〜虚弱田中に転生〜『原作知識チートがチートじゃない世界で【恐ろしすぎる大魔王・蝉原勇吾】と相対する話』 作:楓舞星
「ムラハネ先輩!今日はお祝いの日です!」
カワチは、どこかおかしなテンションでそう言った。
「...なにかあったっけ?君の誕生日?」
「私達が会って100日目の記念日です!」
なるほど。だが、不可思議な点に幾つかびびっと反応してしまった。
「...お前、最近調子おかしくないか?」
「え?いや、そんな事ないですよ!」
カワチは溌剌とそう言うが、私はめざとく、気づいてしまった。
......その彼女の顔は、小学生の時の私と全く同じ顔だった。
あのときの、水面に、鏡から反射して見える自分の顔そっくりだったのだ。
「お前、何か嫌な事とかされてないか?」
「...え!いや、そんなこと、ないですよ!」
私は勘繰ってしまう。それはきっと正しいのだろう。しかし、知ってしまえば、私は巻き込まれるような行動を取ってしまうかも知れない。
だから、それを知らせないように振る舞う彼女に、私は助けられるのだろう。
「わかった。じゃあ知らんぷりしてあげる」
「...ありがとうございます。ジン先輩」
そうして、彼女はぼそっと小さくに呟いた。本当ならわたしに聞こえないぐらい、小さく...
「...ムラハネ先輩だけは、『そう言う』対象にならないでくださいね」
その不穏なひと言に、私は首を突っ込んでしまう。
「っ?」
「ふふ、なんでもありません!」
そう言う彼女の顔は、どこか儚げに見え、空元気が伺えた。きっと本人すら気づいていないだろう。だからこそ、余計に首を突っ込まずにはいられなかった。
「いや、頼む。言ってくれ。もしも...もしも死ぬとかになったら洒落にならん」
「...そんな、言うまでの事でもありませんし...そこまでの事では...」
私はせがんだ。全力でせがんだ。その結果、今までの友情もあってか話してくれた。
...彼女はどうやら、これからユズ主導で、蝉原の取り巻き数人にマワされると言うことだった。そして、自殺しようとしている事を話してくれた...
そう、これは『原作』のあの事件だ。それじゃあ、彼女はきっと、これからミカン...第20アルファの天帝となり、ゼノリカに引き取られる。だが、その前に、カワチにそんな野蛮なことがあるなら話は別だ。
......は?なんで私はこの子を助けようとする気でいる...何故だ?この子はゼノリカに引き取られ、最終的にはきっと、多分幸せになる......なら、何故私がそこまでしてやらないといけない?
いや、自身の計算高い本心はわかっている。これは、『実験』であると。そう心を納得させる。
しかし助けるとしても、どうやって助けるというのだ?
「そ、そんなの...どうやって解決すれば...」
「ふふふ、ですよね...こんなの、誰にも止められないことなんです...だから、せめてそうされる前に死のうと思います」
「ま、まて!し、死ぬのだけは勘弁してくれ...」
私がそう言うと、彼女は私の前で、初めて怒りの表情を見せた。
「っ!だったら!どうすれば良いんですか!」
私は足りない頭をフル回転させる。親戚に頼る...ゴンズに頼る?いや、蝉原グループには最終的に負けてしまうだろう。それに、ゴンズはセラが世界を救う際にも出てこなかった堅物だ。考えるだけ無駄だろう。ならば、トウシに頼る...?いや、トウシなら何かしてくれるかもしれないが、今のトウシにできることなどたかが知れている。穏便に済ませる方法など決してないだろう...
......私が下したモノ...それは...
「.........私が、囮になる...」
「...え?」
私も話した。以前に、いじめっ子に性加害を受け、私も似たようなことになっていたこと。
「だから、私に任せときなさい」
「そ、そんな...ダメです...ムラハネ先輩が、そんな...」
「...これが、年長者の役目だ」
「一つしか違わないじゃないですか...」
「心はもうギリ30代だよ」
「そんな!冗談が聞きたいんじゃなくて!なぜ私を救おうとするんですか!」
「わからない...だけど、それが『信じたモノ』を突き通すと言うことだと...私は思う...」
自分で言ってて、何が私の『信じたモノ』なのだろうか...それは、自分自身わからなかった。だが...
これから、私はおそらく、恥辱の限りを尽くされる。その代わり、彼女は救われるはず。もしかしたら、自殺して、最終的には幸せになるだろう彼女には余計なお世話かもしれない。だけど...彼女がそんな、痛みを背負ってまで、自殺をする必要なんて、『原作』を忠実に守る理由なんて、ここに痛みと勇気を背負って生きている人間からしたら関係ないのだ。
『原作』は『原作』。現実は現実。
それが、キムロから痛めつけられたこの世界に生きる私の結論。
私はカワチを抱きしめ、耳元で呟いた。
「ヒーロー見参...」
そうして、私は嘘をついた。
【さて、そろそろ出番かな?ボクを『使う』出番が...】