転生予定より11年早かった件について、とりあえず経営科でドラゴン旅行会社を起業する 作:ルクエリシオン
俺の名前は……まあ、前世の名前なんてどうでもいいか。
どこにでもいる普通の学生だった俺には、人生において絶対に譲れない「最推し」があった。
ゲーム『ポケットモンスター』に登場する天空の覇者——レックウザだ。
特に、全身が黒く染まった色違いのレックウザには並々ならぬ執着があり、何千回とリセットを繰り返して厳選した最高の相棒だった。
あのエメラルド色の通常色も素晴らしいが、漆黒のボディに黄色の模様が映える神々しさはまさに芸術。
毎日ゲーム画面を眺めては癒やされていたものだ。
ちなみに、当時の流行りだった『僕のヒーローアカデミア』という作品もアニメで観ていた。
ただ、俺の知識はアニメ第1期の『USJ襲撃事件』あたりで完全に止まっている、筋金入りの「にわか」だ。
「へー、オールマイトって奴が最強で平和の象徴なのか」
「主人公のデクは無個性から力を譲り受けたんだな」
「なんか手だらけの気味悪いヴィランと、デカいバケモノ(脳無)がUSJに乗り込んできたぞ」
……それくらいの浅い知識しかない。
だがまあ、個性という超能力が当たり前に存在する世界観は、それなりにロマンがあって面白いとは思っていた。
そんな俺のあっけない最期は、ある日の放課後に訪れた。
その日は、大好きなレックウザの限定グッズの発売日だった。
無事に目当ての品をゲットし、ホクホク顔でスマホの画面(当然レックウザの画像だ)を眺めながら、駅の長い階段を下りていた時のことだ。
「ふふ、やっぱり俺の黒レックウザは最高だな……」
ニヤニヤしながら足を一歩踏み出した——瞬間。
「っと、あぶねっ!?」
後ろから駆け下りてきた部活帰りと思われる高校生と肩が激しく接触した。
一瞬でバランスを崩した俺の体は、宙を舞う。
視界がぐにゃりと歪み、目に飛び込んできたのは延々と続く急勾配のコンクリート階段だった。
(あ、これヤバい奴——)
手すりを掴もうとしたが間に合わない。
頭から激しく階段に叩きつけられ、バキリと嫌な音が鼓膜を揺らす。
視界が急速に真っ赤に染まり、激痛のあとに訪れたのは猛烈な冷気と眩暈(めまい)だった。
(……最悪だ。俺のレックウザ……データバックアップ取ってたっけ……)
くだらない心配を最後に、俺の意識は深い闇の中へと沈んでいった。
◇
「……やあ、君。残念ながら君は死んでしまったんだ」
不意に意識が浮上すると、俺は見渡す限り一面真っ白な不思議な空間に立っていた。
目の前に現れたのは、光を纏った自称・神様だった。
あまりにも軽いノリで事も無げに告げてくる。
「階段から落ちて首の骨を折っちゃってねぇ。いやー不憫だねぇ。というわけで、急な死で可哀想だから転生特典を一つあげようと思うんだ! 何か希望はあるかい?」
神様の言葉に、俺は脳の思考回路をフル回転させた。
転生?
特典?
異世界?
いや、迷う必要なんて最初からなかった。
俺の答えは、前世からずっと決まっている。
「……じゃあ、俺の大好きな『レックウザ』になれる個性をください。ついでに天候を無効化する『エアロック』も再現してほしいです」
「いいね! 天空の神龍『レックウザ』の個性だね! 了解したよ、君のレックウザ愛に免じて完璧な能力にしてあげよう!」
神様はパチンと指を鳴らし、ニッコリと笑った。
「じゃあ、緑谷くんや爆豪くんの幼馴染として、ヒロアカの世界に転生させてあげるね〜! ヒーロー目指して頑張って……ッッ」
「……ん? ヒーロー目指すとか一言も言ってないんだけど」
「……ハックション!!」
盛大なクシャミとともに、神様の手元が派手にブレた。
「あ、やば。手が滑った」
「おい待て何した神様ぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
俺の叫び声も虚しく、視界が猛烈な白光に包まれていく。
——こうして俺は、「デクたちの幼馴染」になるはずが、神様のくしゃみひとつで本来の予定より11年早く、原作開始の26年も前に赤ん坊として放り出されたのだった。