対して言い放たれたピンポイント、ど真ん中ストレートな言葉。
そんな正解を黒幕たるメルルに直球でぶつける精神。
言われた本人であるメルルも聞いてた2人もあまりの事に、二の句が継げない。
そんな部屋で、地面に腰が抜けたように倒れるメルルの手を両手で握りしめている少女、橘シェリーはニコニコといつもと変わらぬ笑みを浮かべながら、隣で呆れた顔をする自らを叩いた下手人に対して口を開いた。
「ハンナさん、チョップなんて酷いですよ〜」
そうは言うものの『酷い』などとかけらも思っていないシェリーの表情に、叩いた下手人である遠野ハンナは呆れた視線を向ける。
「なぁにが酷いですの。またとっぴな事をして...『ソレ』を突然するのは止めろって廊下で言ったはずですわ」
「大事な事なのでしょうがないですよ〜」
「だから、なぁにが『しょうがない』ですの。また頭叩きますわよ」
「そんな、何度も叩くなんて!可愛いシェリーちゃんの灰色の脳細胞が減ってしまいます!」
「減るも何も、元から存在しないのではなくて?」
「えぇ〜酷いですよハンナさん!せっかく私と同じく、見た目と頭脳は完璧なのに損してますよ?」
「...暗にわたくしの性格を馬鹿にしてますの?」
「あ、私と違って頭脳も除外した方がよかったですか?」
「あなたの頭も除外させてやりましょうか?」
「どこからですか?」
「体からですわ!」
シェリーとハンナの漫才のようなテンポな会話が続いていく。
側から見れば和気藹々とした空気が流れるが、そんなシェリーに腕を掴まれたままの氷上メルルは全くそんなことはなかった。
(ひぅっっっ!?????)
本日2度目の悲鳴を気合いで耐え切っていた。
二階堂ヒロのジャスティス先制アタック(自殺)を乗り越え、アリサとエマと心を通わせ改めて皆を救うと誓った。
そして写真の行方がわからなくなり、シェリーにお前は黒幕だと告げられる。
事態が転がり次々に移り変わる現状で突きつけられた言葉に悲鳴を上げなかったメルルを草葉の陰から大魔女は拍手するだろう。実際している。
これが未来を知る前のメルルならば、全く違った反応をしたのだろう。
一周目のエマに真実を告げられた際のメルルのような反応をしたに違いない。
だが今のメルルは違う。
皆を生かした状態で魔女化させなければならない。その為に暗躍しなければならない。
それは自分のためであり、大魔女様のためであり、皆のためでもあった。
だが、そんな予定はシェリーの言葉に粉砕された。
複数人いる中でバラされた自らの正体。
違います私は黒幕ではありません。と言うにはベッドから転げ落ちるリアクションをしているために言いづらく。
そうです。なので皆さんには黙っててもらいます。と実力行使をするには近くに看守はおらず、だからといって自分1人でこの部屋にいる皆を制圧できるわけがない。
おまけにそもそも皆を攻撃して殺してしまっては元も子もない。
さすが名探偵シェリーさん...です!私、何もできません...!
なんて現実逃避が頭の中で踊り、今のメルルは何故バレたよりも、バレたのでどうするか?という思考に支配されていた。
そんなメルルはゆっくりと、ゆっくりと口を開いた。
沈黙は立場を悪くする。そんな思いで口を開くが言葉がつづかない。
手がないわけではない。
自らが黒幕だと認めて、それでも説得して協力してもらえば、ソレはソレでベストだ。
自らの正体を明かし、それでもハッピーエンドのために助けてほしいと説得する。
その後はこの場にいる6人で事件の解決を目指す。そんな方法がある---が
それができたら苦労しません...!!
メルルの悲痛な叫びが胸中に響く。
その方法を選ぶのは容易ではない。
もうすでにゴクチョーのこの牢屋敷がなんなのかの説明は終わっている。
そんな場所に誘拐してきた諸悪の根源である黒幕の言葉なんて意味をなすわけがない。
絶対に無理です…!
メルルは心の中で涙する。
たとえ絶望の中でも動きを止めてはならないとメルルは知っている。
それを三周目の世界で見ている。
ヒロが皆を説き伏せ(諸説あり)幸せを掴み取った未来。
それと同じような事が私にできでしょうか?
最終的にはエマさんやヒロさんがいなかったら何も解決できなかった私が?
自らの疑問にメルルは怖気付く。
先ほど自分がやらなければと誓ったはずなのに、その行動を躊躇する思いがメルルの頭に巡る。
やらなければならない事とやれるかわからない事。
その二つの相反がメルルの中で反発する。
致命的な自己肯定感の無さ、自分を卑下にする性格がメルルの行動に多々良を踏ませる。
自らの感情や言葉が自らを縛り付ける。
メルルが思考の森の中で惑い始めた時。
そんな彼女の手が引かれた。
「どうしましたメルルさん?」
首を傾げ心配そうにメルルの顔を伺う少女。
今回の混乱の下手人たるシェリーが心配そうにメルルの掌を両手で包み込み、ニギニギと握る。
するとじわりとシェリーの暖かい体温がメルルの掌を包み込んだ。
それは体温だけではなく、心の温かみを感じさせるものであり、メルルの心にある感情が湧き上がる。
その行動は、シェリーがいくら自分を人間ではないと自称していたとしても、心の温かさを持たなければできない寄り添う行いだと、誰でも認識できる行動。
人を心配し、寄り添う。
人が人たらしめる。心配という言葉を行動に移した行動。
そう、『怪力』の魔法を持つ少女が、心配そうに彼女の掌をニギニギした心温まる行動だ。
魔法が使われた瞬間、メチャッと言う生々しい音がなるだろう。
「ひぅっ…。っ!」
流石のメルルも今度は悲鳴が小さく口から漏れた。
心配し落ち着かせるように行われたメルルの掌を両手で包み込む行為。
そこからは人の心の温かみをメルルは心で感じることができた。
圧殺するように両手でメルルの片手お包み込む行為。
そこから『粉砕』『破砕』『骨折』『ミンチ』などの単語もメルルは心で感じることができた。
1つで2度美味しい行動。
1つの行動で2種の別の温度を心に感じ、メルルの心が整う。
そんなメルルにシェリーは首を傾げる。
「あれ?どうしたんですか?」
「な、なんでも…」
ギュッ
「ひうっ…!」
痛みなどないただ両手に軽く力を入れただけの行動。
だが、その行動は、まるでメルルの手首がメルル悲鳴ボタンになったかのように反応し、メルルが小さな悲鳴をあげる。
「どうしたんですか?」
ギュッ
「ひうっ…!」
「どうしたんですか?」
ギュッ
「ひうぅっ…!」
「どうしたんですか?」
ギュッ
「ひうぅぅぅっ…!」
「どうしたんですか?」
「良い加減しやがれですわ!!」
「何してんだこのクソ女!!」
「痛っ!イタイデスヨ~」
仏の顔も三度まで。
4度目のボタンが押されたことでアリサとハンナによってシェリーの灰色の脳細胞はまた処刑され、シェリーはメルル視線をはずし、自らにチョップを放った2人に顔を向けた。
「今度はアリサさんまで。叩くことはないじゃないですかー」
「テメェが氷上をいじめてんのが悪りぃんだろうが」
「本当にそうですわ!!」
「えぇ!ハンナさん、こっちじゃなくてそっちに味方するんですか!?」
「さっきからずっとトンチンカンな行動をするあなたの味方をした覚えはねぇですわ!」
キレるアリサとハンナ。
大袈裟にジェスチャーをしながら驚くシェリー。
だがその腕はメルルから決して離れることはない。
アリサは吼える。
「てめぇ、さっさと氷上から手を離しやがれ」
「えぇ〜まだ、わからないからもう少し待ってください」
「なにがわからねぇだ!さっきの的外れな質問といいテメェ何考えてやがる!」
眉間に皺を寄せながら放たれた疑問。
そう、メルルに対してシェリーから放たれた言葉。
『黒幕』
アリサはメルルが黒幕であることを知っている(この部屋にいるすべての人物が知っていることはここでは置いておくことにする。)
だが、それを未来の記憶のない(アリサ視点)シェリーが突然指摘するのはあまりに奇妙で不可解であった。
このへっぽこ自称探偵が氷上が黒幕だって推理できるわけがねぇ…ってことは
アリサはそう考え、一つの可能性に気がつく。
それはとても簡単なこと。
「まさか…てめぇ…」
シェリーは最初からメルルが黒幕だと知っていた。
最初から答えを知っていた。
どうやって?
ソレはもちろん、未来の記憶で。
それならばシェリーが起こしてきた突飛な行動が説明がつく。
つまり、自分とこいつは同じなのではないか?
目を見開くアリサ。
シェリーはニヤリと笑う。
「ふふ、気が付きましたかアリサさん」
その笑みにアリサは見覚えがあった。
さまざまなドラマ、映画などの映像媒体で名探偵達が行ってきた、証拠を見つけた時のような笑み。
そんな笑みをシェリーは浮かべている。
その表情にごくりとアリサは唾を飲み込んだ。
そして名探偵は笑みと共に告げた。
「メルルさんの手首から脈拍を測って動揺してるか確認してるんです」
「は?」
「突然黒幕だ!って言われたら動揺するんじゃないかなぁーって思いまして。言った時に動揺すれば本当に黒幕なんじゃないかなって」
「あぁ?」
「ちなみにハンナさんやノアさんにやって今回で3回目ですが…そもそも脈拍取るの難しいですね。よくわかりません!」
「カスが」
アリサは床に唾を吐いた。(比喩表現)
目の前のクソ探偵もどきに心からの侮蔑を向ける。
だがそれでもシェリーは止まらない。
「うーん。もう少し…こう…ぐりぐりしたらわかりますかね?」
「ひ…っ!シェ、シェリーさんやめてください!そんなに手首を指でぐりぐりされると」
「あ!ここら辺ですね!なるほどぉ」
「あ…ひゃっ…!!」
「お、メルルさん…。動揺してきましたね」
「いい加減しやがれ!」
「あ痛たっ!」
アリサの平手打ちがシェリーの頭に叩き込まれる。
「良い加減にしなさい!」
「あぁ!」
ハンナの手によってメルルの手がシェリーから解放される。
そんなメルルにエマは寄り添った。
「大丈夫?メルルちゃん」
「エ、エマさん…。大丈夫です….なんともありません…!」
自らの腕を心配そうに見つめるメルルだが、その腕には傷ひとつない。
そんな姿にエマもまたホッと一息付きながら、視線を横に向ける。
そこには、呆れた顔で椅子に座っているアリサとシェリーとハンナの寸劇が続いていた。
「うーん。今度はうまく行くと思ったんですがね〜」
「なぁにがうまく行くと思った。ですの!」
「ちょっとうまくいきましたよ?」
「どこがちょっとなんですの!?このゴリラ女!さっきもわたくし達に同じ事をして怒られたばかりなのを忘れたんですの!?」
「さっきも…?」
エマは口を挟むと、ハンナはプリプリと怒りながら頷いた。
「そうですわエマさん!この女、私たちがグループに分かれて探索に繰り出した瞬間突然手を繋いできて『ハンナさん!あなたが黒幕ですね!!』って言ってきたんですのよ!!」
「いやぁ、あの時のハンナさん。顔真っ赤で可愛かったですね!」
「またぶっ叩きますわよ!」
「またシェリーちゃんのほっぺに紅葉が現れるのは嫌ですね!美人なシェリーちゃんにまた傷ができてしまいます!」
「誰が美人ですの!美人と名乗るならあなたのその性質の7割ぐらいを切り捨てなさい!」
「それはもう別人だと思いますよー?」
「だまらっしゃ!」
「はーい!黙りますねー!」
「最初からそうしてろと…!!」
プンスカとハンナは怒る。
そんな会話を、椅子に座ったまま退屈そうに頬杖をついて聞いていたアリサが待ったをかけた。
「おいテメェら、2人でイチャコラするのはいいが、ちょっと待ちやがれ」
「え〜そうみえますかー?」
「誰がイチャコラですの!」
「息ぴったりじゃねぇか」
2人の言葉にアリサはツッコミを入れる。
そんなアリサの言葉に傍でぽかんとしていたエマも言葉を続けた。
「確かにアリサちゃんの言うとおり、シェリーちゃんとハンナちゃん。すっごく仲良くなっているよね?」
その言葉にウグっとハンナは言葉を詰まらせる。
ハンナとシェリーは出会ってまだ数時間も経っていない。なのに長い時を共に過ごしてきた友人同士のような言葉の掛け合い。
側から見れば不自然にも見えなくもない。
ゆえに、ハンナは誤魔化すように咳をした。
「コホンっ…まぁこの方との関わり方は出会って今までの間に私の中で構築できましたわ」
「出会ってまだ1時間と少ししか経ってないのに?」
「...それでも余りありますわ」
エマの追求にそっぽ向くハンナ。
エマはうーんと悩み、先ほどからの2人のコミュニケーション思い出す。
「ずいぶんドメスティックでバイオレンスだね?」
「エマさん…。もしかしてわたしくを暴力女とおもってらして?」
「そ、そんなことないよ!」
「でも、今日のハンナさんは随分とアグレッシブですよねー!」
「あなたはいいかげんに黙りなさい!」
シェリーの言葉に今日何度目かもわからないハンナの叫びが医務室に響く。
そんなハンナの声を煩わしそうにアリサは顔を顰めた。
「ったく。話を脱線させんな」
「あ、ごめんねアリサちゃん」
「桜羽は気にすんな…それで遠野、橘『私たちがグループに分かれて探索に繰り出した』ってなんだ?」
エマに気にしてないとヒラヒラと手でジェスチャーをしながらアリサは先ほどのハンナの台詞に疑問を呈す。
「ああ、それですか」
シェリーは納得したようにポンと手を打った。
「メルルさんが運ばれた後、皆さんで話して、まずこの牢屋敷を見て回ろうって話になったんですよ」
「見て回るって…こんな怪しいところ何があるかわかんねぇだろ。下手に動くとあぶねぇだろ」
アリサの頭の中に浮かぶ、様々な致死的トラップ。
全部が全部死ぬわけではないが、危ない物や魔法、罠がある事をアリサは知っている。
ゆえに、アリサは肝が冷えた。
だがシェリーは首を横に振た。
「安心してくださいアリサさん。どんな物があるかもわからないから、変なものを触らない近づかないって事をみんなで厳重に何度も約束したので」
「厳重にっ…て」
「不思議なぐらい何度も確認し合いましたね…ですよねハンナさん」
シェリーの言葉にハンナはこくりと頷く。
「そ、そうですわね。まぁ当然のことですわ。こんな変なところ何があるかわかったものじゃありませんもの」
「そんな何があるかわかったもんじゃない場所で、なんで厳重な約束してまで、わざわざ探索しようとしてんだ?」
そんなアリサの質問にシェリーはピンと人差し指を立てた。
「ええ〜?わかってないですねアリサさん」
「あぁ?なにがだよ?」
「探索は探偵にとって大事なことなんですよ」
「黙ってろよヘボ探偵」
「えぇ!ひどいです!名探偵って言ってください!」
「どこが『名』なんだよ!どうせ漢字ちげぇだろ!」
「迷うのほうじゃないですよぉ」
頬を膨らませて不満げなシェリーと、こめかみから血管をうかばせ叫ぶアリサ。
そんな2人にアワアワとエマが右往左往するが突然、今まで呆然としていたメルルが立ち上がった。
「た、探索です…!」
メルルのか細い声は妙に医務室に響き渡る。
それにより、この部屋にいるメルルを除く4人の視線が集まる。
そんな視線の集中にビクリとメルルの体がはね、不安げに視線を泳がせる。
「探索がどうしたんだよ氷上」
アリサのぶっきらぼうだが、促す言葉にメルルはコクンと頷き、唾を飲んだ後口を動かした。
「あの…探索、ということは、すでにラウンジは色々探したのでしょうか…?」
メルルの質問にハンナは頷く。
「しましたわ」
「その時に、写真とか拾いませんでしたか…?」
「写真?」
注目されたことにより、先ほどまでの気力はどこにやら、少しずつ声が小さくなり、膝も曲がり始めるメルルが縋るように向けてきた質問にハンナは首を傾げた。
「あの場に残った全員でラウンジは一通り探しましたが、そんなものは見つかりませんでしたわ」
「そうですか…」
ハンナの答えにしょぼくれるメルル。
そんな彼女を横目にアリサは口を挟む。
「誰かが持ってったりとかしてねぇのかよ」
「うーん流石にそこまではわかりませんねぇ。皆思い思いに探索してたので」
「…そうかよ」
落胆の声を上げるアリサ。
医務室にも廊下にもない。
そしてあるはずのラウンジにもない。
なら、誰かが拾ったとしか考えられない。
そしてソレを誰にも言っていない。
そんな事をする人物を幾人か想像つくが、そのどれもが良い結果にはならなさそうな事をアリサは予感し顔を顰めた。
すると今度はエマが声を上げた。
「ねぇシェリーちゃん、ボクちょっと疑問に思ったのだけど」
そんなエマからの問いかけに、シェリーはピンと張った糸を弾くような元気な声で
「なんですか?なんでもこのシェリーちゃんに聞いてください」
といって胸を張る。
「この名探偵がなんでも答えますよ!」
「あはは…じゃあ質問なんだけど。さっきシェリーちゃんが言っていた『みんな』って事はあの場にいた皆って事?」
『みんな』
先ほどから数回語られた人物が複数いる場合に指す言葉。
この牢屋敷で複数人を指す場合、地下の冷凍保存されている人々を除けば1グループしか存在しない。
それでもエマは一応シェリーに尋ねた。
あまり知っている前提で話を進めるとよくない気がしたエマの予防策であった。
そんな質問にシェリーは頷いた。
「そうですね!全員です!」
「誰か、自分に関わらないでーとか言ってたりとかは?」
「誰もいませんでしたねー」
「え?」
「…あん?」
シェリーの答えに戸惑うエマとアリサ。
頭に浮かぶ複数人の顔。
特にスケッチブックを持った1人の少女
そんな彼女達が声を上げない?
2人の脳内に新たな疑問が浮かぶが、シェリーの言葉は止まらない。
「その後グループ分けして、なんやかんやで2人ずつに分かれましたね」
「2人?」
エマの言葉にシェリーは同意する
「はい!単独行動すると危ないってヒロさんとレイアさんがグループ分けしようって」
「あの場にいたのが10人だったから…確かに5チームに分けれるね」
13人のうち、3人が医務室に移動し10人が残ったラウンジ。
10÷2=5
小学生でもわかる算数だ。
「いえ、4チームですよ?」
「へ?」
だが現実は算数よりも難しかった。
シェリーはニコニコしながら言葉を続けた。
「いつの間にか途中でナノカさんが消えてたので4チームになりました!」
「ナノカちゃん!?」
エマが驚く。
確かにナノカは単独行動するだろう。
だが未来の記憶を知った今では、さまざまな罠や残された魔法が存在する牢屋敷を1人で行動することや、1週目と2週目のナノカの顛末を知る身としては1人行動は本当にやめてほしかった。
「だからノアさんがお二人と一緒にいたわけなんですね」
そんな内心が心配で満たされ始めているエマのことなどいざ知らず、失意の中から少し復活したメルルがシェリーの言葉に納得する。
彼女もシェリーとハンナのコンビはよく見るが、そこにノアが入っているトリオを見た記憶はほとんどなかった。
だが、どうしても3人作らなければならなかっとしたのなら、納得が….
なんでノアさんだけあぶれたのでしょう?
ふとメルルは考える。
2人1組で、とグループ分けした場合。メルルの中ではノアは溢れる人間には見えなかった。
長年、相性の悪い牢の部屋分けをした身としては、相性の悪い組み合わせという物が自ずとわかる。そしてソレと同時になんだかんだ上手くやっていけてしまいそうな組み合わせもメルルは経験則でなんとなく予測できるようになっていた。
そんなメルルが思う。
ノアさんがあまりものになる未来が見えません。
そう、二人組を作ることになった場合、ノアはなんだかんだヒロかレイアかミリアかアンアンがペアになるだろう。
もし溢れるなら、ルームメイトがいなくなっているマーゴか、色んな意味でココ。またはアンアン。
だが、ノアは溢れた。
なぜでしょう…?
メルルは疑問の赴くまま、その謎を解明しようと視線を向ける。
「…?」
メルルの視線が止まり、その後辺りを見渡す
「…!?」
慌てるように部屋の隅々まで視線を動かすメルル。
今日何度目かもわからないメルルの奇妙な行動に、4人の視線が集中し、代表するかのようにエマは口を開いた。
「どうしたの….メルルちゃん?」
「え、エマさん….」
口を震わせながらメルルは縋るようにエマに視線を向ける。
その姿は、写真をなくした事に気がついたメルルと同じような姿である事にエマは気がつきゴクリと唾を飲み込む。
そんなエマにメルルは告げた。
「ノアさん…どこですか?」
「え?」
「へ?」
「あれ?」
「あ?」
メルルの言葉で、その他の4人の動きが止まった。
居ない。
先ほどまでいたはずの城ケ崎ノアの姿が一切見えない。
「の、ノアさんどこにいったんですの!?」
「さっきまでいたよね!?」
ハンナとエマも慌てて辺りを見渡す。
ベッドの下、薬棚の影。
小柄なノアが隠れそうな場所にも一切いない。
なら考えられることは後ひとつ。
1人で部屋を出て行った。
「ちょっとウチ、見てくるわ」
アリサは椅子から立ち上がり、部屋の出入り口に足を向ける。
そんな彼女の手首をシェリーが後ろから掴んだ。
「なら私もついていきますね!」
「っ!い、いらねぇよ。テメェは遠野といっしょにいろよ」
肩に乗せられた手をアリサは振り払おうとするもシェリーはぎゅっと手首を握る。
「えぇ〜。まぁ、それもいいんですけど、このまま見送っちゃうとアリサさんがひとりになっちゃうなーって」
「ウチは大丈夫だ。気にすんな」
「何かあったらあぶないじゃないですか〜」
「ウチは大丈夫だって言ってんだ…。っ!」
アリサが声を荒げようとした時、その音は響き渡った。
ゴウッン!!と。
地を震わせるような音が、医務室にいる全員の耳に入る。
その音は近くではなく遠方である。
だがその爆音から、ソレがなんなのか瞬時に理解することができた。
爆発音。
本来ならアニメやゲーム、映画でしか聴かない音。
だがこの音を聞いた時、全員の脳裏に一つの光景が浮かぶ。
それはスコップで何かを掘り出したエマの姿だった。
「え、あ、あの!もしかしたら外で…!!」
「そうだな氷上。何の音かウチにはさっっっぱりわかんねぇが、とりあえず確認しに」
「そうだねアリサちゃん!大丈夫メルルちゃん?動ける?」
「だ、大丈夫です…!」
「わぁ、一大事ですね〜」
「そんな呑気な事言ってる場合じゃねぇですの!」
五者五様、テキパキと身支度を整え動き始める。
4人とも妙に上手く話が進むなどとは一切考えていない。
それはそうだ、まさか5人同じ思考で動いているなどと4人は考えても見ないだろう。
そのまま全員は部屋から廊下へと飛び出していく。
そんな中、最後の1人がちらりと誰もいなくなった部屋を見渡す。
そして彼女はポツリとつぶやいた。
「果たしてこれは、夢なんでしょうか?現実なんでしょうか?」
「どうなんです?ユキさん?」
その答えはない。
いや、答えは聞こえない。
「何やってんですのシェリーさん!!行きますわよ!!」
「わぁ。待ってくださいよハンナさーん」
ドタバタと喧騒が遠のいていく。
チクタクチクタクと、小さな時計の音が医務室に響く。
先ほどの姦しい状況だったのが嘘のような静けさが医務室を支配する。
そんな医務室を見つめる人物が1人。
彼女は苦悩していた。もどかしい思いに支配されていた。
答えを教えたい。どうにかしてやりたい。
というか、冷静に他の子達のセリフや行動を、聞いて、見さえすれば、怪しいところが数えきれないほどあるでしょう?と言ってあげたかった。
だが、どうしようもない。
なぜなら彼女の声は、少女が絶望の淵に追いやられた時のみ聞こえるから。
今この牢屋敷にいる13人+1の心は希望で煌めいている。
故に彼女の声は一切聞こえるわけがない。
改めて言う。
今この牢屋敷にいる皆の心は希望で煌めいている。
煌めいているのだ。