〜虚弱田中に転生〜『原作知識チートがチートじゃない世界で【恐ろしすぎる大魔王・蝉原勇吾】と相対する話』 作:楓舞星
私は...一体どうすればいいんだ?お風呂に浸かりながら考える。
私が何もしなかった場合、ここがその虚数アルファなら、もしかしたらゴートが誕生するかもしれない。その代わりに、世界が崩壊する。
私が何かした場合、多分何も出来ずに死ぬ...
この世界は終わりだ。
私はお風呂のお湯を掬う。そうして、顔にかけた。
眼帯に、お湯がかかる。
瞳のない空洞に、痛みが響いた。
この痛みも無駄だったのか。私の勇気も、恐怖も、全部無駄だったというのか。
無駄...無駄...無駄...どうしても、虚脱感が体から抜けなかった。
「ヒーロー...助けて」
一時期、小学生の時に言っていたことを再び声に出してしまった。ソンキーにはもう期待していない。だっていないはずだから。おそらく、この世界に、虚数アルファに主神という概念は存在しない。
...終わった。この世界は消滅する...センですらどうにもならない不可能を前に。
......だから、私は消されるかもしれないが、最後の手段に出ようと思う。
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私は放課後、別クラスに入った。目的は...
「反町、話がある」
私がそう声をかけると、彼は仰々しく、声を出す。
「貴様は不透明な魂を持つモノか。存在は確認しているが、何故この計画に貴様が参入している?何故最も重要な局面に限り、この世界に参上した?」
台詞を聞くに、どうやら私はこの世界のイレギュラーと言える存在らしい。だからなんだって話だが。
「んなことはどうでもいい。この世界はいずれ崩壊するのか?」
「当然だ。最終的にこの世界はバグ...蝉原の手により崩壊する。それはこれまで幾兆回も為されてきた必然の終わりだ...いや、だからか?それがお前の正体か?違うな、それ以上の......」
「...お前は...私の記憶を読めるのか?」
これは重要なことだ。もしも私の『原作知識』がバレていたら、釈迦の手のひらで転がされることになりかねない。
「不透明な魂の由来はそこにある。それを持つが故に、貴様の記憶、脳にはこの私でさえ手出しができない。貴様はどう言う存在なんだ?」
「お前は破壊衝動か?それともソルDか?」
またまた質問に質問で返す。これはただの感情から出た言葉だ。相手が味方サイドか敵サイドかが知りたかっただけである。どうせ、最悪の未来を形作る黒幕なのには変わらないのに...
「さあどうだろうな。だが、ここまでの会話で貴様がどのような記憶の限りを持っているのか大凡検討がついた」
っち、ここから更に会話をすると、私の持っているアドバンテージが崩れるか...
「最後に、この世界のセンはD型センエース17777765553321号か?」
「当然だな。そこまで察しはついていたと思っていたが、どうやら過大評価をしていたらしい」
「っ!」
「まあ、所詮お前程度が何をしたところで計画は破綻しない。結果は見えている。17兆回の試行がそれを裏付けている」
そこまで言われた後、私は退出し、家へ帰宅した。
どうやら、この世界はD型やP型の養殖場ではなく、最悪の世界、恐怖の虚数蝉原の世界であるようだった。
__
無気力に毎日を生きている。
今日は、シグレと共に夜ご飯を食べていた。私の食べる量が少ないからか、表情を読み取ったからか、シグレは、
「...なんか嫌なことでもあんたん?なんかあったら、あたしに言えよ」
「ありがとう。シグレ姉さん」
黙々と、ご飯を食べる。美味しいけど、これも無くなるのかと思うと、つい、涙が出てきた。
「……お前、なんで泣いとるん?いや、まじで変なことがあったら、絶対あたしに言え。今ここで言え」
私は静かに泣きながら、少し話した。ただの仮定の話だ。
「……シグレ姉さん。もし世界が滅ぶとしたら、どうする?」
「...なんやそれ」
シグレはそう言いながらも、悩んだ顔をして、
「まあ、普通に生きるやろ」
「え?」
「世界が滅ぶ...自分が死ぬと仮定したら、やったら私はそれまで、真摯に生きるで。もしも止められそうやったら、全力で止めてやる...これが答えになるかな?」
シグレ姉さんは強いな......でも、その姿勢にとある強い既視感を感じた。それは...
「ありがとう。何かヒントを得られた気がする」
そうやって、無気力に、ただ何かを追い求めていた時だった。学校でイジメの現場を見た。元々そこまで偏差値の高い高校ではないし、蝉原のカリスマで『悪』になる奴が最近増えている。
私は、ただ茫然と、その様を見ていた。
イジメられてる子が、ただ「やめて」と言った。それに対して、更にイジメは加熱するばかりだった。
殴られ、蹴られ、その様は過去の私を見ているようだった。
(この世界は近いうちに崩壊する...お前の恐怖もその発言した勇気も、全てが無に帰る...)
ただ呆然と、その様を見ていた。
胸ぐら掴まれ、叫んでも止まらない恐怖。泣きながら尊厳を破壊される悪夢。
(そう、全部無駄なんだ。そう無駄。希望の英雄、頼みの綱であるセンすら最後には負けて、この世界は崩壊する...)
ただ茫然と、その様を見ていた。
そうして、
(だから、無駄...無駄、無駄......)
ただ茫然と、様をーーー
「お前達、なんでその子をイジメているの?」
ーーーイラついていたからと彼らは答えた。
私の体は動きだした。『病的な高潔』やその他のスペシャルが働いたのかもしれないが、もうよくわからなかった。
『形見』の力は借りなかった。ここで使うのは違うって思ったのもあったし、なにより今は一度、痛い目にあいたい気分だったのだ。
そうして、コテンパンにされたその後、
『ありがとう』
イジメられていた子はイジメられっ子がいなくなったあと、壁際から出てきた。
...この無駄な行為も結局、言葉通りに無意味に、泡沫に化すというのに。
無駄なのだ。だって、世界は滅ぶのだから。
「……違う…………よね?センエース」
...ああ......だが...いつか世界が滅ぶから今日頑張るのを辞めるのは究極の愚行である。そう、教えてくれたモノがある。
「…………そうだよね...」
節々が痛む。
「争うよ...私...」
センが負けようとも、だったら私が...ヒーローになってやる...
この『原作知識』を持っている私にしか出来ないことが、きっとある。
悪鬼羅刹は表裏一体。私は独り、無間地獄に立ち尽くす。どこまでも光を求めてさまよう旅人。ここは幾億の夜を越えて辿り着いた場所。さあ、詠おう。詠うじゃないか。喝采はいらない。賛美も不要。私は、ただ、絶望を裂く一振りの剣であればいい。
…………偽物だろうと、叫んでやる...
「ヒーロー見参..…….」