〜虚弱田中に転生〜『原作知識チートがチートじゃない世界で【恐ろしすぎる大魔王・蝉原勇吾】と相対する話』 作:楓舞星
退院した私は、家に帰る。そして、今日からはずっと親の近くにいようと思う。もうそろそろ、両親の事故による死亡が近い...
...出来る限り守るつもりではいる...でも、トウシが言った事も否定はできない。むしろ、私のことをよく考えた発言だったと言えると思う。
「結局、近くにいて臨機応変に対応するしかないんだなぁ...」
トウシとはあれからも多少は会話したが、結論としては『近くにいろ』であった。不明確な部分が多すぎて、トウシとしても動きに迷うのだろう。
トウシは別に、未来が見える訳ではないのだ。未来...『原作』を知っているのは自分だけとはいえ、少し心細かった。
______
「お帰りやな。ムラハネ」
中学校から帰ってきたばっかのシグレがそう言ってきた。まだ家の中だと言うのに制服なのがその証拠だ。
「ただいま。シグレ姉さん」
私はいつも通りに挨拶を返し、そして迷う。
シグレに『原作知識』を言うかどうかだ...ふっ、ありえないな。自分で考えておいて、速攻で否定した。もしも両親が死ぬ事を知らなかったら、シグレも『仕方がなかった』で済まされるだろう。だが、『原作知識』から、私が知識を披露してしまえば、シグレはその死を当然なモノだとは受け入れられなくなる可能性が発生する。
諸々の理由で、私は言うのを取りやめた。
「ムラハネ、また変なこと考えてないか?」
「んな事ないよ。とりあえず、さっさと着替えちゃお」
でも、彼...ムラサメ父さんには、言って良いのかも知れない。
______
「なんや、ムラハネ。大事な話って...」
私は月光が散っている夜の中、ムラサメ父さんを呼び出した。そう、大事な話があるんだ。
「ムラハネ父さんってさ...私の事、どう思ってる?」
「大事な娘や」
即答だった。それには、つい私も笑みをこぼしてしまう。そっか、私ってこんなに愛されていたんだって。元から充分、わかっていた事だけど、嬉しくなった。
「もしもさ、私に未来を識る力があるって言ったら、信じる?」
その質問には、少し悩んでいた。そして、
「もしもお前が...そんな力を持っていたとしたら、俺はお前に謝らないといけへん」
「っ、どうして?」
「不甲斐ないからや」
「...そんな事、ないよ」
ムラサメ父さんはいつも頑張っていた。私たちの世話も焼いてくれて、シウ母さんの事も愛していたから考えていて...ずっと、誰かの事を考えていた。
「俺は所詮、田中家の人間や。そういう機敏には疎い。だから、今まで気づいてあげられなくて、ごめんな」
「......ううん。大丈夫。仮定に仮定を重ねてね。もしも今年中に死んでしまう...事故にあって死んでしまうとしたら...ムラサメ父さんはどうする?」
「ああ、なるほど。お前は知ってしまったんやな」
「...なにを?」
「『運命』について」
「......うん、知ってるよ。どうしてムラサメ父さんが『運命』を知っているのかは、よくわからないけど」
どうしてだろう。どうして、ムラサメ父さんは『運命』を知っているんだろう。
「単純な話や。株で破産した時、おかしすぎる株の動き方を前に、不自然さを感じた。やから、俺は田中家の事を総浚いして調べた。身の回りで不自然な連中と言ったら、俺ら田中家や。そしたら、田中家の人間は謎の怪死を遂げたり、はたまた数奇な『運命』に翻弄されることが多かった。やから、俺もなんかあるんやろうと推察しただけや。ベンフォードの法則ってあるやろ?それと似たようなもんや」
だから、お前ほど精度高く知っとる訳やない...そうムラサメ父さんは付け足した。
「それにしても、俺、今年中死ぬのかぁ...」
「っ!まだ決まった訳じゃない!ここから巻き返せる可能性だって...」
ムラサメ父さんはどこか諦観しているような顔つきだった。何故だ?何故なんだ?
「...俺は、沢山の人に恵まれた。お前やシグレが生まれてきたのもそうや。そして、お前やシグレからはようわからんかも知れんけど、シウっちゅう良い嫁さんにも恵まれた...」
だから、と付け足す。
「そんな俺が、田中家の数奇な『運命』に巻き込まれないはずがないんや。生まれてから、結婚するまで、俺ら田中家は感じるんや。心のどこかで、俺らはたぶん、一生、満たされん...幸せになれんってな」
「......」
「でも、そんなことはなかった!こんな『胸がいっぱい』になる感情、生まれて初めてやったんや。俺にはお前らがいて、シウがいた。この人生、悪くなかった!」
「......」
「だから、そう...泣くなや」
私はムラサメ父さん...父さんの胸の中で泣いた。ポロポロと泣いた。
「...父さん...死なないで......」
「...保証は出来んなぁ...だけど、俺やって田中家や。嫁を、シウを殺す『運命』になんて対抗させてもらう。事前に知っていたら、できる事だってある...さあ、こっから忙しくなるで!」
そう言って、父さんは私を精一杯抱きしめたあと、その場から去っていった。
一体、何をするつもりなのだろうか...
【さて、本当にどうするんだろうね。ボクにもわからないや】