転生予定より11年早かった件について、とりあえず経営科でドラゴン旅行会社を起業する   作:ルクエリシオン

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第5話 起業準備と龍の少女との甘い休日、それと騒々しい押しかけ兎

体育祭の熱狂から数週間が過ぎた。

 

「ふぁ……眠」

 

1年経営科の教室。

放課後の静まり返った室内で、俺——翡翠凪(ひすい なぎ)はノートパソコンの画面に向かい、カタカタとブラインドタッチで書類を作成していた。

 

画面に表示されているのは、事業計画書。

屋号は——【株式会社レックウザ・トラベル 兼 翡翠ヒーロー事務所】

 

「ターゲットは国内外の超富裕層および政財界要人……基本料金は1フライト数千万円から……」

 

手に入れた『特例プロライセンス』と『日本全国自由飛行許可証』を最大限に活かしたビジネスモデル。

前世の金融知識と、投資家である親父からのアドバイス、そしてCAであるおふくろから伝授された「ファーストクラスにおける最高峰の接客ノウハウ」を盛り込み、経営計画を着々と組み上げていく。

 

「あとは、レックウザの背中に取り付ける特注キャビン(客室)のインテリア設計か。防音・防振加工を施して、高級ホテルのスイートルーム並みの革張りソファを配置して……」

 

一人で楽しそうに事業構想を練っていると、教室の扉が控えめに「トントン」と叩かれた。

 

「あの……翡翠くん、入っても大丈夫かしら……?」

 

扉の隙間からそっと顔を出したのは、私服姿の竜間龍子だった。

金髪のボブヘアーに、落ち着いた紺色のブラウスとホワイトのフレアスカート。真面目で上品な彼女の雰囲気に実によく似合っている。

 

「あ、龍子ちゃん。どうぞ。もう作業は一段落したから」

 

「ふふ、ありがとう。お邪魔するわね」

 

龍子は少し緊張した様子で室内に入ると、パタパタと俺の隣の席へ歩み寄り、ちょこんと腰掛けた。

 

——体育祭の本戦で俺に敗れて以来、龍子とは連絡先を交換し、こうして放課後に時々話す間柄になっていた。

真面目で不器用だが心優しい彼女と過ごす時間は、省エネ主義の俺にとっても心地よい『凪』の時間だった。

 

「すごいわね……もう会社と事務所の設立準備を進めているなんて。同い年とは思えないわ」

 

「まあね。俺の目的は『省エネで美味しいものを食べて生きる』ことだからさ。そのための準備は早ければ早いほどいい」

 

俺が画面を見せながら説明すると、龍子は真剣な瞳で頷き、ふふっと柔らかく微笑んだ。

 

「翡翠くんらしいわね。……あ、あのね! 翡翠くん、もし良かったら……この後少しお時間あるかしら? 近くにすごく美味しいパフェのお店を見つけたの」

 

「パフェ?」

 

「ええ! あなた、甘いものや美味しいものが好きって言っていたでしょう? だから……もし嫌じゃなければ、一緒に行かない……かなって……」

 

後半になるにつれて声を小さくし、龍子は白い頬をほんのり桜色に染めて下を向いた。

体育祭で俺に優しく手を取られて以来、彼女が俺に対して淡い恋心を抱いてくれているのは、流石の俺でもなんとなく察していた。

 

(可愛いなぁ……真面目な子が照れてるのって、なんでこんなに破壊力あるんだろ)

 

「行く行く。美味しいものには目がないからさ。行こうか、龍子ちゃん」

 

「! ええ、喜んで!」

 

ぱっと表情を輝かせた龍子の笑顔に、俺の胸も少しだけ温かくなった。

 

 

雄英高校から少し離れた、落ち着いた雰囲気の街角にあるカフェ。

テーブルに運ばれてきたのは、季節のフルーツが山盛りになった特大の苺パフェだった。

 

「うわ、美味しそう……いただきます」

 

俺はスプーンですくって口に運ぶ。

濃厚な生クリームと甘酸っぱい苺の果汁が口いっぱいに広がり、思わず「んー……うま」と目元が緩んだ。

 

「ふふ、気に入ってもらえて良かったわ」

 

向かい側に座る龍子が、嬉しそうに頬を緩める。

彼女も小さめのパフェを上品に口へ運び、幸せそうに目を細めていた。

 

「龍子ちゃんはさ、将来どんなヒーローになりたいの?」

 

俺がふと尋ねると、龍子はスプーンを止め、真剣な瞳で俺を見つめ返した。

 

「私はね……人々が安心して笑顔で暮らせるような、寄り添えるヒーローになりたいの。私の『ドラゴン』の個性は大きくて、ともすれば人を怖がらせてしまうけれど……誰かを守るための温かい力になりたい」

 

「いいと思う。龍子ちゃんのドラゴン、すごく綺麗だし暖かい飛び方だったよ。きっとみんなに愛されるヒーローになると思うな」

 

「っ……!!」

 

俺が何気なく本音を口にすると、龍子は耳まで真っ赤になってパフェのスプーンを落としそうになった。

 

「あ、ありがとう……っ。翡翠くんにそう言ってもらえると、すごく自信がつくわ……」

 

照れ隠しに小さくパフェを口に運ぶ龍子。

西日の差し込む静かなカフェで、二人だけの甘い時間が流れていた。

 

——そう、『アイツ』が乱入してくるまでは。

 

 

ガラガラガシャンッ!!

 

みーっけたぞぉぉぉおおお!! 翡翠ぁぁぁあっ!!

 

カフェの扉が暴風のような衝撃とともに叩き開けられ、店内に大音響が響き渡った。

居合わせた客たちが悲鳴を上げて振り返る中、そこに仁王立ちしていたのは——褐色肌に白いロングヘア、そして頭頂部から生えた長いウサギ耳をピンと立たせた少女、兎山ルミだった。

 

「なっ……ルミ!?」

 

龍子が目を丸くして立ち上がる。

ルミは豪快に鼻を鳴らし、ドカドカと激しい足音を立てて俺たちのテーブルへと近づいてきた。

 

「やっぱりここにいやがったか! 龍子が放課後ウキウキで出かけるから尾行してみりゃ、緑髪といい雰囲気でパフェ喰ってんじゃねぇか!」

 

「び、尾行……ッ!? ルミ、あなた何やってるのよ!?」

 

顔を真っ赤にして抗議する龍子を完全無視し、ルミは俺の目の前に身を乗り出してテーブルにバァンと手を突いた。

 

おい緑髪! 体育祭の時はよくもアタシを場外に押し出してくれたな! 触らせてもくれねぇなんて納得いかねぇ! 今すぐここでアタシと勝負しろ!!

 

「嫌だよ、めんどくさい。お店に迷惑だろ……」

 

俺はため息をつき、パフェの苺をモグモグと咀嚼する。

 

「あぁ!? 店の外ならいいってことだな!? よし表へ出ろ!」

 

「言ってないから。ウサギちゃん、相変わらず声がでかいって」

 

ウサギちゃん言うな! アタシは兎山ルミだ!!

 

キャンキャンと吠えるルミに対し、龍子がキッと目を怒らせて二人の間に割り込んだ。

 

「ルミ! いい加減にしなさい! 今日は私が翡翠くんとお話しする約束をしていたの! 邪魔をしないで!」

 

「あぁ!? なんだよ龍子、自分だけ緑髪と仲良くしやがって! アタシだってコイツと再戦してブッ飛ばしたいんだよ!」

 

「暴力的な目的じゃない!!」

 

「一緒だろ!!」

 

ガーガーと不毛な口論を始めるヒーロー科の女子ふたり。

龍子は真面目ゆえにカンカンに怒っており、ルミはガサツな笑顔で「ギャハハ!」と煽っている。

 

(ハァ……省エネな休日が台無しだ……)

 

俺は冷めた目で見つめながら、残りのパフェを美味しく平らげた。

 

 

結局、ルミの乱入によって甘いデート(?)は賑やかなコメディ空間へと変貌を遂げた。

 

カフェを出た帰り道。

夕空の下、3人で並んで歩く。

 

「へぇ……お前、自分で会社と事務所を作るのか。へっ、物好きな奴だな!」

 

俺の起業の話を聞いたルミが、ニシシと八重歯を見せて笑う。

 

「ヒーロー科にも入らねぇで個人事務所経営とか、おもしろいじゃねぇか! よし、アタシが将来プロになったら、お前の事務所と業務提携してやるぜ!」

 

「いらないよ。ルミちゃんうるさいから事務所壊れそうだし」

 

壊さねぇよ!! 蹴り飛ばすぞ!!

 

ギャーギャーと騒ぐルミの横で、龍子が申し訳なさそうに俺に寄り添ってきた。

 

「ごめんなさいね、翡翠くん……せっかくの二人きりの時間だったのに……」

 

「ううん、気にしないで。賑やかで楽しかったよ」

 

「……っ」

 

俺が優しく微笑むと、龍子は嬉しそうに胸を撫で下ろし、そっと俺の制服の袖口を小さく掴んだ。

 

「ねぇ、翡翠くん。もし良かったら……また、今度二人で出かけてくれる……?」

 

「うん、もちろん。美味しいお店、探しておくよ」

 

「ええ! 楽しみにしているわ!」

 

パッと花が咲いたような龍子の笑顔。

そして後ろで「おい! アタシも連れてけよ美味い店!」と騒ぐルミ。

 

勝手気ままな脱力生活を目指す俺の周りは、いつの間にか賑やかで、愛おしい熱気に包まれ始めていたのだった。

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