〜虚弱田中に転生〜『原作知識チートがチートじゃない世界で【恐ろしすぎる大魔王・蝉原勇吾】と相対する話』 作:楓舞星
私は考える...なにか、何かないのか...
もしもここでセラが死んでしまえば、世界の守り手が誰もいなくなる。サクラはもう亡くなってしまっているし...
そうか。この世界はもとより詰んでいるんだ...
だが、諦めてやるものか。
「それでも...」
『...なんや?』
「それでも、叫び続ける勇気を」
『...はは、セリフはかっこええけど、中身が伴ってへんなぁ...』
私は考える。このポンコツな頭を必死に働かせる。その間に、トウシは聞いた。
「なあセラ姉、この携帯ドラゴンってどうやって作るんや?」
その質問は、原作でも明らかにされていなかった事だった。虚数アルファのセラが、世界の守り手を、どうして田中家最強の頭脳を持つトウシになにも頼み込まなかったのか。セラなら、トウシの才能にだって気づいていたはず。
『いえない』
「はぁ?いえない?んなこと言っとる場合ちゃうやろ!」
『いえないんや。なんもな』
「っ、どう言うことや?」
『ボクに言えるのは...最愛を犠牲にする方法しか、この世界に携帯ドラゴンを産み落とす方法はない』
「最愛を犠牲に...?」
『...ここまではセーフみたいやな。最愛を犠牲にして、それで得れるものなんや。携帯ドラゴンはな』
セラは説明する。そんなのは『原作』になかった。いったいどう言うことなんだ?
しかも、セラの言い方から、自身の発言がどこか制御されていような言い方もしている。
『携帯ドラゴンっちゅうのは、作り出すその時、最後の過程で熱烈な想いが必要なんや。ボクの場合、その対象はサクラやった。ボクの場合はサクラが死ぬ事を何となく予知した程度やったけど、そうやってしてたら、本当にサクラは死んだ。予感は、予感で終わらなかった。もしもトウシ、お前が携帯ドラゴンを作った場合、もっと強烈に感じるんやろうなぁ』
「...サクラって、あの不審死したサクラやろ?」
サクラ...確か、死亡原因はオーパーツの誤作動なはず。そんな、そんなはずは...
だが、センエース神話では、強い力を使う際には時折、『最愛』を捨てる選択が迫られる。つまり、そういうことなのだろうか。
『あれの正体は...なんらかのアリア・ギアスやと推定される。因みに、携帯ドラゴンは譲渡することは不可能や。他人のポケモンは奪えません...簡単な話。...じゃあな、トウシ、ムラハネ。ムラハネは携帯ドラゴン持ってるらしいから、せいぜい頑張ってくれや.......あ、でも、最後に任せるならやっといた方がええことがあるなぁ......はぁ......転移ランク5』
「っ!なんや!」
「セラ姉さん!」
そう言うと、彼女は文字通り、この部屋に転移してきた。そうして出てきたのは、ただの死体だった。
いや、生きているのだが、息も絶え絶えとか、そう言う次元ではなかったのだ。髪は真っ白に変色し、呼気はもはやないに等しく、ぜーぜーと必死に呼吸をしていた。服には夥しいほどの血がついている。
「さ、最後にこれを...メギドを食わせてやる...さっさと...せえ...」
そう言うと、ウェスタにメギドを食わせようとした。............私は、メギドを喰らうように指示をだす。
私はただそれを見守ることしかできなかった。己の力不足に、内心、心から嫌になりながら。
そうして、彼女は言い残した。彼女が遺した最後の言葉。
「ああ、ようやく終われる。この腐った世界が私は...ああ……死にたく………………なぁ……」
「せっ、セラ姉?セラ姉ぇぇ!!!」
トウシがどう呼びかけても、それから返事は返ってこなかった。
「ち、ちくしょう!」
トウシが壁を殴りつけた。
「セ、セラ姉はこんなところで死んでいい人間やない!もっと、もっとしかるべき死にかたっちゅうもんがある!わ、ワシは認めへん!!」
トウシはそう言って聞かなかった。そして、トウシは私の胸ぐらを掴みあげた。
「お前!なんか情報吐けえ!あとはそれしかないねん!」
私は首元が苦しくなりながらも、何とか声をだす。
「っく、な、なにもない...わ、私には、何の力もない...」
「...ちっ、この役立たずがっ!」
トウシは手を離した。私は半ば床に這いずる体勢になりながらも話す。
「...私に何もできないのは、トウシ、君が1番わかってるんじゃないかな?もう、セラ姉さんが死ぬ事は止められないよ...それか、きっともう......」
トウシは『賢者』であり、『人』である。今この状況を理解する頭があって、その上で八つ当たりのような事をしてしまう『人』だ。ただ、それは彼がまだ経験不足の、高校一年だからって言うのも大きいと、私は思う。
『原作』にて、トウシは非常に大人びていた。だがそれは、デスゲームにてあらゆる絶望を喰らい尽くし、最後にはジュリアが一度は死に、そして完璧に絶望を学んだからだと推察される...
トウシはまだ諦めていない様だった。
私も、言葉では弱気なものの、普通に頭全開で動かしている。そのおかげでなんとか『ボク』とも意思疎通を出来た。
「なにかないか!!」
【...なにもない。ボクのスペシャルは大体補助やサポート系の能力だし、なにより『アヴニール前図書館室部屋』に反応がない。詰みだ……】
向こうも、病気を治す手立てはないようだった。
どうやら、本格的に詰みのようだ。それでも頭が全力で動くのは『3種の神器』のお陰だろうか。
「わ、ワシは諦めへん...」
そういうトウシであったが、同時に、不可能ということにも気づいているだろう。そう無意味に踏ん張ろうとしている一人の男の背中を、私は見つめることしかできなかった。