転生予定より11年早かった件について、とりあえず経営科でドラゴン旅行会社を起業する 作:ルクエリシオン
神様の盛大なクシャミとともに視界がホワイトアウトし、次に意識が浮上した時。
俺は豪華なベビーベッドの中で、小さな赤ん坊になっていた。
「よしよし、凪(なぎ)。良い子だねぇ」
覗き込んできたのは、整った顔立ちの若い男女だった。
この世界での俺の両親だ。父親は国際的に活躍する投資家で、母親は大手航空会社のキャビンアテンダント(CA)。
私有地に広大な山林を所有するレベルの超資産家という、なんとも恵まれた環境だった。
4歳になり、俺の個性が発現した時の病院での検査結果は、まさに完璧だった。
父親の個性は身体を龍に変える『飛竜』。
母親の個性は周りの風を操る『気流』。
「ご両親の個性が極めて高い次元で融合し、突然変異を起こした『神の龍』のような個性ですね!」
興奮気味の医師の言葉に、ご両親も大喜び。
こうして俺の個性は、周囲から何一つ疑われることなく「血統の突然変異」として100%納得されたのだった。
◇
人目が一切ない実家の山奥。
広大な森の中で、俺は己の個性——『レックウザ』の力を試した。
ドオンッ!!
澄み渡る緑色のオーラが弾け、俺の身体は全長数十メートルにおよぶエメラルドグリーンの巨大な天空の龍——【第2形態:レックウザ本体】へと姿を変える。
「……うお、マジでレックウザじゃん。かっこよ……」
前世で愛してやまなかった天頂の覇者。
身に纏う大気の質が変わり、周りの暴風や異常気象を強制的に無効化する『エアロック』の領域が自然と展開される。
試しに口からエネルギーを撃ち出してみれば、山の一部が一瞬で吹き飛んだ。
「よし……これなら将来、どんなヴィランに襲われても自分の身は余裕で守れるな」
デクや爆豪の幼馴染として激しい原作の戦いに巻き込まれても、省エネで生き残れるように。
俺は幼少期のうちに、ノリノリでレックウザの能力を鍛え上げたのだった。
——だが。
小学校に入学した頃、俺は致命的な『違和感』に気づくことになる。
「……あれ?」
そろそろ同世代のはずの『緑谷出久』や『爆豪勝己』の噂でも聞こえてくるかと思い、ネットやニュースを調べてみたのだが……影も形もない。
それどころか、テレビのニュースに映っているオールマイトは、全盛期バリバリで傷一つない超健康体だった。
俺は自宅の部屋で頭を抱えた。
「……オールマイト若すぎねぇ? ていうか、デクも爆豪もいなくね……?」
冷静に年号と時系列を計算し直し、俺は衝撃の事実に行き着く。
「神様……まさかクシャミの手元狂って、予定より11年も早く落としたな……!?」
デクたちが生まれるかどうかも怪しいレベルの昔。
俺は原作が始まる26年も前の時代に、ポツンと一人で生まれ落ちていたのだ。
(ってことは……俺が15歳になって高校に入る頃は、まだ『原作開始の11年前』ってことじゃねえか!)
◇
「……まあ、過ぎたことを言っても仕方ないか」
中学生になった俺は、持ち前のマイペースさで早々に思考を切り替えた。
時代がズレていようが、俺の目標は「ラクして美味しいものを食べ、静かに快適に生きる」ことだ。
そのためには何が必要か?
そう、圧倒的な『資金力』である。
俺は投資家である親父の書斎から難解な専門書を引っぱり出し、前世の知識と持ち前の頭脳をフル回転させて、中学生にして株取引とFX(外国為替証拠金取引)を開始した。
リスクヘッジを意識したポートフォリオを組み、市場の波を読み切ることで、個人口座の数字は一気に跳ね上がる。
あっという間に、数億円規模の資産が手元に築かれた。
これで将来の食いぶちと遊興費は完璧だ……と満足していたある日の夜。
夢の中に、あの神様がぬけぬけと現れた。
『やあやあ凪くん! 言い忘れてたんだけどね〜! 君の個性『レックウザ』には【メガシンカ】があるんだけど、最初からは使えないんだ! メガシンカの石は世界のどこかに眠ってるから、将来旅行でもしながら頑張って探してみてね! じゃ!』
「おい待て!! 世界のどこか言われても広すぎるだろ!! そもそも時代も11年ズレてんだよふざけんな!!」
夢の中で怒声のツッコミを叩きつけたが、神様は手を振りながら光の中に消えていった。
ハッと目を覚ますと、自分の部屋の天井だった。
「……ハァ。世界のどこか、か」
ベッドの上で溜め息をつく。
だが、絶望はしなかった。メガシンカの石を探すこと自体は、俺の「世界中のおいしいものを食べ歩きたい」という欲求と見事に合致しているからだ。
「世界中を自由に飛び回る環境が必要だな……。それなら、ただ旅するんじゃなくてビジネスにしてしまえばいい」
俺(レックウザ)の圧倒的な移動速度と安全性。
背中やお腹に、CAであるおふくろのアドバイスを受けた『ファーストクラス仕様の特注キャビン』を取り付ければどうだ?
乗り継ぎなしで、世界中どこへでも最速かつ超快適に送り届ける。
ターゲットは世界の政財界トップや超富裕層。高単価・高利益率のニッチ市場だ。
「よし……超富裕層向けの『個人プライベート・ドラゴン旅行会社』を開業しよう」
ビジョンは固まった。
あとは、その起業準備と自由を手に入れるための進路選びだ。
中学卒業後。俺が選んだ進学先は、日本最高峰のヒーロー校・雄英高校。
だが——【ヒーロー科】ではない。
「ヒーロー科なんて過密日程で激務確定じゃん。俺が目指すのは省エネ起業家だ」
俺が受験し、見事に合格を果たしたのは——【雄英高校 経営科】だった。
◇
桜の花びらが舞い散る春の日。
雄英高校の巨大な校門の前に、一人の男子生徒が立っていた。
身長178センチの引き締まった細マッチョな体躯。
鮮やかな緑髪をベースに、色違いのレックウザを思わせる黒のメッシュが入ったロングヘアを後ろでゆるく結んでいる。
ダボッとした制服を着こなし、けだるげな目元と、左目の下にポツリとある小さな泣きボクロが、どこかアンニュイな色気を醸し出していた。
「ふわぁ……眠い」
大きな欠伸を噛み殺しながら、翡翠凪は経営科の教室へと歩を進める。
「さて……面倒なことには巻き込まれず、省エネで最高の高校生活を送るとしますか」
この時の俺は、まだ知る由もなかった。
経営科として静かに過ごすはずだった体育祭で、ヒーロー科の猛者たちを置き去りにしてぶっちぎりの1位をとってしまうことも。
そこで、生涯の愛妻となる「龍」の少女と出会うことも——。